手話は聞こえない人と聞こえる人、聞こえない人同士をつなぐ重要なコミュニケーション手段。最近ではドラマ「silent(サイレント)」「星降る夜に」などの手話シーンが話題となり、改めて関心が高まっているようです。
ダイバーシティの推進が叫ばれる昨今、手話の技能を身につけた人材は、福祉・医療だけでなく、さまざまな分野で求められるようになっています。
手話の資格は、 「全国手話検定試験」「手話技能検定」という手話の基本的な技能を評価する民間資格と、厚生労働省が認定する「手話通訳士」をはじめとする手話通訳の知識・技能を認定する公的・民間資格に大別されます。
ここでは、手話によるコミュニケーションの登竜門とされる全国手話検定試験と手話技能検定の内容や違い、合格率、難易度などについてご紹介します。
手話の検定とは
手話の基本技術や、聴覚障がい者と手話でコミュニケーションをとる能力を問う検定試験です。より高度なスキルを要する手話通訳の前段階の、基本的な手話技能をはかるものと考えるとよいでしょう。
手話は手や指のほか、 頭、表情、口、上体などの動きも使って言葉を視覚的に表現します。それも単なる身ぶりの組み合わせではなく、手話固有の文法構造をもつため、体系的に身につけなければなりません。
手話の検定では、段階を追って受験級を高めていくことで、指文字から手話の読み取り、手話での表現や会話までの知識や技能を自然とレベルアップすることができます。手話を始めたばかりのビギナーはもちろん、ひととおり手話を身につけた人の腕試しとしても有効な資格です。
どんな場面で活用できるの?
いまや聴覚障がい者への手話対応ができる人材が重視されるのは、病院や福祉施設、自治体の公的サービスだけではありません。近年は金融機関や携帯電話会社、損保会社など、受付・窓口業務に手話対応を導入する企業が増え、外食や小売り、交通機関などのサービス業でも手話での対応が求められるシーンは多々あります。
手話の検定を取得することで、就職・転職時のアピールポイントや職場でのキャリアアップにつなげることができるでしょう。
実際のところ、手話でのコミュニケーションや、手話通訳でもごく一部の仕事を除き、資格は必須ではありません。試験での資格取得はハードルが高いと感じる場合は、まず市町村で開催している手話奉仕員養成の入門・基礎課程を修了し、手話奉仕員を目指すこともできます。主な活動は、日常会話のレベルで手話サークルでろう者と交流したり、地域のイベントなどにスタッフとして参加したりすることです。
しかし、自分の技能レベルを把握し、それを証明するためには、資格を取得するのが望ましいといえます。
また、上位の級を取得すれば手話通訳士や手話インストラクターへの道がひらけ、さらなるステップアップも可能です。
手話の検定の種類とそれぞれの違い
主な手話の検定は以下の2種類です。それぞれ特徴や違いがあるので、難易度なども含め、自分に合った資格を選びましょう。
全国手話検定試験
https://kentei.com-sagano.com/
全国手話研修センターが2006年から実施している検定試験。手話の知識に加え、手話によるコミュニケーション能力を6つのレベルに合わせて認定します。後述する手話技能検定に比べて、より実技に重点を置いているのが特徴で、最下級の5級から実技試験があります。
5級・4級・3級は日常会話や簡単な案内・説明ができる初級〜中級レベル、2級・準1級・1級は打ち合わせや会議、講習会などで会話ができる上級レベルとなっています。履歴書への記載は、簡単な窓口業務であれば5級から可能でしょう。
全国手話研修センターの取材記事はこちら⇩
https://college.coeteco.jp/blog/archives/14499/
手話技能検定
手話技能検定協会が2001年から実施している検定試験。2022年より準2級・準1級が廃止され、7級〜1級の7つのレベルで手話の言語としての技能を総合的に判定しています。手話単語の習得に重きを置いているため、実技試験があるのは2級以上の上位級のみです。
7級・6級・5級は簡単な挨拶や自己紹介ができる程度の初級レベル、4級・3級は店舗や窓口で接客ができる中級レベル、2級・1級は業務上必要とされる具体的な会話ができる上級レベルとなっています。履歴書への記載は4級以上が望ましいでしょう。
試験概要
全国手話検定試験
試験は各級年1回、全国の主要都市に設けられた会場で実施されます(受験料は5級3,850円〜1級8,800円)。コロナ対策として、2021年からはインターネット受験も導入されています(2022年10月時点)。
5級・4級・3級は実技試験のみ、2級・準1級・1級は実技試験と筆記試験が行われます。合格基準は各級とも、それぞれの試験結果がおおむね70%以上となります。
実技試験は手話の読み取りや手話による表現(スピーチ)・会話(応答)からなり、筆記試験は手話や聴覚障がいにまつわる基礎知識を問う6科目から出題されます。
手話技能検定
7級は筆記試験(記述式)、6級〜3級は筆記試験(マークシート式)、2級・1級は実技試験(即興スピーチと課題文表現)が行われます。合格基準は、7級〜3級は100点満点中80点以上、2級・1級は合否判定のみとなっています。
7級は自宅で受験して解答用紙を郵送する在宅受験のみで、いつでも受験が可能。6級〜3級は、全国の会場で実施される会場試験と、任意の場所で受験できるインターネット試験がそれぞれ年2回行われており、どちらかを選ぶことができます。2級・1級は年1回、インターネット受験のみとなっています(受験料は7級1,800円〜1級10,500円)。
試験の難易度・合格率
全国手話検定試験の近年の合格率は、5級〜3級が90%以上、2級~1級は80%ほどと、全体的に難易度は低めです。誰でも、どの級からでも受験でき、準1級と1級の組み合わせを除き複級受験が可能なので、一挙に取得するという手もあります。
一方、手話技能検定の2019年(第51回)の合格率は、6級92.4%、5級95.7%、4級86.8%、3級63.3%、準2級24.6%(以上筆記)、2級50.0%(実技)、準1級(筆記)0.0%。こちらも7級~4級は易しく、3級と2級も比較的取りやすいレベルです。2022年から難易度の高い準2級・準1級が廃止されたので、上位級にも挑戦しやすくなりました。
ただし、2級・1級を受験するには前級に合格することが必須なので、コツコツとレベルアップを目指しましょう。
学習方法
独学
外国語会話を学ぶのと同じように、手話の上達にも対話が最も効果的です。とはいえ、初心者がいきなり手話でコミュニケーションをとるのはハードルが高いもの。まずは独学で基本単語や指文字などを身につけてから、手話を使ったコミュニケーションを取り入れていくとよいでしょう。
教材は、各検定の公式テキストや問題集のほか、市販の対策本なども多数出版されています。2019年から手話技能検定の2級・1級の試験形式が変更されているので、過去問題集は新版を選びましょう。
YouTubeなどの動画サイトに投稿されている特定の級に対応した動画や、手話アプリやテレビの手話講座などを活用して基礎を繰り返し学習するのもおすすめです。
通信・通学講座
難易度の高い級に挑戦する人や、短期間で合格を目指したいという人は、通信・通学講座を利用するのもよいでしょう。ユーキャンの通信講座や、キャリア・ステーション専門学院の手話技能検定向け通学講座などがあり、期間は3カ月〜1年程度となっています。ただし、受講料は5,000〜30万円程度と、なかには高額な講座もあるので、よく考えて受講することをおすすめします。
費用を抑えるのであれば、自治体が実施している手話講習会や地域の手話サークルに参加するという手もあります。検定試験に対応しているわけではありませんが、手話によるコミュニケーションを実践を通して身につけ、磨くことができるのは大きなメリット。手話講習会は1年間の受講料が5,000円程度のもの、手話サークルは無料のものもあり、利用している人は少なくないようです。
まとめ
手話を身につけることは簡単とはいえませんが、耳の不自由な人に手話で応対ができれば、接客の幅はグンと広がり、職場での評価もアップするはず。
また、2020年にスターバックスが東京・国立市に国内初の手話を共通言語とする店舗をオープンするなど、耳の不自由な人の活躍の場も広がりつつあり、これからは私たちが手話で接客を受ける機会も増えていくことでしょう。
自分の世界を広げるためにも、手話の検定の取得を検討してみてはいかがでしょうか?