TonyBuzan公認マインドマップインストラクター 安田裕美氏
マインドマップ®とは、私たちの思考プロセスを「見える化」し、脳の働きを活性化するノート術。イギリスの教育者であるトニー・ブザンが考案し、記憶力や創造力を高める手法として世界中に広まりました。
近年は日本でもビジネスや教育などの分野を中心に注目を集めていますが、その意義や使い方などについては「よくわからない」といった声も聞かれます。
そこで、ブザンから直接指導を受けたマインドマップインストラクターの安田裕美氏に、マインドマップとはどのようなもので、どんな効果や役立て方があるのか、どう学べば効果的なのか、ご自身の経験を踏まえて語っていただきました。
マインドマップをビジネスの新たな強みに
コエテコカレッジ編集部(以下、編集部) マインドマップを学び、インストラクターになられた経緯をお聞かせください。
安田裕美氏(敬称略 以下、安田) 私がインストラクター資格を取得したのは、現在、講師を務めている「マインドマップの学校」の主催者で、中小企業診断士の仲間でもある塚原美樹さんからすすめられたのがきっかけです。まずマインドマップの基礎を学び、産休に入ったことを機にインストラクターの資格を取得しました。すでに中小企業診断士として独立していたので、マインドマップを個人的に活かすだけでなく、人に教えることもできるようになれば、仕事の幅を広げられるのではないか、と考えたんです。
というのも、中小企業診断士の資格だけでは、なかなか差別化が難しいからです。でも、他の資格を組み合わせれば付加価値が生まれます。実際、セミナーや講座などの講師をできる人はたくさんいますが、そこにマインドマップを取り入れている人はあまりいないので、自分の強みになっていると思います。
編集部 それは大きなメリットですね! 具体的にはマインドマップをどのように活用されていますか?
安田 仕事、プライベートを問わず、メモはほとんどマインドマップでとっています。毎日のToDoリスト、読書メモ、会議の議事録、お客様との打ち合わせの記録のほか、講師として教える際の板書やカリキュラム作成のアイデア出しなど、本当に日常的に使っていますね。今ではマインドマップを使わないと頭の中がモヤモヤして、発想もうまくいかないほどです。
編集部 インストラクター資格の取得にあたっては、マインドマップ考案者の故トニー・ブザン氏から直々に講義を受けられたそうですね。
安田 当時、ブザンはインストラクター養成講座で教えるためにたびたび来日しており、その際に4日間の講義を受けました。それまでは、どちらかといえば受け身の姿勢で学んでいて、日常的にマインドマップを使いこなせていませんでしたが、ここで集中して学んだことにより、自分の中に浸透した気がします。
マインドマップは脳に刺激を与えるためにたくさん色を使って書くのですが、当初はどれだけ色を使っても白黒の世界にいる感じが否めませんでした。それが4日間の学びを終える頃、「色を使って考えるというのはこういうことなのか!」と腑に落ちて、頭の中がパッと明るく開けたというか、世界がカラーに切り替わったような感覚を覚えました。
思考のプロセスを見える化し、脳の働きを活性化
編集部 マインドマップと脳は、どう関連しているのでしょうか?
安田 そもそも考案者のブザンは脳の使い方と学習の権威で、「脳をもっと上手に働かせて記憶や発想をしやすくするにはどうすればよいか」と考え、研究を続けていました。マインドマップはその中で生み出された、脳の働きを活性化するためのノート術です。
脳は右脳と左脳の両方をバランスよく使うことによって、その機能を最大限に発揮します。ところが、学校で書くノートは文字、線、論理といった左脳的な要素に偏りがちです。それを解消するため、マインドマップには左脳的な要素だけでなく、色、形、イメージ、全体把握といった右脳的な要素も盛り込まれています。だからこそ、思考を整理したり、アイデアを考えたり、記憶したり、コミュニケーションに役立てたりと、いろいろなことに活用できるんです。
編集部 なるほど。ノートはもっと自由に楽しく書いていいんですね。
安田 そうです! 楽しくウキウキしている方が脳はよく働きますから。変化が激しく、これまでのやり方が通用しない今の時代に生きる私たちには、答えのない問題に対処したり、かつてないものを生み出したりすることが求められています。そのためには、ノート術も今までにないやり方に変わっていく必要があると考えられているんです。
編集部 マインドマップの書き方に決まりはないんですか?
安田 マインドマップは思考の結果ではなく思考のプロセスを書くもので、それを視覚的に表現すると放射状になります。そのため、中央にテーマを書き、そこから連想したものを放射状に曲線を延ばして書き加えていくのが基本です。このほかにも、無地の用紙を使う、イメージや色を使う、といった基本的な法則はありますが、細かな禁止事項などはありませんから、のびのびと楽しみながら書いてほしいですね。
マインドマップは専用のソフトやiPadなどのデジタルツールを使って書くことも可能です。手書きには記憶に残りやすいというよさがあり、デジタルの場合は写真を取り込んだり、プレゼンの資料にそのまま使ったりできるという利点があります。ソフトはたくさん出ていますが、ブザンが開発に携わっているのはiMindMapというもので、現在はAyoaというソフトの一部として組み込まれています(無料版・有料版あり)。
編集部 マインドマップには絵がたくさん描かれ、とてもカラフルですね。やはり絵が上手な人の方が向いているのでしょうか?
安田 確かにマインドマップには絵や色を多用しますが、だからといって絵が上手である必要はありません。目的はマインドマップを作ることではなく、よりよく考えること。例えば、「旅行」と文字で書く代わりに旅行カバンを描くなど、言葉を絵に置き換えていくことで脳が活性化し、記憶に残りやすくなります。私自身、絵を描くことは大の苦手ですので、どうぞご安心ください。
仕事にもプライベートにも、活用の仕方は無限大
編集部 マインドマップを取り入れると、メモを後で見返しても何のことか思い出せない、人の名前が覚えられない、といったことも防げるのでしょうか。
安田 マインドマップに加えて、脳の記憶の仕組みを学ぶと、さらに記憶はしやすくなっていくと思います。例えば、メモに絵を加えてみたり、人の名前を覚えるときに同じ名字の友人の顔を思い浮かべたりして、自分が覚えやすいようにイメージを活用すると、より記憶に残りやすく、また思い出しやすくなります。記憶術に特化したマインドマップの講座もありますから、ぜひ役立てていただければと思います。
編集部 発想を豊かにしたり、創造性を高めたりするためには、どのようにマインドマップを取り入れていくのですか?
安田 頭の中に思い浮かんだことを一つ書き出してみると、そこから連鎖的に考えが浮かんでくると思います。その連想をすべてそのまま、木が枝を広げるように次々と書き記し、見返してみてください。それまで気づかなかった発見を得たり、連想したものを組み合わせることで新しいものを生み出したりしやすくなるはずです。
また、自分の書いたマインドマップを人に見せることで、コミュニケーションツールとしても活用できます。私は中小企業診断士の仕事で経営者の方と打ち合わせをする際、ヒアリングした内容をマインドマップで書き、一緒に見ながら対話をすることがよくあります。それによって一緒に頭の中を整理したり、発想したりすることができますし、相手に自分の考えや強みへの認識を促したり、互いに理解を深めたりすることにも役立ちます。
編集部 親子のコミュニケーションにも使えそうですね。
安田 はい。私は小学生の子どもが2人いるのですが、「今日の予定はどうしようか?」「もっと早く学校へ行く準備をするためにはどうすればいいかな?」などと、一緒に考えながらマインドマップを書いたりしています。子ども自身も楽しいようで、「お絵描きマップやろうか」と誘うと喜んで取り組んでいますね。もう少し年齢が上がったら、文章問題を絵で表したり、歴史の内容を絵でまとめたりして勉強に役立てることもできると思います。
編集部 「マインドマップの学校」で学ばれている方々は、どんな風にマインドマップを活用されていますか?
安田 受講者は30〜50代の方が中心で、学校の先生や会社員、独立して事業をされている方など、仕事のジャンルを問わずいろいろな方がいらっしゃいます。板書に役立てたい、読んだ本の内容を記憶したい、部下をよりよく教育したい、発想力を高めたい、など目的はさまざまですが、マインドマップを何らかの形で仕事に活かそうと思われている方がほとんどですね。実際に「毎朝マインドマップを書くことで仕事の効率がよくなり残業がなくなりました」「お客様へのヒアリングに役立てています」といった声も寄せられています。
マインドマップインストラクターとして独立されている方がいないわけではありませんが、率直に言うと、それだけで食べていくのは難しい印象です。ですが、独立をされている方が自分の強みと組み合わせて差別化やブランディングを図るには、かなり有効な資格だと思います。
理論も含めて学び、楽しみながら習慣化を!
編集部 マインドマップを個人的に仕事やプライベートで活用する場合、独学で学ぶことは可能でしょうか?
安田 マインドマップの書き方自体は、書籍やウェブサイトなどを参考に独学することは可能です。でも、ブザンの提唱する脳の使い方の部分から学ぶには、独学では難しいと思います。独学では書き方も自己流になってしまいがちで、あまり効果が得られなかったりするケースもありますから、マインドマップの世界統括本部が発行する正規資格が取得できる通学・通信講座などで、正規のインストラクターから学ぶことをおすすめしたいですね。
編集部 正規資格にはどんなものがあるのですか?
安田 マインドマップを個人的に仕事やプライベートに役立てるためのユーザー資格「プラクティショナー」、自分が所属する企業や学校などでマインドマップ入門コースを教えることができる上位ユーザー資格「アドバンス・プラクティショナー」、プラクティショナー資格取得コースを主催・担当できるトレーナー資格「インストラクター」などがあり、それぞれ講座を修了すると認定証が発行されます。なお、マインドマップの名称を使って講座や研修を開催したり、講師を担当したりすることは、正規のインストラクターにのみ認められています。
個人でマインドマップを使うのであれば、プラクティショナー資格の取得で十分です。受講料や受講時間はスクールによって異なりますが、「マインドマップの学校」の場合、プラクティショナー講座は1日コース(7.5時間)、半日コース(4時間×2日)があり(2022年5月現在リアル講座またはオンラインライブでの開催)、それぞれ理論を学んだあと、演習をみっちり行います。このほか、同じ内容を自宅で自分のペースで学べるeラーニング形式のオンライン講座も用意しています。受講料は50,000円程度と、決して安いとは言えませんが、一度学べば一生使うことができ、ずっと脳を活性化させ続けることが可能です。また、興味のある方向けのオンライン体験会(1.5時間)も人気です。
編集部 学んだあと、マインドマップをすぐに使いこなせるようになりますか?
安田 色や絵を多用するノートの取り方に慣れるまでは、少し時間がかかるかもしれません。講座で学んだことをいかに意識して日常に取り入れ、習慣化するかがポイントになります。私の場合は、メモやヒアリング内容の記録をマインドマップで書くように意識づけしました。
とはいえ、マインドマップを書くと頭がすっきりしますし、絵を描いてカラフルに色づけされていると自然と見返したくなるので、苦労よりも楽しさが勝るのではないかと思います。それでも学んだことが定着しなかったり、使いこなせなかったりする場合は、アフターフォローの講座などを活用する方法もあります。
編集部 最後に、これからマインドマップを学ぶ方へのメッセージをお願いします。
安田 マインドマップは「脳のスイス・アーミーナイフ(さまざまな道具のついたいわゆる十徳ナイフ)」と言われるほど、頭を使うあらゆるシーンに活用できますから、もっとステップアップしたい、勉強したいという意欲のある方には必須のスキルだと思います。独立されている方なら必ず武器になると思いますし、そうでない方も身につけておくと本当に役に立つので、ぜひ楽しみながら学び、生活の一部にしていただければと思います。
安田裕美(やすだ ひろみ)
Tony Buzan公認 マインドマップインストラクター
マインドマップの学校講師
経済産業大臣登録 中小企業診断士
一級販売士
日本アクションラーニング協会認定 アクションラーニングコーチ
CRC(企業再建・承継コンサルタント協同組合)認定 ターンアラウンドマネージャー
安田裕美中小企業診断士事務所 代表
中小企業診断士資格取得後、企業研修企画会社、ベンチャー系コンサルティング会社での勤務を経て、2006年、女性中小企業診断士による経営コンサルティング会社の設立に参加。第1子出産後の2013年にマインドマップの学習を開始し、開発者トニー・ブザンから直接講義を受け、TonyBuzan公認マインドマップインストラクターの資格を取得する。現在は、経営革新計画をはじめとする事業計画作成の支援を通じて、新事業開発の立ち上げや経営改善とそれにかかわる人材育成、コンサルティングを展開するほか、各種研修・講演・講座、執筆活動など多方面で活躍。著書に『女流経営~12の成功物語』(経林書房・共著)がある。