(取材)地方で働く魅力を伝えたい!|厚生労働省の「LO活(Local+就活)」プロジェクト

「自分のペースで生活したい」「自分らしく働きたい」「自然豊かなところで子育てしたい」「地元に貢献する仕事がしたい」

こうした思いから地方での就職を考えてはみたものの、「何から手をつけたらよいのかわからない!」「地方での暮らしに本当にメリットはあるの?」……そんな不安や疑問を感じている学生や社会人の方は少なくないのでは?

そんな若者たちに向けて厚生労働省が立ち上げたのが、地方での就職を目指す若者を支援する「LO活(Local+就活)プロジェクト」。地方就職に関する情報を幅広く提供しているだけでなく、プロの相談員のサポートを無料で受けることもできる画期的な取り組みです。

注目のLO活プロジェクトについて、厚生労働省 職業安定局 地域雇用対策課の鯉沼真衣氏と宮澤藍子氏、事業委託先であるパーソルテンプスタッフ株式会社の方々にうかがったお話をまとめました。

「LO活」とは?

LO活」(Localと就活を組み合わせた造語)とは、地方就職を考える若年層を応援する厚生労働省のプロジェクト。地方創生の取り組みの一環として、2015年度に委託事業としてスタートしました。

その背景には、少子高齢化による人口減少が深刻化する中、地方から都市部への人口流出が加速し、地方での人手不足や過疎化が大きな問題となっていることがあります。

総務省の調査によると、2023年に転出超過となった自治体は、47都道府県のうち41道府県。特に、若年層の東京圏(埼玉県、千葉県、東京都、神奈川県)への転入はとどまるところを知りません。新型コロナウイルス感染症の影響により、2020年7月に東京圏は集計開始以来、初めて転出超過に転じたものの、現在は再びコロナ禍前と同水準の転入超過に戻りつつあります。

一方で、東京圏で暮らす人々の間では、地方移住への関心の高まりが見られます。認定NPO法人「ふるさと回帰支援センター」が2024年3月に公表した移住相談件数の推移データによると、2023年の相談件数は約6万件と、2008年からの16年間で過去最高に。そのうち、20〜30代の若年層は4割にものぼります。

こうした潜在的な地方就職希望者を掘り起こし、地方の魅力や支援策を発信し、地方就職へつなげるためのさまざまな支援を行うのがLO活プロジェクトの役割です。

「東京圏と大阪圏(滋賀県、京都府、大阪府、兵庫県、奈良県)において、若者の間で地方への就職が就職活動の選択肢の一つとなるよう普及させるとともに、地方就職希望者のハローワークへの誘導、受け入れ先である地方企業への情報提供などを行うことを通じて、地方求人へのマッチングにつなげていく。それにより、地方で働く若者を増やし、地域雇用の活性化を図ることを目指しています」(鯉沼氏)

「若者が地方で就職しなかった理由として最も多く挙げられるのが、『やりたい仕事や働きたい会社が東京圏・大阪圏にしかなかったから』というもの。これは実際に地方に魅力的な会社がないわけではなく、情報が行き届いてないことが一つの要因です。地方就職というと、『ワークライフバランスを実現しやすい』『田舎でのんびり暮らす』というイメージが強調されがちですが、地方にも魅力的な会社はたくさんあり、若いうちから責任ある仕事を任されてバリバリ働いている方も多くいらっしゃいます。そんな風に、地方でも刺激的な働き方ができるということを広く知ってほしいと思っています」(宮澤氏)

LO活プロジェクトの取り組み

LO活プロジェクトでは、厚労省、全国46の自治体(道府県)、東京圏・大阪圏の約200の大学・短大・専門学校による地方人材還流促進協議会を設置。LO活プロジェクトが自治体と学校のパイプ役となって課題や情報の共有などを行うとともに、以下のような取り組みを実施しています。

潜在的地方就職希望者の掘り起こし・動機付け

セミナー、イベント、個別相談などによる潜在的な地方就職希望者の掘り起こしのほか、自治体の就労体験事業などへ地方就職希望者を送り出し、地方就職に向けた動機付けをするといった取り組みを実施。

早期からの就職ニーズの把握、就職の準備が整った地方就職希望者の新卒応援ハローワークなどへの誘導も行う。

地方就職に役立つ情報の収集・整理・提供

自治体や学校から地方就職・生活関連情報を集約し、ウェブサイトやSNSなどを通じて、地方就職を希望する学生・社会人に提供。地方の求人企業に対しても、求人情報を発信するためのツールや助成金などの支援策に関する情報をウェブサイトを通じて提供している。

学校内でのセミナーの開催、地方就職相談会のコーディネート

対面またはオンラインにて、地方就職を希望する学生に地方就職のノウハウを伝える学内セミナーを開催。2023年度には東京圏・大阪圏で計213回実施し、5,135人が受講。

社会人向けには、キャリアアップの選択肢の一つとして地方就職を捉えられるような内容のオンラインイベントを年2回開催。例えば、2024年6月には「〜社会人になりたくなかったキミへ~キャリアプランの沼から脱出せよ」というタイトルのセミナーを実施し、期間限定でアーカイブ配信も行っている。

また、自治体・学校の間をつなぎ、各自治体担当者参加型の地方就職希望者向け相談会の運営を支援。オンライン相談会にも対応し、2023年度は71回実施。

専任の相談員による無料の個別相談を実施

専任の相談員が学校や対面・オンラインなどで地方就職希望者との個別相談を実施。個人の状況に応じて必要な情報を提供し、自治体のUIJターン相談窓口やイベント、ハローワークに誘導。

地方への移住関連情報の提供・相談支援の一元的な窓口として総務省が開設した「移住・交流情報ガーデン」で自治体が実施する就労体験事業などに関する相談などに対応。

このように、地方就職の促進には地方就職希望者への支援だけでなく、受け入れ側である自治体や地方企業の理解や工夫も求められるため、多方面からの支援を行っています。

LO活サイトでの情報発信

LO活プロジェクトでは、地方での就職を希望する個人、UIJターン者の採用を考えている地方企業などの対象別に3つのウェブサイトを開設。

若年層を対象としていることもあり、主にウェブサイトやSNSなどを通じて積極的に地方就職に関する情報を発信しています。昨年度からはYouTubeチャンネルを開設し、地方就職のお役立ち情報を紹介するなど、若者のニーズに合った形での情報発信に努めています。

LO活-Local+就活

LO活-Local+就活は、LO活プロジェクトのメインサイト。東京圏と大阪圏に居住する学生を含む35歳未満の若者を対象に、以下のような地方就職を目指す上で参考になる情報を掲載しています。

  • 道府県別の企業紹介サイト一覧
  • 道府県別の就活支援情報(就職支援機関、就活交通費助成、奨学金返還助成など)
  • 地方就職関連のセミナー・イベント情報(道府県主催の企業説明会、LO活主催の就活ガイドなど)
  • 地方就職のノウハウ
  • 地方就職に関するインタビュー・対談、記事

利用登録(無料)をすると、関心のある自治体を最大3つ登録でき、そのエリアの情報をメールで受け取ることも可能。これほど幅広い情報を一元的に提供できるのは、官公庁が運営するサイトならではといえるでしょう。

さらに、本サイトから地方就職に関する無料のオンライン個別相談に申し込み、地方就職専門の相談員に悩みを相談することもできます。

LO活-think

LO活-thinkは、仕事や生活に漠然とした不安・不満を感じ、自分らしく働きたい・暮らしたいと思っている、東京圏と大阪圏に居住する35歳未満の若者を対象としたサイト。モヤモヤの原因を探る自己診断などモヤモヤ解消に役立つコンテンツを掲載しているほか、オンラインで個人の悩みに応じた無料相談も実施しています。

地方就職を考えていない人に向けて、「地方就職を含めて環境を変えることを視野に入れてみよう」と行動を促すこともねらいとしています。

LO活 for company

LO活 for companyは、地方企業のUIJターン者採用を支援するサイト。地方就職の促進のみならず、深刻化する地方企業の人材不足対策としても有用であるUIJターン者採用に役立つ情報を掲載しています。

助成金・補助金などの支援制度の紹介、UIJターン者が働きやすい環境づくり、採用ノウハウ、地方企業の採用成功事例、採用Q&Aなどの情報を発信しています。

LO活プロジェクトの成果と実績

LO活サイトの2023年度の登録者数は、前年度からの継続利用者も含めて約4万人。そのうち、新卒や既卒など就職活動を行っている方々に年に3回、フォローアップ調査を行っており、2023年度には1,200人の方が地方での就職に成功しています。

この成功を陰で支えているのが、LO活プロジェクトの相談員のみなさんです。相談員は東京事務局、大阪事務局のそれぞれに常駐し、担当制で地方就職希望者の支援にあたっています。LO活では企業とのマッチングは行っていませんが、相談員は地方就職希望者の伴走者となり、継続的な情報提供や選考対策などの手厚いサポートを実施しています。

LO活プロジェクトには、学生や社会人の利用者から、「早い段階でたくさんの情報を得られた」「自分の人生を考える上での視野を広げてもらった」「LO活の適性診断で自分の性格を分析できた」「面談や論文の添削等、就職活動をサポートしてくれた」といった喜びや感謝の声が寄せられています。

そんな支援の一例を パーソルテンプスタッフの方にご紹介いただきました。

東京事務局の支援事例 Iターン就職(東京→京都)

対象者は、東京都出身で千葉県の大学に進学したAさん。大学3年生の1月、移住関連イベントで、出展していたLO活プロジェクトと出会いました。

旅行好きで世界遺産に興味があり、それらに関われる観光業に就きたい、地方で納得のいく就職活動をしたい、と考えていたAさん。相談員は、その思いを受けて個別相談を重ね、さまざまな地域の企業への就活を行うAさんに対して、LO活主催のイベントの活用を促すなどのサポートを続けました。最終的に、Aさんは京都の旅館への就職を決めることができました。

大阪事務局支援事例 Iターン就職(東京→宮城)

対象者は、東京都出身で兵庫県の大学に進学したBさん。大学3年生の冬、LO活主催のイベントに参加したことを機に、個人相談を受けるようになりました。

Bさんはアナウンサー を目指して就職活動をしていましたが、人気職種であるだけに倍率が高く、苦戦していました。そこで、相談員はアナウンサー業に通じる要素のある他の業種や職種へ視野を広げる方法の指南、ES添削、面接対策などの支援を実施。結果、Bさんは宮城県の球団職員の内定を勝ち取りました。

社会人の地方就職支援

社会人の地方就職を支援する割合は学生と比べると少ないものの、社会人専門の相談員がしっかりと対応してくれます。

社会人が地方就職を目指す理由は、「島暮らしに憧れる」「地元に帰りたい」「田舎暮らしを検討している」「のびのびと子育てしたい」などさまざまですが、主な悩みは「移住先で就職するにはどうすればよいか?」ということ。また、社会人は転職のタイミングが一様ではないため、学生に比べて長いスパンで支援を受けたのちに地方就職をする方が多いそうです。中には相談対応が7年目に入っている方もいるのだとか。

地方への移住や転職を決断することは簡単ではなく、家族ができればなおのこと検討や準備に時間が必要です。そんな時、LO活の相談員のみなさんは心強い味方になってくれるでしょう。

地方就職を人生の選択肢の一つに

2024年度に10年目を迎えたLO活プロジェクト。今後、どのように進化していくのでしょうか。 鯉沼氏と宮澤氏に伺いました。

「今後はデジタル媒体での情報発信を行いながら、対面での支援はもちろん、オンラインでの個別相談やイベントを今以上に活用してもらえるような工夫をしていきたいと考えています。例えば、先日オンラインで実施したLO活主催の学生向けイベントは、相談員が就活対策をトークライブ形式でお伝えするもので、チャットで質問や個別相談の予約を受け付けていました。実際に相談員の方の話ぶりを見たり、チャットで個別相談の申し込みができたりすることで、相談へのハードルが下がるのではないかと期待しています」(鯉沼氏)

また、協議会の会員や他団体との連携をさらに強め、UIJターンを考えている若者と、自治体の窓口やハローワークとをつなぐ役割をよりしっかりと果たすことも重要であると考えています。

「現在、ハローワークでは業務のデジタル化が進められています。特にタイパを重視する若い世代のみなさんは、オンラインで相談を済ませたいといった要望が強いと思いますので、ハローワークでもオンライン支援の充実を図り、利用を推進していきます」(宮澤氏)

このほか、冒頭で述べたように「地方にも魅力的な企業はある」「刺激的な働き方ができる」と伝えることの必要性も強く感じていると両氏は言います。こうした地方就職の実情を知れば、今は地方就職を考えていない若者も、自分にマッチした働き方を都市部ではなく地方で見つけることができるかもしれません。

「潜在的な地方就職希望者を掘り起こし、本当に自分に合った働き方、暮らし方を実現してもらうこと。それがLO活プロジェクトが目指す形です。地方では、自然豊かな場所で余裕を持って過ごすことも、グローバルに進出しているような企業で刺激的な働き方をすることも、本人の希望によってさまざまな生き方を実現することが可能です。2024年秋頃には、LO活サイトにて地方のグローバル企業を紹介する特集記事の公開も予定しておりますので、ぜひご覧いただければと思います」(鯉沼氏)

まとめ

以前は、地方就職に関する情報を集めようと思ったら、46道府県それぞれの支援情報、セミナー・イベント情報、求人情報などを一つひとつあたらなければなりませんでした。

その散らばっていた情報の入り口が一つになり、かつ無料でプロの相談員の支援も受けられるとなれば、利用しない手はありません。

LO活サイトには、奨学金の支援や移住費用の援助、従業員を大切にする企業や異業種への転職で生き生きと働く方の情報など、新しい人生を切り開くための情報がたくさんあります。

地方への移住や就職に興味のある方はもちろん、地方就職を考えたことのない方も、ぜひLO活サイトを訪れ、本当に自分らしい生き方、働き方をみつけてみてください。

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