近年、改正育児・介護休業法によって各事業所で労働時間の短縮措置が定められ、時短勤務制度の利用率が増加しています。働きながら子育てや介護をしている人は「自分の生活スタイルに合った働き方を実現したい」と考えている方も多いのではないでしょうか。
そこで今回の記事では時短勤務制度の対象者や利用する際のメリット、取得事例などを解説します。時短勤務制度の利用を検討している方は、ぜひ最後までご覧ください。
時短勤務とは
時短勤務は育児や介護を行う従業員の所定労働時間を短くすることができるという制度で、改正育児・介護休業法では「短時間勤務制度」として明記されています。平成24年7月からは対象の事業所において全面的に義務付けられ、条件を全て満たしている労働者が利用することができます。
時短勤務が推進される背景としては女性の社会進出や少子高齢化が関わっており、家庭と仕事の両立支援は大きな社会的課題の一つとなっています。企業が時短勤務を積極的に導入することによって子育て・介護世代の離職率を抑える効果もあり、熟練した人材の確保や企業の成長に影響するでしょう。
厚生労働省の「令和元年度雇用均等基本調査」によると令和元年度の各事業所における「育児のための所定労働時間の短縮措置等の制度」の導入率は72.1%と、平成30年度の結果を3.1%上回る結果となりました。また最長利用可能期間は「3歳未満」としている事業所が最も多いようです。産業別にみると、金融業,保険業(96.9%)、電気・ガス・熱供給・水道業(94.3%)で、制度がある事業所の割合が高いようです。
勤務時間
時短適用後の勤務時間は「原則として6時間」と定められています。たとえば8時から17時(1時間の休憩を含む)まで働いていた場合、時短期間中は8時から15時までが勤務時間となります。事業内容によっては勤務時間が5時間45分となる場合も制度の許容範囲内です。また出退勤時刻は各事業所側の対応によって異なります。
柔軟に勤務時間を調整できるフレックスタイムと混同しやすい制度ですが、労働時間や出退勤時刻について以下のような違いがあります。
フレックスタイム…労働時間や出退勤の時刻を自分で決める(一定の総労働時間やコアタイムの人員を確保する範囲)
時短勤務…労働時間は原則一日6時間に固定、出退勤の時刻は事業所側によって決まる
時短勤務制度を取り入れることができない企業では、フレックスタイムを時短勤務の代替案として導入することもあります。
対象者
時短勤務制度を利用できる人は「3歳未満の子どもを養育する労働者」と定められており、以下の5つの条件を全て満たす必要があります。
- 3歳に満たない子を養育する労働者であること
- 1日の所定労働時間が6時間以下(※)でないこと
- 日々雇用される者でないこと
- 短時間勤務制度が適用される期間に現に育児休業をしていないこと
- 労使協定により適用除外とされた労働者でないこと
※1か月又は1年単位の変形労働時間制の適用される労働者については、「1日の所定労働時間が6時間以下」とはすべての労働日の所定労働時間が6時間以下であることをいい、対象となる期間を平均した場合の一日の所定労働時間をいうものではありません。
正規雇用者だけでなく条件を満たすパートタイマーも時短勤務を利用することができますが、勤務時間が6時間以下という方が多く、実際には時短を取りにくいのが現状でしょう。また対象外の従業員の場合も、育児や介護で短時間勤務を要する場合は出退勤時間の繰り上げ・繰り下げといった代替案を講じることが義務付けられています。
参考:短時間勤務制度(所定労働時間の短縮等の措置)について(厚生労働省雇用均等・児童家庭局職業家庭両立課)
給与・社会保険
時短勤務の場合はフルタイムに比べて給与や賞与が減るのが一般的です。給与計算については以下の計算式に基づく時給換算になっています。
(基本給)×(時短勤務時間)÷(所定労働時間)
たとえば労働時間が8時間から6時間に減った場合は、基本給が8分の6になります。また社会保険は被保険者であれば引き続き適用されますが、前年度の給与をもとに決定された社会保険料は安くなりません。労働者が社会保険料の見直しをしたい旨を事業所側に申し出た場合は、事業所から日本年金機構へ「育児休業等終了時報酬月額変更届」を届け出ることで標準報酬月額を改定することができます。
時短勤務を取得するメリット
時間に余裕がもてる
時短勤務をすることで、家庭で過ごせる時間が増え、子どもと遊ぶ時間を作ったり通院や保育園の送迎を焦らずに済ますことができたりといったメリットがあります。時間に余裕が生まれることでワークライフバランスの実現にも繋がります。
メリハリをつけて生活できる
所定の勤務時間内に仕事を終わらせようと意識することで仕事と家庭にメリハリをつけて過ごすことができるようになります。限られた時間内で仕事を済ませるように段どりを組むためのスケジュール管理スキルも磨かれるでしょう。また残業がなくなると疲れも軽減されます。
周囲の従業員からの理解を得やすい
時短勤務を利用することによって、上司や同僚に家庭の事情を理解してもらいやすくなるでしょう。時短勤務を積極的に取り入れている事業所であれば、子育てや介護に関わる早退や休暇の希望も説明しやすくなります。
時短勤務を積極的に導入している学校に勤めた経験のあるまなさんは、時短勤務制度について以下のように感じています。
時短勤務を利用している人が多い職場では、お互いに配慮し合える環境だったとのこと。家庭の事情を配慮してもらえるという安心感があるようです。周囲に負担がかかることもありますので、理解を得られるような努力も必要かもしれません。
時短勤務の取得事例
時短勤務を利用するタイミングは子どもの年齢や働き方、事業所によってさまざまですが、育休を取得したあとにそのまま時短勤務を利用する方が多いようです。たとえば、以下のような取得事例が挙げられます。
- 子どもが1歳の誕生日を迎える前日まで育休を取得し、子どもが3歳の誕生日を迎える前日まで10時から16時までの時短勤務を利用
- 子どもが1歳の誕生日を迎える前日まで育休を取得し、子どもが3歳の誕生日を迎える前日まで9時から16時30分までの時短勤務を利用
- 子どもが9歳になる年の年度末まで1日の勤務を6時間にする制度を利用(全日本空輸)
- 子どもが小学4年生を修了するまでは1日の勤務を7時間にする制度を利用(トヨタ自動車)
働き方改革に伴い、時短勤務に関する制度を独自に設定している大手企業も多いようです。全日本空輸(ANA)では1日の所定労働時間を変えずに勤務日数を減らす制度も実施しています。
時短勤務しやすい職種
企業の時短勤務の制度がある職場以外に、時短勤務をしやすい職種として社労士が挙げられます。各企業の労務管理を行う社労士だからこそ働き方改革への職場内理解があり、正規雇用で時短勤務を利用できるという内容の求人も多いようです。社労士は時短勤務を積極的に利用するメリットとしては、事務所内での時短勤務への取り組みが業務に直接活かされるという点も挙げられます。
子育てや介護に関わる保育士や介護士、看護士も時短勤務制度が普及している職種だといえます。結婚や出産、育児、介護といった状況において離職を選ぶ人も多い職種であり、人材不足を回避するためにも時短勤務を積極的に取り入れている事業所が増えています。
また、これらの資格が必要とされる職種などは簡単に人員を入れ替えすることができないため、時短勤務の制度が整備されている場合が多いと考えられます。
時短勤務の取得方法
時短勤務は事業所で定められた就業規則に準じて利用の手続きを進めます。時短勤務を利用するまでに申し出の時期や適用期間、時短勤務の内容、期間満了後の労働についてなど、気になる点を事業所側と確認しておきましょう。
まとめ
時短勤務を利用することで時間に余裕ができ、子育てや介護中でも無理なく仕事に取り組むことができます。また上司や同僚の理解を得ながら仕事に集中できる点や、男女ともにキャリアアップを目指せる点などもメリットとして挙げられます。時短勤務制度を活用して働き方を見直すことで、時間や気持ちにゆとりを持って過ごすことができるようになるでしょう。