(取材)IT未経験者から経験者まで!誰もが学んでスキルアップ|北九州市立大学のリカレント教育&リスキリングプログラム

北九州市立大学は2017年からIT人材の育成に取り組み、地域産業の発展や社会人のスキルアップ、キャリアアップ、キャリアチェンジを後押ししてきました。

近年は、求職者向け「everiGo WEB系プログラマ・DX人材育成プログラム」、社会人向け「everiPro 産業DXリスキリングプログラム」を実施。everiGoは、未経験でもIT関連職への就職が目指せる同学独自の職業訓練プログラム、everiProは同学を中心に産学連携でDX推進を担う人材を育成する学び直しプログラムで、いずれも好評を得ています。

2023年度は、この2つのプログラムが文部科学省「成長分野における即戦力人材輩出に向けたリカレント教育推進事業」の採択を受け、アップデートして実施されます。

そんな両プログラムの特長やアップデートの内容、受講のメリットについて、事業推進コーディネータを務める北九州市立大学 ひびきのデータサイエンス(DS)教育推進室長の芝川洋介氏にお話を伺いました。事業推進責任者である同学 国際環境工学部 学部長の中武繁寿氏からお寄せいただいたコメントもお届けします。

https://everigo.jp/

https://everipro.jp/

IT人材育成のための取り組み

コエテコカレッジ編集部(以下、編集部) まず、社会人向けの「everiPro 産業DXリスキリングプログラム(以下、everiPro)」開設の趣旨と経緯をお聞かせください。

芝川洋介(敬称略 以下、芝川)  everiProの前身は、2017年度に文部科学省「Society5.0に対応した高度技術人材育成事業(enPiT-Pro)」に採択された、産学連携の社会人向け教育プログラム「enPiT-everi社会人リカレント教育プログラム(以下、enPiT-everi)」です。九州・中国地域は、自動車メーカーのマツダが本拠を置く広島県を筆頭に製造業が盛んな一方、情報通信業の比率が低く、産業の高度化が起きにくいという課題を抱えています。そこで、本学を中心に九州工業大学、熊本大学、宮崎大学、広島市立大学が連携し、製造業に携わる方々にIoT、AIなどの先端技術を身につけてもらおうとenPiT-everiを提供したところ、2021年度までにのべ350名の方に受講していただきました。

しかし、enPiT-everiは大学院レベルの専門的な内容を扱うプログラムだったので、製造の現場で働く職人の方々にはいまいちなじみませんでした。例えば、最近の自動車にはCPUが200個以上ついているそうで、今後、電気自動車へのシフトが進むことを考えると、現場レベルでの生産活動をより高度化していかなくてはいけません。そして実際にIoTやAIを学びたいというニーズもあるのですが、いざ専門的に学ぶとなると難しく、途中で離脱してしまうケースがありました。

そこで、enPiT-everiの科目のリニューアルや組み替えを行って受講時間を減らし、もう少し基礎的、汎用的な領域へとシフトしたのがeveriProです。everiProは、文部科学省「DX等成長分野を中心とした就職・転職支援のためのリカレント教育推進事業」の採択を受けて2022年度からスタートし、現在に至っています。

編集部 そのeveriProに先駆けて、求職者向けの「everiGo WEB系プログラマ・DX人材育成プログラム(以下、everiGo」を開設されたのはなぜですか?

芝川 経済産業省は2018年に発表した「DXレポート」で、2025年までに深刻化するとされるIT人材不足問題を「2025年の崖」という言葉で示しています。これは我々も認識しており、5大学・4地域が連携してenPiT-everiに取り組んできたわけですが、北九州市では製造業に限らず、あらゆる業界でデジタル人材が圧倒的に不足していることを肌で感じていました。2023年に北九州市の企業を対象に行ったアンケート調査でも、幅広い業種でIT人材の採用を検討していると回答しています。それもIT技術者のみならず、一般職でもデジタルリテラシーを身につけた人材を求めている企業の多いことがわかりました。

例えばコロナ禍で一般化したオンラインでのミーティングも、今やデジタルスキルの1つです。デジタル人材を増やすという意味では、産業や分野を問わず、そういったデジタルリテラシーを養うところから始める必要があると考え、本学独自のプログラムとしてeveriGoを開設しました。

2021年度に文部科学省「就職・転職支援のための大学リカレント教育推進事業」として募集を始めたところ、コロナ禍で失業者が増え、オンラインで仕事ができるIT分野への関心が高まっていたこともあり、多くの希望者がありました。その後もご好評をいただき、2023年度で3年目を迎えます。

事業推進コーディネータを務める北九州市立大学 ひびきのDS教育推進室長の芝川洋介氏

未経験でもIT就職が目指せる「everiGo」

実践的な学びによる高い満足度と就職率

編集部 失業者・非正規雇用者を対象としたeveriGoでは、どのようなことを学べるのでしょうか。

芝川 「習うより慣れろ」という感じで、実際にWebシステムを触り、いろいろな技術を扱いながら、画面の表示や出力するデータ、検索要件を変えるなどの演習を通して、Webシステムの開発を学びます。加えて、座学で基礎知識を学び、専門的な用語になじんでいきます。

IT人材のキャリア形成としては4年制大学や専門学校を経るのが一般的ですから、半年間の学習を終えた段階では「そこそこ実践できる」というレベルです。もちろん習得レベルには個人差があり、中には企業で即戦力になる方もいらっしゃいますが、半数ぐらいの方は、そこから先は採用された企業で鍛えられ、成長していきます。

everiGoの学習・訓練内容と取り扱う主な技術

編集部 このようなプログラムが無料で受講できるのは非常に魅力的ですね。修了率や就職率はどれくらいですか?

編集部 2021年度からの2カ年の実績では、受講生の約80%が修了し、約70%が就職しました。everiGoは厚生労働省の職業訓練受講給付金の対象プログラムですが、このような職業訓練基礎コースが労働局にも設けられていて、そこで半年間学んで就職できる確率が福岡県では55%程度。それに対しての70%ということで、評価をいただいています。ただこれもIT人材の卵を引き受けてくださる地元企業の協力があってこそだと思っています。

就職者のうち正規雇用は半数ほどで、そのほかは非正規雇用です。IT業界は特に技術職だと非正規雇用からキャリアを積むことが比較的しやすい業界ですので、アルバイトから採用していただくケースも少なくありません。

また、受講生へのアンケートでは、約90%が「学びがあった」と回答しています。特にWebシステム演習系は「とても学びがあった」との回答が約90%で、その満足度の高さが就職率の高さにもつながっているのではないかと思います。

編集部 2022年度のeveriGoから変更された点はありますか?

芝川 ITは技術革新が早い分野なので、毎年、技術面でのマイナーチェンジを行い、最先端のトレンド技術を取り扱うようにしています。2023年度はChatGPTなどの生成系AIを取り入れる予定です。ChatGPTは上手に使えば一瞬で精度の高いプログラムを書くことができますが、それだけでは運用はできず、必ず人間の手を必要とします。こうしたChatGPTにできること、できないことを知り、その上で、演習の参考に要所要所で取り入れる形で活用していこうと考えています。

なお、就活支援セミナーやキャリアカウンセリング、就職案内といった就職支援は、これまで通り実施します。

就活支援セミナーの様子

IT経験がなくても意欲があれば受講可能

編集部 everiGoはIT経験がなくても受講可能とのことですが、実際に受講生には未経験の方が多いのでしょうか。

芝川 はい。これまでIT業界で仕事をしたことのある受講生は0人ですし、大学や専門学校でIT系を専攻していた方も全体の1割程度と、未経験の方が多いです。

ただし、大半の方は独学でホームページやゲームの作成にチャレンジしたり、プログラミング学習サービスを試したりした経験をお持ちです。興味があると学習能率も上がる傾向がありますから、選考ではITへの関心度の高さも重視しています。企業の採用のターゲットである20〜30代が募集の目安となりますが、過去には40代で受講されてきちんと就職された方もいらっしゃいました。

編集部 受講生の男女比はいかがですか?

芝川 初年度は3人に1人は女性でした。ひと口にIT業界といってもその幅は広く、特にデザイン寄りのIT企業は女性との相性がよい傾向にあり、採用にも積極的です。ただ、私がやりとりしてきた中では、性別で区別している企業はありません。そもそも今活躍しているIT企業の多くは1990年代以降に創業されているので、まだ終身雇用という概念が薄く、雇用の流動性にも慣れているところが多いですから。

編集部 授業はオンライン中心となっていますが、月に2日ほどある集合日には何をするのですか?

芝川 就活支援セミナーを行い、対面形式での授業も実施します。また、システム環境にトラブルが発生した場合、特に導入段階は遠隔での対処が難しいので、対面でPCを見ながら対処するという意図もあります。

なお、everiGoは北九州市役所と連携しており、市役所の方には完全オンラインで実施しているプログラムがあるので、遠方からのお問い合わせには、そちらの受講をおすすめしています。

履修条件・失業者、非正規雇用労働者
・20代〜30代(推奨)
・ノートパソコンを保有していること(推奨)
・パソコンの基本操作(キーボード入力、インターネット、メール、アプリケーションのインストール・アンインストール、ファイルとフォルダの操作など)ができること
受講方法毎週火〜金曜日 10:30〜16:30
講義:オンライン(リアルタイム配信)、対面(月2回程度、ATOMica北九州で実施)
就活支援セミナー:ATOMica北九州で実施(月2回程度)
開講期間2023年9月19日(火)〜2024年3月13日(水)
受講時間数420時間
受講料無料
申込期間2023年6月〜2023年8月20日(日)
定員40名
選考応募フォーム(基本条件、学習・就職意欲)、適正検査、および面接
備考・若者ワークプラザ北九州からの就職支援あり
・厚生労働省「職業訓練受講給付金」対象プログラム

中武 繁寿 氏(事業推進責任者、北九州市立大学 国際環境工学部 学部長)からのコメント

プログラミングはたとえ初心者であっても、継続的に自学自習し、(諦めずに)試行錯誤することにより、飛躍的に実践的なスキルを習得することができます。市販の入門教材やQiita等「ググる」を上手く活用して自らのスキル向上に取り組んでもらうことを期待しています。プログラミングは面白いですよ!

DX推進に必要なスキルが身につく「everiPro」

IT初級者から経験者まで、自分に合った学びが可能

編集部 社会人を対象としたeveriProでは、どのようなことを学べますか?

芝川 コースで受講する場合は、産業に特化した4つの履修モデルから1つを選択し、業務やサービスのDX化に必要な技術と手法を学びます。2022年度は履修モデルを7つ用意していましたが、2023年度は「DXリテラシーモデル」「製造業IoTモデル」「スマートファクトリモデル」「AIプログラミングモデル」の4つに絞り込みました。履修モデルごとに3つの科目と1つのラボ科目を選びますが、DXリテラシーモデルのみ固定5科目の受講となります。

everiProの4つの履修モデル

編集部 それぞれの履修モデルの特長を教えてください。

芝川 DXリテラシーモデルはIT初心者向けで、あらゆる業種のDX化に求められる基礎的なITの知識や技術、統計について学びます。Excelなどのツールを用いたデータの取り扱いや、プログラミング言語のPython(パイソン)を使った統計処理の演習を行うことで、必要に応じてデジタルスキルを使いこなせる人材を目指します。

製造業IoTモデルとスマートファクトリモデルは、ある程度のITリテラシーを身につけた中小製造業関係者や、製造業関連サービスに携わっているIT関係者を想定したモデルです。製造業IoTモデルでは、基本的な回路の設計を学び、回路をデバイスに書き込む演習を行うことで、ハードウェアプログラミングの基本を身につけていきます。 Raspberry Pi(ラズベリーパイ)というOSを使ったIoT機器を自作し、製造現場などで応用できるレベルが目標です。またスマートファクトリモデルでは、IoTデバイスの基礎と、機械に問題を検出させるための画像処理や機械学習について学びます。 Raspberry Piを使った不具合自動検知システムなどの仕組みを自作し、工場ラインに実装できる人材を目指します。

AIプログラミングモデルは、ある程度の経験を積んだIT技術者や、一定のITリテラシーのある実務家におすすめのモデルです。Pythonでデータを取り扱う演習を行い、さまざまな局面に応用できるAI開発技術を身につけ、AIを自作して事業に導入できる人材を目指します。

編集部 各大学の教員の他に、企業の方も実務家教員として授業をされているのでしょうか。

芝川 はい。各大学の提供科目は、大学の教員と地域の実務家教員が一緒に授業を行っています。例えば、熊本大学が行っている実験ボードを使ってセンサーデバイスを動かす演習では、基本的なことは大学教員が指導し、クラウドサーバにデータを上げてそのデータを活用する応用分野は熊本エリアのIT企業が担当しています。

演習風景

編集部 コースでの受講だけでなく、1科目から受講可能とのことですが、忙しい社会人にとっては嬉しい制度ですね。

芝川 特に技術職の方は仕事の忙しさの波が激しく、 まとまった時間の確保が難しいので、enPiT-everiの頃に科目別の履修を可能とし、それをeveriProでも継続しています。年度をまたいで別の科目を受講することも可能で、最終的に60時間積み上げたら修了認定を受けることができます。

なお、本プログラムの7割ほどはビデオオンデマンド形式で提供しており、24時間いつでも好きな時間に受講できます。ただし、ラボ科目含む一部の科目はオンラインによる遠隔形式、ラボ科目の一部は現地での対面形式で実施し、遠隔形式は原則土曜日、対面形式は平日が授業日となります。オリエンテーションやフォロー会などの活動も土曜日に行われます。

2023年度は環境技術について学べる科目を新設

編集部 履修モデルの絞り込み以外に、2022年度のeveriProプログラムから変更された点はありますか?

芝川 everiGoと同じく、技術面でのマイナーチェンジを行います。ChatGPTなどの生成系AIについては、AIプログラミングモデルで取り扱う予定です。プロンプトエンジニアリングと言われるコード生成のコツや、APIとして、またAIの学習概念の理解を深めることにもChatGPTを活用します。

また、「グリーンテクノロジ」という環境技術やグリーンエネルギーに関する理解・知識を深めるための科目を、新たに開設しました。「2050年カーボンニュートラル」の実現に向けた国のグリーン成長戦略の一環として、北九州市では洋上風力発電を産業として推進することが決まっており、洋上風力発電設備のメンテナンスを担う人材の育成が必要とされています。この1科目で高度な技術を網羅するというよりは、そうした人材を増やしていくための足がかりとして展開していこうと考えています。

学んだことを活かして職場のDX化に貢献

編集部 受講生の選考は、どのようにされているのでしょうか。また受講にあたり、どの程度の知識や経験があればよいという目安はありますか?

芝川 選考は、応募フォームに書いていただく学歴や職歴、自分にできることなどの情報をもとに行います。前提知識に不安がある場合は事前相談を受け付けたり、お申し込み後に確認や履修の組み換えのやり取りをさせていただくこともあります。知識や経験の目安については、履修モデルごとの対象者や、各科目のシラバスに記載されている前提知識を参考にされるとよいと思います。

編集部 受講生の年齢層や業種を教えてください。

芝川 年齢層は20代から60代まで幅広いですが、1番多いのは40代で、男女比は9対1となっています。業種は製造業が半数を占め、3分の1ほどが情報通信関係、その他は、介護、観光、金融、公務員とさまざまです。企業が社員を派遣し、人材育成の場として利用されるケースもあります。

編集部 修了率はどれくらいですか?

芝川 修了率は7割強で、修了生へのアンケートでは8割が満足したと回答されています。例えば事務職の方からは、「Pythonを使ったプログラムを学んだことで、ファイル整理が一瞬でできるようになった」といった声が寄せられています。また、先ほどお話した工場ラインに不具合自動検知システムを実装する演習は、広島地域でのニーズに応えたもので、「職場で求められる技術を身につけられた」という喜びの声も耳にします。「センサーデバイスを自作できるようになったことで開発の創造性が高まった」という話も聞きます。AI系は、業務での実用化を想定しているというよりは、今後使えるかもしれないので知っておきたくて受講されている方が多かった印象です。

履修条件・社会人全般(現役世代のビジネスパーソン推奨)
・DXスキル、デジタルスキルを身につけたい方
受講方法・原則、土曜日の開講
・ビデオオンデマンド形式・遠隔形式・対面形式(科目によって異なる)
開講期間2023年10月7日(土)~2024年3月16日(土)(予定)
授業時間数コース履修:60時間
科目別履修:12時間/科目
受講料コース履修:111,000円
科目別履修:22,200円/科目
申込期間2023年7月14日(金)〜2023年9月24日(予定)
定員コース履修:7〜12名/コース
科目別履修:原則無制限(科目によって異なる)
選考応募フォーム(基本条件、学習・就職意欲など)
備考修了者には修了科目・時間に応じてenPiT-everi(前身プログラム)に基づく修了認定を授与

選択肢の多い今こそ学び直しを!

編集部 リカレント教育やリスキリングについて、今後の展望をお聞かせください。

芝川 現在、everiGo、everiProの両プログラムは、文部科学省事業として国の補助に頼って運営しています。 地域経済がなかなか上向かないこともあり、自立運営にはもう少し時間を要すると思いますが、リカレント教育を大学の中にしっかりとビルドインし、展開していきたいと考えています。これはあくまで私個人の希望的観測も含まれますが、今後、数年の間に両プログラムの取り組みを大学の正規コースに組み入れられる可能性が出てくると思いますので、継続的に良いプログラムが提供できるよう頑張っていきたいです。

編集部 学び直しを考えている社会人の方に向けて、アドバイスやメッセージをお願いします。

芝川 特にeveriProのDXリテラシーモデルは、IT初心者から受講でき、幅広い業種に役立つ内容ですので、多くの方におすすめしたいです。

ここ1、2年の間に、大学が提供するリカレント教育やリスキリングの講座が増え、選択肢が大きく広がりました。オンラインで受講できるものも多く、まさに「受けるなら今」という状況です。本学のプログラムに限らず、何を学ぶべきか迷ったら、ぜひ社会人の学び直しのためのポータルサイト「マナパス」で探してみてください。

中武 繁寿(なかたけ しげとし)

事業推進責任者

北九州市立大学 国際環境工学部 学部長・情報システム工学科 教授

芝川 洋介(しばかわ ようすけ)

事業推進コーディネータ

北九州市立大学 ひびきのデータサイエンス(DS)教育推進室長

https://kqds.jp/

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