自分で確定申告をするならどこまで? 税務調査のきっかけは? | 起業の悩みやお金のことを専門家に聞く

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個人事業主として起業するときまず気になることは、開業届の提出や、経費、領収書、確定申告などお金の問題が挙げられます。雇われて働くときとちがって自分で全てを行わないといけないので、疑問や悩み、トラブルが多くなりがちです。

今回の記事は、開業や確定申告などお金のことに関する女性限定の勉強会を立ち上げた美鈴さんに、開業するときに気になることやお金についてお聞きしました。

自分で確定申告する人を応援したくて、勉強会を立ち上げる

小学生姉妹のママでもあり、お片付けや整理収納のコンサルタントでもある美鈴さんは、ご自身の独立開業の経験や、金融機関の勤務経験、経理や簿記の知識を活かされて、個人事業主やこれから起業を考える方の頼れる味方となっています。

自力での確定申告を諦める理由は、難解な専門用語

コエテコ編集部(以下編集部) 勉強会にはどんな方が参加されますか。

美鈴さん 参加者は女性限定で、勉強会にはレストランオーナーやお菓子教室の先生、ハンドメイド作家、Webライター、ライフオーガナイザーのようなお片付け・収納の専門家など、いろいろなお仕事の方に参加していただいています。昨年にはオンライン講座の講師に挑戦している方も来ました。本業として起業されている方、別のお仕事を持ちながら副業として活動している方、どちらもいらっしゃいます。

編集部 勉強会を始めたきっかけを教えてください。

美鈴さん いろいろありますが、最も大きなきっかけは確定申告に関する税理士への相談会に参加して驚いたことです。私の他に参加者が4人いましたが、その4人全員がそのまま税理士に確定申告を依頼してしまって、びっくりしました。

編集部 美鈴さん以外の4人は、自力で確定申告することをギブアップしてしまったということですか。

美鈴さん そうなんです。4人のうち1人は、人を雇って大規模に事業展開している様子で、書類作成もいろいろ面倒だし仕方がないかなとも思います。

しかし残りの3人は売り上げもそれほど高額でもなさそうだし、自分一人で働いているようでしたから、「申告書類帳簿の準備、領収書の整理だけなら、税理士にお金を払う必要がないのに」と感じました。

編集部 美鈴さんはもともと簿記の知識をお持ちで、金融機関や経理部に勤務経験があったから自力で確定申告ができたのでは。

美鈴さん おっしゃるとおり、私は知識も経験もあったから、専門用語を怖がることはありませんでした。法人ならプロの力を借りたほうがスムーズです。しかし、個人事業主ならある程度の規模までは自分一人で確定申告できると思います。

女性で経理の経験がなくて起業した方・起業を検討する方の疑問を解決することで確定申告開業への挑戦を応援したいと思い、勉強会を始めました。

編集部 特に起業したての時は、自分でできることは自分でおこなって、出費は抑えたいですね。

特別控除55万円の手前なら、自分で確定申告することはむずかしくない

編集部 確定申告を自分でおこなうか、税理士に依頼するか、見極めるポイントを教えてください。

美鈴さん 開業届を提出し、青色申告特別控除55万円*のために貸借対照表を作成するなら、税理士に依頼するメリットはあると思います。勘定科目が増えますし、棚卸し仕入れの金額の整理が複雑だし、損益計算書と金額を合わせるなど、作業に手間がかかるからです。

編集部 逆にいうと、特別控除55万円に至る前なら自分でできるかもということですか。

美鈴さん 特別控除55万円の手前なら、経理の知識や確定申告の経験もない初心者でも大丈夫だと思いますよ。白色申告なら開業届を出す前も後も、青色申告でも特別控除10万円までなら、怖がることなく挑戦して欲しいです。

編集部 青色申告だけなら自分で申告できるんですね。特別控除55万円の手前でも青色申告にするメリットってあるんですか。

美鈴さん 勉強会でも、多くの人が青色申告にするかしないか迷っています。私が迷う方に一番強くお伝えすることは、赤字3年間繰り越せる点です。白色申告だとその年限りで繰り越せません。

*青色特別控除とは、所得金額から最高65万円、55万円、又は10万円を控除できるという制度です。

開業届は税務署に相談しながら作成できます

編集部 青色申告もですが、開業届に尻込みする方もいるのではありませんか。

美鈴さん 「開業届を出す」というと敷居が高いと感じる方が多く、勉強会の参加者の皆さんも迷いがちです。開業届はそれほどむずかしいものではないから、安心して挑戦して欲しいなと思っています。

開業届の用紙は国税庁ウェブサイトでダウンロードできます。書き方が分からなければ、提出先の税務署に聞けば教えてくれますから、まずは分かるところだけ書きましょう。印鑑マイナンバーカードを持参して税務署に行って、相談しながら書き上げれば提出できますよ。

青色申告を考えているなら、開業届と同時に青色申告承認申請書を申請しましょう。帳簿は最低限必要な「現金出納帳」「経費帳」「預金出納帳」を準備すれば大丈夫です。

編集部 メリットもありますし、自分の仕事を大きくしたい方には是非チャレンジして欲しいですね。

開業届と青色申告・白色申告の違いについて、こちらでも紹介しています。

https://college.coeteco.jp/blog/archives/5873/
https://college.coeteco.jp/blog/archives/5516/
https://college.coeteco.jp/blog/archives/5879/

確定申告とお金の疑問や悩み、トラブルについて

専門用語、勘定科目、経費に関する疑問・悩みが多い

編集部 美鈴さんの勉強会に参加する人はどんなことに悩んでいますか。

美鈴さん やっぱり多い疑問は、専門用語です。勉強会開催後にアンケートで感想をお聞きすると、「本を読んでチンプンカンプンだった。勉強会で具体的に教えてもらえてありがたい」という意見が多いです。

先ほどの税理士への相談会で自力での確定申告を諦めてしまった方々も、言葉が分からないと嘆いていました。

編集部 私も、最初は「勘定科目ってなんですか?」とドキドキしました。

美鈴さん たくさんの勘定科目があるから不安になりますが、全部使う必要はありません。個人で開業した方なら、使用する勘定科目は限られています。勉強会では実際に申告書を見ながら、この勘定科目は必要、これは気にしなくていいと説明しています。

勘定科目はどれに当てはまるのか、何を経費にできるのか、どこまで経費にできるのかという質問も多いです。実際の決算書を見ながら、それぞれの項目の内容や記入の仕方を説明します。

編集部 経費について、どんなことを聞かれますか。

美鈴さん プライベートでも使用する自動車の購入代金や家族のスマホの使用料金など、家族も使うものについてよく聞かれます。私的利用もある自動車の購入代金は、半額まで減価償却ができるとお伝えしています。スマホは個人事業主なら本人の1台まで、自動車保険自動車税も計上可能です。

経費計算と、仕事でも家庭や生活でもつかうものを経費に計上する際に割り振ることである家事按分については、こちらでも紹介しています。

https://college.coeteco.jp/blog/archives/6053/

領収書の整理は後回しにせずに、定期的にやろう

美鈴さん 勉強会の参加者を対象に、領収書整理の会を開催しています。参加者それぞれが領収書を整理しながら、私にその場で質問したり、情報交換をおこなったりします。

きっかけは、勉強会の参加者から「領収書の整理は面倒だからやる気が出ないし、疑問はすぐにその場で解決したい」との意見が多かったことです。勉強会を始めた直後から、領収書整理の会もスタートしました。

編集部 領収書の面倒な整理は後回しにしがちですね。

美鈴さん 確定申告直前に慌てないように、領収書整理の会は定期的に、3か月ごと開催にしています。参加者の中には「私はこの領収書整理の会でしか、作業しない」と決めているリピーターも多いですよ。

この会には同じように起業してがんばっている女性が集まるので、お金や仕事のことを情報交換しやすいです。誰かの疑問が自分の参考になったというケースは多いですよ。

編集部 同じように個人でがんばっている個人事業主なら、同じようなことを疑問に感じたり困ったりしているかもしれません。

美鈴さん 情報交換も有意義ですが、マンツーマンで領収書整理の会を開催してほしいという要望も多いんです。

編集部 後回しにしたくなる面倒なことでも、頼りになる人と約束があれば、「がんばって整理するぞ!!」と背中を押されてやる気が出そうですね。

収入印紙は売り主の責任、税務調査のきっかけが同業者からのタレコミの場合も

編集部 参加者の方が困っているトラブルはありますか。

美鈴さん 領収書に収入印紙を貼ってくれなかったと悩む方がいます。

現金で5万円以上支払った場合には、売り主には領収書に収入印紙を貼る義務があります。もし貼ってくれなくても、支払い側にはペナルティはありません。収入印紙は売り主の責任なので、そのままにしていいと伝えています。

これはトラブルとは違うかもしれませんが、ある業界では同業者からのいわゆる「タレコミ」で税務調査が入ることがよくあるそうです。「え、あなたも?!」「私もそういう話をよく聞きます」って、参加者さんの間で話題になりました。

評判がいいと、やっかみやねたみがあるみたいですよ。ウェブサイトやSNSで人気や繁盛の様子も伝わってきますし、料金を計算すればいろいろ想像できてしまうからでしょうか。

編集部 税務調査のきっかけが同業者からのタレコミって怖いですね。
本を読んでも分からないことの解決方法を教えてください。

美鈴さん 税務署に電話してみましょう。

税務署に訪問して相談することもできますが、愛想よく丁寧にこたえてくれる方とそうでない方の差が激しいと感じます。電話だと、比較的優しく答えてくれるので、まずは電話してみることをおすすめします。

編集部 税務署に質問していいんですね。税理士に依頼するのもいいですが、まずは自分で挑戦しつつ、困ったら電話してみます。

最後に、起業や開業をした方、これからしようとする方にメッセージをお願いします。

美鈴さん やりたい夢があるなら、迷わず起業してほしいです。お金のことは先をいく起業家の先輩に遠慮なく質問してもいいと思っています。

編集部 お金のアドバイザーであり、起業家の先輩でもある美鈴さんならではのお言葉ですね。本日はありがとうございました。

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開業やお金のことは分からないことが多くて当たり前!! まずは税務署に相談しよう

開業のこと・お金のことは、知識や経験がないと用語がむずかしく複雑で分かりにくいものです。疑問や悩みを抱える個人事業主は少なくありません。特に開業したての頃は、分からないことが多いのが当たり前ともいえるでしょう。

困ったときは、開業届や確定申告を担当する税務署にまずは相談してください。同じように個人事業主で活躍する方に解決方法を聞くのもいいですね。難解で面倒な点もありますが、自分らしく働くために開業やお金についてクリアにできるように取り組んでみませんか。

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