旅行者に同行して国内外を飛び回り、安全で快適な旅をサポートするツアーコンダクター(添乗員)。旅行好きな人であれば、一度は憧れたことがあるのではないでしょうか。
旅程管理主任者とは、そんなツアーコンダクターとして働くために必要な公的資格(準国家資格)。
現在はコロナ禍の影響を受けているとはいえ、海外旅行が一般的となり、訪日外国人観光客の増加によって国内旅行のよさが見直されている昨今、旅程管理主任者はなくてはならない存在となっています。
ここでは、旅程管理主任者の業務内容や資格の取得方法のほか、混同しがちな旅行業務取扱管理者や通訳案内士との違いについても解説します。
旅程管理主任者とは
旅行会社が企画するパッケージツアーや団体旅行などに同行する主任添乗員に取得が義務づけられている、国土交通大臣認定の公的資格(準国家資格)。
ツアー参加者をエスコートし、企画旅行を予定どおり実施することが主な仕事です。
出発前の関係部署との打ち合わせや参加者リストのチェックに始まり、ツアー中は交通機関や各種施設との調整・対応を含めた旅程のスケジュール管理、参加者の誘導や安全確保、アクシデントやクレームへの対応、終了後は清算業務や報告書の作成など、多岐にわたる業務を責任者として取り仕切ります。
国内旅行のみ添乗できる国内旅程管理主任者と、国内旅行・海外旅行の両方に添乗が可能な総合旅程管理主任者の2種類があり、海外旅行に添乗したい場合は後者の取得が必要です。
資格を取得するメリット
旅程管理主任者資格を持たない人が1人で添乗業務を行うことは法律で禁止されているため、ツアーコンダクターを目指す人にとっては必須の資格といえます。
旅行会社の多くは添乗員派遣会社に添乗員の派遣を依頼しているため、旅行会社への就職・転職において特に力を発揮するものではありません。しかし、「ツアーコンダクターとしてスキルアップ、キャリアアップを図りたい」「世界中を飛び回って活躍したい」という人には有利に働く資格といえるでしょう。
また、旅行業務全般の管理・監督を担う旅行業務取扱管理者の国家資格を併せて取得すれば、人材としての価値はグンと高まります。
ツアーコンダクターの仕事は拘束時間が長くハードであるにもかかわらず、旅行会社に勤務した場合の年収は平均300万~400万円程度、派遣会社に登録した場合の日当は国内旅行7,000~12,000円、海外旅行8,000~25,000円程度と、収入面で恵まれているとはいえません。しかし、ダブルライセンスによってその改善も期待できます。
経験を積めばフリーランスの添乗員として働くことも可能で、その場合、有償で通訳ガイドを行う全国通訳案内士の国家資格も取得すると、さらに活躍の場が広がるでしょう。
旅行業務取扱管理者、全国通訳案内士との違い
旅行・観光業界を代表する国家資格の旅行業務取扱管理者と全国通訳案内士は、旅程管理主任者と業務内容が混同されがちです。違いを理解しておきましょう。
旅行業務取扱管理者
旅行会社の営業所で旅行業務全般を管理・監督する責任者。旅程管理主任者とは異なり、仕事はデスクやカウンターでの業務が中心です。
国内・海外両方の旅行を扱う総合旅行業務取扱管理者、国内旅行のみを扱う国内旅行業務取扱管理者、営業所所在地の隣接市町村までの旅行のみを扱う地域限定旅行業務取扱管理者があります。
扱う業務の範囲によって、旅行会社は各営業所に1名以上の旅行業務取扱管理者を置くことが法律で義務づけられているため、旅行会社への就職・転職時には大きな強みとなります。
https://college.coeteco.jp/blog/archives/3568/
https://college.coeteco.jp/blog/archives/3470/
全国通訳案内士
日本を訪れた外国人観光客に有償で外国語による観光案内やサポートを行う公認ガイド。全国通訳案内士を名乗って仕事をするには、この試験に合格し、都道府県知事の登録を受けることが必要です。
主に日本人観光客を相手に旅のスケジュールを管理する旅程管理主任者とは、基本的に業務範囲は異なります。
しかし、実際には全国通訳案内士が旅程管理主任者の役割をこなさなければならない場面もあるため、国内旅程管理主任者とのダブルライセンスを目指す人も少なくありません。
資格の取得方法
旅程管理主任者の資格を取得するには、まず観光庁長官の登録を受けた企業、業界団体、学校などの研修機関による基礎研修、指定研修(テスト含む)を修了することが必要です。
研修機関である旅行会社や添乗員派遣会社に入社または登録した後か、専門学校・大学の在学中に資格取得を目指すのが一般的です。修了者には旅程管理研修修了証明書が交付されます。
さらに、指定研修修了の前後1年以内に1回以上、もしくは指定研修修了後3年以内に2回以上の添乗実務経験、またはそれに相当する添乗実務研修を終える必要があります。修了者には旅程管理主任者実務研修認定書が交付され、この時点で資格取得となります。
その後、所属している旅行会社や添乗員派遣会社などから旅程管理主任者証の発行を受けると、旅程管理主任者として仕事をすることが可能になります。
研修の概要
受講資格
国内旅程管理主任者、総合旅程管理主任者のいずれにおいても、現在旅行業に従事しているか従事予定であること、全国または地域限定通訳案内士の資格を取得していることが必要です。
原則として年齢制限はありませんが、企業によっては18歳以上などの年齢制限を設けている場合があります。
日程・会場・研修費用
研修機関によって日程や会場、研修費用は異なりますが、国内の場合は取得期間が実質4日程度で研修費用は2万5,000円から、総合の場合は実質7日程度で10万円からというのが目安です。詳しくは受講する研修機関の実施要項を参照してください。
企業によっては研修費用の一部が補填されたり、実質無料になったりする場合もあるので、所属先に確認しておきましょう。
研修機関の一覧はこちら。
参考までに、研修機関のひとつである日本添乗サービス協会の資格公式サイトをご紹介します。
研修内容・合格基準
基礎研修(座学中心)
国内・総合共通。添乗業務に関する基礎的な知識を学ぶもので、eラーニングでの受講が可能です。
指定研修(座学・テスト)
国内の場合は「旅行業法令・約款」と「国内添乗実務」の2科目、総合の場合は前記2科目に「海外添乗業務・添乗外国語(英語)」を加えた3科目となります。
「旅行業法令・約款」では旅行業務に関わる法令や契約条項、「国内添乗実務」や「海外添乗業務」では国内外での旅程管理にまつわる知識や対応、「添乗外国語(英語)」では添乗業務で求められる英語を学びます。
各科目の受講後に修了テストが行われ、それぞれ100点満点中60点以上で合格となります。
添乗実務研修(実務体験)
国内の場合は日帰りバスツアーでの添乗業務を、総合旅程管理主任者の場合は海外ツアーでの添乗業務を体験した後、添乗報告書の作成などが課されます。
免除制度
国内旅程管理主任者の資格を取得している人は、総合旅程管理主任者資格を取得する際、基礎研修と指定研修のうち「海外添乗業務・添乗外国語(英語)」以外の2科目が免除されます。
難易度・合格率
国内旅程管理主任者の合格率は約98%。研修の内容をしっかりと理解していれば、ほぼ合格は可能なようです。
ただし、総合は国内より学習範囲が広く、英検2級以上の語学力も求められるため、やや難易度は高くなり、合格率は約70~80%となっています。
現場では国内での添乗業務から海外での添乗業務へと段階的に経験を積んでいくのが通例であるため、まず比較的取得が容易な国内を取得し、その後、免除制度を利用して総合の取得を目指すのが確実な方法といえるでしょう。
学生の場合、在学中に国内の資格を取得し、添乗員派遣会社に登録してアルバイトをするなどして実務経験を積むことも可能です。
学習方法
研修の修了テストは難易度がそれほど高くないため、観光・語学系の専門学校や大学に通うのでなければ、独学で合格を目指すのが一般的です。まずは集中して研修を受け、内容をしっかり頭に入れましょう。
ただし、法律や契約条項について問われる「旅行業法令・約款」については、ある程度の自主学習を行い、知識を身につけておくと安心です。旅程管理主任者研修のテキストは書店での取り扱いはないため、takashi.yokoyama.758さんが紹介しているように研修を受ける際に渡される教材か、研修機関が独自に販売しているテキストを使って勉強しましょう。
総合の場合は、「添乗外国語(英語)」についても対策が必要です。リスニングと英文日程表の読み取りなどが出題されるため、旅行業務の専門用語なども頭に入れておくとよいでしょう。
教材のほか、市販の旅行関連の英会話本や英会話アプリなども有効です。この書籍のような音声DLやCD付きのフレーズ集も活用しましょう。
英語に自信のない人や効率よく学びたい人は、ツアーコンダクターや旅行業を対象にした短期の英語通信講座を利用するのもひとつの方法です。
例えば、JCB総合研究所の通信講座「ツアーコンダクターの英語」は、標準学習期間3か月で費用は約2万円ほどとなっています。今後に備える意味も含め、検討する価値はあるでしょう。
まとめ
未経験・社会人からのスタートとなると、足踏みをしてしまう人も少なくないかもしれません。
しかし、実際に未経験からツアーコンダクターとなった人の体験談によると、旅程管理主任者の資格さえ取得してしまえば、あとは自分しだい。必要な知識は実務経験を重ねるうちに身についてくるといいます。
勇気を出して、憧れの仕事への最初の一歩を踏み出してみませんか?