不動産鑑定士のおもな仕事内容は、土地または建物の「不動産鑑定業務」と、鑑定評価をもとに顧客の要望に寄り添った有効なアドバイスを行う「コンサルティング業務」です。
不動産の鑑定評価は、不動産鑑定士だけに認められている独占業務であり、日々変化する社会情勢や法規制、不動産の権利関係などを考慮し、業務にあたらなければなりません。不動産鑑定士試験に合格後に実務修習を経て、各都道府県の協会に資格を登録したら、不動産鑑定士としてのキャリアがスタートします。
この記事では、不動産鑑定士へのスタートラインである不動産鑑定士試験に合格するための必要な勉強時間や試験内容、合格率について解説します。併せて、不動産鑑定士の短答式試験と論文式試験、それぞれの勉強対策法についても紹介するので、ぜひ参考にしてください。
不動産鑑定士の試験対策に必要な勉強時間はどれくらい?
まずは、不動産鑑定士試験に合格するための、必要な勉強時間について見ていきましょう。
必要な勉強時間は最低2,000時間以上
不動産鑑定士は試験の難易度が高く、合格率が低いため、弁護士や公認会計士と並んで三大国家資格の一つとされています。
一般的に、不動産鑑定士試験に合格するためには、少なくとも2,000時間以上の勉強が必要だといわれています。とはいえ、目安となる勉強時間は、各受験生のバックグラウンドによって異なるため、一概にはいえません。
不動産に関する実務経験があり、知識の蓄えがある人や、司法試験・公認会計士試験合格者などの免除科目がある人は、トータルの勉強時間が少なく済む可能性が考えられるでしょう。
https://www.mlit.go.jp/totikensangyo/kanteishi/shiken.html
短答式試験よりも論文式試験のほうが勉強時間が必要
不動産鑑定士試験に合格するためには、短答式試験と論文式試験の2つに合格しなければなりません。
短答式試験は、5つの選択肢から正しいものを選ぶ択一方式で、マークシートによって回答します。また、論文式試験は正確な理解力をもとに、文章を作成する力を求められる記述式の問題です。
不動産鑑定士試験は、短答式試験よりも論文式試験のほうが難度は高いため、必然的に論文式試験にかける勉強時間が多くなる傾向にあります。
不動産鑑定士試験の詳しい内容は?
次に、不動産鑑定士試験の合格に必要な、短答式試験と論文式試験の日程、試験の詳しい内容について解説します。
不動産鑑定士試験には「短答式試験」と「論文式試験」がある
不動産鑑定士試験に合格するためには、まず短答式試験をパスしてから、論文式試験に合格しなければなりません。論文式試験は、短答式試験の合格年を含め、3回挑戦する機会が与えられています。
つまり、たとえ初回の論文式試験で不合格になっても、短答式試験合格日から2年間は論文式試験受験において、短答式試験が免除される仕組みです。
例年、短答式試験は全国10都市で5月中旬、論文式試験は全国3都市で8月上~中旬に連続3日間のスケジュールで行われます。
短答式試験の内容
先ほども紹介したとおり、短答式試験は五肢択一のマークシート方式で行われます。午前と午後で1科目ずつ試験が実施され、試験時間は各120分です。
午前と午後それぞれの試験科目は次のとおりです。
- 午前:不動産に関する行政法規
- 午後:不動産の鑑定評価に関する理論
短答式試験の合格ラインは総合点でおおむね7割を基準に設定され、かつ土地鑑定委員会が相当と認めた点数とされています。また、試験科目ごとに一定以上の得点がなければ、合格はできません。
論文式試験の内容
論文式試験は、基本的に土曜日・日曜日・月曜日の3日連続で実施され、試験時間は全日において午前と午後120分ずつで行われます。
論文式試験の3日間のスケジュールと試験内容は次のとおりです。
- 1日目:民法・経済学
- 2日目:会計学・不動産の鑑定評価に関する理論(論文問題)
- 3日目:不動産の鑑定評価に関する理論(論文問題・演習問題)
論文式試験の合格ラインは総合点でおおむね6割が基準で、かつ土地鑑定委員会が相当と認めた点数とされています。また、短答式試験と同様に各試験科目において、一定以上の点数の獲得が必要です。
免除科目がある受験者の合格ラインは、免除科目以外の科目合計得点を基礎として、偏差値などを用いて算出した点数をもとに決められます。
不動産鑑定士試験の合格率
ここからは、不動産鑑定士試験の短答式試験と論文式試験の合格率を見ていきましょう。
短答式試験の合格率
以下は、国土交通省が発表した短答式試験の直近5年間における、受験者数・合格者数・合格率です。
受験者数 | 合格者数 | 合格率 | |
---|---|---|---|
2022年 | 1,726名 | 626名 | 36.3% |
2021年 | 1,709名 | 621名 | 36.3% |
2020年 | 1,415名 | 468名 | 33.1% |
2019年 | 1,767名 | 573名 | 32.4% |
2018年 | 1,751名 | 584名 | 33.4% |
直近5年間の平均合格率は30%前半代を推移しながら、年々少しずつ増加傾向にあります。
論文式試験の合格率
受験者数 | 合格者数 | 合格率 | |
---|---|---|---|
2022年 | 871名 | 143名 | 16.4% |
2021年 | 809名 | 135名 | 16.7% |
2020年 | 764名 | 135名 | 17.7% |
2019年 | 810名 | 121名 | 14.9% |
2018年 | 789名 | 117名 | 14.8% |
論文式試験の直近5年間の合格率は、例年15%前後と低いものの、短答式試験と同様に、年々と微増傾向にあります。なお、短答式試験よりも論文式試験のほうが難度が高いため、はるかに低い合格率となっています。
難易度は高いが合格率は微増傾向
上記の表からもわかるように、合格率は短答式試験・論文式試験ともに微増傾向にあります。とはいえ、論文式試験の合格率は例年15%前後と低く、不動産鑑定士試験が難度の高い試験であることがうかがえるでしょう。
なお、不動産鑑定士試験は相対評価で合否が決まります。そのため、すべての科目で一定以上の点数を取りつつ、全受験者のなかでも得点上位者に入ることを意識しなければなりません。
不動産鑑定士試験に合格するためには、多くの勉強時間が必要です。不動産鑑定士試験を受けることを考えているなら、合格までに長い時間がかかるかもしれないことを覚悟のうえ、学習計画を十分に練って、試験に臨む姿勢が重要になるでしょう。
不動産鑑定士試験「短答式」の勉強法
不動産鑑定士試験の短答式試験は、5つの選択肢から正しいものを選ぶ五肢択一方式で、「不動産に関する行政法規」「不動産の鑑定評価に関する理論」ともに、問題数は40問です。
マークシート方式を採用しているため、インプットとアウトプットの繰り返しに重点を置き、すべての科目において満遍なく正しい知識を身につけることが重要といえるでしょう。
短答式試験では、暗記作業が中心となる正誤問題だけでなく、計算問題も出されます。
テキストや問題集と併せて、過去問題集を繰り返し解いていくと、出題頻度の高い分野を把握できるうえに、出題形式にも慣れるため、戦略を考えつつ力をつけていけるでしょう。
短答式試験を終了してから論文式試験に至るまでの期間は、約3ヵ月しかありません。そのため、短答式試験は合格ラインの突破を基準に、論文式試験も見据えながら勉強を進めていく必要があります。
短答式試験対策では、暗記に重点が置かれますが、得た知識を十分に自分のなかに落とし込んで論述ができるようになれば、理解が深まり、論文式試験の対策にも役立ちます。
短答式試験は論文式試験と比べると、難度が低いとされているため、独学でも合格の可能性はあるでしょう。
ただし、効率的な勉強を希望するなら、短答式試験の対策から資格の学校TAC、LEC東京リーガルマインドといった予備校などの利用も考えておくと、結果的に勉強時間の削減につながる可能性もあります。
不動産鑑定士試験「論文式」の勉強対策法
論文式試験の出題科目は、「民法」「経済学」「会計学」「不動産の鑑定評価に関する理論(論文・演習)」の4つとされています。
論文式試験の合格ラインは総合点でおおむね6割のため、苦手科目を作らないように心がけましょう。そのうえで、どの分野においても合格基準に達するような解答力を身につけなければいけません。
また、上記の4分野のうち「不動産の鑑定評価に対する理論」が、600点満点の論文式試験の300点を占めます。そのため、この分野の全体のバランスを意識しながら、勉強を重ねていくことも大切です。
論文式試験は、短答式試験と比べると出題範囲が広く、多くの知識を求められます。しかし、知識を暗記するだけでは対応が難しいため、しっかりと理解もしなければいけません。
また、得た知識を「論文で書く力」を求められるため、ある程度、型の決まった文章を作成する力、加えて数的問題にも対応できる力が必要です。
基礎知識をしっかりと身につけつつ、その知識を論述できるレベルにまで十分に押し上げることが、合格ラインの突破につながっていくでしょう。
不動産鑑定士試験の論文式試験は、独学での合格はかなりハードルが高いとされています。論述式試験の対策では、第三者からの添削を受けて問題箇所を指摘してもらうことが重要となるため、予備校や通信講座などの活用が望ましいでしょう。
法律や制度の改正される場合があるので、テキストや過去問題集は最新年度のものを購入しましょう。
まとめ
不動産鑑定士試験に合格するには、短答式試験と論文式試験、それぞれのポイントを押さえた学習計画を立てることが重要です。
また、第1段階の短答式試験の学習を始めると同時に、論文式試験の対策も行うことが、合格への近道といえるでしょう。
不動産鑑定士試験では、独学や仕事をしながらの合格は厳しい国家試験だとされています。効率的な学習法を習得したい、学習のモチベーションを維持したいという場合は、予備校や通信講座など第三者のサポートの活用も検討して、合格を目指していきましょう。