防火管理者試験に有効な対策とは?試験概要や講習も解説

防火に関する国家資格の「防火管理者」は、学歴や学識などの要件を満たしていなくても、防火管理講習を受ければ誰でも取得できる資格です。収容人数が一定以上の施設では必ず防火管理者を選任しなければならず、防火管理者に選任されると会社によっては手当が支給されます。

防火管理者の資格は、防火管理講習を受けて、講習の最後に行われる試験(効果測定)に合格すれば取得可能です。しかし、防火管理講習と試験は非常にタイトなスケジュールで行われます。そのため、事前に資格取得において重要な分野やポイントに理解を深め、時間を上手に使い試験に臨む必要があるでしょう。

この記事では、防火管理者の資格や試験について解説します。防火管理者の資格を取得する予定の方は、ぜひ参考にしてください。

防火管理者とはどのような資格?

ここでは、防火管理者の役割や資格の種類について解説します。防火管理者の資格を取得するには、まず防火管理者について理解を深めましょう。

防火対象物の管理を行う責任者

防火管理者は、防火対象物に対する消火活動や防火管理、火災の予防を行う責任者です。防火管理者になるには、消防法が定める国家資格を取得する必要があります。

防火管理者は、火災を予防し、万が一火災が発生してしまった際には、避難経路の確保および避難誘導、消火活動を行わなければなりません。被害を最小限に抑えるうえで、非常に重要な役割を担う立場といえるでしょう。

防火管理者は国家資格ですが、資格を取得したからといって必ず就職や転職ができるわけではありません。なぜなら、たった1日~2日で取得できる資格なので、たとえ防火管理者の欠員が出たとしても、社内の誰かを講習に行かせれば良いからです。

「それなら防火管理者の資格を取っても何のメリットもない」と感じるかもしれませんが、防火管理者に選任されれば、会社によっては手当が支給されるというメリットがあります。特に、管理職に就いている方が資格を取得すれば防火管理者に選任される可能性があります。

また、防火管理者の求人が全くないわけではありません。マンションやビルの管理人、介護職員、飲食店など防火管理者の募集を行っている企業もあります。

防火管理者を選任しなければならないのは以下の場合です。

  • 収容人数が30人以上規模の特定用途(不特定多数の人が出入りする)の防火対象物…飲食店や劇場など
  • 収容人数が50人以上規模の非特定用途(公共施設や特定の人のみが出入りする)の防火対象物…事務所や学校など
  • 収容人数が10人以上規模で自力での避難が困難な方が入所している施設など…特別養護老人ホーム、救護施設、乳児院など

多くの人が出入りする施設では必ず防火管理者を選任しなければならないので、資格を取得しておけば、何も資格がない人よりは就職や転職に有利になります。

なお、防火管理者と同じく消防関係の国家資格で、消防設備の点検や整備を行う仕事に消防設備士があります。消防設備士試験についてはこちらで紹介しています。

https://college.coeteco.jp/blog/archives/6862/

「甲種」と「乙種」2つの違いを解説

防火管理者の資格には「甲種」と「乙種」が設けられて、防火対象物の規模によって取得すべき資格は異なります

甲種防災管理者は用途や規模、収容人数に関わらず、すべての防火対象物で防火管理者になれます。一方、乙種防災管理者は、特定用途(飲食店や劇場など)の場合は収容人数が30人以上で300平方メートル未満、非特定用途(事務所や学校など)の場合は収容人数が50人以上で500平方メートル未満の規模であれば防火管理者になれます。

用途特定用途の防火対象物
(6)項ロ*の施設が入っている防火対象物左以外
防火対象物全体の収容人員10人以上30人以上
防火対象物全体の延べ面積すべて300㎡以上300㎡未満
防火対象区分甲種防火対象物甲種防火対象物乙種防火対象物
資格区分甲種防火管理者甲種防火管理者甲種又は乙種防火管理者
*(6)項ロとは、老人短期入所施設、特別養護老人ホーム、軽費老人ホーム(避難が困難な要介護者を主として入居させるものに限る)、有料老人ホーム(避難が困難な要介護者を主として入居させるものに限る)など、 救護施設、乳児院、障害児入所施設、障害時支援施設、短期入所施設、共同生活援助施設(避難が困難な要介護者を主として入居させるものに限る。)を指します。
用途非特定用途の防火対象物
防火対象物全体の収容人員50人以上
防火対象物全体の延べ面積500㎡以上500㎡未満
防火対象区分甲種防火対象物乙種防火対象物
資格区分甲種防火管理者甲種又は乙種防火管理者
出典:東京消防庁 防火管理者が必要な防火対象物と資格
   東京消防庁 防火対象物の用途による特定用途・非特定用途の分類

また、防火対象物にテナントが入っている場合は、防火管理者をテナントごとに選任しなければなりません

甲種防火対象物に入っているテナントが飲食店や劇場などといった特定用途のうち、社会福祉施設のように、自力での避難が困難な方が入所している施設の場合は、収容人数が10人以上なら甲種が、10人未満なら甲種もしくは乙種が必要です。それ以外の特定用途の場合は収容人数が30人以上なら甲種が、30人未満の場合は甲種か乙種が必要になります。

テナントが事務所や学校などの非特定用途であれば、50人以上なら甲種、50人未満なら甲種か乙種の資格で対応できます。

なお、乙種対象物に入っているテナントの場合は、どちらの資格でも対応可能です。

区分甲種防火対象物のテナント乙種防火対象物のテナント
テナント部分の用途特定用途非特定用途すべて
(6)項ロ左以外
テナント部分の収容人数10人以上10人未満30人以上30人未満50人以上50人未満すべて
資格区分甲種防火管理者甲種又は乙種防火管理者甲種防火管理者甲種又は乙種防火管理者甲種防火管理者甲種又は乙種防火管理者甲種又は乙種防火管理者
出典:東京消防庁 防火管理者が必要な防火対象物と資格

防火管理者試験の難易度は?

防火管理者の資格を取得するには、資格要件に設けられた学歴や実務経験、学識経験など、一定の基準を満たさなければなりません。しかし、学歴や実務経験がなくても、防火管理講習を受けて講習後の試験(効果測定)に合格すれば資格の取得は可能です。

合格基準に達しない場合は補習を受ける必要がありますが、基本的には受講を完了すれば合格する仕組みといわれています。つまり、合格率は極めて100%に近く、難易度は低いと考えてよいでしょう。

なお、講習に遅刻してしまった場合は受講できず、講習の修了は認められなくなります。また、早退や講習途中の退出も同様の扱いです。

スマートフォンの操作や居眠り、他の受講者に迷惑がかかるような行為が確認された場合は、講習途中でも退室させられる可能性があり、このような場合も講習の修了は認められません。

やむを得ない事情により遅刻や欠席の可能性がある場合は、早めに申告しましょう。

資格の取得難度が低いとはいえ、防火管理者は履歴書にも記載でき、重要な役割を担う国家資格です。防火管理者としての責務を果たすためには、防火管理を行う立場に選任されているという自覚を持ち、安全を確保する強い気持ちが求められます。

防火管理者の資格は、更新の必要はありません。防火管理者に選任されると、地域によっては再講習の受講が義務付けられていますので、確認してください。

資格要件の詳細は次項で詳しく解説するため、該当要件がないか確認してみましょう。

防火管理者になるために満たすべき要件とは

防火管理者の資格取得方法には、大きく分けて3つのパターンがあります。

一定の学歴と1年以上の実務経験がある

防火管理者になる要件の一つは、大学や短期大学、高等専門学校などで、防災関連の学科、あるいは課程を修了し卒業することです。さらに、1年以上の実務経験が必要となります。上記を満たしている場合、防火管理講習を受けなくても、防火管理者の資格を有する者として認めてもらえます。

要件を満たしていることを証明するには、学歴の証明書や実務経験があることの証明書を提出する必要があるため、いつでも提出できるように準備してください。

また、消防職員の経験があり、監督的あるいは管理的な職に1年以上就いていた場合も、その事実を証明することで資格の取得が可能です。自治体によって証明書が受理される条件は異なるため、事前に確認しておくとよいでしょう。

一定の学識経験を持っている

すでに、資格要件に見合う学識経験がある場合にも、講習を受けずに防火管理者の資格取得が可能です。東京消防庁によれば、以下9つのうち、いずれかを満たしている必要があります。

  • 市町村の消防職員として、監督的あるいは管理的な職に1年以上就いていた人
  • 防火対象物点検資格者講習での課程を修了し、免状の交付を受けている人
  • 安全管理者として選任された人
  • 保安統括者または保安管理者として選任された人
  • 危険物保安監督者として選任され、甲種危険物取扱者免状の交付を受けている人
  • 警察官あるいはこれに準ずる警察職員として、3年以上監督的または管理的な職に就いた人
  • 国あるいは都道府県の消防事務職員で、管理的または監督的な職を1年以上経験した人
  • 市町村の消防団員で、3年以上監督的あるいは管理的な職に就いた人
  • 一級建築士あるいは建築主事の資格を有し、1年以上の防火管理実務経験がある人
  • 消防庁長官が定める人 ※今のところ、この条件に該当することはありません

1つでも該当している項目があれば、資格の取得が可能です。

詳細は東京消防庁のWebサイトで確認できるので、学識経験に心当たりのある方はぜひ確認してください。

参考:https://www.tfd.metro.tokyo.lg.jp/sk/kousyu_FAQ05.html

防火管理講習を受ける

防火管理者に必要な講習を受けて修了試験(効果測定)に合格すれば、上記の資格要件に該当する学歴や実務経験、学識などを満たしていなくても資格の取得が可能です。

講習の受講資格は受講場所によって異なります。たとえば、一般財団法人日本防火・防災協会が行っている講習の受講条件は「中学校卒業程度以上で日本語が理解できる方」です。一方、東京消防庁の講習は「東京消防庁管轄区域内の建物や事業所で、防火管理者または防災管理者として選任される方」となっており、資格取得だけを目的とした受験は認められていません。

そのため、申し込み前に必ず受講資格を確認してから申し込んでください。

すでに、消防設備点検資格者(特種・一種・二種)および自衛消防業務講習修了者の資格を持っている方が、甲種新規講習を受講する場合、講習内容の科目が一部免除されます

科目の免除が認められる資格免除される講習科目(甲種新規講習のみ)
消防設備点検資格者(特種・一種・二種)防火管理の意義及び制度
自衛消防業務講習修了者

講習科目は免除されるものの、効果測定は免除されないので注意してください。たとえ講習免除の要件を満たしていても、講習日当日に科目免除申請を行った場合は受け付けてもらえないので、必ず事前に申請しましょう。

また、事前に受講の申し込みをせず講習会場に出向いても、講習は受けられません。具体的な申し込み方法については次項で解説するので、順を追って確認していきましょう。

防火管理講習の手続きや内容

ここでは、防火管理者試験前の講習について、受講申し込みの手続きや受講内容を具体的に解説します。資格の取得に向けて、おおよその流れを把握しておきましょう。

申込方法や受講料

防火管理講習の受講申込は、受講場所によって異なります。FAXもしくはインターネットで申込可能な場所もあれば、各消防署や消防分署、消防出張所に申込書類を持ちこまないといけない場所もあります。
申込方法、受講料、実施スケジュールや講習種別、都道府県などは全国統一ではありません。希望する地域で行われる講習を検索し、参加が可能な講習を選択しましょう。

たとえば、一般財団法人日本防火・防災協会が行っている防火管理講習は防火防災管理講習システムから検索できますよ。

どんな申し込み手続きを行う場合でも、支払い方法や支払い期日を確認し、確実に納入するようにしてください。FAXによる申し込みの場合は、申し込み期間および申し込み時間内に行う必要があります。受付時間を事前に確認してから、手続きを行いましょう。

受付開始直後に満席になったり、消防署まで出向かないと申し込めなかったり、受講の申し込みに苦労する方も多いです。申し込み方法や開催日時はなるべく早く確認して、余裕をもって申し込みを行うことをおすすめします

受講料は講習の種類と受ける場所によって異なり、甲種は7,500円前後、乙種は6,500円前後が多いようです(2023年8月現在)。

講習当日は、会場で本人確認が行われます。本人確認できない場合は講習を受けられなくなってしまうため、本人確認書類を忘れないように注意しましょう。

甲種と乙種の講習内容

受講場所によって受講時間が多少異なります。そのため、今回は一般財団法人日本防火・防災協会が行っている防火管理講習を例に説明していきます。

甲種の講習は合計約10時間あり、2日間にわたって行われるため、仕事との兼ね合いを考慮して日程を調整する必要があります。具体的な講習内容は、次のとおりです。

  • 防火管理の意義および制度
  • 火災の基礎知識・危険物の安全管理・地震対策を含む火気管理
  • 施設・設備の維持管理
  • 防火管理に関係する訓練・教育
  • 防火管理に関係する消防計画など

実技訓練で学ぶ内容は、消火器や避難器具の使用方法、地震体験など、実践に活かせる内容で、日常生活でも非常に役立ちます。

消火器や避難器具には使用方法が明記されていますが、実際に火災などが起こった現場で瞬時に正しく扱えるとは限りません。また、器具の使い方を知っているだけでなく、避難出口に殺到するスタッフやお客様に対し、安全な避難誘導を行う必要があります。講習で実践的に学び、緊急時の対策に活かしましょう。

乙種の講習は約5時間で終了するため、1日で行われます。スケジュールの調整に融通が利きやすいことを考えると、管理する施設が大規模でなければ乙種を受講するのが賢明です。乙種の講習では、甲種で紹介した講習内容のうち、基礎的な知識や技能に関することを学びます。甲種に比べると簡単な内容に思えるかもしれませんが、防火管理者としての責務に違いはないことを理解したうえで講習に臨んでください。

防火管理講習の効果測定

それぞれの防火管理講習の最後に理解度を確認するため、効果測定(試験)が行われます。問題数や制限時間は受講会場によって異なりますが、10~20問程度の非常に簡単な確認テストです。

講習中に「ここが出ます」と直接的には言われないものの「ここがポイントです」「これは大事です」などと言ってくれる場合もあるので、そこだけ覚えれば合格可能!もし覚えていなくても、常識的に考えれば判断できる問題ばかりなので、気楽に受けましょう。

なかには、テキストを見ながら回答ができる会場もあります。ただし、試験範囲が広く、講習をしっかり聞いていないと調べるのに時間がかかるので、油断せずに真面目に話を聞きましょう。

合格できなかった場合でも、効果測定後に居残りで補講を受ければ資格取得できるので安心してください。

防火管理講習の効果測定までに可能な対策とは

防火管理講習を受けて資格を取得する場合、どのような対策が有効なのでしょうか。事前対策や講習当日に行える対策について解説するので、試験本番に向けて参考にしてください。

自身が管理する対象物への理解を深めておく

防火管理者の講習が終了すると、資格を取得するための効果測定(試験)があります。しかし、講習後すぐに行われるため、講習内容をあらためてインプットする時間が非常に少ないです。成績が良くなかった場合でも資格自体は取得できる仕組みなので、合格するだけならそこまで身構えなくても問題ありません。

しかし、防火管理者は現場において非常に高い知識レベルと技能が求められるため、確実な知識の定着が不可欠となっています。また、防火対象物の規模に合わせた消防計画の提出が義務付けられているので、講習後も自身が管理する対象物の規模や習得すべき知識への理解を深める努力を怠らないようにしてください。

講習内容を重点的に覚える

講習時間には限りがあり、講習テキストのすべてをインプットするのは困難です。そのため、防火管理講習の内容は効果測定に出題される分野を中心に進められていきます。

講習は教材をベースにしており、試験に関係の深い箇所は講師が指摘する場合もあるため、聞き逃さないように注意しましょう。指摘があった箇所にマーカーなどでわかりやすくチェックを入れておけば、試験前にも素早く確認が可能です。

まとめ

防火管理者試験は、学歴や学識を満たしていない場合でも受験が可能です。また、難度もそれほど高くないことから、初めて防火管理を学ぶ方にも取得しやすい資格といえるでしょう。

しかし、防火管理者が担う役割は非常に重要なものであり、適切な対応を行わなければ被害が大きくなってしまうことも考えられます。被害を最小限に抑えるには、知識や技能を確実に身につけ、緊急時の迅速かつ適切な対応を実現するための対策が重要です。

防火管理者の資格を取得した後も、勉強や訓練を怠らず、自身の管理すべき施設の特徴を確認することが大切です。そして、知識を活用しながら施設の問題点を改善し、安心安全に運営できるように努めましょう。

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