(取材)地域企業と共に産業の発展と地方の課題解決に取り組む|徳島大学のリカレント教育「トクリカ」

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少子高齢化が本格化し、地方の人口減少や労働力不足といった課題が顕在化する中で、こうした問題に積極的に取り組む自治体や教育機関が増えています。

徳島大学では生涯学習やリカレント教育を通じて社会人が再び学び直しを行い、新たなスキルや知識を身につける機会を提供しており、40年近く地域に根差した教育を続けています。そして、リカレント教育プログラムの情報を集約させた「トクリカ」は、リスキリングやビジネス講座など、多彩なプログラムを提供して地域産業の持続可能な発展に貢献しています。

今回は、徳島大学 人と地域共創センター センター長 田中 俊夫氏にご協力いただき、徳島県の現状やリカレント教育への取り組みについてお伺いしました。

多様化するニーズに応える徳島大学のリカレント教育

少子高齢化が進む徳島県

冒頭で述べたように全国的に少子高齢化が進む中、首都圏以外の多くの地域では人口減少や過疎化、労働力不足といった課題を抱えており、こうした課題の解決が急務となっています。

徳島県も例外ではなく、少子高齢化率の高さを踏まえた課題をしっかり見つめ、課題解決のための体制作りに約40年ほど前から取り組んでいます。

「徳島県は現在人口が69万人、全国的にみると人口の少ない県で、15年間で10万人減っており、県の人口で言うと減少率は13パーセントにものぼります。

高齢化率も35%と全国4番目に高く、人口減少と高齢化が非常に進んでいます。このことは、地域社会においても産業界においても非常に多くの課題を抱えているということです。

若い働き手がどんどん県外に流出している状況ですので、雇用の創出とともに、リカレントやリスキリングで企業に貢献できる人材を育成する必要があります。

また、人がどんどん減っていく状況下では企業の業務の効率化も重要です。こうした複雑で多様化するニーズに応えるために、県内最大の総合大学として徳島大学が中心となって取り組んでいます」(田中氏)

徳島大学におけるリカレント教育への取り組み

このような背景の中、徳島大学はリカレント教育に関するポータルサイト「トクリカ」を立ち上げ、社会人が学び直しを行う機会を提供しています。

「昭和61年、地域における生涯学習の拠点として『徳島大学 大学開放実践センター』を設立しました。

リカレント教育を広く捉えると、社会人の学び直しという意味も含まれますが、『誰でも、いつからでも、学びたい意思があれば学べる』という生涯学習の考え方は、リカレント教育とも重なる部分があります。

大学開放実践センターでは、まずは生涯学習の推進という観点から38年間にわたって公開講座を中心にプログラムを提供してきました。この公開講座も、広い意味で言えばリカレント教育に当てはまります。

この公開講座の中には、例えば看護のOJT講座、フィットネス指導者のスキルアップ講座、英語や中国語の講座など、企業の従業員が仕事上で必要とされる能力を向上させるためのものも一部ですが含まれていました。

そして、令和元年度に開放実践センターと学内のセンター等を統合して『人と地域共創センター』(以下、当センター)を設立しました。当センターでは、生涯学習の拠点として多様な人材の学びの場を提供し、創造的な社会に貢献する人材の輩出とコミュニティの創生を目指しています

具体的には公開講座と、ものづくり産業における若手リーダーの養成を目指す「地域産業人材育成講座」(地域産業人材育成講座は今年度より、「とくしまビジネスリスキリングスクール」と名称を変え、内容も大きく拡充 )も当センターで運営・主管していくこととなり、地域における健康づくりの指導者やリーダーを育成することを目的とした、私が主任講師を務める『とくしま健康寿命からだカレッジ(地域の健康づくりの指導者育成のプログラム)の基礎課程・専門課程もスタートしました。

このように、人と地域共創センターではいくつかのプログラムが動いており、徳島大学のリカレント教育の中心拠点となっています」(田中氏)

トクリカ 公式HPより 人と地域共創センター

トクリカとは?

『トクリカ』とは、徳島大学が提供する社会人を対象に学び直しの機会を提供するポータルサイトです。

「この令和元年度のセンター統合によって、今まで行ってきた公開講座と地域産業人材育成講座が同一センターで運営され、『とくしま健康寿命からだカレッジ(地域の健康づくりの指導者育成のプログラム)』もできました。加えて徳島大学では他の部局でも様々な生涯学習や人材育成、リカレント教育を実施しております。

人と地域共創センターができるにあたり、リカレント教育の情報を一元化するために、徳島大学リカレント教育のワンストップ窓口としてできたものがトクリカです。

トクリカでは狭義のリカレント教育、つまり社会人が再び高等教育機関で学び直すという定義のものだけでなく、社会人の大学入学、大学院入学、科目履修生に関する情報も提供しており、徳島大学のリカレント教育に関する社会人のためのポータルサイトとして運用しています。

当センターで主管しているプログラムに加えて、『看護職のリカレント教育』である認定看護師の教育課程や医学系のリカレント情報、その他多彩なイベントや講座の情報も掲載しています。

トクリカに会員登録をすると、関心のある分野に応じた情報がメールで届く仕組みになっており、今後さらに会員数を増やしていきたいと考えています」(田中氏)

トクリカHPより

地域産業の人材育成を目的とした『とくしまビジネスリスキリングスクール』

ビジネス系の講座を組み込みながら発展

『とくしまビジネスリスキリングスクール』は、徳島大学が地域産業の人材育成を目的として運営するプログラムで、ビジネスやものづくりの分野に対応したカリキュラムを提供しています。

このプログラムは社会人の学び直しを目的としており、もともと「地域産業人材育成講座」として20年間続けられてきましたが、令和5年度にビジネス系の講座を立ち上げるとともに、今年度はさらにビジネス系の講座を強化し、「とくしまビジネスリスキリングスクール」として新たにスタートしました。

「昨年度より、ビジネス系の講座としてスタートした『エンゲージメントマネジメント講座』は、人本経営を目指すものです。

中小企業が多い徳島において、人本経営という考え方は重要視されていますが、なかなか普及していないというのが現状です。人本経営の定着を目指し、徳島の企業改革を進めていくことを目標に、エンゲージメントマネジメント講座やその発展講座も含め、今年度も継続的に取り組んでおります。

その他、カーボンニュートラル社会の実現に向けた『これからのビジネスに役立つサーキュラーエコノミー基本講座』など、経済経営系の講座も増設されています」(田中氏)

「とくしまビジネスリスキリングスクール」エンゲージメントマネジメント講座

企業から社員を派遣される形で行うリスキリング

リスキリングといえば、オンライン・オンデマンドで全国どこでも学べるような仕組みの教育機関が多い中、徳島大学は独自の学び方で企業と共に従業員のリスキリングに取り組んでいます。

「リスキリングは政府による政策のキーワードにもなっており、職業能力の再開発・再教育は、企業や社員にとって必須のものです。

リスキリングの学習方法はさまざまで、インターネットを通じて個人が行うものも多数開催されていますが、本学のリスキリングの講座は基本的に企業が会社の発展を目指して社員を就業時間中に派遣していただくことを前提にしています。

土日や夜間は特別な例を除き行っておりません。受講料も基本的には会社負担です。個人での受講者もいらっしゃいますが、中心は企業からの派遣者です。

これが本学におけるリカレント・リスキリング講座の特徴です」(田中氏)

「とくしまビジネスリスキリングスクール」見えない光活用入門講座

とくしまビジネスリスキリングスクール概要

2024年度に開講される講座は以下の通りです。

  • エンゲージメントマネジメント講座
  • 人を大切にする経営学講座
  • ビジネス学講座(経営学Ⅱ)
  • これからのビジネスに役立つサーキュラーエコノミー基本講座
  • トヨタ生産方式とIEから学ぶ生産管理講座
  • 新商品・開発のためのマーケティング講座
  • ゼロから学び仕事に活かせる3D-CAD講座
  • 光によるセンシング・イメージング計測技術講座
  • 次の時代を担うリーダー育成講座
  • 建設インフラDX講座ーGISとBIM/CIMー
  • Raspberry Piを使って学ぶロボットプログラミング講座
  • 基礎から始めるAIエンジニア育成講座
  • 優良企業の知恵を現地で学ぶベンチマーク視察

詳しくはこちらを参照してください。

とくしまビジネスリスキリングスクール2024パンフレット

例えば、エンゲージメントマネジメント講座は7月からプログラムが開始されていますが、まだ間に合う講座単体での受講やこれから提供開始となるプログラムもございます(2024年9月現在)。

参照ページをぜひご確認いただき、興味のあるもの、受講できるものがあるかどうかチェックしてみてください。

講座の形態は、1講座(1コマ)単位から3,000〜4,000円で受講できるもの、全コマ受講で7,500〜38,000円で受講できるものなど様々です。

全コマ受講(講座パックで受講)、または講座単位の受講申し込みはこちら

市民も含めた生涯学習を担う公開講座

幅広いジャンルの公開講座

『人と地域共創センター』では、地域社会に貢献するために幅広い分野の公開講座を提供しています。一般市民や社会人が対象で、講座の内容は、趣味・教養から専門的な知識まで幅広く、例えばリスキリングや技術の習得、歴史や文化に関するテーマなどもあります。講座は「春夏」「秋冬」の2期に分かれており、対面のみ・オンラインのみ・ハイブリッド形式(オンラインと対面で受講可能)で開催されています。

「当センターの公開講座は一般市民を対象とした講座も多いため、高齢者の方が多く参加していますが、一部職業人向けの講座も含まれています。趣味や教養、専門知識の習得を目的とした講座が中心で、その中で情報科学系の講座は主に他の部局の教員が担当しています。

過去には、Excelの基礎・応用や写真編集の講座等も開催しておりました。またパワーポイントのプレゼンテーション、AIやIoTに関連する講座も実施しており、昨年から話題となっているChatGPTの入門講座もスタートし、受講者の関心を集めています。入門講座に加え、応用講座も開講し、実際にChatGPTを活用する内容も行い、受講者の数も増えてきております」(田中氏)

※現在は秋冬の募集が終了していますが、2024年度の公開講座の詳細情報はこちら

ニーズに合った講座を開講

田中氏によると、最近非常に関心の高い情報技術系の講座の開講に関しては、人と地域共創センター内でのアイデアで開講されたとのこと。では、どのようにニーズに合った講座を開講されているのか、伺ってみました。

「基本的にはセンター内で教員会議を行い、次期の講座についてアイデアを出し合います。例えば、chatGPTの講座に関しては、実施する講座を決めてその分野に詳しい教員を探し、依頼するのが一つの流れです。

またもう一つ、大学全教員に対して公開講座の開設に関するアンケートを定期的に実施し、公開講座の役割と現状を伝えつつ、専門に基づいた講座設定の提案を受け付けています。

学生教育と研究を中心に活動されている先生方のアイデアを、これまで生涯学習やリカレント教育を行ってきた我々の方で精査し、このようにしたらどうかとか、タイトルはこんな形でとか、先生方と相談をしながら中身を作っていきます。

実際に中身そのものは先生方にお任せしておりますが、 提供方法や受講生からの見え方という部分については当センターの中で検討しながら講座を作っています」(田中氏)

長年に渡る継続は、高評価の証

人と地域共創センターでは、これまで行ってきた講座に参加された方や企業にアンケートを実施しているとのことです。

「地域産業人材育成講座を前身とする『とくしまビジネスリスキリングスクール』は、仕事に役立つ知識を習得するという一貫した目的のもとに開講し、今年で20周年を迎えます。

講座の内容は少しずつ変わってきてはいますが、受講者からのアンケートでは『参加して良かった』『次は後輩を派遣したい』との声が多く、徳島の企業の中で十数年間に渡り継続して企業から従業員を派遣される体制が整っています。

今後、これをさらに発展させたいというのが我々の目標ですが、徳島の産業において、従業員のリスキリングを推進するという取り組みは非常に前向きに続いています。

人本経営を徳島に根付かせる目的で、昨年度から取り組んでいるエンゲージメントマネジメント講座は、一般社員もいらっしゃいますが、昨年は企業の経営管理者層を中心に受講していただき、9割以上が非常に良かったという回答をいただきました

実際に学んだ人本経営に関して、『企業の中で体制を変えていくことに着手をした』『 女性の管理職を登用することを検討している』など、多くの会社の中の変革に繋がっているということがアンケートからも伺えます。このアンケートで評価の高かったものについてはさらに進めていく所存です。

公開講座に関しては広い定義でのリカレントで、高齢者の方々が人生をより豊かに生活していくために学ぶという形になっています。

当センターは、開設してもう30数年。長期に渡り当センターに来ていただいている受講生の方がたくさんいらっしゃいます。『ここに出会えたから今の自分がある』と大勢の方におっしゃっていただけており、 幅広い市民の方々に、このセンターの長い歴史で提供してきたものを肯定的に受け取っていただけている実感がございます」(田中氏)

学びについて具体的に相談できる「リカレント教育相談」を開設

徳島大学では、社会人が学び直しを検討する際の相談窓口として『リカレント教育相談』を行っています。

「リカレント教育相談は、前身の大学開放実践センターの生涯学習相談窓口を引き継いでいます。大学が外部に開放されることで、公開講座や社会人の入学など、外部の方が大学に来る機会が増えます。これまでにも、外部の方々を対象とした相談窓口は存在していましたが、実はあまり認識されていませんでした。

そこでトクリカを設立した際に、社会に向けて広くPRし、相談を受け付ける窓口としての体制を再度整えました。トクリカのサイト内では社会人の大学入学や大学院入学、科目等履修生等々の仕組みもご紹介していますが、もう少し詳しく聞きたいなどの相談に直接ご対応することができます。

具体的な相談内容としては、自分がどの先生に学べるか、どのような学習が可能かなど、ネット上の情報では把握しきれない部分についての相談が多く寄せられています。予約制で、相談があれば教員が対応する形です。

具体的な例を挙げると、学校の教員を退職後に大学院で臨床心理を学びたいという方が相談に来られ、臨床心理のどういう部分に関心があるのか伺い、専門の教員と繋いで対応しました。

また、かつて本学では日本語教師の資格プログラムがあり、現在は終了してしまっていますが関心があるとのことで、当時プログラムを担当していた教員の科目等履修ができないか、担当教員に橋渡しした事例もあります。

こうした相談に対して窓口になり、相談者がどのようなことに関心があるのかお聞きして、担当部署に繋ぐ役割を果たしています」(田中氏)

リカレント・リスキリングを一元管理できる組織の創設へ

徳島県において、40年近く大きな礎を築いてきた徳島大学のリカレント教育は、今後どのように進化していくのでしょうか。田中氏に伺いました。

「少子高齢化に伴う地域課題に対しては、総合大学としての徳島大学が一体となってリカレント・リスキリングに取り組んでいく必要があります

しかしながら、それぞれ部署や部局が進めている複数のプログラムの運営が完全には一体になっていないのが現状です。

今後は現在それぞれの部局で管理運営しているプログラムを一元管理し、受講料や単位の認定制度等を統一していくことを目標にしています。

さらに、本学で展開しているリカレント・リスキリングを一元管理する組織・機構を設立する構想があり、まだ具体的に進んでいるわけではありませんが、これが実現すれば地域のニーズと大学のシーズをマッチングさせて必要があれば他分野連携し、例えば農業とITの連携のような、一体化したプログラムを作っていくというようなことができるのではないかと考えています。

新たな組織を設立し、管理運営の効率化を図ることで、プログラムが充実して受講者が増えていき、地域の課題解決や地域産業の生産性の向上、雇用の創出等にも繋がっていくのではないかと期待しています」(田中氏)

小さなステップから学びをはじめて、次のステップへ

最後に、これから学び直したいと考えている読者の方にメッセージをいただきました。

学びは自分の可能性を広げ、高めるものです。逆に学ばなければ、その場に留まってしまいます。学び続ける方は、広がった場所のどちらにも自由に行ける、そしてより高いところにも行ける、そういう可能性を持っていると思います。

学び続けて、例えば5年前の過去の自分を振り返ってみると、ご自身の歩んでこられた成長過程を実感できるのではないでしょうか。

また、学びは連鎖し、1つの学びが次の学びに繋がり、また別の分野の学びへと繋がっていきます。

これは、私が生涯学習やリカレント教育で多くの方々と接して感じた実感です。

実際に公開講座を受けた方で、生涯学習研究院(専門領域を決めて生涯学習の範囲の中で2年間学ぶシステム、現在は終了)になり、大学院に進んだ方も中にはいらっしゃいました。

また、ご自身の健康づくりのために受講された方が、1つの講座から複数の講座受講に発展し、『とくしま健康寿命からだカレッジ(地域の健康づくりの指導者育成のプログラム)』の基礎課程、専門課程に進み、実際に地域の中で有料で健康指導をされるようになった方もいらっしゃいます。

これから学び始めようとしている方は、ぜひまずは小さなステップから始めてみてください。それが将来に繋がる大きなステップになるでしょう。」(田中氏)

まとめ

徳島大学の「トクリカ」は、社会人の学びの機会を提供するだけでなく、地域産業の発展や地域課題の解決を目指しています。

 「とくしまビジネスリスキリングスクール」などのプログラムは、主に企業からの社員派遣という形で行われ、徳島県の産業に必要なスキルや知識を実践的に学べる場を提供しており、企業と一緒に地域課題を解決するという強い思いを感じます。

また生涯学習という観点から見ても、公開講座から複数講座受講へと学びをステップアップさせ、キャリアアップやスキルアップを図る方もいらっしゃいます。ビジネス系の講座も個人での受講も可能ですので、ご興味のある方はリカレント教育相談を利用し、学びの小さな一歩を踏み出してはいかがでしょうか。

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