(取材)大学の最先端設備でデータ収集のスキルを誰でも学べる|金沢大学「大規模データ取得・管理・活用技術人材」育成プログラム

リカレント教育・リスキリングについては、数多くの大学や企業・団体が講座を開講し、中でもDX化・AIの台頭に伴ってデータサイエンス等のIT人材育成の分野が大きな注目を集めています。

収集したビッグデータを分析してどう活用するかというITスキルも大切ですが、金沢大学では大学が有する最先端の研究設備を用いて「データを収集する」という点に着目し、基礎研究からデータの管理・活用を学ぶ他に類をみない人材育成プログラムが2023年10月から開始されます。

この金沢大学の「大規模データ取得・管理・活用技術人材」育成プログラムは、データ取得の方法を学び、実践的なスキル獲得から専門知識の深化、問題解決能力の向上、研究の推進、そして将来のキャリアに向けた準備まで、多くのスキルを身に着けられるプログラムとして期待されています。

今回は、このプログラムをご担当される金沢大学 先端科学・社会共創推進機構 特任准教授 長井 圭治氏に詳しくお話を伺いました。

「大規模データ取得・管理・活用技術人材」育成プログラムの説明会が開催されます。

【日時】2023年9月6日、20日 両日19時〜20時

【会場】金沢大学サテライトプラザ

対面とオンラインのハイブリッドで開催されますので、オンライン参加ご希望の方は<bigdata-fssi@ml.kanazawa-u.ac.jp>までメールでお申し込みください。

プログラムの内容はこちらの動画をご覧ください。

https://www.stream.kanazawa-u.ac.jp/v/bkE7a9D17jq0

大学の最先端設備を開放し地域産業の発展を目指す「大規模データ取得・管理・活用技術人材」育成プログラム

北陸地区における技術者・研究支援者不足という課題に向き合う

コエテコカレッジ編集部(以下、編集部) まずは、「大規模データ取得・管理・活用技術人材」育成プログラム(以下、プログラム)が創設された背景と目的をお聞かせください。

長井 圭治  氏(以下、長井<敬称略>) 北陸地区では、技術者や研究支援者の人材不足が常態化しています。

実際には、技術革新によって開発が短時間で可能になり、容易になった部分ももちろんありますが、個々の企業での設備の不足や技術者のスキル不足・そもそもの人材不足によって、思うように研究開発が進まない状況が存在します。また就職して10年も経つと、技術革新等により、大学で学んだ知識が実務で役に立たなくなることもあります。

この緊急の課題を解決するために、本プログラムは北陸地域の意欲のある方に最新の研究設備による大規模データ取得・管理・活用技術を学ぶ機会を提供と、埋もれている優秀な人材の掘り起こし今後地域の企業で活躍できる人材の育成を目的としています。

また、補助的な研究開発支援人材の不足は研究を推進する技術者への負荷も高めています。ITだけでなく、計測機器等によるデータ取得技術のスキルを持っている人材が増えれば、格段に研究開発の速度が高まると考えられます。

例えば、COVIT19診断、ワクチン開発などのバイオ産業では、大規模データの活用が必須ですが、残念ながらわが国では開発のスピードが追い付かず、輸入品に頼る結果となりました。

今後の成長分野であるグリーンイノベーションでも、大規模データ取得・管理・活用は技術的差別化だけでなく、ブランド化の根拠ともなるため、それができる人材に対するニーズはさらに高まると予想されます。

これは未来の話ですが、これから人口の減少とAI化が進むにつれ実験をロボットがおこなうようになれば、さらに膨大な量の研究データが出てきます。

本プログラムの「大規模データ取得」というタイトルには、そこに向けて対応できる人材を準備する思いも込められています。

経済団体・地元企業と連携しながら活躍する人材を育成

新緑の金沢大学

編集部 このプログラムは、北陸の中でも最新設備を持つ金沢大学ならではの、地域に根差した印象ですが、地元企業との連携等はどのような取り組みをされていますでしょうか?

長井 本プログラムは、北陸3県(富山、石川、福井)の経済団体である北陸経済連合会と連携しています。また本学は多くの地元企業と地域連携を深めています。

そして、現在就業されている方だけでなく、これから自分の興味や能力を生かして就職したいという方向けのプログラムでもあります。求職中の方や未就業の方には、こうした新技術を学ぶ機会がほぼありません。そのような方にも学んでいただき、次世代研究支援者として活躍されることを想定したプログラムにもなっています。

「大規模データ取得・管理・活用技術人材」育成プログラムの概要

編集部 このプログラムの受講形式や参加要件、募集等概要を教えてください。 

長井 受講形式はオンデマンド講座受講+小テストで理解を深めて実習をおこない、サテライトキャンパスで対面での質問も可能です。

これらのカリキュラムをフルで受講される方は、地域企業や研究機関所属の方で定員20名程度、研究支援人材を目指す求職者の方で定員10名程度の合計30名程度を予定しています。実習期、出口期では、修了後の分野や勤務地を意識した修学に意欲的に取り組める方に来ていただけたらと考えております。

なおフル受講に関しては、受講者選考がございます。終了後は金沢大学より修了証が授与されます。

※詳しくはこちらをご確認ください。

https://bigdata.w3.kanazawa-u.ac.jp/programs/

またオンデマンドのみの受講も同時に募集しており、こちらは興味のある分野だけ部分受講も可能です。オンデマンドのみの部分受講の方は、先着順で定員は300名程度を予定しています。

部分受講の方は大学の設備を実際に使用した実習は受講できませんが、事前講義は全て受講可能で、実習の様子も順次オンデマンド教材として動画配信する予定でリアルに近い学びを得ることができると思います。

300名という多くの方に、大学の最先端の研究設備を実際に使用した演習をみていただくことは、おそらく他にはないと思われます。貴重なこの機会に、ぜひオンデマンドでの受講をおすすめいたします。

部分受講に関しても、オンデマンドの講義を聞いていただいた後に小テストを受けていただき合格すると、その科目に関して修了証が授与されます。

募集締切はフル参加受講希望者の方は2023年  9月30日まで、部分参加受講者の方は2023年12月20日までです。

2023年度は文部科学省の「令和4年度 成長分野における即戦力人材輩出に向けたリカレント教育推進事業」の採択を受けたこともあり、フル受講もオンデマンドによる部分受講も費用は1万円です。

※文部科学省運営の社会人向け講座のポータルサイト「マナパス」にも掲載されていますので、そちらもご参照ください。

フル参加受講

https://manapass.jp/portal/course/detail/8/1980691

部分参加受講

https://manapass.jp/portal/course/detail/8/1984076

受講前に金沢市地域力再生課に交付申請をする必要がありますが、金沢市内在住の方、もしくは市内在勤の方金沢市大学連携リスキリング促進助成の助成金が受けられます。

データを取得することに着目した「大規模データ取得・管理・活用技術人材」育成プログラム

全国でも類を見ない新しい人材育成プログラム

編集部 データ分析やIT系の人材育成プログラムはよく目にしますが、データを取得するということに注目した金沢大学のこうした取り組みは、全国でも珍しいのではないでしょうか。 

長井 文部科学省はDX化やITの人材育成を推進していて、いろいろな大学で「データを使う」という分野を学ぶプログラムは数多く開催されています。それも確かに重要なことではありますが、このプログラムは「データを取得する」という分野が特徴的で、他に類を見ない内容となっています。

データの取得は、例えばスマートフォンからでもできますし、容易にできるようにはなりました。しかし、電子顕微鏡など最新の研究設備を使ってデータを取得する技術も実際のものづくりや製品化には必要です。

しかも実は日本の得意な分野は、このプログラムにも盛り込まれている「小さいものを見る、小さいものの質量を測る」といった基礎研究の部分です。

この基礎研究は、商品開発においての差別化や問題解決などさまざまなところで活用できますので、これを機会に今後もぜひ気軽に大学の研究設備を使っていただきたいと考えています。

文系の方でも学んでいただけるよう門戸を広く開いたプログラム構成

編集部 この育成プログラムでは、具体的にどのようなことが学べるのでしょうか。

長井 実施期間は2023年10月に開始して12月まで、3カ月(計60時間)を3期に分けて以下のような内容を学んでいただけます。

10月の第1期は導入期です。経験者が少ない分野だと思われますので、知識が少なくても基礎としてどなたでも学んでいただけるよう設けています。

文系の方にも受講していただくことを想定しており、実験室に入るということに抵抗ある方もいらっしゃると思いますので、初歩的な内容として実験室に入るための手順から学んでいただけるようになっています。

ただし、この基礎分野は既にご存知の方もいらっしゃるので、そういった方は事前試験で合格されると履修免除になり、合格できなかった科目があればそれだけを履修し無駄なく受講していただけるような仕組みになっています。

11月の第2期(実習期)になると実際に金沢大学の最先端の研究設備を使い、実際に「データを取得する」というところをやっていただきます。ここが非常に重要で、金沢大学ならではの特徴的な内容です。

この実習期の内容を他の機関で学ぼうとすると、おそらくそれぞれ1つずつでも高額な研修費用になるのではないでしょうか。この期の内容は全ての科目を履修する必要はありませんが、約半数が実習、もう半数がオンデマンドで学べるようになっています。

12月の第3期(出口期)になりましたら、第2期までに学んだことをどう生かして就職やキャリアアップに繋げるかという段階になります。

例えば地域の企業に足を運んでもらったり、石川県の工業試験場に見学に行っていただいたり、大学内の研究室を見ていただいたりしながら、実際に就業するイメージをつかめるようになっています。

社会人の方が受講しやすいような環境作り

編集部 社会人の方が働きながら学びやすいよう、何か工夫されているところはありますでしょうか。

長井 働きながら学べるよう、いつでも受講できるオンデマンドの講義と小テストを火曜日に配信する予定です。土曜日午後に金沢大学の研究室で実際の機器を触っていただき実習をおこないます。

電子顕微鏡
リアルタイム PCR

そして水曜日の18時から20時まで、サテライトキャンパスで対面受講が可能です。専門外の方にとっては難しい分野だと思いますので、疑問点等が出てくると思います。こうした疑問点をサテライトキャンパスに気軽に来ていただいて講師に直接質問できる時間を設けています。

更に、水曜日の夕方や土曜日は、担当講師だけではなく教諭経験のあるような方をメンターとして、質問や相談できる環境を作る予定です。

どのように講師に質問して良いかわからない、なかなか質問できないという方もいらっしゃいますので、メンタリングの機会を持つことで気軽に質問できるような雰囲気を醸成していきたいと考えています。

これは実習生同士の交流の場としても考えていて、サテライトキャンパスに来ていただいて受講生の方達同士で自己紹介しあったり、お互い意見交換したりするだけでも質問が出やすくなるので、ぜひ積極的に学びを深めていただきたいと思っています。

金沢大学サテライトプラザ

また研修を専門の企業の講師をお呼びして、本プログラム終了後の目標を持っていただくために、セミナーでワークをやっていただく予定になっています。3カ月間毎週受講するのも容易なことではありませんので、しっかり継続できるようなマインドを整えるための講座も設けています。

プログラム終了後も大学の設備を有効活用できるようフォロー

編集部 プログラム終了後のフォローを予定しているとのことですが、具体的にどのようなフォローを受けられるのでしょうか。

長井 受講後の進路についてはアンケートをとり、ご希望によって面談することも可能です。

例えば、就業していた方がこうした分野を学ぶことで興味を持ち、今後更に学びたいという場合には、大学で地域向けに提供する情報やセミナーなどのご案内をしていきます。

また、学んだことを具体的に生かすために今後業務で大学をもっと利用したいという要望も出てくると思います。

実際に大学の設備を使って研究開発しようとすると問題点が出てきますので、そういった相談に応じることもフォローの1つと考えています。

今まで研究開発等に携わったことがない方にとっては、どうアプローチして良いかわからないことも多いと思います。そこで相談内容によって相応しい人にご相談いただけるような仕組みを整えています。

大学の最新の研究設備を開放して地域産業に貢献 

編集部 大学の研究設備をプログラム受講後も活用できるような体制が作られているのですね。それは地元企業にとっては素晴らしい取り組みですね。

長井 金沢大学は国内でも有数の、学内施設の民間活用体制を積極的に整えている大学です。昨年度同様の事業において、中間報告の際にS判定を受けた大学は2つのみで、そのうちの1つが本学でした。

このプログラムで実際に使用する研究設備に関しては、卒業後も利用料をお支払いいただけば活用できるようになっています。自社製品の分析や問題解決には、最新機器を用いた測定が大きく役立ちます。

技術革新により計測等の設備にかかる費用がどんどん高額になっているので、企業は全て自社で賄うことが難しくなってきています。

更に世の中の研究開発レベルが最先端レベルになってきているところから、より精度の高い高品質の製品を製造しなければ、販売競争に負けてしまい産業が発展しません。このため文部科学省でも大学の設備を学内だけで使うのではなく、社会インフラとして誰でも使えるよう捉え直されてきています。

本学ではいち早くこうした動きに着目し、他にはない講座を展開することで、研究設備の有効活用を図っています。大学の設備を開放することで、地域産業の発展により貢献できると思っています。

日本三名園の1つ、兼六園

今後さらに産業の発展に役立つカリキュラムを

編集部 この育成プログラムの今後の展望をお聞かせください。 

長井 受講生の方々がどのようにこのプログラムを活用されるのかよく分析して、今年度の経験をフィードバックして来年度以降も続けていきたいと思っています。

地域のそして日本の産業に貢献できるカリキュラムとしてさらに発展させていきたいと考えております。

また学んだことを実際に活かせるように、受講者への伴走体制も充実させる予定です。

今までできなかったことができるようになるチャンス

編集部 リカレント教育に興味があり、学び直しを考えている読者の方へのメッセージをお願いします。

長井 私は金沢に来て1年半になりますが、日々優秀な方が多いと感じております。

かつてはこうした最新設備を使うには大学院に進学し、且つ特定の分野を卒業しないとなかなかチャンスがありませんでした。

最近では、誰でも簡単に最新設備を使って測定することが可能になりつつあります。多くの数字やデータを扱うことが苦ではない方、手先が器用だと思う方、パソコンでの作業が苦にならない方は、ぜひ気軽に取り組んでいただきたいと思っています。

以前は修士課程や博士課程を卒業しないとできなかった測定や研究が、このプログラムをきっかけにできるチャンスがあります。文系だからとか専門外だとか、そういったことを気にせずに受講していただけたらと思っております。

「今こそ、自分に投資」です。今回のプログラムは、データ管理・活用だけでなく、自力でデータを取得する方法を学ぶことができる、これまでにない非常に珍しいプログラムです。ここでの学びは、きっと地域で活躍するきっかけになると信じております。チャレンジを楽しむ方の参加を歓迎しています。

長井 圭治(ながい けいじ)

東京都出身。早稲田大学大学院博士後期課程修了後、ポスドク、大阪大学助手、東京工業大学准教授を経て、2021年から金沢大学研究基盤統括本部にて、リサーチ・アドミニストレータ(URA)として大学研究設備の共同利用推進を担当。大阪大学時代には若手技術職員の指導も経験。

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