非認知能力とは | 数字では表せない、人生に成功するための力

学生時代は、あらかじめ決められた範囲をしっかりと勉強すれば、高評価や好成績、進級、卒業、合格、資格取得などの成果に反映されることが当たり前でした。

しかし、社会に出ると状況の変化に合わせて、自ら臨機応変に対応することが求められます。実際に仕事についてからは、学校の授業で学んだこと以外の能力が必要なのではと感じることが多いのではないでしょうか。

この記事では、学力以外に人間として必須な能力である非認知能力とは何かということや、非認知能力を伸ばすためのヒントを紹介します。

非認知能力とは

非認知能力は多くの場合、認知能力と対で用いられます。

認知能力は主に学力を指す言葉であり、IQや学校のテストなど数字で表すことのできる能力です。

これに対して、非認知能力とは数字で表すことができない能力であり、スムーズに仕事をおこなうためにはとても大切なものです。

プロジェクトを立ち上げてやりとげるためには、意欲や創造性、計画性が必要です。また、仕事の多くはチームを組んでおこないますので、協調性やコミュニケーション能力が重要になります。仕事を進めるうえでつきものともいえるアクシデントを解決するためには、粘り強さや忍耐力が求められます。

非認知能力には、以下のようなものが挙げらています。

学術的な呼称一般的な呼称
自己認識(Self-perceptions)自分に対する自信がある、やり抜く力がある
意欲(Motivation)やる気がある、意欲的である
忍耐力(Perseverance)忍耐強い、粘り強い、根気がある、気概がある
自制心(Seif-control)意志力が強い、精神力が強い、自制心がある
メタ認知ストラテジー(Metacognitive strategies)理解度を把握する、自分の状況を把握する
社会的適性(Social competencies)リーダーシップがある、社会性がある
回復力と対処能力(Resilience and coping)すぐに立ち直る、うまく対応する
創造性(Creativity)創造性に富む、工夫する
性格的な特性(Big 5)神経質、外交的、好奇心が強い、協調性がある、誠実
リクルートマネージメントソリューションズ機関誌「RMS Message」 vol.44
 『人生の成功を左右する「非認知能力」とは』 中室牧子 より

非認知能力は学歴や専門知識の有無とは関係ありませんが、より良い仕事をおこなうために不可欠であることに異論はないでしょう。

非認知能力が高いことのメリット

非認知能力に注目が集まったきっかけの一つに、2000年にノーベル経済学賞を受賞したジェームズ・ヘックマンによる、「ペリー就学前プロジェクト」の研究が挙げられます。

「ペリー就学前プロジェクト」は、1960年代にアメリカのミシガン州で幼児におこなった調査です。3~4歳児を幼児教育を受けるグループとそうでないグループに分け、長期にわたる追跡調査をおこないました。

幼児教育を受けるグループには、2年間、週3回3時間ずつのプリスクールへの通学と教師による週1度の家庭訪問がおこなわれました。その内容は、読み書きや計算など認知能力を向上させるものではなく、遊びを通じておこなうものでした。子どもたち自身が何をして遊ぶかを考え、実際に遊び、その後にもっと楽しく遊ぶためにはどうすればよいか考えさせるという教育がおこなわれました。

幼児教育を受けている期間は認知能力にあたるIQが大きく伸びていますが、9歳頃には両グループの差はほとんどなくなりました。しかし、40歳の時点で収入や持ち家率、学歴、生活保護の受給率など社会的成功に関する指標に、幼児教育を受けているグループのほうが優れた結果があらわれました。

この結果は、幼児教育を受けた子どもたちが認知的な能力を伸ばしたからではなく、非認知能力を身につけたことによるものであり、幼児教育の投資対効果は高いと考えられています。

非認知能力の高さによるメリットは、「ペリー就学前プロジェクト」のほかにも挙げられています。非認知能力である勤勉性や外向性が収入、昇進へ影響を与えたとする調査や、思春期にあたる中学校や高校で養われた協調性、勤勉性、リーダーシップなどが学歴、雇用、収入へ影響を与えたとする調査があります。

非認知能力を伸ばすヒント

非認知能力が最も伸びる時期は、乳幼児期から10歳ぐらいまでとされています。しかし、OECDの調査結果によると、非認知能力を育てるためには幼少時が特に大切ですが、大人になっても一生涯にわたって伸ばし続けることは可能です。

「これをすれば誰でも非認知能力が伸びる」ような科学的な方法は現時点ではまだみつかっていませんが、伸ばすために気をつけたいポイントを紹介します。

自制心

非認知能力の一つである自制心について、夏休みの宿題をもとにした大阪大学社会経済研究所の池田新介教授の調査を紹介します。子どもの頃に夏休みの宿題が最終日ギリギリまで終わらなかった人は、大人になってから喫煙やギャンブル、飲酒の習慣があって、借金があり、太っている確率が高いという結果となりました。

「子どもの頃に自制心を伸ばさないと、手遅れになるのか」と悲観的にもなりますが、大人になってからでも工夫次第で自制心を高めことができます。たとえば自制心に大きく影響されるような業務を習慣化する仕組みを作成したり、その業務に関する取り決めを関係者間で定めたりすると、自制心を高めて業務をスムーズにおこなうサポートとなります。

GRIT

GRIT(グリット)とは「やり抜く力」のことで、以下の4つの言葉の頭文字をとって名付けられました。

  • Guts(度胸)
  • Resilience(復元力)
  • Initiative(自発性)
  • Tenacity(執念)

GRITを提唱したペンシルヴァニア大学のアンジェラ・リー・ダックワース教授の著書「Grit: The Power of Passion and Perseverance」はベストセラーとなり、日本語にも訳されています。

ダックワース教授によると、才能や認知能力である学力、IQは経営者やスポーツ選手として成功するためには関係がなくて、必要になるものはGRITです。GRITがあれば成功できる、逆にGRITがないと才能があっても成功は難しいことになります。

GRITを伸ばす方法はまだ科学的には確立していませんが、後天的に伸ばすことは可能です。GRITを伸ばすためには、失敗を恐れずに自分で選んだことに挑戦する、小さくてもよいので成功体験を積み重ねる、お手本になるようなGRITのある人と交流する、などが挙げられます。

レジリエンス

GRITの要素にもなっているレジリエンス(resilience)とは、脆弱性(vulnerability)の反対語であり、そもそもは物理学用語でした。

レジリエンスは自発的治癒力を指した言葉です。精神的回復力や復元力、再起力などとも訳すこともありますが、そのままレジリエンスと呼ぶことが多いです。レジリエンスがあれば環境が変化してストレスが大きくなり傷ついても、その環境に適応して生き抜くことでき、日本では東日本大震災以降に注目が集まりました。

レジリエンスの高さはストレスへの耐性、状況の変化への適応性や達成力が高さにつながるため、企業が人材育成やメンタルヘルスケアにもとりいれています。

自己肯定感

非認知能力をはぐくむ土台となるのが、自己肯定感といわれています。

「ありのままの自分は、愛されるべき価値がある存在だ」と自分自身を認めて、他者に信頼感を持つことが、困難なことであっても積極的に挑戦する意欲につながります。

まとめ

AI技術が今後さらに発達することで、私たちに求められる能力も変化し続けることが予想されます。ビジネスにも学校教育にも知識を増やすだけでなく、思考力や想像力のような非認知能力を高めることが求められるでしょう。

非認知能力は幼少時に伸ばしたいものではありますが、大人になってからでも工夫次第で伸ばすことができる力です。より良い仕事をおこなうために、より自分らしく生きていくために、非認知能力を伸ばしていきましょう。

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