先日、日本と中国、韓国、東南アジア諸国連合(ASEAN)加盟10か国、ニュージーランド、オーストラリアの15か国が、東アジア地域包括的経済連携(RCEP)の協定に署名してテレビや新聞で大きく取り上げられました。
RCEPとは関税削減や統一的ルールにより自由貿易を推進する枠組みのことです。RCEPにより、15か国の国内総生産(GDP)の合計が世界の約3割を占める巨大経済圏が誕生することとなります。RCEPが発効されれば、多くの品目の関税が段階的に撤廃されることとなり、日本の貿易もさまざまな変化が起こることが予想されます。
貿易の資格で代表的なものに、通関士があります。この記事では通関士の仕事内容と、通関士試験について紹介します。
通関士の仕事とは
通関って?
通関士の紹介の前に、通関について紹介します。
通関とは、輸出入の許可を出す役所の「税関」に貨物を「通す」ことを指し、輸出入申告から輸出入許可までの一連の手続きを通関業務といいます。主な業務は税関を通過する・すなわち通関するための申告書の作成や税関の手続きです。
通関業務には高度な専門知識を要求されるため、輸出入を行なう際には通関業務の代行を通関業者に依頼するのが一般的です。通関業者は、企業からの依頼に応じて税関に輸出入申告と検査を行って許可を受け、輸入の場合は関税を正しく計算して支払うという通関業務をおこないます。法律により、通関業者は営業所ごとに専任の通関士を1名以上おかなければならないと定められています。
通関士とは
通関士とは通関のスペシャリストであり、貿易関連では唯一の国家資格です。通関士には通関書類である輸出入申告書の審査と記名押印という独占業務があります。
他の資格とは異なり、通関士は独立開業するための資格ではなく、通関士として活躍するためには通関業者に所属する必要があります。社員になるなど通関業者に所属して税関長に委任されている財務大臣の審査と確認を受けると、通関士として仕事をおこなうことができるからです。
通関は貿易業務の中でも特に高度な専門知識が求められるため、通関のスペシャリストである通関士の資格を取れば、貿易業務に精通していると評価されます。そのため、通関業務を行わない貿易関連企業でも通関士の資格取得が奨励されたり、貿易業界へ就職する際に専門知識をアピールする武器になったりします。また、通関士を目指す方には通関士として通関業務に携わりたい方の他に、貿易関連の仕事をしながらスキルアップを目指す方や、貿易業界への就職準備のためにチャレンジする学生もいます。
通関士試験に合格した方は、通関業者で通関業務に携わるほかに、専門知識を生かして商社やメーカー、海運や航空、物流や倉庫など貿易関連企業でも活躍しています。
通関士の仕事の中心は書類の作成とチェックのため、通関士には緻密な作業を確実にやりとげる能力が求められます。書類は英語のものが多いですがつかわれている表記は定型のものが多いので、高度な英語力は必須ではありません。
他の資格との比較
貿易関連の資格で有名なものに、貿易実務検定®があります。
貿易実務検定®は国家資格の通関士資格とは違って民間資格で、通関業務も含めた貿易実務全般を対象としています。電話やメールによる海外とのやり取りであるコレポン業務もふまえて、貿易実務英語も試験科目に含まれています。
貿易実務検定®はレベル分けされていることもあり、通関士試験よりもチャレンジしやすいとされています。貿易業務の勉強をするなら貿易実務検定®から始めて、合格した後に通関士試験を目指す方も多いです。
貿易実務検定®については、こちらで紹介しています。
https://college.coeteco.jp/blog/archives/3240/
通関士試験とは
通関士になるには、国家試験である通関士試験に合格する必要があります。
日時・場所
通関士試験は年に1回、おおむね10月上旬に、北海道、新潟県、東京都、宮城県、神奈川県、静岡県、愛知県、大阪府、兵庫県、広島県、福岡県、熊本県、沖縄県の全国13か所で行われています。
受験資格・試験内容
通関士試験には、学歴、職歴、年齢、国籍などに制限は一切ありませんので、誰でも挑戦することができます。
試験は「通関業法」「関税法等」「通関書類の作成要領その他通関手続の実務(通関実務)」の3つの科目が、マークシート形式で行われます。通関手続の実務では計算問題が出題されます。
令和2年10月4日に行われた、第54回通関士試験の試験問題がこちらで公開されています。
https://www.customs.go.jp/tsukanshi/54_shiken/54shiken_mondai.htm
試験科目は実務経験により一部免除されます。通関業者、または通関事務にかかる官庁で通関業務に従事した経験が5年以上あると、「通関実務」一科目が免除されます。15年以上の経験で「関税法等」と「通関実務」の合わせて2科目が免除となります。
合格点・合格率
合格するためには、「通関業法」「関税法等」「通関実務」の3つの科目それぞれで原則的には満点の60%とされています(難易度によって調整されることがあります)。
合格率は例年10%台前半で推移ししています。令和元年に行われた第53回通関士試験の合格率は13.7%でした。
通関士試験に合格するには
独学
通関士試験は受験資格がありませんので、独学で挑戦することが可能です。
通関士試験に合格するには400時間前後の受験勉強が必要とされています。
通関士試験は、試験全体の75~80%が過去問から出題されるといわれています。さらに新しい問題が出題されたとしても、過去問題を解くことで身につけた力で対応できることが多いので、過去問をしっかり学習することが大切です。
過去問題集で評価が高い問題集がこちらです。
法律や制度の改正が行われることも多いので、必ず最新のもので勉強しましょう。
通関士試験の合格基準は3科目それぞれ60%程度の得点とされていますが、各科目により問題数と満点が異なるため、1問当たりの配点が異なります。
問題数は、通関業法が20問、関税法等が30問、通関実務が17問であり、満点は通関業法が45点、関税法等が60点、通関実務が45点です。通関業法と関税法等に比べて、通関実務は1問当たりの点数が高くなっています。このため、通関士試験に合格するには通関実務をしっかり解けるようになることが肝要とされています。
しかし、通関実務の力をつけるには、他の科目の知識が重要です。例えば、通関実務の45点のうち、申告書が20点を占めていますが、申告書には関税法等の知識が欠かせません。
独学11ヶ月の勉強で通関士試験に合格したマナカさんは勉強の進め方をこのようにアドバイスしています。
試験科目の全体を俯瞰しつつ、バランスよく勉強しましょう。
スクール・講座
通関士試験の受験勉強をサポートしてくれるスクールや講座は、ユーキャン、フォーサイト、たのまな、資格の学校TACなどがあります。期間は6カ月~9か月で、料金は形式により異なり、通学型なら200,000円台、通信型なら50,000~100,000円程度が多いです。
これらのスクールや講座は、ハロートレーニング(離職者訓練・求職者支援訓練)や、教育訓練給付制度の対象になっている場合があります。
ハロートレーニングは、就職に必要な職業スキルや知識を無料で学ぶことができる制度です(テキスト代など実費のみ自己負担)。詳細は、最寄りのハローワークへお問い合わせください。
対象になる学校がお近くにあるか、こちらで調べられます。通いたい地域を選んだら「詳しい検索条件を開く」をクリックして、フリーワードに通関士と入れて検索してください。
https://www.hellowork.mhlw.go.jp/kensaku/GECA150010.do?action=initDisp&screenId=GECA150010
教育訓練給付制度とは、支払った費用の一部が国から支給されるお得な制度です(金額に上限あり)。教育訓練給付制度の概要や支給要件等は、こちらで紹介しています。
まとめ
ネットショッピングが普及して、海外通販に挑戦する方も増えてきました。個人のショッピングも企業による売買も、国境を越えた商品のやり取りは今後ますます増えるでしょう。日本の貿易全体も、RCEPが発効されたら大きな影響を受けることが予想されます。
私たちの生活から切り離せない貿易において、欠かすことができない通関のスペシャリスト通関士を目指してみませんか。