安定した収入、充実した福利厚生、社会に貢献できる仕事内容など、公務員は魅力の多い職業。
新卒採用がほとんどというイメージが強いですが、実は社会人の中途採用が積極的に行われていることをご存知ですか?
近年は、民間企業などでの実務経験を通してデジタルをはじめとする専門的な知識・スキルを身につけた人材を獲得しようと、各自治体が地方公務員の社会人経験者枠を拡大。公務員試験の年齢制限を30歳以上に引き上げる動きも見られ、59歳まで受験可能な自治体も出てきています。
また、国家公務員の中途採用では一定年数以上の職務経験を要するものや、39歳まで受験可能な試験も。社会人が公務員への転職を目指すチャンスは確実に広がっているといえるでしょう。
ここでは、中途採用で国家公務員・地方公務員になるための方法や試験概要、公務員への転職に役立つ資格・スキルなどをご紹介。団体職員などのみなし公務員(準公務員)の中途採用についても解説します。
社会人が国家公務員・地方公務員になる方法は?
公務員になるためには、原則として国家公務員試験か地方公務員試験に合格する必要があります。社会人が公務員への転職を目指す場合は、国家・地方いずれにおいても「一般枠(大学卒業程度)」か「経験者枠」の試験を受験するのが一般的です。
一般枠(大学卒業程度)を受験する
一般枠(大学卒業程度)の公務員試験は、大学の新卒者のみならず、年齢要件を満たす新卒者・既卒者・社会人も対象としています。
地方公務員試験では、主に地方上級(行政職、技術職、心理・福祉職、専門職など)や市役所上級(事務系・技術系)の試験がこれにあたります。自治体によって年齢要件は異なりますが、近年は年齢上限を引き上げる動きがあり、27~35歳が中心ではあるものの、中には59歳まで受験可能な自治体もあります。
【2024年度の採用試験例】
東京都 1類B試験(一般方式)
大阪府 行政(社会人等:26-34)
国家公務員試験の場合、総合職・一般職・専門職でそれぞれ試験が設けられており、受験資格があるのは29歳までとなっています。
【参考:2024年度の採用試験例】
国家公務員採用総合職試験(大卒程度試験)
国家公務員採用一般職試験(大卒程度試験)
財務専門官採用試験
食品衛生監視員採用試験
航空管制官採用試験
なお、受験資格は国家・地方ともに年齢要件のみとする試験が多いですが、大学卒業を要件とする場合や、専門職では一定の学科の履修や資格が求められる場合もあります。
経験者枠を受験する
経験者枠の公務員試験は、民間企業などでの職務経験がある社会人を対象としています。受験するには年齢要件に加えて、一定年数以上の職務経験が必要です。職種によっては特定の資格・免許が求められる場合もあります。
地方公務員試験の場合、主に県や政令指定都市が経験者枠を設けています。経験者枠の名称は「民間企業等職務経験者採用」「社会人経験者採用」など自治体によってさまざま。30歳以上で5年程度の職務経験を受験要件とする試験が多く、59歳まで受験可能な自治体(2024年度は札幌市、新潟市、埼玉県、さいたま市、千葉市、東京都、特別区、横浜市、川崎市、京都市、広島市、福岡市などが実施予定)も増えてきています。
自治体によっては、職務経験を正社員に限らず、アルバイト・パートタイマーでの業務従事年数を合算できる場合もあるので要チェックです。
【参考:2024年度の採用試験例】
東京都 経験者採用選考
東京都 キャリア活用採用選考
特別区(東京23区)職員経験者採用試験
大阪市職員採用試験 社会人経験者社会福祉
国家公務員の経験者採用試験は、国の機関における係長級以上の官職への採用を目的とするもの。各省庁の事務系・技術系の係長級のほか、外務省の書記官級、国税庁の国税調査官級といった試験区分が設けられています。職務経験は2〜9年程度と試験によって幅があり、それによって年齢要件は異なりますが、多くは30歳以上です。
【参考:2023年度の採用試験例】
経験者採用試験(係長級(事務))
総務省経験者採用試験(係長級(技術))
外務省経験者採用試験(書記官級)
観光庁経験者採用試験(係長級(事務))
気象庁経験者採用試験(係長級(技術))
上記以外にも社会人が受験できる公務員試験はいくつかあります。
国家公務員の場合、各府省で実施する公募(選考採用)、中途採用者選考試験(就職氷河期世代)、障害者選考試験、39歳まで受験可能な高校卒業程度の一般職社会人試験(係員級)、同じく39歳まで受験可能な法務省専門職員・刑務官・入国警備官などの専門職試験が実施されています。
【参考:2024年度の採用試験例】
法務省専門職員(人間科学)採用試験 法務教官(社会人)
国家公務員採用一般職試験(社会人試験(係員級))
刑務官採用試験 刑務(社会人)
入国警備官採用試験 警備官(社会人)
中途採用者選考試験(就職氷河期世代)
地方公務員でも、就職氷河期世代や障害のある方を対象とした中途採用試験が行われています。
【参考:2024年度の採用試験例】
東京都 就職氷河期世代採用試験(1類B・3類)
特別区(東京23区) 就職氷河期世代を対象とする採用試験
名古屋市 就職氷河期世代採用試験
なお、就職氷河期世代対象の中途採用試験は、国家・地方とも2024年度までの実施となっています。興味のある方は早めに採用情報をチェックし、申込を済ませましょう。
国家公務員の中途採用情報は、国家公務員試験採用情報NAVI(人事院)や国家公務員 中途採用情報サイト(内閣官房)でご確認を。地方公務員の中途採用情報は各自治体のホームページをご覧ください。
一般枠(大学卒業程度)と経験者枠の試験概要
国家公務員試験と地方公務員試験の「一般枠(大学卒業程度)」と「経験者枠」の主な試験内容や日程は以下のようになっています。
一般枠(大学卒業程度) | 経験者枠 | |
受験資格 | ・多くは年齢要件のみ ・地方公務員試験の年齢上限は27歳~35歳が中心だが、59歳まで受験可能な自治体もある ・国家公務員試験の年齢上限は29歳 | ・年齢要件と一定年数以上の職務経験 (職種によっては特定の資格・免許が必要) ・地方公務員試験の場合、30歳以上で5年程度の職務経験とする試験が多いが、59歳まで受験可能な自治体もある ・国家公務員試験の場合、多くは30歳以上、職務経験は2〜9年程度と幅がある |
試験内容 | 【1次試験】 教養試験、専門試験、論文(課題式)など 【2次試験】 専門記述、論文、人物試験(面接・討論)など | 【1次試験】 教養試験、論文(課題式・職務経歴・経験論文)など 【2次試験】 人物試験(面接・討議)など 【3次試験】 人物試験(面接) ※3次試験は一部試験区分で実施あり |
日程 | ・春実施の試験は例年、出願3〜4月頃、1次試験5〜6月頃、2次試験7〜8月頃、合格発表8〜9月頃 ・国家公務員試験(春実施)の日程は2023年度以降、上記より最大で約1カ月ほど前倒しされているため注意が必要 ・地方公務員試験では夏から秋にかけて1次試験が行われる場合もある | ・国家公務員試験は多くの場合、出願7〜8月頃、1次試験10月、2次試験11月、3次試験11〜12月頃、合格発表11〜12月頃 ・地方公務員試験の日程は自治体によって異なるが、1次試験を9月に実施する場合が多い |
一般枠は経験者枠より採用予定数は多い傾向にありますが、新卒者にも人気があるため、多くの若者と競わなければなりません。かつ専門試験が課されることも多いので、しっかりとした筆記試験対策が求められます。
一方、経験者枠は一般枠より募集される試験区分や人数は限られるものの、専門試験が課されない場合が多く、筆記試験対策が講じやすいといえます。その分、これまでの職務経験で培った専門知識・スキルを論文や面接でどれだけアピールできるかが重要になるでしょう。
※上記は、一般的な公務員試験の内容と日程です。試験の種類や自治体、実施年度によって詳細は異なるため、人事院や内閣官房、各自治体のホームページで必ず最新の試験案内をご確認ください。
公務員への転職に役立つ資格
専門職の公務員試験では、受験要件として臨床心理士、心理判定員、保健師、社会福祉士などの資格が求められる場合があります。
また、必須ではなくても、公務員への転職の際に有利に働く可能性のある資格やスキルには以下のようなものがあります。民間や大学のリカレント・リスキリング講座を活用するなどして資格を取得しておくと、自己アピールにつながるでしょう。
宅地建物取引士
不動産取引の専門知識を身につけた証となる国家資格。農地法、税法、土地計画法に関わる部署での仕事に役立ちます。
参考記事:宅地建物取引士とは|不動産業界、金融業界でも活躍できる人気の資格
中小企業診断士
経営に関する幅広い知識を示す国家資格。地域振興を担当する部署などに配属された場合に、その知識を活かすことができます。
ファイナンシャル・プランニング(FP)関連資格
お金にまつわる広範囲な知識を習得できる資格。国家資格のファイナンシャル・プランニング技能士、民間資格のAFP(アフィリエイテッド・ファイナンシャル・プランナー)、CFP®(サーティファイド ファイナンシャル プランナー®)などがあります。社会保険や税金を扱う部署をはじめ、さまざまな場面で力を発揮します。
参考記事:FP(ファイナンシャル・プランナー)とは?資格の種類とFP技能検定の概要
英語の資格・検定
外務省や防衛省などの専門職員、航空管制官など、国家公務員には英語力が求められる職種が多数あります。国家公務員総合職試験では、TOEFL (iBT)、TOEIC、IELTS、英語検定のスコアに応じた得点が加算されるため、試験対策としても身につけておきたいスキルです。
参考記事:英語の資格色々あります|国内でも必要性が高まる語学スキルの代表格
デジタルスキル
官公庁でDXの推進が進められる中、国家公務員ではデジタル庁を含めた各省庁の総合職を中心にデジタル人材が求められており、地方公務員では「デジタル職」「ICT職」といった区分で募集が行われています。情報処理技術者や基本情報技術者、その上位資格など、ITに関する知識・スキルの証明となる国家資格は自己アピールにつながるはずです。また、Word、Excelなどの利用スキルを証明するマイクロソフトオフィススペシャリスト(MOS)は、日常の業務のベースとなるスキルとして身につけておくとよいでしょう。
団体職員に転職する道も
団体職員とは、民間の非営利団体に所属し、公共的な職務を担う人のこと。法律上の定義はありませんが、一般的に、独立行政法人、財団法人、社団法人、医療法人、学校法人、社会福祉法人などで働く人を指します。
公務員ではないものの、医療・福祉、教育、まちづくり、環境、国際協力といった公共性の高い職務に従事することから「準公務員(みなし公務員)」とも呼ばれます。
団体職員が所属する組織は、利益の追求を目的としないという事業の性格上、景気に左右されにくいのが特徴です。特に、独立行政法人、財団法人、社団法人、学校法人などは雇用や給与が安定しており、福利厚生も充実しているといえるでしょう。
団体職員の中途採用は不定期で行われているため、転職を目指す場合は、各団体の公式サイト、転職・就職情報サイト、ハローワークなどでこまめに最新情報をチェックする必要があります。採用選考で課されるのは、一般企業と同じく書類選考や筆記試験、面接など。団体によって最終学歴や年齢上限などの応募資格は異なり、専門的な資格が求められる場合もあるので、事前に募集要項をよく確認しましょう。
まとめ
公務員と民間企業への転職活動で大きく異なる点は、受験要件さえ満たしてさえいれば、誰でも同じように採用選考を受けられること。
受験できる年齢の上限が引き上げられる傾向にあることも、ミドル世代にとってはうれしいポイントです。
日々の仕事をこなしながら公務員試験対策をするのは簡単なことではありませんが、トライする価値は十分にあるといえるでしょう。公務員への挑戦が難しい場合は、団体職員への転職を目指すのもひとつの道です。
まずは、人事院や気になる自治体、団体の採用情報をチェックしてみてはいかがでしょうか。