管理栄養士は、健康や美容をサポートする食と栄養のプロフェッショナル。
厚生労働大臣の免許を受けた国家資格であり、管理栄養士として現場で活躍するには、管理栄養士国家試験の合格が必須です。とはいえ試験の出題範囲は広く、問題数も多いため、どのように対策したらよいか悩む方もいるかもしれません。
そこでこの記事では、管理栄養士国家試験の概要から勉強を始める時期や効果的な勉強方法、試験の傾向に合った対策ポイントに至るまで、詳しく解説します。
管理栄養士国家試験の合格を目指している方は、ぜひ参考にしてください。
管理栄養士とは?
まず、管理栄養士とはどのような仕事なのか、栄養士との違いは何かを解説します。
専門的かつ高度な栄養管理・栄養指導を行う「栄養のプロ」
管理栄養士とは、あらゆる場面で栄養管理や栄養指導を行う「栄養のプロ」です。
病気のため特別な栄養管理が必要な方の対応や、アスリートの身体強化を目的とした栄養指導、栄養バランスの取れた献立作成など、仕事内容は多岐にわたります。
管理栄養士は栄養士と同じく国家資格ですが、栄養士は厚生労働省指定の栄養士養成学校を卒業すると都道府県知事から免許を与えられるのに対し、管理栄養士は栄養士免許の取得後に管理栄養士国家試験に合格したうえで、厚生労働大臣から免許を受けるという点で異なります。
国家試験に合格することで栄養に関する専門的な知識・技術があると認められ、医療施設でも働けるようになります。患者の栄養管理を行うほか、場合によっては病院内の栄養サポートチーム(NST)に加わることもあるでしょう。
「医療機関での栄養指導」をできるのは管理栄養士だけ
栄養士と管理栄養士との大きな違いは、栄養管理・栄養指導を行う対象者にあります。
栄養士の栄養管理・栄養指導は、おもに健康な方が対象です。医療施設での栄養管理・栄養指導は、管理栄養士が行うことと法律で定められています。
それ以外の業務はほぼ同じなので、医療施設などの高度な専門知識を必要とする現場で働きたい方でなければ、管理栄養士の資格を取る必要はないでしょう。
とはいえ、管理栄養士の資格を取れば業務の幅が広がるほか、年収アップも見込めます。将来、キャリアアップを考えているのなら、管理栄養士の資格を持っておくとよいでしょう。
管理栄養士国家試験の概要について
管理栄養士国家試験の概要について、受験資格や出題科目、合格基準や合格率も含めて解説します。受験前に内容を確認しておきましょう。
受験資格が必要
管理栄養士国家試験には、以下のような受験資格が定められており、いずれかに該当しないと受けられません。
- 管理栄養士養成施設を卒業した者
- 栄養士養成学校を卒業して栄養士の免許を受けたあと、1~3年以上の栄養指導経験がある者
上記のとおり、管理栄養士養成施設か栄養士養成学校の卒業が必須となるため、独学では受験できません。
また、栄養士養成学校の卒業者は栄養指導経験が必要です。管理栄養士国家試験の受験に必要な栄養指導経験年数は、通っていた栄養士養成学校が何年制かによります。2年制の場合は3年以上、3年制の場合は2年以上、4年制の場合は1年以上の経験が必要になるので、覚えておきましょう。
なお、栄養指導経験とは、具体的には以下の内容を指します。
ア 寄宿舎、学校、病院等の施設であって、特定多数人に対して継続的に食事を供給するもの
管理栄養士国家試験|厚生労働省
イ 食品の製造、加工、調理又は販売を業とする営業の施設
ウ 学校教育法(昭和22年法律第26号)第1条に規定する学校、同法第124条に規定する専修学校及び同法第134条第1項に規定する各種学校並びに就学前の子どもに関する教育、保育等の総合的な提供の推進に関する法律(平成18年法律第77号)第2条第7項に規定する幼保連携型認定こども園
エ 栄養に関する研究施設及び保健所その他の栄養に関する事務を所掌する行政機関
オ アからエまでに掲げる施設のほか、栄養に関する知識の普及向上その他の栄養の指導の業務が行われる施設
出題基準、出題科目と配分、出題形式
管理栄養士国家試験の出題基準は、4年に一度を目安に改定されます。そのため、昨年と各科目の問題数や試験内容が変わっていることもあるでしょう。
2020年実施の試験からは応用問題の数が10問増え、30問になっています。これは「さまざまな状況に適した栄養管理ができるかどうか」といった、実践的な部分を重点的に評価されるようになったからです。
このように、その年によって重要とされる内容が異なるため、受験前には必ず出題基準を確認しましょう。
2020年実施分から適用されている出題科目と問題数は以下のとおりです。
出題科目 | 問題数 |
社会・環境と健康 | 16問 |
人体の構造と機能及び疾病の成り立ち | 26問 |
食べ物と健康 | 25問 |
基礎栄養学 | 14問 |
応用栄養学 | 16問 |
栄養教育論 | 13問 |
臨床栄養学 | 26問 |
公衆栄養学 | 16問 |
給食経営管理論 | 18問 |
応用力試験 | 30問 |
合計 | 200問 |
実際の試験では、200の問題をマークシート方式で回答します。5つの選択肢のなかから正しいもの、もしくは最も適切なものを選択します。
合格基準と合格率
管理栄養士国家試験の合格基準は、200点満点のうち正答率60%程度です。つまり、120点以上正解すれば合格できるということになります。配点は1問1点なので、単純に120問正解する必要があると考えてください。
試験は年に1回、毎年2月頃に行われます。2022年2月に実施された第36回試験の合格率は65.1%(合格者数10,692人/受験者数16,426人)で、そのうち新卒者の合格率は92.9%(合格者数8,812人/受験者数9,490人)です。
これまで、既卒者と新卒者を含めた全体の合格率は高くても55%程度でしたが、2018年からは60%を超えています。
管理栄養士の勉強はいつから始めるべき?
管理栄養士試験で合格するには、少なくとも200~300時間の勉強が必要です。合格率を上げたいのなら、勉強ポイントを押さえたうえで600時間ほど勉強することをおすすめします。
遅くなるほど、1日の勉強時間を増やさなければならないため、勉強を始める時期はできるだけ早いほうがよいでしょう。
例えば、受験年度の6月頃から勉強を始めると、1日3時間の取り組みでもトータルで600時間以上勉強できます。
11月など遅い時期から始めれば、1日5時間取り組んでも600時間には届きません。1日にどれくらいの勉強時間を確保できるか考え、逆算したうえで勉強開始時期を決めるとよいでしょう。
管理栄養士試験対策!おすすめの勉強方法3選
ここからは管理栄養士試験対策として、おすすめの勉強方法を3つ紹介します。
5年分の過去問を繰り返し解く
管理栄養士国家試験に合格したいのなら、まずは5年分の過去問を繰り返し解きましょう。解いているうちに、どういった問題が出やすいのかわかるようになってきます。
出題傾向をつかめれば重点的に勉強すべきポイントがわかるので、効率的に取り組めるでしょう。
また、最初に過去問を解く際は、現時点で内容をどれくらい理解できているか、全問回答するのにどのくらい時間がかかるのかを確認してください。最初の実力やかかる時間を把握しておけば、自分の成長具合を確かめられ、モチベーションアップにもつながるでしょう。
ここで間違った問題は、参考書を確認しながら復習します。再度過去問を解いたとき、同じ部分でつまずくようであれば、そこが自分の弱点です。弱点が見つかったら、そこを重点的に勉強していきましょう。
役に立ったと多くの方が紹介している過去問の問題集がこちらです。
参考書や問題集に書き込みを入れて勉強する
管理栄養士で学ぶ内容の多くは、さまざまな要素とつながっています。点としてとらえるのではなく、どの要素と密接な関わりがあるのかを理解しながら暗記していくことが大切です。
つながりを理解しながら暗記したい場合は、参考書や問題集に直接書き込みながら勉強を進めるとよいでしょう。用語にペンを引いて、何の要素とつながっているか、思いつく限り書き込んでいきます。自分なりにわかりやすくまとめていくと、復習にも使えるのでおすすめです。
音声や動画、スマホアプリなどで勉強する
管理栄養士国家試験に合格できるかどうかは、どれだけ勉強時間を確保できるかにかかっています。音声や動画、スマートフォンのアプリを活用すれば、スキマ時間も勉強に取り組めるでしょう。
少しでも多く勉強時間を確保したい方や忙しい方、勉強方法にバリエーションを持たせたい方におすすめです。
現在は、音声や動画を用いた講座も多数あるので、そちらを活用してもよいでしょう。アプリを利用する場合は過去問だけでなく、オリジナルの問題も解けるものがおすすめです。
オリジナル問題で実力を試すことで得点力を把握し、合格するために何を勉強すべきか考えましょう。
管理栄養士試験に合格するために押さえるべき4つのポイント
管理栄養士国家試験の試験範囲は広いため、どこから手をつけてよいのか、どのように対策をとったらよいのか悩む方もいるでしょう。そこで、管理栄養士国家試験対策として、押さえるべき4つのポイントを解説します。
まずは基礎科目から固める
まずは基礎的な科目から勉強を始めましょう。基礎的な科目とは、解剖生理学や生化学などを指します。基礎科目を先に勉強すべきなのは、基礎知識がなければ応用科目の内容を理解できないからです。
例えば解剖生理学では、人体の構造を学び、栄養素が体内のどこで消化・吸収・代謝されるのか、どこの栄養になるのかなどの知識を身につけます。
そして生化学は、栄養素の消化・吸収・代謝の概要や、体内で成分を変化させる酵素の仕組み、免疫系などを詳しく学ぶ科目です。
管理栄養士国家試験でも出題数が多い臨床栄養学は、病気と栄養がどう関係しているのかを理解し、患者に適した栄養管理・栄養指導する具体的な方法を学びます。
この内容を理解するには、事前に人体構造の仕組みや各栄養素がどの臓器に影響を与えるのかなどの事前知識が必要です。
このように、基礎的な科目を理解していなければ、臨床栄養学をはじめとした応用科目を理解するのは難しくなります。できるだけ早めに勉強を始めて、基礎固めから行うのが望ましいでしょう。
問題数の多い科目を重点的に取り組む
管理栄養士国家試験は、200点満点中120点以上の正答が必要です。しかし、配点は1問1点のため、より問題数の多い科目を重点的に対策し、できるだけ多くの点数を稼ぐ必要があります。
特に、25問以上出題される「人体の構造と機能および疾病の成り立ち」「食べ物と健康」「臨床栄養学」の3科目で点数を取れないと、試験合格は厳しくなります。したがって、これらの科目は早めに勉強を始めるとよいでしょう。
この3科目の出題数が多いのは、実務でも多く使用する知識だからです。管理栄養士になり、医療施設での栄養管理・栄養指導を行う場合、人体構造と栄養素の関係について理解していなければ適切な食事内容を提示できません。そのようなことを避けるために、この3科目に重点を置いていると予想できます。
したがって、実務に近い状況を想定した問題が出される応用問題では、この3科目に絡んだものが出やすいでしょう。出題数が多い科目の勉強は応用問題の対策にもなるため、結果、効率的な勉強ができるといえます。
応用力試験の対策方法を知る
2020年の試験より、応用力問題の問題数が増加しています。応用力問題の解き方を押さえ、正答率をあげると合格により近づけるでしょう。
応用力問題では、文章や図表から状況を読み取り、管理栄養士として正しい行動・判断ができるかを見られます。例えば、患者の身長や体重、血液検査の結果などから、適切な食事内容に変更するにはどのようにしたらよいかを問われるなど、実務に近い問題が多く出されるでしょう。
文章問題を解くときは、まず何を問われているのか、どのような選択肢があるのかを読み、その後、問題を解くのに必要な部分をチェックしていきます。
必要な部分はマルで囲うとわかりやすいでしょう。このようにすると余計な情報が入りにくくなり、長い文章題も解きやすくなります。
また、近年は検査値を利用した問題が増加しています。さまざまな検査値が示す意味や正常値の範囲、各種栄養素との絡みなども覚えておくと、解きやすくなるでしょう。
加えて、患者の立場を想定したり、自分が現場で同様の場面に出くわしたときのことを想像したりしながら、答えを考えるのがおすすめです。
応用力問題に特化したテキストでの勉強もおすすめします。
新しい参考書を使用する
管理栄養士国家試験の範囲には、頻繁に内容が変更・改正されるものがあります。
例えば、食事摂取基準。2020年には「高齢者の低栄養予防・フレイル予防」が策定目的に加えられ、それにともない、以前よりも高齢者の年齢区分が細かくなったり、BMIの範囲の下限値が変更になったりしています。
このような変更が頻繁に行われるため、勉強の際には必ず新しい参考書を使用してください。古本や自身が数年前に使っていた教科書などで勉強すると、誤った内容で覚えてしまう可能性があります。
新旧の変更部分は国家試験にも出題されやすいため、参考書の選び方には気を付けましょう。なお、診療報酬や介護報酬、法律、ガイドラインなどもその時々で変更・改正が行われますから、特に注意して勉強することをおすすめします。
食事摂取基準などの最新情報に対応して改訂されていて、多くの方が役に立ったとおすすめしているテキストがこちらです。
まとめ
管理栄養士国家試験の出題範囲は広いですが、効率的な勉強方法を選んだり、出題傾向に沿った対策をとったりすれば、十分に合格を目指せます。まずは基礎科目や問題数の多い科目を中心に、勉強に取り組んでみてください。
また、勉強にかける時間が多ければ多いほど合格に近づけます。1日あたりの勉強時間を多く取れない場合は、早めに取り組みましょう。忙しい方でも音声や動画、スマートフォンのアプリを利用すれば、スキマ時間を活用できます。
できるだけ多くの勉強時間を確保しつつ、今回紹介した勉強方法や対策ポイントを取り入れて、国家試験の合格を目指してみてください。