(取材)ビジネス視点でAI活用人材を育成|関西学院大学【DX×AI】UI/UXデザインを活用した課題解決スキル向上プログラム

IT化やDX化が叫ばれる現代において、製品・商品やサービスの開発には、ユーザーの実際の使用感が欠かせない要素となっています。そのため、「直感的な使いやすさ」「心地よい体験」がより重要視されるようになってきました。

関西学院大学では、この直感的な操作性(ユーザーインターフェース:UI)やユーザー体験(ユーザーエクスペリエンス:UX)に着目し、AI活用と組み合わせた新しい社会人向けのリカレントプログラム【DX×AI】UI/UXデザインを活用した課題解決スキル向上プログラムを2023年の10月から開講します。

今回は、プログラムご担当の関西学院大学副学長 AI活用人材育成プログラムプロジェクト統括 工学部情報工学課程教授の巳波 弘佳氏に詳しいお話を伺いました。

誰でも学べる関西学院大学のリカレント教育「AI活用人材育成プログラム」

コエテコカレッジ編集部(以下、編集部) まず、関西学院大学様のリカレント教育では、以前からAIを活用したプログラムを開催されていますが、どのような経緯でこの分野のリカレント教育に力を入れるようになったのでしょうか?

巳波 弘佳  氏(以下、巳波<敬称略>) 近年のAI(人工知能)を中心とする技術革新により、様々な分野において今までアプローチが困難であった問題の解決が急速に進んでいます。

世界はAI技術による大きな転換期を迎えているといっても過言ではありません。いま、そしてこれからの社会で求められるのは、文系・理系関係なく、AIやDXに関連する技術を理解し活用できる人材です。

社会構造や働き方にも急激で大きな変化が起こりつつありますが、それに対応できる人材を育成することは、教育機関にとって重要な責務と言えます。

このような課題認識のもと、関西学院大学はでは最先端のAIの一つとして知名度の高い“Watson”を擁するグローバル企業である日本IBMと、人材育成や産学連携を含めた総合的な取り組みを行うための包括的な共同プロジェクトを2017年9月より開始しました。

とりわけ、AIを使いこなす人材の育成が急務であるという認識を共有したことから、AIに関する基盤教育の実現に優先して取り組み、2019年度には全10科目からなるAI活用人材育成プログラムを本学生向けに全学開講科目群として開講しました。

目指すのは「AIを使いこなす人材」

巳波 このプログラムでは「文系・理系を問わずAI・データサイエンス関連の知識を持ち、さらにそれを活用して現実のビジネス課題・社会課題を発見し解決する・新しい価値を創出する能力を有する人材」「AI活用人材」と定義し、このような人材を育成し輩出することを目的としています。

内閣府が制定した「AI戦略2019」にあるように、大学・高専生年間50万人のAI人材輩出と併せ、社会人のスキル向上も課題となっています。学生だけでなく社会人も含めて、AIを使いこなせるようにならなければ、これからの社会を発展させることはおろか、生き残ることすらできません。

つまり、AIに仕事を奪われるのではなく「AIを使いこなす」人材を育成することを目指しています。

AI活用人材育成プログラムの特長

編集部 AI活用人材育成プログラムは、どのような特長があるのでしょうか?

巳波 AI 活用人材育成プログラムの特長として、「初学者を念頭においた授業内容」という点が挙げられます。

数多くの事例を通して AI活用のセンスを身につけると同時に、AIアプリの開発やデータ解析を行うための知識とスキルを学び、さらにそれらを実践的なレベルまで鍛えるための演習科目群を積み上げるカリキュラムを編成しており、予備知識がなくても段階的に学べるような構成になっています。

さらに、「体系的かつ実践的なスキルの修得」ができることも特長として挙げることができます。

このプログラム全体を通して、AI・データサイエンススキルを修得した上で実際の現場での課題に取り組む実践的 PBL(Project Based Learning)による発展演習科目に進むよう自己完結型に体系化されています。

また重要な特長として、「ビジネス視点の醸成」が挙げられます。

本プログラムを日本IBMとの共同プロジェクトで開発したことにより、IBMをはじめAI活用企業の実務の視点をふんだんに取り入れ、ビジネス現場で即戦力となれるような授業内容を設計しています。

経験者だけでなく、今まであまりITやAIに触れてこなかった方々でもAI活用人材育成プログラムの各科目を段階的に学ぶことで、今は職場等でAIを使っていないがAIを使ったらどのような新しいことができ、どう問題解決ができるようになるか?ということを考えられる人材を育成したいと考えています。

高度なeラーニング「バーチャルラーニング」でAIを活用できる人材育成

編集部 eラーニングのシステム構築を非常に工夫されているんですね。 

巳波 本学生向けに2019年度から対面授業でAIの授業を開始した際、教室の収容人数の関係上年間約500人までと定めましたが、希望者が殺到して抽選せざるを得ませんでした。

一度に多くの人材を育成する方法は、eラーニングしかありません。今後は基本的な知識やスキルはeラーニングで学び、PBL(Project Based Learning)で実践力を鍛えるという教育スタイルに移行していくことになるだろうという予測のもと、バーチャルラーニング(教材の動画化だけでなく、ワークやデモンストレーション、オンラインテスト、オンラインプログラミング、AIを用いたTAチャットボット、トークボード等を組み合わせた総合的な学修体験ができるもの)の開発に取り組みました。

リカレント教育としては個人向け・法人向けに、AI活用入門など3科目を2021年7月より提供を開始しました。2023年7月現在、5科目を提供中であり、秋には全6科目を提供する予定です。

上記の関西学院大学の学生向け科目の中から、以下の科目を個人向け・企業向けに提供しております。

※AI活用人材育成プログラムの詳細はこちら

https://www.kg-vlearning.jp/

従来の受動型のeラーニングとは異なり、ワークやオンラインテストなどで能動的に学べる仕組みになっており、主体的・積極的に学んでいただくことで、より効果の高い学びになると確信しています。

実践的に課題を解決する新しいプログラム「【DX×AI】UI/UXデザインを活用した課題解決スキル向上プログラム」

AI活用×UX/UIデザインを実践的に学ぶプログラム

編集部 社会人向けのAI活用人材育成プログラムがベースとなって、UX/UIデザインに注目した新しいリカレントプログラムを提供されるのですね。

巳波 2023年10月から【DX×AI】UI/UXデザインを活用した課題解決スキル向上プログラム(以下、本プログラム)を開講します。

※詳しい情報はこちらもご覧ください。

https://www.kg-vlearning.jp/news/detail/47

これは、バーチャルラーニング科目である「UX/UIデザインプログラミング演習」対面型PBL型演習(「AIアプリの開発による課題解決型演習」)を組み合わせることで効果的に社会人のスキル向上が図れるプログラムになっています。

文部科学省の「令和4年度人材育成推進事業費補助金」に申請し採択いただきましたので、2023年度は無料で受講が可能です。

原則的にはAI活用人材育成プログラムの中の「AI活用入門」を受講された方が対象となっていて、AIについての予備知識がない方にはAI活用入門を履修していただく必要がありますが、ある程度知識やスキルがあれば事前にご相談いただければ履修なしでもご参加いただけます。

※文部科学省の社会人の学びのポータルサイト「マナパス」での情報はこちら

https://manapass.jp/portal/course/detail/8/1971959

なぜUX/UIデザインに着目するのか?

編集部 このプログラムはデザインに注目した内容となっていますが、どういった背景でそのようなプログラムになったのでしょうか?

巳波 ポストコロナの時代において、企業がIoTやAIなどを駆使したSociety5.0社会に適応し、着実に成長し続けていくためにはDX推進が不可欠です。

DXは単なるIT化やデジタル技術による業務効率化ではなく、組織の変革、顧客への価値提供の変革が最終目的です。顧客にとって、よりわかりやすくより使いやすいサービスを提供していく必要があります。

ただ実際には、AIを導入しただけではサービスの向上には繋がらない課題解決しないことも多く、使いにくいサービスも世の中にはたくさんあります。これは、「デザイン」が軽視されてきたことが原因です。

デザインというと、「人間工学に基づいた〜」のように難解な用語も出てきますが、そこまで大上段に構えなくてもユーザー視点で「どうしたら使いやすいか」という思考でサービスを設計していかなくてはなりません。

これがUI(User Interface:ユーザーインターフェース)やUX(User Experience:ユーザーエクスペリエンス)を向上させ、サービスの質を高めたり課題解決したりすることに繋がります。

このユーザーの利便性とAIを組み合わせることで、ユーザーにとってより快適で便利な商品・サービスを開発できます。ユーザー体験を起点とした考え方でUX/UIを理解し、1つの商品・サービスの課題に対してUX/UIデザインに基づいたWebアプリケーションを開発するのが「【DX×AI】UI/UXデザインを活用した課題解決スキル向上プログラム」です。

多くの中小企業において、確かな技術に基づく商品・サービスを有しているものの、その価値を購買層へ伝えきれていないという課題があります。価値を伝える方法をデザインを重視してより良く変革することがまさにDX化と言えます。

どのようなことが学べるのか

編集部 このプログラムでは具体的にどのようなことが学べるのでしょうか?

巳波 本プログラムでは、課題の発見・抽出・企画立案する知識・スキルをまず修得します。

さらに、企画・開発・デザインなどの部門に属する受講者らが一体となって商品価値を捉え直し、利用者にとっての新たなベネフィットを創り出す「UXデザイン」の方法を体系的に学ぶとともに、急激に進化しているAI等も活用することで価値を直感的に伝える「UIデザイン」の手法も学びます。

具体的には、兵庫県が認定した「ひょうご新商品」等を題材に、UX/UIに優れたブラウザベースのAIアプリを開発します。

ここで学んだ知識・スキルを活かして、受講者それぞれが自社商品やサービス等へ応用して自社ブランドの価値向上を牽引できるようなDX推進人材を育成することが本プログラムの目的です。

プログラム概要

巳波 プログラムの概要は、以下のとおりです。

<リテラシー科目>完全オンライン・オンデマンド方式=22時間

■難易度=IPSSレベル2[i] 

<演習科目>双方向オンライン授業=18時間

  • 2023年10月14日(土)  10:00〜17:00
  • 2024年  1月20日(土)  10:00〜17:00
  • 2024年  1月21日(日)  10:00〜17:00

■難易度=IPSSレベル3 [ii] 

■募集期間:2023年8月10日(木)~9月8日(金)まで

■受講料:25,300円のところ今回のみ無料


[i] 「プロフェッショナルとなるために必要な基本的知識技能を有し、上位者の指導の下に要求された作業を担当する知識を有する」レベル

[ii] 「プロフェッショナルとなるために必要な応用的知識・技能を有し、要求された作業を全て独力で遂行できる知識を有する」レベル

受講対象者は「AI活用入門」受講修了者(ただし18歳以上で大学生は除く・未受講者は要相談)です。

デザイン思考や、UX/UIデザインの方法を体系的に学び、実際にプロトタイプも開発する演習を行います。これらを体系的に学ぶ方法はこれまでほとんどなく、多くのものは断片的な知識の付与や講師の経験に基づく簡単な演習に留まっていました。

巳波氏による最終発表会講評の様子

本プログラムでは、まずバーチャルラーニングにより基盤的な知識・スキルをたっぷり学んだ上で、実践的な演習を組み合わせることにより、ビジネスの現場でも通用する実践力を修得できるようになっています。

バーチャルラーニングと対面でおこなう対面での演習プログラムの概要
バーチャルラーニング詳細
対面及び双方向型オンライン講義詳細

これらの知識・スキルを活用して、自社においても課題発見・抽出・対策立案ができる、まさにDX推進人材になれるのです。

受講生が10年後の社会で活躍する未来へ

編集部 今後の展望をお聞かせください。

巳波 まだまだ AIと言えば開発者・技術者に光が当てられますが、実際に社会の中でAIを活用するためには、それだけでは不十分です。日本では特にUX/UIの考え方が弱く、それが現在の日本企業の課題とも言えるでしょう。

これからは、技術開発とUX/UIデザインを併せて新しいサービスや製品を創り上げていくことがますます重要になります。本プログラムの学びで、UX/UIデザインからAIでの問題解決を実現できる人材が増え、今後の社会で活躍していくことをおおいに期待しています。

変化が加速する社会で生き抜くためには

編集部 新しい知識やスキルを得たい、スキルアップしたいと考える読者の方にメッセージをお願いします。

巳波 ゲーテは「前進をしない人は、後退をしているのだ」と言いました。生成AIも登場し、世界はさらに速度を増して変化しています。文系、理系を問わず、金融から建築、農業まで、どのような職種でも、PC・タブレット端末の使用や業務のシステム化でITに関わらない業務はありません。

この荒波の中で生き残るためには、「日々学び続ける」ことが重要です。しかし、その目的が単に資格取得だけでは不十分です。課題を発見し、解決し、新しい価値を創出する能力の向上につなげていくことが重要です。

私たちはそのような思いを応援し、そのための手段を提供します。ぜひ、AI活用人材となって、これからの社会をともに切り拓いていきましょう!

巳波 弘佳(みわ ひろよし)

関西学院大学副学長、情報化推進機構長、工学部情報工学課程教授。AI活用人材育成プログラムプロジェクト統括、文部科学省 数理・データサイエンス教育強化拠点コンソーシアムモデルカリキュラムの全国展開に関する特別委員会委員、兵庫経済雇用戦略推進会議委員等を務める。研究分野は、数理工学、アルゴリズム工学、情報科学、数学。AI(人工知能)の高性能化・リアルなCGの製作・ビッグデータの解析・AIドローン制御・新材料開発・創薬・ブロックチェーン・インターネット制御・宇宙物理学や化学におけるビッグデータ解析など、さまざまな応用領域において、数理的な研究から実用化まで幅広く行っている。

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