手話通訳とは、英語などの通訳と同じように、手話を日本語に訳したり、日本語を手話に訳したりして、聴覚障がい者と健常者のコミュニケーションをサポートする仕事です。
2020年には新型コロナウイルスの感染拡大を受け、多くの自治体で首長の記者会見に手話通訳が導入されましたが、最近はテレビの政見放送や気象庁の緊急会見、人気ドラマなどでも手話通訳をする人の姿をよく目にするようになりました。
聴覚障がい者の社会参加や大学などへの進学も増加傾向にあるなか、手話通訳のできる人材はさまざまな分野で引く手あまたの存在となっています。
今回は、そんな手話通訳の資格の種類や取得方法、試験の難易度や合格率などについてご紹介します。
手話通訳の資格とは
手話での翻訳能力や聴覚障がい者・障がい者福祉についての知識などを身につけた人材であることを証明する資格です。
手話通訳では、健聴者の話し言葉を手話や筆談、身振り、口話(唇の動きによる伝達)などによって伝えるとともに、聴覚障がい者の手話を読み取って話し言葉に置き換えるという作業を瞬時に行います。
正しい手話の技能を使ってスムーズに会話ができることはもちろん、通訳する話の内容を正確に伝えるための専門知識や教養も求められます。また、耳の不自由な人の生活や考え方を理解し、それに配慮して会話をサポートすることも重要です。
そのため手話通訳の公的資格では、手話の基本的な技能を評価する「全国手話検定試験」「手話技能検定」といった民間の検定に比べて、より高度なスキルが問われます。
手話通訳資格を取得するメリット
手話による通訳が求められる場面は、福祉施設や医療機関、自治体などの行政機関はもちろん、裁判所、警察署、教育機関、テレビ局、銀行や損保会社などの受付・窓口業務、外食や小売り、交通機関などのサービス業、講演会、会議、面接など、いたるところに存在します。
最近では、IT技術を使った遠隔手話通訳サービスや手話通訳コールセンターが登場するなど、新たな活躍の場や働き方も生まれています。
手話通訳の仕事は、一部の業務を除けば資格なしでも行えるため、手話通訳をする人のレベルにはばらつきがあるのが現状です。その分、資格の取得は高度なスキルを身につけていることの証明になり、履歴書に書くことで就職・転職時のアピールポイントや職場でのキャリアアップにつなげることができるでしょう。
公的資格である手話通訳士の年収は250〜300万円ほど、派遣では時給1000円〜1500円ほどが相場で、専門職にしては報酬が少し物足りないと感じるかもしれません。しかし、職場によっては資格手当がもらえたり、手話通訳の派遣元に登録して要請があったときのみ活動し、ほかの仕事と兼業するという道もあります。
また、バリアフリーやダイバーシティの進展を背景に、この先も手話通訳ができる人材への需要の増加が予想されることも大きなメリットといえます。
手話通訳の資格の種類と取得方法
手話通訳の国家資格はなく、代表的なものに以下の2つの公的資格があります。活躍の場や難易度などを考慮し、目指す資格を選びましょう。
手話通訳者(都道府県認定)になるには
都道府県が認定する資格。自治体によって認定制度は異なりますが、多くの場合、全国手話研修センター主催の手話通訳者全国統一試験を突破し、各都道府県独自の手話通訳者登録試験に合格にすると、手話通訳者として各都道府県に登録できます。
全国手話研修センターが実施する手話通訳全国統一試験の受験資格は、多くの自治体が設けている厚生労働省認可のカリキュラムにのっとった手話通訳者養成課程の修了者か、それと同等の知識・技術を有する人に与えられます。
養成課程の講習会には3~6年ほど通う必要がありますが、手話通訳士より取得のハードルが低いことから、多くの人が手話通訳者として活動しています。
全国手話研修センターの取材記事はこちら⇩
https://college.coeteco.jp/blog/archives/14499/
手話通訳士(厚生労働大臣認定)になるには
厚生労働大臣が認定する資格。同大臣の認定を受けた聴力障害者情報文化センターが実施する手話通訳技能認定試験(手話通訳士試験)に合格し、同センターに登録すると「手話通訳士」を名乗ることができます。
この資格を取得すると、手話通訳士にのみ認められている裁判、警察、政見放送関連の手話通訳に携わることができますが、その分、難易度は非常に高くなっています。
資格取得の道筋としては、手話通訳の養成施設や手話通訳者としての実務経験を経て、手話通訳技能認定試験試験にチャレンジするというのが一般的なようです。
試験概要
手話通訳者全国統一試験(手話通訳者)
手話通訳者(都道府県認定)になるための手話通訳者全国統一試験は、年1回、各自治体が設けた会場で実施されます(受験料は各自治体による)。受験するには各自治体の手話通訳者養成課程を修了するか、手話通訳者養成課程修了者と同等の知識や技術を身につけている必要があります。
手話通訳者に必要な基礎知識や国語の能力を問う筆記試験と、場面通訳による実技試験が行われます。2020年度より試験科目が変わり、前年度まで実技試験で行われていた「手話の要約」がなくなったため、合格基準も変更が予想されます。合格率は各自治体で異なりますが、全国平均は約20%といわれています。
手話通訳技能認定試験(手話通訳士)
手話通訳士(厚生労働大臣認定)になるための手話通訳技能認定試験は20歳(受験日のある年度末までに20歳に達する人を含む)以上であれば誰でも受験が可能で、年1回、東京都、大阪府、熊本県、宮城県、埼玉県で実施されます(受験料は22,000円)。
障害者福祉や聴覚障がい者に関する基礎知識、国語などの4科目からなる学科試験と、聞取り通訳、読取り通訳からなる実技試験が行われます。
合格基準は、学科試験は4科目の総得点のおよそ60%以上で、実技試験は翻訳の正確さと手話表現の技能の両面から評価されます。2021年度の合格率は9.6%という難関資格のため、しっかりとした対策が必要です。
https://www.mhlw.go.jp/stf/newpage_30553.html
学習方法
独学
手話通訳のベースとなる基本的な手話技術の習得は、市販のテキストやユーキャンなどの通信講座(40,000円程度)、動画サイト、手話アプリ、テレビの手話講座などを使った独学でも十分に可能です。手話検定の取得にトライして段階的にレベルアップを図るのもよいでしょう。
手話通訳技能認定試験(手話通訳士)、手話通訳者全国統一試験(手話通訳者)の筆記試験については、公式テキストや市販の対策本、問題集などを使って対策できます。手話通訳の技術、手話通訳で求められる国語、社会福祉や聴覚障がい者についての基礎知識といった科目別の対策本で学びを深めたり、弱点を克服するのも有効です。
一般常識や時事用語なども、日頃からニュースや書籍を通じて頭に入れておくとよいでしょう。
スクール・講座
実技試験を突破できるような手話を使ったコミュニケーションや通訳の技術を身につけ、磨くには、実践を通して学ぶことが不可欠です。
都道府県が実施する手話奉仕員・手話通訳者養成の講習会や民間の手話スクールに通ったり、地域の手話サークルなどで視覚障がい者と交流したりして経験を積み、資格の取得を目指すのが一般的です。
手話通訳者養成の講習会でコツコツ勉強を続けてきたSATOCOさんによると、講習会では手話通訳や面接の練習などの試験対策もしっかり行えるようです。これなら本番で戸惑うことはなさそうですね。
また、社会福祉に本格的に携わりたいといった目標があるのであれば、手話通訳者の養成機関としての役割を果たしている国立障害者リハビリテーションセンター学院等の福祉系の大学、短大、専門学校に通うという手もあります。
まとめ
手話通訳士や手話通訳者として一人前になるまでには、4~5年の実務経験が必要といわれます。また、常に脳をフル回転し、腕などを動かし続ける手話通訳の仕事は、見た目以上にハードでもあります。
しかし、だからこそ、手話通訳によってコミュニケーションや情報伝達が上手くいき、聴覚障がい者と健聴者の双方から感謝されたときに感じる喜びは、たとえようもなく大きなもの。あなたも手話通訳の資格を取得して、聞こえない人と聞こえる人の架け橋になってみませんか?