世界的にもリスキリングやリカレント教育が注目されていますが、日本全体での歴史はまだ浅く、広く知られるようになったのは最近です。
総理大臣官邸でおこなわれた「第3回 人生100年時代構想会議」で政府がリカレント教育について言及し、拡充していく方針を打ち出したのが2017年の11月。その後、2018年は「リカレント教育元年」と呼ばれており、リカレント教育やリスキリングの講座が多くの大学で開催されはじめ、少しずつ「学び直し」の大切さが認知されています。
しかし、その100年以上も前から社会人への教育について注目し、「知の開放」をおこなっていた大学があるのをご存知でしょうか。
早稲田大学では、創立の4年後の1886年から社会人教育について注目し、大学の講義をまとめて一般の方向けに「早稲田講義録」を発行、全国各地や海外へも届けられ、1886年から70年間で200万人もの購読者がいたそうです。
また、1893年から「巡回講話」という講義を早稲田大学の教員が全国各地へ赴いて開催し、学問を普及する活動をおこなっていました。
現在早稲田大学では、社会人が学びやすいよう工夫された多くのプログラムで、「社会人の学び直し」を支援しています。その中から今回は、主にビジネスパーソン向けに多様な履修証明プログラム等を展開しているWASEDA NEOについて詳しくご紹介します。
早稲田大学社会人教育事業室 長谷川 亮太 氏にご協力いただき、早稲田大学のリカレント教育・WASEDA NEOについてまとめてみました。
歴史ある早稲田大学のリカレント教育への取り組み
「ユニバーシティ・エクステンション」の理念に基づく社会人教育
なぜ早稲田大学が古くから社会人教育に対して熱心なのか、長谷川氏に伺いました。
「早稲田大学にはユニバーシティ・エクステンションという理念が根付いています。
これは、大学開放・大学拡張を意味しますが、19世紀後半に欧米諸国で興隆した高等教育普及運動の理念をいち早く取り入れ、早稲田大学でも大学の学問を広く一般の方にも開放しようという動きになったようです。
早稲田講義録や巡回講話のような活動で、早稲田大学の名前が日本全国、さらには海外へも広まったと言われています。
このような理念のもと、大学として社会人教育は当然のこととして取り組み、現在でも時代の変遷と共にプログラムを拡充しています。」(長谷川氏)
社会人でも学位が取れる正規課程と非正規課程がある
「学士4年間・修士2年間・博士3年間を正規課程と呼んでいますが、早稲田大学では社会人の正規課程への入学に関して、それまでの経験や意欲を考慮した特別な形態での入学試験を実施しています。(学士・修士が対象)
さらに夜間開講の大学院、専門職大学院、人間科学部通信教育課程(eスクール)があり、これらは社会人でも学べる正規課程です。
この他に、非正規課程(ノンディグリー)のプログラムがあり、学位は取れませんが目的に合わせて受講できるような内容を提供しています。
早稲田大学の社会人教育は数多くの多様なプログラムが存在するため、
- 大学院・社会人入学案内(正規課程の情報を集めた冊子)
- まなびのコンパス(非正規課程・ノンディグリーの情報を集めたサイト)
このようにわかりやすく情報を集約してご自身に合ったものを選択できるよう工夫しています。」(長谷川氏)
早稲田大学のリカレント教育プログラム(非正規課程)
科目等履修生制度
大学の各学部・大学院等でおこなわれている特定の科目のみ履修可能な「科目等履修生制度」があります。
事前の選考に合格し、聴講料を支払えばその科目の講義が受講できます。また、要件を満たせば正規課程入学後に単位の認定が認められます。
「この先生のこの科目だけ受講したいというニーズがあるので、科目単位で聴講可能にする制度です。受講するには試験があるので合格する必要はありますが、合格すれば在学生と一緒に講義が受けられます。」(長谷川氏)
エクステンションセンター
エクステンションセンターは、早稲田大学の教育研究機能を広く公開することを目的として作られたセンターです。早稲田・八丁堀・中野の各校において歴史や芸術、ビジネス、外国語等の講座を「オープンカレッジ」として年間約1,900講座開講し、述べ30,000人が受講されているそうです。
「エクステンションセンターは1981年に発足し、大学の講義を広く開放するユニバーシティ・エクステンションという理念が、エクステンションセンターの名前に繋がっています。
講座数や受講者数も多く40年ほどの歴史もあるので、早稲田大学のリカレント教育というとこのエクステンションセンターをイメージされる方が多いのではないでしょうか。
エクステンションセンターでは、学ぶ意欲のある全ての方々のお役に立てるような、さまざまな講座を提供しています。
講座によって違う場合もありますが、春期、夏期、秋期、冬期の年間4回の3カ月単位で1講座あたり7回くらいの講義を履修していただくようなプログラムになっています。
受講資格要件はなくどなたでも受講可能ですが、平日の日中に多くの講座が開講されているため、6〜7割はシニアの受講層という特徴があります。
一方、平日夜間や土曜日にもビジネスジャンルの講座を多く開講しており、これらは30~50代の方々も多く受講されています。」(長谷川氏)
ビジネス・ファイナンス研究センター
ビジネス・ファイナンス研究センターは、早稲田大学ビジネススクール(WBS)と連携し、ビジネス・ファイナンス分野の基礎的・応用的研究を通じて研究成果を広く社会に還元できる高度な知識を持った人材の育成と、社会の発展に寄与することを目的として設置されました。
「2016年に設置された経営管理研究科(国内最大級のビジネススクール)では学位課程としてMBAプログラムを提供していますが、ビジネス・ファイナンス研究センターでは、ノンディグリーのエグゼクティブ教育として、次世代を担う経営のプロを育成することで、ビジネススクールと連携しながらビジネス・ファイナンス分野における世界水準の研究成果を社会に還元しています。
”トップマネジメント研修””EMBA Essence”など経営層・次世代経営層を対象としたプログラムのほか、”MBAエッセンシャルズ””ファンドマネジメント講座”など全てのビジネスパーソンにとって受講可能なものも多数提供しています。また、企業ごとのニーズに沿って研修を設計する”カスタマイズ研修”などもあります。」(長谷川氏)
WASEDA NEO
日本橋にある社会人教育のための拠点となっているのがWASEDA NEOです。社会人の方が働きながら通えるような環境を整え、数多くのジャンルのセミナーやワークショップを開催しています。
「2017年からスタートした新しい教育事業で、NEOとはNihonbashi Educational Outreachという思いが込められています。
コレド日本橋の5階にキャンパスがあり、ビジネスパーソンがアクセスしやすい日本橋という立地を生かした社会人教育がWASEDA NEOです。
ビジネス・ファイナンス研究センターで実施されているビジネス教育とは少し差別化する形で、最先端のビジネストピックを扱った各種セミナー、ファシリテーションやプレゼンテーションの仕方、資料の作り方などのビジネススキルを習得できるようなプログラムになっています。」(長谷川氏)
WASEDA NEOだからできる多彩なプログラム
WASEDA NEOのコンセプトと創設の背景
WASEDA NEOのコンセプトは、公式サイトによると「ブレンディピティ=Blendipity(Blending + Serendipity)」。
Blendipity(Blending + Serendipity)
技術・人・社会制度といった様々な“波”が出会い、交じりあって(Blending)
コンセプト|WASEDA NEO
意図せず大きな“波”を巻き起こす(Serendipity)ことを目指す意の造語。
「共創の場」であるWASEDA NEOを自律的、創造的に運営するための基本コンセプトです。
偶然の出会いによって多様な方々が集まり、イノベーションの源泉となるような場所にしたいというコンセプトがあるそうです。
「コレド日本橋5Fという素晴らしい立地にキャンパスがあり、日本橋駅直結という良好なアクセス環境から、大学としてこの場所を社会人教育の新しい拠点にしようとWASEDA NEOが発足され、2017年から事業を開始しました。
ところが、2020年からコロナ禍で集合型研修が開催できなくなってしまい、日本橋というアクセスしやすい場所を前提とした事業でしたが、キャンパスの利用ができなくなり方向転換を余儀なくされ、オンライン受講という形で対応していました。
その後、コロナ禍も一定の収束の兆しが見え、2022年4月からはキャンパスを使った各種プログラムも再開可能となりました。現在は対面形式でのプログラムを中心に提供をしています。」(長谷川氏)
WASEDA NEOは、コロナを転機に新しい局面を迎えたようです。
「コロナ禍でオンライン化が加速し、オンラインのセミナーをおこなう大学も増えましたし、大学以外でもオンラインの学びの場が非常に増えました。全てのオンラインコンテンツに世界中の人がアクセスできるようになり、これが日本橋という立地を生かしたWASEDA NEOの在り方を考え直すきっかけとなりました。
そこで、最近では履修証明プログラム(=ノンディグリーだが、一定のまとまりのある体系的なプログラム)を中心に開発し、提供しています。
修士課程で学ぼうとすると2年かかるので、もっと気軽に学んでいただけるエクステンションセンターがありますが、エクステンションセンターの講座は短いのでその中間的なプログラムという位置付けです。履修証明プログラムは、60時間以上の体系的なプログラムを指します。
プログラムが終了すると学校教育法に基づいた履修証明書が交付され、履歴書の学歴欄に記載することも可能です。」(長谷川氏)
複数の履修証明プログラムを開催
WASEDA NEOでは現在複数の履修証明プログラムを開催しています。
また、上記のWASEDA NEOの履修証明プログラムの他に、データ科学センターがおこなう履修証明プログラムスマートエスイー(IoT/AIコース/DXコース)や50歳以上の方が対象のLife redesign collegeといったプログラムも展開しています。
各プログラムの位置付けは以下の図のようになっています。
「履修証明プログラムは、その大学の専任教員が監修するというのが設置の条件となっており、早稲田大学の教授がコーディネートしているということで大学独自の強みやカラーが出るような構成になっています。
世の中に学びの選択肢が数多く存在する中で、”大学のプログラム”というのはその大学の特色があらわれたプログラムになっているため、色々な大学の履修証明プログラムをチェックしてみるのも面白いのではないでしょうか。」(長谷川氏)
誰でも学べるよう門戸を広げたプログラム構成
履修証明プログラムは、現役の社会人の方々に実践力を身につけてもらうためのプログラムなので、実施時間を土曜日に集中させるなど社会人の方が受講しやすいよう工夫されています。
「社会人の方がほとんどですので、20代から50代くらいまでがメインターゲットとなりますが、平均すると40歳前後の方が多い印象です。どのプログラムも広く門戸を開いていて、基礎知識がないと受講できないといったこともありません。初心者の方でも学べるようなプログラム構成になっています。」(長谷川氏)
履修証明プログラムの中で、早稲田リーダーシップカレッジ、早稲田マーケティングカレッジ、データサイエンス実践講座の3つについて詳しくご紹介します。
※スマートエスイー(IoT/AIコース/DXコース)についてはこちらをご参照ください。
https://college.coeteco.jp/blog/archives/15755/
早稲田リーダーシップカレッジ
早稲田リーダーシップカレッジは、職場の管理職が権限のみに依拠せず自身の「権限によらないリーダーシップ」を獲得し、他者のリーダーシップを引き出してリーダーシップを開発できる人材育成を目的としています。
役職についている管理職のみならず、若手社員向けのプログラムでもあり、立場の違うさまざまな方がクラスメートとしてフラットな関係のもとお互いに支援して学び合うプログラムです。
講座の特徴や詳細は、以下の通りです。
- 履修時間:120時間
- 学習形式:少人数(最大15名)でのワークショップ形式、対面+オンライン(zoom)
- 募集人数:最大15名(先着順)
- 募集期間:現在は終了(2023年4月28日まで)
- 実施期間:2023年5月13日〜9月30日 ※次回は2024年5月開講
- 受講料:550,000円(税込)
- 文部科学省より「職業実践力育成プログラム」(BP:Brush up Program for professional)に認定
- 厚生労働省の教育訓練給付金(専門実践)の対象講座(最大70%に相当する額がハローワークより給付)
- グローバルエデュケーションセンター・教授 日向野 幹也監修
修了者からは、
- 仕事の会議をする際、ファシリテーション設計シートやスキルを活用できる
- 人材開発の企画や実際の研修などで学んだスキルや知見を活用できる
- 新しいことを始めようとするときに役立つと思う
このような声や、
- 仕事や日常生活における自分自身のあり方や人との関わり方を見つめなおす機会が得られる。
- 関係を深めるメンバーにも出会えます。仕事や対人関係をよりよくしていきたいと考えている方におすすめ
このような感想が寄せられたようです。
早稲田マーケティングカレッジ
早稲田マーケティングカレッジは2022年度から開講され、伝統的なマーケティング手法だけでなくデジタルを活用するなどの先端的な手法も理解した「次世代のマーケターとしての総合力」を養成するプログラムです。
学術界・実務界の第一線で活躍されている著名な講師陣から、知識を得ると共に実践力を身につけられるように構成されています。
講座の特徴や詳細は、以下の通りです。
- 履修時間:80時間
- 学習形式:講義科目(基礎・応用)、ケース科目(グループ討議、クラス討議)、ワークショップ科目、PBL科目
- 募集人数:40名程度(先着順)
- 募集期間:2023年9月4日(月)13:00 ~ 9月28日(木)23:59まで
- 実施期間:2023年10月7日(土)~2024年2月3日(土)
- 受講料:385,000円(税込)
- 文部科学省より「職業実践力育成プログラム」(BP:Brush up Program for professional)に認定
- 厚生労働省の教育訓練給付金(特定一般)の対象講座(2023年10月〜新規指定、最大40%に相当する額がハローワークより給付)
- 商学学術院・教授、社会人教育事業室長 守口 剛監修
修了者からは、
- 大学教授+実務家からの講義が受けられ、即アウトプットを実践する場もあるとてもいいプログラム
- 早稲田で先端のマーケティング知識を学び、実務に活かすと大きな効果を発揮することは間違いない
- マーケティングを学ぶのに効率よく分かりやすいプログラム。初心者にも上級者にもオススメ
このような感想が寄せられています。
データサイエンス実践講座
データサイエンス実践講座も2022年から開講され、表面的なスキルではなくデータサイエンティストとして必要な基礎的な理論や技術を早稲田大学独自のカリキュラムで習得し、実践的に学ぶことができるプログラムです。
講座の特徴や詳細は、以下の通りです。
- 履修時間:108時間
- 学習形式:理論編・オンデマンド(48時間)、実践編・隔週土曜日にオンライン形式(60時間)
- 募集人数:35名(先着順)
- 募集期間: 2023年9月4日(月)13:00 ~ 9月28日(木)23:59まで
- 実施期間:2023年10月14日(土)~2024年2月17日(土)
- 受講料:440,000円(税込)
- 文部科学省より「職業実践力育成プログラム」(BP:Brush up Program for professional)に認定
- 厚生労働省の教育訓練給付金(特定一般)の対象講座(2023年10月〜新規指定、最大40%に相当する額がハローワークより給付)
- データ科学センター・教授 小林 学監修
修了者からは、
- データサイエンスを「アート」ではなく「サイエンス」として学べる本格講師による本格講座。巷で流行りのデータサイエンスや Pythonプログラム講座とは違います。
- 初心者がついていけるよう内容的に相当練られたプログラムで、講師陣の先生方に教える熱意があり、料金設定も良心的で、大変おススメ
- 忙しくて時間がない方に最適なプログラム
このような感想が寄せられています。
今後WASEDA NEOはさらに発展・拡充へ
WASEDA NEOの他にもエクステンションセンターやビジネス・ファイナンス研究センター等、現在でも数多くのリスキリング・リカレント教育のプログラムを開講している早稲田大学ですが、今後も更に拡充していく方針のようです。
「早稲田大学ならではの履修証明プログラム等を今後開発していき、リスキリングやリカレント教育のニーズに積極的に応える大学を目指していきます。」(長谷川氏)
今後の世の中を見据えて人生を豊かにするための一歩に
現在リスキリングやリカレント教育が叫ばれている背景には、人生100年時代の到来とVUCA(目まぐるしく世の中が変化し予測困難な状況)の中で、コロナ禍やDX化によるAIの発展など社会的な環境の変化に合わせて仕事に求められるスキルがどんどん変化していることが挙げられます。
こうした世の中の変化を柔軟に捉え、常に新しい知識を学びキャリアを選択できるようにしていくことが重要であり、この動きはどんどん加速していくことでしょう。
最後に、学び直しについて考えている、スキルアップやキャリアチェンジを目指していている方々へのメッセージをいただきました。
「今後、自分が長く生きていく上で、何が起こるか予測がつきません。自分の価値を自分で高めなさいという時代になりました。
だからこそ大学も真剣に取り組み、プログラムのラインナップを増やしたり内容を充実させたり、社会人の方が受講しやすいような仕組みを整えたりと、忙しい皆さんの生活に寄り添いながらプログラムを開催しています。
キャンパスにもう一度戻って学ぶことで、一緒に学び切磋琢磨できる仲間が増えていきます。そういった大学ならではの学ぶ環境は人生を豊かにし、自分にとって価値のある時間となるでしょう。
教育訓練給付金などの補助を受けられる講座もありますので、大学ならではのアカデミックなプログラムに興味を持っていただき、ぜひチャレンジしていただきたいと思います。」(長谷川氏)
まとめ
早稲田大学には、古くから学問の普及に努めてきた早稲田だからこそできる、真剣に学びたい・学びながら成長していきたいと考える方向けの多彩な教育プログラムがあり、どんどん拡大しています。
もし「学び直し」を考えるなら、一流の講師陣から学べるチャンスを利用しない手はありません。学びやすい仕組みが整っているのも魅力の一つです。
キャリアアップ・スキルアップを考えている方は、早稲田大学のリカレント教育をぜひチェックしてみてください。