(取材)アンガーマネジメントを学ぶとは| コロナ後の時代を生き抜くために

colorful communications 代表・野村恵里氏
(日本アンガーマネジメント協会 アンガーマネジメントコンサルタント®)

アンガーマネジメントとは、怒りの感情と上手に付き合うための心理トレーニングです。

1970年代にアメリカで始まり、当初は犯罪者の矯正プログラムとしての側面がありましたが、現在では企業研修や医療福祉、青少年教育、人間関係のカウンセリング、アスリートのメンタルトレーニングなど幅広い分野で活用されています。

日本でも、メディアや書籍などで取り上げられ、認知度が増しているものの、実際のトレーニング内容や効果については詳しく知らないという方もいると思います。

そこで、アンガーマネジメントコンサルタント®として活躍されている野村恵里氏に、アンガーマネジメントを学ぶことで得られる効果や活躍の場所に至るまで、ご自身の経験を踏まえてお伺いしました。

アンガーマネジメントは子育てや保育に必要になると確信

コエテコカレッジ編集部(以下、編集部) アンガーマネジメント関連の資格を数多くお持ちでいらっしゃいますが、資格を取得されようと思われた動機や経緯について教えてください。

野村恵里(敬称略 以下、野村) 私は2014年3月末まで、岡山市公立保育園で勤務し、保育士と子育てをする母の二足の草鞋を履いた生活をしていました。日々の忙しさの中で感じる、自分自身のイライラをどうにかしたいと考えるようになったとき、アンガーマネジメントに出会ったのがきっかけです。

アンガーマネジメントは私と同じようにイライラしている保護者の役に立てられると思いましたし、学ぶことで保育の質を高めることにつながるのではないかと考えました。

そこで2012年11月に、日本アンガーマネジメント協会のアンガーマネジメントファシリテーター™の資格取得をし、トレーニングを開始。資格を取得しても、すぐに身につくというものではないので、2021年の現在でも継続してトレーニングをしています。

編集部 アンガーマネジメントを学び、どのように生活が変わりましたか。

野村 自分自身の怒りの感情をコントロールできることで、物の見方や考え方、意識が少し変わり、今までとは違う人との関係性が築けるようになりました。自分の経験からも、今後はアンガーマネジメントが、子育てと保育において確実に必要になってくることを確信し、それを伝えていきたいと考えるようになりました。

より学びを深めようと日本アンガーマネジメント協会の「アンガーマネジメントキッズインストラクタートレーナー™」「アンガーマネジメントティーンインストラクタートレーナ―™」「アンガーマネジメントアドバイザー™」「アンガーマネジメント叱り方アドバイザー™」「アンガーマネジメントハラスメント防止アドバイザー™」などの資格を取得しています。

アンガーマネジメントで周りから信頼される保育士になる

編集部 資格を取得されて良かった点を具体的に教えてください。

野村 子どもとの関係性が良くなりました。アンガーマネジメントを学ぶ前は、周りから「保育士の子どもなのに 」と思われたくない一心で、特に長男を厳しく怒ってばかりいたんです。アンガーマネジメントを学んだことで「まあいいか」「怒るほどのことでないな」と思えるようになり、自分自身が変わることで子どもと笑顔で過ごせる時間が増えました。長男も「お母さんがアンガーマネジメントを学んでくれてよかった」と言ってくれています。

また、職場では子どもが怒っているときの関わり方や保護者からクレームがきたときの自分の心の立て直し方を実践。そこから、管理職からの信頼を得ることができ、後輩から慕われ、保護者から信用される保育士に変わることができました。

自分のためにと思って学び始めたことが、自分の気持ちや状況をこんなに改善することに驚き、「子育て中の保護者や保育を頑張っている保育者に伝えていきたい」と強く思うようになったんです。そして、2014年3月に公務員を退職し、colorful communicationsを設立、講師業を開始しました。

引用元:colorful communications公式サイトより

編集部 より多くの人に知ってもらうために起業されたんですね。起業当時は、まだアンガーマネジメントの認知度も低かったのではないでしょうか。

野村 確かに、私が起業した2014年当初は、アンガーマネジメントの認知度が低く、講師業の依頼も少なかったのですが、徐々にアンガーマネジメントに関する書籍や雑誌が増え、メディアでも取り上げられるようになり、講演依頼も増加していきました。

ブログでは「いらいらしない子育て方法」など、具体的なアンガーマネジメントの方法を発信。私は保育に特化して発信してきたことで、中央法規から『保育者のためのアンガーマネジメント入門』『保育者のための子どもの怒りへのかかわり方』『すぐに保育に使える!子どもの感情表現を育てるあそび60』3冊の保育本を出版させてもらいました。2020年には、チャイルド本社の保育雑誌「pot」でのアンガーマネジメント連載に加えて「もうイライラしない!保育者のためのアンガーマネジメント」、2023年には「とっさの怒りに負けない!子育て」(すばる舎)、全国保育士会会報の連載、日本保育協会「保育界」の連載など、さまざまな文字媒体で発信しています。

編集部 ご自身の経験を活かし、保育業界での執筆活動を通して、精力的にアンガーマネジメントの啓蒙をされてきたんですね。執筆活動によって講師業の依頼も増えたのではないでしょうか。

野村 そうですね。各都道府県の保育協議会などの団体から、保育者研修の依頼が増加しました。日本アンガーマネジメント協会のファシリテーターであることも、信頼を得る大事な要素だと思います。経済的なことに関して言うと、企業相手の研修に比べて、教育・保育関連の研修会の予算は水準が低いのが現状です。それでも、私が一番伝えたい人たちに届けたいという思いで、子どもに関わる人たちのための研修会に尽力しています。

アンガーマネジメントは怒りで後悔しないトレーニング

編集部 これまで、野村さんがアンガーマネジメントに出会った経緯とその後のご活躍についてお伺いしましたが、そもそもアンガーマネジメントとはどのようなものなのか、概要を教えてください。

野村 アンガーマネジメントは、「怒りで後悔しない」ことであり、「怒るべきことには上手に怒り、怒らなくてもよいことには怒らない」という行動をとることです。決して、怒らない人を目指しているわけではありません。自分の感情と上手に付き合い、他人を傷つけず、自分を傷つけず、物を壊さず、自分の思いを伝えることです。

編集部 詳しく知らないと、「怒ってはいけない」と誤解している人もいそうですね。どういったところで学べるのでしょうか。

野村 アンガーマネジメントを学ぶ場合、日本アンガーマネジメント協会のファシリテーターが全国で講座を開催しています。協会ホームページで随時開催している講座情報の確認ができるので、希望の講座の申し込みが可能です。

資格を取得する場合は、アンガーマネジメントキッズインストラクター™、アンガーマネジメントティーンインストラクター™、アンガーマネジメントファシリテーター™のなどの養成講座があります。

講師として本格的に活動することを目指すのであれば、アンガーマネジメントファシリテーター養成講座の受講がお勧めです。これは2日間かけて、アンガーマネジメントを学ぶ講座です。2日目の最後には認定試験があり、合格者はアンガーマネジメントファシリテーター™として活動するための認定を受けられます。合格後は、各地域にある支部に所属し、支部が開催する勉強会やイベントに参加することで、スキルアップを図ることができます。

その他にも、資格取得なしの短時間でアンガーマネジメントの入門的な知識が学べる「アンガーマネジメント入門講座」は、3,300円(税込)で気軽に受講できる講座です。

編集部 どのような方がアンガーマネジメントの資格を取得され、仕事に活かされているのでしょうか。

野村 学びたいと思う人ならだれでも、認定試験に合格すれば資格を活かしてもらえると思います。資格取得の講座に参加されている方は、会社員や会社役員、医療介護従事者、研修講師、コーチング・カウンセラー、教育・保育関係者、スポーツ指導員、公務員、主婦(主夫)など、さまざまなバックグラウンドをお持ちです。

資格取得後は、ご自身の会社の社内研修を実施したり、研修講師としてさまざまな場所で活躍していらっしゃる方もいます。また、仕事やプライベートの人間関係作りや指導力向上、クレーム対応、子育てなど、あらゆる場面で活かすことができます。

私自身は、旭川荘厚生専門学院特任講師として、保育士を目指す学生に「子どもと感情理解」について授業を受け持っており、授業を通して若者にアンガーマネジメントを教えています。卒業してから「先生のあの授業、現場ですごく役立っている」と言われると嬉しいですね。

気持ちが救われる感覚をぜひ味わって

編集部 2020年から世界で感染拡大している新型コロナウイルスが人に与えた変化と、アンガーマネジメントの関係について教えてください。

野村 私自身、コロナ禍の影響で講師業に大ダメージを受けました。密を避けられない会場での研修会や講演会は軒並みキャンセル。2021年に入り、保育業界でもリモート研修の準備が進められ、保育者研修の開催も始まっているところです。その反面、研修会が中止になったことで、文字媒体での発信機会が増加しました。

みなさんコロナ禍の影響で、ストレスがたまり、ニューノーマル(NewNormal)が求められることで、イライラや怒りを感じやすい状況にあります。そんな今だからこそ、一人でも多くの方にアンガーマネジメントを学び、自分の気持ちと上手に付き合ってもらいたいと思います。

特に保育現場は、保育士不足が解消されず、コロナ禍による仕事量も増加して、厳しい状況にあるので、アンガーマネジメントの学びは必須です。今後、園内研修や保育協議会、社会福祉協議会などでの研修にも組み込んでもらいたいですね。すぐに身につくものではないので、定期的に学びの場を作ってもらえればと思っています。

編集部 最後に、資格を取得されようとする方へのメッセージをお願いします。

野村 業種、性別、年齢に関係なく、誰もがアンガーマネジメントを学ぶことによって気持ちが救われる感覚を味わうことができます。アンガーマネジメントは、怒りっぽい人ほど役に立つものです。なぜなら「怒ることは悪くない」のですから。みなさん安心して学ぶことができると思います。

日本アンガーマネジメント協会の理念は、「怒りの連鎖を断ち切ろう」。自分の怒りをコントロールできるようになることで、自分自身と自分の周りにいる人たちの怒りの連鎖を断ち切ることができるというものです。まずは、自分のためにアンガーマネジメントを学び、その良さを実感して資格取得を目指し、ぜひ多くの人にアンガーマネジメントを伝えてほしいです。

野村恵里(のむらえり)

colorful communications代表。保育コミュニケーター。旭川荘厚生専門学院児童福祉学科特任講師。日本アンガーマネジメント協会アンガーマネジメントコンサルタント®。岡山市公立保育園で20年間勤務後、2014年4月colorful communicationsを立上げ、「ココロ力を育む気持ちコミュニケーションで保育改革」を理念とし、保育・教育・子育てに活かせる感情教育について日本全国で登壇する。2019年夏の保育士研修では、北海道チャイルド社主催「サマーセミナー」、田中教育研究所主催「幼児心理講座」など、大手保育専門業界から依頼を受けアンガーマネジメントについて登壇。2020年徳島県「保育士等キャリアアップ研修~マネジメント~」の講師として登壇のかたわら、保育者向け書籍の出版、保育雑誌特集ページやコラムの執筆等を行なっている。『保育者のためのアンガーマネジメント入門』『保育者のための子どもの怒りへのかかわり方』『すぐに保育に使える!子どもの感情表現を育てるあそび60』(中央法規)

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