(取材)1講座から!DXについて無料で学べる|早稲田大学「コトづくり人材育成のためのリカレントプログラム」

コトづくり人材育成のためのリカレントプログラム 公式サイト

https://www.waseda.jp/fsci/ipsrc/asiandx/

●全プログラムを受講・DX就職支援コース 10/30募集締切
●1講義から選んで受講コース 11/30募集締切

社会人のスキルアップやリスキリングのための「学び直し」という言葉は、メディアでもよく目にするようになりました。コロナ禍によるオンライン教育の急速な普及や国の支援もあって、対面のみならず、全国どこからでも学べるオンラインのプログラムも数多く開催されています。

この記事では、早稲田大学大学院情報生産システム研究科教授の吉江 修氏に解説をいただきながら、早稲田大学による「コトづくり人材育成のためのリカレントプログラム」を紹介します。

本プログラムは、同学が2022年度に実施した「定着率の高い就職・転職を支援するDX人材育成プログラム」に続き、未来のDXリーダーの育成を目指すもの。文部科学省「成長分野における即戦力人材輩出に向けたリカレント教育推進事業」の採択を受け、企業と一般の方、それぞれに向けたプログラムが2023年度に実施されます。

ここで取り上げる一般の方向けのプログラムは、北九州での対面講座を含む30名のコースの他に、オンラインで1講座・全国から受講可能なコース(300名)も設定されています。

北九州のものづくりと情報産業の融合を目指す

早稲田大学大学院北九州キャンパスがある北九州市は、古くからものづくりの街としても有名です。「コトづくり人材育成のためのリカレントプログラム(以下、プログラム)」にも、地元企業が大きく関わっています。

プログラムの紹介にあたり、まずは大学院早稲田大学IPS・北九州コンソーシアムについてお伺いしました。

グローバル化と産学連携を見据えた大学院

早稲田大学大学院情報生産システム研究科(通称IPS)は、2003年に独立研究科(学部を持たない大学院)として、北九州学術研究都市内に開設されました。情報アーキテクチャ、生産システム、集積システムの3研究領域、もしくはそれらを相互連携する研究領域で高度な研究課題に取り組み、最先端の技術を創出しています。

IPSの大きな特徴が、グローバル化産学連携です。

IPSでは開学当初から講義を英語で実施し学生の95~96%は外国からの留学生が占めています。また、研究室の資料や事務対応といった周辺の環境も含めたグローバル化も進んでいます。

産学連携の分野では、ものづくりの街として有名な北九州市の企業との融合を目指しています。

「私は、北九州は『ものづくり』と『情報化』のバランスが良い地域だと思います。一般的にものづくりの現場では、コンピュータの技術は活かせないのではと考えられがちです。一方、ものづくりを理解せずに情報システムを作ってしまった結果、そのシステムが誰にも使われないこともよくあります。しかし、北九州には実際にものづくりの知識を持っている情報分野の企業が多いのです。

IPSでは、ものづくりの技術とITの技術をミックスし、アジアにおけるひとつのハブとしての北九州の発展に貢献することを目指しています。」(吉江氏)

早稲田大学IPS・北九州コンソーシアムで産学連携して人材を育成

産学連携をさらに先へ進めるために、2016年12月に誕生したのが早稲田大学IPS・北九州コンソーシアムです。

「産学連携の実現には、人材の活性化が必要です。このコンソーシアムでは、地域と連携して、地方の若者を東京に送り出すだけでなく引き戻すモデルの構築を開始しました。九州や四国の若者が高校を卒業して東京に出た後に北九州へ戻ってくるための就職も視野に入れたものです。」(吉江氏)

新しい入試も開始 北九州で地域連携型教育・研究構想をもとにしたコンソーシアムを設立」より

プログラムでは、このコンソーシアムの会員企業と連携したカリキュラムが用意されています。

令和4年度「夏のDigi⽥甲⼦園」の実装部門*で内閣総理大臣賞・優勝をして以来、北九州市ではDX推進の熱気が一気に高まりました。「夏のDigi⽥甲⼦園」をきっかけに、ソフト面では人材育成の重要性が再認識され、ハードもソフトも両方取り組もうと、北九州市の産官学がそろって盛り上がっています。

*指定都市・中核市・施行時特例市等

社会人・DX人材の教育機会の提供を目指したプログラム

プログラムを開講する目的の一つは、あらゆる産業で不足しているDX人材を育成することです。北九州市だけでも、早期に6000人ものDX人材の養成が求められています。

吉江教授にDX人材について解説いただきました。

「プログラムの全科目を履修した受講生30名には、北九州の中小企業をはじめとした就職先や転職先で、DX推進を担う人材として自立して欲しいです。

中小企業の経営者のほとんどが、DXが大切だと理解しています。しかし、DXの推進が進まず止まってしまう理由の1つが費用対効果です。お金をかけてDXのための情報システムを導入しても本当に効果が出るのか、分からずに躊躇してしまうのでしょう。

中小企業でDXが進まないもう1つの理由が、深刻な人材不足です。とはいえ、中小企業にAIの専門的な知識を持った人やビッグデータをよく知っている人が必要かといえば、そうではありません。

例えば、海外の企業から納期と見積もりの3日以内での提出を要求されても、対応できないという事例が北九州市で実際に起こっています。中小企業がこのような問題を解決するために情報システムを導入するには、SIerなどのIT企業に発注できる人材が必要なのです。

先ほどものづくりと情報産業の人はうまくいかないと説明しましたが、その理由は共通言語で喋っていないからです。ものづくりの人と情報産業の人がお互い何を言っているか分からない状況を解消しなくてはなりません。DX推進を支える方法はさまざまありますが、北九州の中小企業におけるDX人材とは『通訳ができる人』ではないでしょうか。

また欧米の大学では、社会人の学び直しが増えています。一方、日本では人生100年時代と言われていますが、今までの大学と大学院では高校卒業後の約10年ほどの若者としか接点がありませんでした。IPSとして大いなる挑戦ともいえますが、これからは社会人になってから学びたいときに学べる環境を整備して、社会へ貢献していきたいと思っています。

日本では超少子高齢化で若者の人数が減少し続けています。新たに働き始める若者だけでなく、すでにキャリアを積んでいる方も、性別や国籍に関係なくお互いに肩を並べて働く機会が増えるでしょう。リカレント教育やリスキリングなど、大学・大学院が社会人に対象を広げることは大切なことだと考えます。」(吉江氏)

自社のDX推進に必要な知識とスキルを習得

17科目68時間の講座によるカリキュラムは、技術力養成学群、共創力養成学群、俯瞰力養成学群の3つの学群で構成されています。3つの学群の教育内容は、以下の図にある知識やスキルです。「全プログラムを受講・DX就職支援コース」(後述)には、これにITパスポート対策講座(オンデマンドのみ)とプロジェクト・課題解決科目(オンライン、オンデマンドも可)が加わります。

DX人材ですから、当然ITやデジタルに詳しくなくてはなりません。それと同等に大事なこと、もっと大事なことがDX人材には必要だというのが、プログラムの特徴です。

プログラムではDXの本質についての理解を習得するために、技術力だけでなく、共創の場に身を置き、異質なもの(異文化)を取り込んでいくための幅広い視野と知性を身につけます。」(吉江氏)

技術力養成学群

技術力養成学群ではITSS*レベル1以上、国家資格であるITパスポートに相当するIT技術力を学びます。

*IT Skill Standard / ITスキル標準

共創力養成学群

共創力養成学群のカリキュラムには、IPSの学生の姿が反映されています。

「留学生が東京で就職しても、結構な人数が短期間で退社します。退社の原因の一つは、組織に溶け込めなかったり周りと交われなかったりして孤独になることです。うまくやっている場合も多いですが、外国人と日本人の壁もあるのかもしれません。

もう一つの原因には、少々ショッキングに感じられるかもしれませんが経営者に対する不満が挙げられます。外国人は就職しても生涯勤務し続けようと考える人は少なく、この職場は自分のためにならないと感じれば辞めてしまうことが多くあります。『自分を生かしてくれているか』という視点で会社を見ているからです。

このような留学生の姿は、DX人材にも共通するのではと考えました。特に中小企業では、人材を活用する体制が十分に整っていないこともあります。DX担当として中小企業に就職しても、受け入れ側の体制ができていないと、孤立感や孤独感を味わってしまうでしょう。

例えば、中小企業にDX担当として就職したのに、1年経っても普通の事務職をしているようなことはよくあります。「この会社は、自分を生かし切ってくれないのではないか」「この会社は、自分のためにならないのではないか」と不満を感じるような事態は避けなくてはなりません。

中小企業でDX人材として活躍するには、組織の中でみんなを巻き込んでみんなで何か作り出していく力が必要です。「これはどうでしょう」と提案しても、1人ぼっちにならず業務を推進していけることが大切でしょう。

他の人を巻き込んで組織の中で作り上げていく力を一朝一夕に習得することは難しいですが、そのための考え方を講義で紹介します。」(吉江氏)

俯瞰力養成学群

企業におけるDXとは単なるICTの活用やデジタル化にとどまらず、企業活動や企業文化を変革することを意味します。俯瞰力養成学群では、急激な変化を伴うDXを推進するために社内や取り巻く環境を俯瞰して、進むべき方向を見定める能力を習得します。

「社会が急速に変化する中で、自社内で何を提案したらいいのか、どの方向にビジネスを進めていけばよいのか、周りの人と議論しなくてはなりません。そのためには、アンテナを高く掲げて情報を収集し、絶対正解とは言えなくてもトライする価値のあるものを見つけだす力が必要です。このような力を、俯瞰力と名付けました。」(吉江氏)

就職・転職活動に加えて、就労後の受講生もバックアップ

プログラムはコンソーシアムと連携して、受講生が思い描くキャリアを獲得できるように就職・転職を支援します。

受講生の就職・転職活動を、産官学でバックアップします。コンソーシアムに参加するキャリアコンサルタントなど人材育成のプロ、中小企業大学校の有名講師たち、プログラムの事業実施委員会のメンバーである北九州市、福岡労働局、商工会議所、JMOOC、北九州地域における産学官連携を推進する北九州産業学術推進機構(FAIS)などです。

また企業は情報システムを導入したらDXは完了ではなく、管理し続けなくてはなりません。いわば、『お守りし続ける』ことが必要です。

情報システムの管理を請け負うBPO提供会社では、人材が圧倒的に不足しています。受講生の就職の機会として、プログラムはコンソーシアムのメンバーであるBPO提供会社と連携しました。受講後にBPO提供会社に就職して実務経験を積んだ後に、やりたい仕事や自分をブラッシュアップできる仕事を得るルートもあるでしょう。」(吉江氏)

受講生の支援は受講中だけにとどまりません。受講生が就職・転職先で活躍できるように、受講後も支援が続けられます。

「共創力養成学群で説明した『孤独感』は、受講生にも危惧されるものです。

プログラム受講後に受講生はそれぞれバラバラになります。中小企業には一人二人など少人数での入社となる点は、IPSの留学生と共通です。

入社先では、『若くて元気なのは入ってきたけど…』という目で先輩から見られるかもしれません。情報システム業務ではありがちなのですが、システムの構築中は、『あいつ働いてないじゃないか』と思われることもあるでしょう。仲間たちがどんな経験をしているのか集まって話せるような、受講生が帰る場所を整備できればと思います。

新入社員を育成する上司になる人たちの教育が重要であるのと同時に、DX人材が活躍するための鍵になるのが経営者です。中小企業では経営者がせっかくの人材を定着させるために、周囲の理解を求めるように守ることもとても大事です。」(吉江氏)

選べる2つの受講コース、オンラインでの受講も可能

プログラムには「全プログラムを受講・DX就職支援コース」に加えて、オンラインで興味がある講義のみ受講できる「1講義から選んで受講コース」があります。

オンラインで実施する講座も対面講座と同様に、リアルタイムに双方向でコミュニケーションをとりながら進めます。オンデマンド講座のような送り手からの一方通行のものではありません。対面もオンラインも全講座を録画して長期的に活用するととともに、見逃し視聴も可能です。」(吉江氏)

プログラムには実力も知名度もある豪華な講師陣が揃い、1年や2年では陳腐化しないような教育内容だと自負しています。プログラムは今回限りのものではありません。今後もコンソーシアムや産官学との連携を強化して、教育の質の向上や受講者人数の拡大を図り、継続した開催を目指しています。」(吉江氏)

コース全プログラムを受講・DX就職支援コース1講義から選んで受講コース
受講方法対面・オンライン・オンデマンドオンライン・オンデマンド
開催日時*2023年11月1日(水)~2024年1月20日(土)
平日:18:15~20:30
土曜日:10:00~18:00
2023年11月1日(水)~2024年1月20日(土)
平日:18:15~20:30
土曜日:10:00~18:00
申込期間〜2023年10月30日(月)15:00まで〜2023年11月30日(木)15:00まで
受講時間数受講68時間+ITリテラシー対策オンデマンド講座(計122時間相当)1時間〜
対面講義会場早稲田大学北九州キャンパス他
受講料無料無料
履修条件・主に離職者や非正規雇用の方でDX分野の就職・転職を希望される方
・全科目受講可能な方(オンデマンドによる後日受講も可)
・企業で活躍するDX人材となるために必要な知識、技能を学びたい方
・DX分野での就職・転職を目指す方
定員30名300名
備考全科目履修完了者に早稲田大学の履修証明書を授与
講義から選んで受講コースの開催日や募集締切は、選択講座によって異なります。

プログラムの最新情報をチェックするなら、IPSやIPS研究センターのWebサイトに加えて、文部科学省による社会人の学びを応援するポータルサイト「マナパスの確認もおすすめします。

学び続けるモチベーションとは

吉江教授に、学び直しやリカレント教育の受講を考え始めた方へのメッセージをいただきました。

「リスキリングを考えたり、リカレント教育を受けたりする時に大切なことは、学ぶためのモチベーションです。

これからも社会は劇的に変わっていきます。社会の変化に追従するのではなく、積極的に変わっていける、自ら変化を担う人になってほしいと思います。自分自身が「これからの時代を担っていくんだ」という思いを持てば、勉強することも楽しいのではないでしょうか。

また、知識を得ることは人のためではなく、自分のためともいえます

仕事をすることの延長線上に社会への貢献があり、自分の成長にもつながると感じられる仕事に就いていただければと思います。」(吉江氏)

吉江 修(よしえ おさむ)

早稲田大学大学院情報生産システム研究科教授
工学博士(早稲田大学)

研究テーマ
●コミュニティ・コンピューティング
●バーチャルコミュニティ
●エージェント
●多人数インタラクション
●eメンテナンス
●合意形成過程
●知識ロジスティクス

コトづくり人材育成のためのリカレントプログラム 公式サイト

https://www.waseda.jp/fsci/ipsrc/asiandx/

早稲田大学大学院情報生産システム研究科 公式サイト

https://www.waseda.jp/fsci/gips/

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