近年、働き方の多様化が進む中で、安定した雇用と収入を得るために社会人の新たなスキルの習得や職業訓練等のニーズが高まっています。
経済のグローバル化や技術革新により求められるスキルや知識が急速に変化しており、在職中の正社員の方だけでなく、非正規雇用の方や離職者・求職者の方々もリスキリングやリカレント教育の継続的な学び直しで正社員を目指すチャンスが増えてきました。
そこでご紹介したいのが、厚生労働省の「非正規雇用労働者等が働きながら学びやすい職業訓練試行事業」と「ハロートレーニング(公的職業訓練)」。
パートタイマーやアルバイト、派遣社員・契約社員等の非正規雇用の方や離職者・求職者の方がスキルアップ・キャリアアップを図れるよう、学びやすい訓練コースで就職の支援等が受けられる仕組みになっており、IT関連だけでなく営業・販売、事務分野やモノづくりなど地域産業の人材ニーズに合わせた様々な分野の訓練コースが実施されています。
ここでは厚生労働省人材開発統括官付訓練企画室の担当者にご協力いただき、同省の取り組みやそのメリットについてまとめました。
非正規雇用労働者等のスキルアップ・キャリアアップを支援
変化の激しい経済社会の環境に対応できる人材を
厚生労働省の補助事業として行う「非正規雇用労働者等が働きながら学びやすい職業訓練試行事業」は、2024年に行われる新しい支援制度です。
厚生労働省がこうした非正規雇用労働者等のスキルアップや就職支援に取り組む背景には、非正規雇用労働者における職業訓練の課題が挙げられます。
「DXの加速など変化の激しい経済社会の環境に対応していくためには、どなたでも労働者としてのスキルアップが求められていますが、特に非正規雇用労働者は正規雇用の方と比べて企業内の能力開発の機会や自己啓発の実施割合が少ないことが課題となっていました。
このため、非正規雇用労働者が働きながらでも学びやすいような柔軟な受講日程、受講継続に向けたサポートを盛り込んだ新しい職業訓練を、試行的に実施するのがこの事業の概要です」(訓練企画室担当者)
選べる受講形式と学びたい方のための支援策
この事業の対象者は、パート・アルバイト・派遣社員等の非正規雇用で就業している方で正社員を目指す方、受講修了まで訓練を受ける意欲のある方が対象となります。
受講形式は、
- オンデマンド(eラーニング形式)のみ
- オンラインで同時双方向のライブ講座・訓練をリアルタイム受講+eラーニング
- 通学して受講するスクーリング(対面講座・訓練)+eラーニング
上記3つのコースから受講したい分野、科目を選択します。
「在職中の非正規雇用労働者等が学びやすいよう、eラーニングのみのコースなら場所や時間帯を選ばず学ぶことが可能で、ライブ講座と対面講座は平日夜間か土日で選べます。訓練期間は4ヶ月程度を見込んでおり、費用は税込5,000円(テキスト代は別途負担)です。
受講継続のための伴走支援策として、メンターを配置し受講中のお悩み相談や、受講中から受講後を含め、キャリア形成に向けたキャリアコンサルティングの実施を予定しています」(訓練企画室担当者)
今学びたいデジタル分野と需要の多い営業・販売・事務分野が学べる
受講できる分野は、いずれの受講形式でもデジタル分野と営業・販売・事務分野が学べます。
デジタル分野は、
- UI/UXデザイン科
- ソフトウェア開発科
営業・販売・事務分野は、
- 経理事務科
- 営業事務科
これらを4カ月で5,000円税込(テキスト代は別途負担、コースによって異なる)で受講可能、Wi-Fi、パソコンの無料貸出もあるので事前に問い合わせておくと良いでしょう。
訓練の内容は、基礎から段階的に学べるような内容になっているそうです。
詳しい受講条件や申し込みから受講開始までの流れ、訓練コースの一覧はこちらをご確認ください。
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7月から募集開始!
この事業の実施主体は独立行政法人高齢・障害・求職者雇用支援機構(JEED)で、民間の教育訓練機関等に委託し、様々な訓練機会が提供されます。
「民間教育訓練機関で実施した結果を踏まえて、訓練効果や課題の検証を行う予定です。
具体的なスケジュールとしては、2024年7月からこの試行訓練事業の受講者の募集を行いますが、訓練実施機関によって募集時期が異なります。具体的には、ヒューマンアカデミー株式会社が実施する訓練では7月2日~7月25日、株式会社ウチダ人材開発センタが実施する訓練では7月1日~8月8日まで募集しております。
実際の訓練開始は、訓練コースによって異なりますが、8月下旬、9月上旬を予定しております 」(訓練企画室担当者)
それぞれのコースで募集定員もありますので、申し込みたい方はこまめに公式サイトから情報をチェックして、早めに申し込むことをおすすめします。
離職者や求職者のスキルアップや就職支援を行う「ハロートレーニング」
公共職業訓練・求職者支援訓練の2 つからなるハロートレーニングの概要
ハロートレーニング(公共職業訓練・求職者支援訓練)とは、希望する仕事に就くために必要な職業スキルや知識などを習得することができる公的制度です。その中には仕事を探している方を対象とした「無料※の職業訓練制度」(※テキスト代は自己負担)があり、一定の条件を満たせば手当や生活支援のための給付金を受けることも可能です。
雇用保険に入っていれば、離職や失業時にはハローワークで手続きをし、失業給付を受けられることはほとんどの方がご存じかと思われますが、スキルや知識を学ぶキャリアアップ支援、さらには安定した就業や収入アップのための支援を受けることも可能です。その際に強い味方になるのが、このハロートレーニングです。
「先ほどの非正規雇用の方のための訓練は新規事業で試行訓練になりますが、ハロートレーニングはこれまでも実施してきた制度です。
公共職業訓練は、主に雇用保険を受給できる離職者向け、企業等に勤務されている在職者向け、高等学校卒業者等の学卒者向け、障害者向けと、それぞれ対象者別に分かれます。
離職者向けの訓練は国のポリテクセンターと都道府県の職業能力開発校、都道府県から委託された民間の教育訓練機関等が、在職者向けの訓練は国のポリテクセンター・ポリテクカレッジと職業能力開発校が訓練コースを実施しています。
学卒者向けの訓練は、必ずしも新卒の方のみが対象というわけではなく、高等学校を卒業された方などを対象として、ポリテクカレッジと職業能力開発校などで有料の訓練コースを実施しています。
訓練機関等詳細については、それぞれ異なるので上記の表を参考にしてください。
離職者向けの訓練の訓練期間は概ね3カ月〜2年となっており、訓練期間が比較的短いコースも多く実施されています。また学卒者向けの訓練の訓練期間は1年又は2年なので、長期的でより高度なものづくりの技術者の養成に向けたコースになっています。
求職者支援訓練は、主に雇用保険を受給できない離職者向けの訓練です。
公共職業訓練、求職者支援訓練ともに離職者向けの訓練はハローワークで受講のあっせんを行っています。
また、公共職業訓練の学卒者向けの訓練に関しては、訓練コースを実施している公共職業能力開発施設に直接応募することが必要です。
在職者向け訓練は、原則としてお勤めの企業経由で受講申し込みを受け付けております」(訓練企画室担当者)
ハロートレーニング(離職者訓練・求職者支援訓練)を受講するためには、訓練の必要性等をハローワークが認めて、「受講あっせん」を受けることが必要です。以下、受講の流れを参考にしてください。
就職支援・給付金の支給が受けられる
ハロートレーニングの特徴として、就職支援と給付金の支給があります。
- 受講者に対してハローワークや訓練実施機関が積極的な就職支援
- 一定の要件を満たす方に訓練受講中の生活を支援する雇用保険の各種手当や給付金等の支給
訓練受講前や訓練受講中、訓練終了後にハローワークまたは訓練実施機関がキャリアコンサルティングや職業紹介などの就職支援を行ってくれるので、安心して受講できます。
また、公共職業訓練は雇用保険から基本手当や日額500円の受講手当(上限あり)、求職者支援訓練は職業訓練受講給付金として月額10万円の給付が受けられます。(※一定の要件を満たした場合に支給)
支給の要件は、こちらでご確認ください。
地域の人材ニーズに合わせた多数のコースを開講
ハロートレーニングは、地域の人材ニーズや育成したい人材に合わせた豊富なコースが各都道府県で開講されています。
「離職者向けの訓練について、ポリテクセンターが行う訓練は、ものづくり分野の訓練を中心に、全国規模で一定の訓練内容を実施していますが、都道府県が行っている訓練については、民間教育訓練機関への委託訓練も含めて特に地域産業の人材ニーズに対応した訓練を実施しています。
例えば福岡県では、 『風車メンテナンス技術者育成コース』を実施しているなど地域の産業に合わせて訓練が実施されています」(訓練企画室担当者)
他にも、例えば海外からの観光客が多い北海道では、中国語や英語に加えて接客やビジネスについて学ぶホテル、観光業界等の就職を目指すコースが実施されています。
お住まいの地域でどのような職業訓練が実施されているか、こちらで検索してみてください。
分野によってeラーニング、オンライン訓練も可能
ハロートレーニングは、スキル習得のための実習や企業実習等がある対面のコースの他に、分野によってはeラーニングやオンライン訓練が可能なコースもあります。
「IT・Webデザインなどのデジタル分野や、営業・販売・事務分野でeラーニングやオンライン訓練が多く取り入れられています。こうしたコースは育児・介護等で時間的な制約のある方でも受講しやすいコースになっております。
またeラーニングで受講できるコースに関しては、お住まいの都道府県の訓練コースだけでなく、全国どこからでも受講が可能です」(訓練企画室担当者)
過去の受講者数と人気のコース、就職率、受講生の声について
ハロートレーニングは、毎年多くの方が受講されています。令和4年度の実績と人気のコース、就職率、受講生の声について訓練企画室担当者に伺いました。
「令和4年度の実績として、公共職業訓練のうち雇用保険を受給できる離職者向けの訓練は約 102,000人で、学卒者向けの訓練は約16,000人、企業に勤める従業員向けの訓練は約106,000人でした。
求職者支援訓練は、約40,000人でした。
令和4年度の離職者向けのコースで人気があったのは、上位の方から
- 営業・販売・事務分野
- IT分野
- 介護・医療・福祉分野
このような順になっております。特に厚生労働省としましてはデジタル分野のコースの設定に取り組んでいます。
離職者向けの公共職業訓練の就職率は約8割、求職者支援訓練の就職率は約6割です」(訓練企画室担当者)
では実際にハロートレーニングを受講された方は、どのような感想をお持ちなのでしょうか。
「受講者の声として、一例にはなりますがご紹介させていただきますと、『知識、資格取得への指導はもちろん、ビジネスマナー、接遇やパソコンスキルなど就職にあたっての指導が充実している』といった声をいただいております」(訓練企画室担当者)
適切な訓練コースの拡充と訓練内容の改善を
ハロートレーニングが今後どのように発展していくのか、展望を訓練企画室担当者にお伺いしました。
「今後の技術革新や企業のニーズを的確に捉えるために、労使団体や幅広い関係者に参画いただく都道府県単位の協議会を設置しております。
そういった場を活用して、地域における今後の産業展開を踏まえた適切な訓練コースの設定を促進していくと共に、訓練を修了された方や採用企業へのヒアリングを通して訓練効果の把握や検証も行い、引き続き訓練内容の改善を図っていきたいと考えています」(訓練企画室担当者)
新たなスキルアップへのチャレンジをサポート
最後に、転職や再就職、スキルアップを目指す方々に向けて、アドバイスやメッセージを訓練企画室担当者に伺いました。
「全国で多くの方がハロートレーニングを受講しており、新たなスキルを身に付けて就職している実績があります。訓練分野も、ものづくり分野をはじめとして事務や介護サービス、IT系のプログラミングまで様々な訓練コースがあります。
厚生労働省としても引き続きハロートレーニングを通じて、新たなスキルアップにチャレンジする方をサポートしていきたいと思っていますので、受講を希望される場合はまずはお近くのハローワークまでご相談ください!」(訓練企画室担当者)
まとめ
大学等が行うキャリアアップ・スキルアップのためのリカレント教育の他にも、学び直しの支援として厚生労働省の教育訓練給付制度や、ハロートレーニング(公的職業訓練)、さらに新規事業として「非正規雇用労働者等が働きながら学びやすい職業訓練試行事業」など、支援が受けられる選択肢は増えています。
いろいろな種類のコースがあるので、どれが自分にふさわしいかがわからず良いか迷ってしまう方も多いのではないでしょうか。
今回取り上げた非正規雇用労働者のための試行事業やハロートレーニングは低価格もしくは無料で受講でき(ただしテキスト代は自己負担)、受講を最後まで終了するための相談や実際に就職先を選ぶためのキャリアコンサルティングも受けられるのが大きな魅力です。
また、ハロートレーニングの受講を検討されている方は、給付金の要件も忘れずに確認しましょう。
学び直しでスキルアップや再就職等をお考えの方は、今回の記事を参考に自分に合った訓練コースやこれからやってみたいコースがあるかどうか、ぜひお気軽に探してみてください。
ハロートレーニングや職業訓練試行事業を、自分自身のキャリアプランに積極的に活用しましょう。