観光業は今や国の主要産業のひとつ。近年は日本を訪れる外国人旅行者の急増もあり、旅行会社はもちろん、観光にかかわる幅広い事業者が国内旅行の企画・販売に力を入れています。
国内旅行業務取扱管理者とは、そんな日本国内における旅を総合的にプロデュースする国内旅行のエキスパート。旅行業界唯一の国家資格である旅行業務取扱管理者の一種で、2020年にマラソン選手の川内優輝さんがセカンドキャリアを見据えて取得したことでも話題になりました。
旅行業界を目指す人なら必ず目にする資格ではありますが、他の旅行業務取扱管理者との違いや業務内容、取得方法など、意外に知られていないことも多いもの。ここでは国内旅行業務取扱管理者を中心に解説します。
旅行業務取扱管理者の概要
国内旅行業務取扱管理者について知る前に、まず旅行業務取扱管理者の概要を理解しておきましょう。
旅行業務取扱管理者には、国内旅行のみを扱う国内旅行業務取扱管理者、国内・海外両方の旅行を扱う総合旅行業務取扱管理者、営業所所在地の隣接市町村までの旅行のみを扱う地域限定旅行業務取扱管理者の3種類があります。
旅行会社は扱う業務の範囲により、各営業所に1名以上の旅行業務取扱管理者を置くことが法律で義務づけられています。
いずれも旅行業務全般を管理・監督するのが仕事で、添乗員として旅行に同行する旅程管理主任者(ツアーコンダクター)とは異なり、デスクワークが中心です。
国内旅行業務取扱管理者とは
国内旅行業務取扱管理者は、国内旅行に関する豊富な知識を駆使し、旅行プランの立案から広告内容のチェック、宿泊先や交通機関の予約・手配、顧客との契約やアフターフォローまで、幅広い業務において中心的な役割を担います。
広く国内旅行を取り扱う営業所では、国内・総合いずれかの旅行業務取扱管理者がいないと旅行業を営むことができないため、有資格者はなくてはならない存在です。
2018年に新設された地域限定旅行業務取扱管理者も国内旅行を扱いますが、その知識や業務範囲は限定的なもの。需要の高さでは、より豊富な知識をもち、広い業務を扱える国内旅行業務取扱管理者に軍配が上がります。
近年では宿泊事業者や運輸事業者、観光協会なども国内旅行の企画・販売を手がけるようになっており、旅行業界以外の社会人や学生にも国内旅行業務取扱管理者の資格取得を目指す人が増えています。
資格を取得するメリット
前述のように国内旅行業務取扱管理者への需要は高く、旅行・観光業界への就職・転職では大きな強みとなり、キャリアアップにもつながります。取得を奨励する旅行会社も多く、資格手当が支給される場合もあり、ゆくゆくは独立開業することも可能です。
国内旅行業務取扱管理者となるには国家試験に合格することが必要で、5年ごとに全国旅行業協会が実施する研修を受けなければなりませんが、資格そのものは一度取得すれば生涯有効。結婚・出産などで離職したあと、再就職する際にも強い武器となってくれるはずです。
また、一定の研修や実務経験を積むなどして、旅程管理主任者の資格も併せて取得すれば、1人で添乗業務に従事することも可能になり、さらに高い評価が期待できるでしょう。
国内旅行業務取扱管理者試験の概要
国内旅行業務取扱管理者試験とは(一般社団法人 全国旅行業協会)
受験資格
年齢、学歴、実務経験などの受験制限はなく、誰でも受験が可能です。
日程・会場・受験料
試験は2024年度からペーパー試験ではなく、年1回、CBT試験会場(テストセンター)で指定期間中に実施されます。試験期間中の空席がある日時と会場であれば、受験者が自由に選択可能。例年申し込みが6月頃、試験期間が9月頃となっています。
受験料は5,800円、システム手数料が660円(2024年5月現在)です。
試験の詳細は、観光庁長官の試験事務代行機関である全国旅行業協会の公式ホームページで確認しましょう。
試験内容・合格基準
試験は以下の3科目からなり、試験時間は全科目で120分間。全問CBT方式で、合格基準は例年各科目60%以上の得点となっています。
(1)旅行業法及び、これに基づく命令
旅行業者を規制する旅行業法の条文から、旅行業の登録や旅行管理業務などについて25問出題されます。
(2)旅行業約款、運送約款及び宿泊約款
旅行者と旅行業者との契約条項である旅行業約款と、その他の各種約款から、契約の締結や解除、旅行業者の義務や権利などについて25問出題されます。
(3)国内旅行実務
「運送機関及び宿泊施設の利用料金その他の旅行業務に関連する料金」と「旅行業務の取扱いに関する実務処理」からなり、前者では交通機関の運賃や宿泊施設の料金などの計算、後者では全国の観光地や祭などについて37問~38問出題されます。
科目免除制度
国内旅行業務取扱管理者試験には科目免除制度が導入されており、免除A・免除B・免除Cの3種類に分かれます。申し込みをする前に免除申請を行い、4営業日以内に確認メールが届くので、届き次第、免除受験用のCBT申し込みが可能になります。
それぞれの免除の対象者は下記の通りです。
免除A 「国内旅行実務」免除
免除Aの対象者は「本年度もしくは前年度の国内旅行業務取扱管理者研修の修了者」または「前年度の国内旅行業務取扱管理者試験科目合格者」です。免除Aでは「国内旅行実務」の科目が免除になります。
免除B 「法令」免除
免除Bの対象者は「地域限定旅行業務取扱管理者試験の資格取得者」です。免除Bでは「旅行業法及び、これに基づく命令」の科目が免除になります。
免除C 「法令」及び「国内旅行実務」免除
免除Cの対象者は「地域限定旅行業務取扱管理者試験の合格者かつ、本年度の国内旅行業務取扱管理者研修の修了者」もしくは「地域限定旅行業務取扱管理者試験の合格者かつ、前年度の国内旅行業務取扱管理者試験科目合格者」です。免除Cでは「旅行業法及び、これに基づく命令」の科目と、「国内旅行実務」の科目が免除になります。
全国旅行業協会が実施する研修は旅行業者などに過去5年以内に3年以上勤務し、現在も旅行業務に従事している人のみが受講できるもの。対象となる人はぜひ活用したいところです。
なお、国内旅行業務取扱管理者の資格を取得すると、翌年以降、総合旅行業務取扱管理者を受験する際に2科目が免除されます。まずは国内旅行から旅行業務取扱管理者の資格を取得し、総合へステップアップするというのも一つの手です。
難易度・合格率
国内旅行業務取扱管理者試験の合格率は30~40%程度と、他の国家資格に比べて高めです。
最近では旅行業界以外の受験者が合格者の8割以上を占めており、旅行業界未経験の社会人でもしっかりと対策をして臨めば、比較的取得が容易な資格といえるでしょう。
学習方法
独学
国内旅行業務取扱管理者試験は総合旅行業務取扱管理者試験より学習範囲が狭く、基礎的な知識を問う問題が多いため、独学で合格を目指すことは十分に可能です。頻出分野に絞って効率よく学習を進めていきましょう。
「旅行業法及び、これに基づく命令」と「旅行業約款、運送約款及び宿泊約款」の科目は例年、出題傾向にさほど変化がないので、過去問を繰り返し解くことがポイントです。
過去問は全国旅行業協会の公式ホームページで公開されており、市販の過去問題集も多数あります。
ただし、旅行業法や関連法の改正によって学習内容に変更が生じる場合があるため、最新情報には常に気を配り、過去問を利用する際は注意しましょう。
また「国内旅行実務」科目は出題傾向が一定していませんが、「運送機関及び宿泊施設の利用料金その他の旅行業務に関連する料金」ではJRからの出題が多いので、過去問は有効です。
もうひとつの「旅行業務の取扱いに関する実務処理」は出題範囲が広いため、市販の対策本などで国内の観光に関する幅広い知識を身につけておく必要があるでしょう。
スクール・講座
短期間で効率よく合格を目指したい場合は、通信講座や資格スクールを利用する方法もあります。
国内旅行業務取扱管理者の資格取得を目指せる旅行・観光系や語学系の専門学校や大学もありますが、社会人であれば大原、たのまな、ユーキャンなどの短期の通信講座や資格スクールを利用するのが現実的でしょう。
その場合、学習期間は3か月から半年程度。費用は通信講座で4~8万円ほど、資格スクールでは7~15万円ほどが相場です。例えば、ユーキャンの旅行業務取扱管理者講座(国内コース)は標準学習期間4か月で5万円ほどとなっています。
講座によっては、学費の最大20%が支給される教育訓練給付制度が利用できるものもあるので、よく検討して自分に合ったものを選びましょう。
まとめ
コロナ禍を超えて、円安の追い風もあり、インバウンドの復活で旅行・観光業界は就職・転職先として人気の高い業界。
ライバルたちに差をつける武器として、国内旅行業務取扱管理者の資格取得を目指してみてはいかがでしょうか。