病院やクリニックなどの医療機関では、診療記録や医療情報は一定期保存されることが法律で定められています。こうした記録を適切に管理し、整理や分類、保護する役割を担う診療情報管理士という資格があります。
専門的な知識やスキルが必要な診療情報管理士は、IT化が進む医療機関において需要の高い職業として近年注目を集めています。資格取得を目指し、有効な試験対策について知りたいという方も多いのではないでしょうか。
この記事では医療系資格保有者で病院勤務経験のある筆者が、診療情報管理士の仕事内容やメリット、試験内容や難易度、試験対策に使える勉強法をわかりやすく解説します。
診療情報管理士の仕事内容
おもな仕事はカルテ情報の管理
診療情報管理士のおもな仕事は、カルテの情報を精査し、記録や管理・運用することです。医師の診療内容、検査や看護の記録などを、国際疾病分(ICDコーディング:疾病をコード化してまとめることで、データの収集・分析をしやすくするためのもの)にしたがって整理し、データベースへ登録します。
また、ほかの仕事には以下が挙げられます。
- がん登録
- サマリーの未記入分の作成依頼
- 診療録点検報告書の作成
- DPC (包括評価制度:Diagnosis Procedure Combination)
がん登録とは、がんの罹患に関することや経過など、患者さまの状況を登録し、分析する仕組みのことです。がんに関する情報をデータベース管理することによって、がん対策の立案や評価へと役立てられます。
また、サマリーとは、入院中や退院後の看護の経過や状態の記録を要約した文書のことで、全ての医療スタッフが的確に情報共有するために必要なものです。未記入のサマリーがある場合は医師へ作成を依頼する必要があります。
診療録点検報告書は、退院サマリー作成率や、診療録の点検などの統計情報をもとに作成し、診療録管理委員会で報告したり、院長へ提出したりします。
DPCとは、包括医療費支払い制度方式のことで、従来とは異なる医療費の計算方法です。厚生労働省が定めた「傷病名」と「診療行為」の組み合わせにより、1日あたりの入院費が決定します。
実際の業務に関しては、こちらの本を参考にすると良いでしょう。サンプルの目次を見ると、実際にどのような知識が必要なのか概略がわかります。
医療事務との違い
病院で働く事務系の職種に医療事務があります。医療事務は、診療報酬(医療費)を計算し、患者さまや保険者に請求したり、受付対応、カルテの準備、事務作業全般等を担うのが仕事です。
診療情報管理士と医療事務は、求められるスキルが違います。医療事務は医療保険制度の専門知識や医療機関の顔としてコミュニケーションスキルが求められますが、診療情報管理士はPC業務が主な仕事になるので、情報処理能力やITスキルが重要視されます。
メディカルアシスタントとの違い
また、診療情報管理士のように事務業務で医療を支える職種にメディカルアシスタントがあります。医師事務作業補助として、医療クラークやメディカルクラーク・ドクターズクラークと言われることもあります。
メディカルアシスタントは、診断書や診療情報提供書などの医療文書の作成代行や電子カルテの入力代行など、医師のPC入力の補助など事務的な作業がメインです。診療情報管理士のような専門性のある情報処理能力やITスキルを必要としない場合が多く、一般的なPCスキルがあればメディカルアシスタントとして就業可能です。
メディカルアシスタントの詳しい仕事内容や資格などは、こちらの記事を参考にしてください。
https://college.coeteco.jp/blog/archives/7427/
診療情報管理士として働くメリット
将来性に期待できる
診療情報管理士には、高い将来性が期待できるというメリットがあります。近年、カルテの電子化など医療現場においてもIT化が推進されています。
DXの波は病院にも影響を与えています。前述のとおりカルテ情報がデータベース化され、その情報の利用は病院内にとどまらず、日本国内・全世界で活用されるようになりました。
電子カルテの普及率は年々上昇しており、厚生労働省のデータによると令和2年の時点で一般病院の普及率は57.2%、病床数が400床以上の病院では91.2%、一般診療所でも49.9%となっています。(参照:電子カルテシステム等の普及状況の推移)
病院内の業務では、より専門性の高い知識とスキルが求められます。診療情報管理士は将来性が高く、継続的な求人が見込まれるでしょう。
医療機関に専任の診療情報管理者がいることで、患者1人につき診療報酬が加点される診療録管理体制加算制度(2年毎に制度の見直しあり)があります。医療施設の経営にも関わってくるため、診療情報管理士の需要は高いと言えます。
ワークライフバランスが取りやすい
診療情報管理士は一般的に夜勤がないため、プライベートの時間を確保しやすいというメリットもあります。日中をメインに働き、夜は家族との時間をゆっくり過ごすことも可能です。
仕事面においても専門性が高いため、知識やスキルを高めていくことで、仕事に対するやりがいを見出せるでしょう。
診療情報管理士の雇用形態・年収
診療情報管理士の主な就職先としては、病床数の多い総合病院や大学病院等です。雇用形態としては、就職先にもよりますが正社員だけでなくパートタイマーやアルバイトなどの非常勤、派遣社員や契約社員としての求人もあるようです。
求人サイト等の統計によると、診療情報管理士の平均年収は300万円〜400万円前後と推定されます。
診療情報管理士の資格受験に関する概要
診療情報管理士の資格の概要、受験資格などを解説します。
診療情報管理士は民間資格
診療情報管理士は、1972年に日本病院会が診療録管理士の養成を通信講座で開始し、その後1996年に診療情報管理士へと資格名が変更されました。
診療情報管理士は民間資格であるため、資格を有していない方でも診療情報の管理自体は可能です。しかし、有資格者であれば所持している知識やスキルを証明できるため、就職や転職で有利になるというメリットがあります。
受験資格が必要
診療情報管理士になるためには、日本病院会が実施する診療情報管理士認定試験に合格する必要があります。ただし、認定試験の受験資格を得るには、以下の2つのルートがあります。
- 日本病院会が指定する大学もしくは専門学校を卒業→認定試験
- 大学や短期大学を卒業→日本病院会が実施している2年制の通信講座を修了→認定試験
2023年4月1日現在で、指定大学数は18校、専門学校数は42校です。診療情報管理士の試験対策講座を単位に組み込んでいる大学もあるため、必要に応じて選ぶとよいでしょう。
ただし、最終学歴が高卒であっても、現在病院に勤務している場合は、通信教育の受講が当分の間可能です。通信教育は、基礎課程が1年、専門課程が1年の合計2年ですが、医師や薬剤師、視能訓練士など指定の資格に該当する場合は、専門課程への編入もできます。
診療情報管理士の試験対策!試験内容と合格率は?
診療情報管理士の資格取得に向けて、試験内容と合格率について解説します。試験対策としても、しっかりとチェックしておきましょう。
試験問題は2つの分野から出題
診療情報管理士の試験問題は、基礎分野と専門分野の2つの分野から出題されます。
基礎分野では、「臨床医学総論」や「臨床医学各論Ⅰ」など臨床医学に関する科目が多く、専門分野では医療管理や診療情報管理に関する科目が多いことが特徴です。2つの分野とも、12章の設問にそれぞれ1時間の試験時間が設けられています。
出題範囲が広く専門性も高いため、事前の試験対策をしっかりと行ったうえで試験に臨む必要があります。
試験は、マークシート方式で解答し、合格基準点は各分野100点満点に対して60点以上です。ただし、医師や歯科医師、理学療法士など対象となる資格を持っている方は、申請すると基礎分野の試験を免除してもらえます。
試験会場は全国各地に設けられ、例年2月に年1回開催されています。2024年は2月11日に第17 回『診療情報管理士』認定試験が開催され、実施要項によると受験料は1万円(税込)です。
近年の合格率は40~60%台
診療情報管理士の近年の合格率は、40〜60%台です。2022年度に開催された試験の合格率は66.7%、2023年度は以下の通りです。
2023年度(第16回)
- 受験者数:2,457人
- 合格者数:1,622人
- 合格率:66%
なお、同じ医療事務系の民間資格である医科医療事務管理士®は毎月開催され、合格率は80%前後です。
医科医療事務管理士®と比較すると診療情報管理士認定試験は合格率がやや低いですが、資格取得の難易度は比較的高いといえるため、事前にしっかりと試験対策をしておきましょう。
診療情報管理士の試験対策におすすめの勉強法
ここからは、診療情報管理士の試験対策としておすすめの勉強法を紹介します。
ポイントや図を書き込む
テキストなどを用いた学習を進める際は、重要なポイントや図、表などを書き込みながら学習するとよいでしょう。あとで見返しやすいように要点をわかりやすく整理しておけば、効率よく知識を定着させられます。
また、間違えた問題に対して目印をつけておくと、自分が苦手とする問題を重点的に復習できます。最終的にはテキストへ記載されている問題をすべて克服することで、有効な試験対策となるでしょう。
語呂合わせで覚える
語呂合わせで覚える方法を活用することで、効率的な暗記が可能です。特に、診療情報管理士の試験科目の一つである国際疾病分類は全22章と試験範囲が広いため、語呂合わせの暗記が活きてきます。
国際疾病分類(ICDコーディング)とはWHOが作成した統計分類のことで、疾患やケガの状態などが、アルファベットと数字のコードによって表されています。例えば、「Eコードは栄養のE」など語呂合わせで覚えることで、スムーズに暗記できるでしょう。
その他の暗記法としては、キーワードを関連づけながら覚える方法も試験対策としておすすめです。
参考書を使う
診療情報管理士の試験対策に特化した参考書として出版されている本は、そう多くはありません。
ただ、診療情報管理士を目指す人にも、病院で働いている人にも、実際の仕事内容がよくわかると多くの人が紹介している本がこちらです。資格取得の参考に使っている方も多いようです。
試験前は模擬試験を解く
診療情報管理士認定試験は、過去問が公開されていません。試験対策アプリも2024年1月現在ではまだないようです。よって、模擬試験を解くことで実際の試験を想定した勉強をすることが重要です。
模擬試験は、頻出問題や予想問題をメインに構成されているため、効率的な学習ができるというメリットもあり、自分の得意分野や苦手分野も把握できます。
特に試験の1週間前を迎えたあたりから、模擬試験を繰り返し解くことに専念するとよいでしょう。試験の直前に新しい学習をはじめても、焦りを招いてしまい、勉強が思うように捗らない可能性が高いためです。
どの時期にどのような勉強をしたら良いかしっかりと学習計画を立てて、試験の合格を目指したいですね。模擬試験を販売している資格取得のためのサイトもあるので、検索してみてください。
まとめ
診療情報管理士の試験対策となる勉強法や、メリットを以下にまとめます。
- 試験は2つの分野から出題され、近年の合格率は40~60%台
- 試験対策には、ポイントや図を書き込んだり、語呂合わせで暗記したりする勉強法、模擬試験等がおすすめ
- 診療情報管理士の試験対策に特化した参考書の種類は少ないが販売はされている
- カルテ情報の管理・運用がメインとなる仕事で、ワークライフバランスも取りやすい
診療情報管理士の役割は、医療現場のスムーズな運営や患者の安全を支え、医療サービスの質の向上に寄与しています。業務を通じて、医療からITまで幅広い知識とスキルを身につけられるため、やりがいを感じながら長く働けるでしょう。
診療情報管理士の試験合格を目指す方は、今回の試験対策もぜひ参考にしてみてください。