(取材)若い世代と共に学び自社の課題解決を|地域産業を活性化する金沢工業大学のリカレント教育

現在、日本では産業の都市部への一極集中化が進み、人口減少や高齢化などの社会問題も加わって、多くの地方・多くの業種で地域産業の衰退や人材不足が深刻化しています。

地域産業の発展や人材不足の解消など、地方ならではの企業の課題解決は急務となっており、地方大学が高度な人材育成の担い手となって企業と連携しながら多様な社会人向けリスキル講座を開講しています。

ここで注目したいのが、金沢工業大学の「組織活性化に向けたDXリスキル教育プログラム」DXに関するスキルを学び地域企業の活性化を図るプログラムとして、2022年に文部科学省の「DX等成長分野を中心とした就職・転職支援のためのリカレント教育推進事業」の採択を受けて開講され、2023年に2年目を迎えました。

ここでは、金沢工業大学 大学事務局 共創教育推進室 室長 西川 紀子氏と元 克幸氏にご協力いただき、プログラムの内容とメリットについてご紹介します。

金沢工業大学のリカレント教育への取り組み

企業と共に社会課題の解決を目指す産学協同の考え方

リカレント教育元年と言われる2018年よりも以前から、金沢工業大学は社会人教育に取り組んできました。

「本学は”産学官連携による研究の卓越性を追求し「共同と共創による技術革新と産学協同の実現」を目指す”という基本方針があります。そこで、一番最初の社会人教育としては、2004年に東京の虎ノ門にKIT虎ノ門大学院という社会人のための大学院を創設しました。

本学の現学長である大澤敏(おおさわさとし)学長が就任時から、”学生の学びの場に社会人も参加してほしい”という考えの下、本学のある石川県でも社会人のリカレント教育として学びやすいプログラムを何か提供できないかと様々な取り組みをしております。」(西川氏)

社会人が学生と共に学び合う風土作り

金沢工業大学では、社会人の学びに関して他大学にはない独自の制度を設けています。

「本学では、社会人が大学の授業で一緒にディスカッションしたり、社会・企業との関連性や技術の活用事例をご提供いただいたりする『社会人共学者』という独自の制度がございます。

社会人にとっては、二十歳前後の若者と共に学び合いながら新たな気づきや発想が生まれるなど、学び直しになる良い機会となり、社会人と学生が一緒に学ぶ風土が醸成される仕組みになっています。

このように、学生と社会人が一緒に学び合えるような環境で、社会人にはスキルアップやキャリアアップを目指していただきたいという思いでリカレント教育を行っております。」(西川氏)

多業種で活用できる「組織活性化に向けたDXリスキル教育プログラム」

どのような分野の方でも受講しやすいよう門戸を広げプログラムを開講

組織活性化に向けたDXリスキル教育プログラム(以下、本プログラム)」は、AIやIoT(Internet of Things:あらゆるモノをインターネットに繋いで活用する取り組みの総称)、DS(データサイエンス)といった分野の初心者向けのプログラムです。これらの分野は今やどの業種でも必要なスキルですが、リカレント教育を始めた当初は工学系ならではの受講に対するハードルもあったようです。

そこで、分野や業種を選ばず学べるよう開発されたのが本プログラムです。

「リカレント教育を実施するにあたって、最初に開講したのが情報技術のプログラムです。これは本学から少し離れたところにある北陸先端科学技術大学院大学と一緒に、学生向けのプログラムを立ち上げました。

その中で、本学が担当していた部分を一部ピックアップして、2019年に情報技術教育として科目等履修生(自分の受講したい科目のみを受講するシステムで学ぶ当該大学の学生以外の人)に公開しました。

これは大学の授業ですので単位取得が可能ですが、平日の日中に受講するのは企業で働く社会人にとって時間的に難しいこと、また工科系大学の授業なので工学系の出身者でないと受講できないのではないかと受講に対してハードルの高さを感じてしまうことがあったようです。

そこで、AIやIoTなど技術革新の波もあり、もう少し易しいところから学びたいという要望を受け、少しハードルを下げて分野を選ばず社会人でも学びやすいような公開講座を開催することになりました。これが『組織活性化に向けたDXリスキル教育プログラム』創設の背景です。」(西川氏)

どのような方々が学んでいるか

2022年から本プログラムが開講されていますが、地元企業から多岐にわたる業種の方々が学ばれているそうです。

「北陸地域は機械系・電気系企業が多く存在しています。それらの業種の企業や、他に繊維系、建設系の企業等多業種の企業にご参加いただいております。年代は20代から40〜45歳くらいが多く、新人から管理職の方まで幅広い層の方がいらっしゃいます。この傾向は、2022年度も2023年度も大きく変わりません。

あまりITに触れてこなかった初心者の方から企業内でのDXをどんどん推進する立場の方まで多様な社会人が集まります。数式等が苦手な文系の方でも学んでいただけるようなプログラムになっていますので、そういった方でも安心してご参加いただいております。」(元氏)

魅力あるプログラムの具体的な内容やメリット

入門、基礎、応用の3ステップで学ぶプログラム

プログラムの具体的な内容としては、AI・IoT・DSの各分野において、初めて学ぶ方でもわかりやすく事例を交えながら解説し、基礎で例題を用いて実践し、応用でそれぞれの技術を活用するようなプログラムとなっています。

詳しくは以下の通りです。

組織活性化に向けたDXリスキル教育プログラム公式サイト プログラム内容参照

「学ぶ方法としては、まずは①オンデマンド学習(15時間)で学んでいただき、反転授業のような形式で3日間(計18時間)の②講義・演習によって知識やスキルを定着していただきます。演習では、ミニワークショップやグループワークでさらにDXの知識を深められる構成になっています。

そして、①オンデマンド学習と②講義・演習が終わった後に、それらの知識を活用して5日間(計37時間)の③アイデア創出演習(グループ討議)を行います。ここでは、まず課題解決に必要な論理的な思考・説明方法等のノウハウを学び、その後、金沢工業大学のPBL(Project Based Learning:課題解決型学習)の手法を用いて地域企業のデータからグループでこれまで学んできたAI・IoT・DSを活用した解決策を提案し、最後にプレゼンテーションする流れになっています。

②講義・演習、③アイデア創出演習には情報学専攻の大学院生が学生スタッフとして参加します。②講義・演習では技術サポートを行い、③アイデア創出演習ではグループの一員として参加します。これにより、社会人と学生が混ざって共に刺激し合う”共創教育”の環境で学ぶことができます。」(元氏)

組織活性化に向けたDXリスキル教育プログラム公式サイト プログラム内容参照

金沢工業大学ならではの「プロジェクトデザイン教育」

アイデア創出演習では、

「ユーザーは何を必要としているのかチームで考え、解決策を具体化するプロジェクトデザイン教育」

(引用元:金沢工業大学 教育ページ

このような金沢工業大学の特色ある教育が用いられています。

「アイデア創出演習でははじめに企業見学に行く予定になっていて、今年度も昨年度と同じいちご圃場を見学します。    ※圃場…農作物を栽培する場所

そこでは様々なIoT機器(センサー等)を埋め込んでデータを取得しており、気象データや気温、湿度、日照時間などの実際のデータを活用できます。そして実際に圃場見学をして頂き、自分の目で見た現場の様子とデータに基づいてどこに問題があったか、どのような解決方法があるかなどをグループで討議して発表します。これが、本学の特色であるPBLを用いたプロジェクトデザイン教育となっています。」(元氏)

組織を活性化させるマインドの醸成

組織を活性化させるのは、デジタルスキルの向上だけではありません。実際にはいかに周囲を巻き込んで多くの人からアイデアを引き出し参加させていくかも、企業のDXを進めるには重要な事です。

「本プログラムでは、アイデア創出演習と共に個人のウェルビーイングやポジティブ心理学など組織内でプロジェクトを成功させるためのマインドに関する講義も織り交ぜて進めていきます。個人のコミュニケーション力や実行力を高めることができ、組織内の関係の質の向上に繋がります。

本学が以前から取り組んでいたPBLの手法を既に取り入れている企業もあるとは思いますが、今一度学びながら多くのアイデアを創出し、イノベーションして組織を変革していただきたいという思いがあります。」(元氏)

実際に学んだ受講者からの感想でわかる大きなメリット

実際に本プログラムで学んだ参加者は、学んだスキルを自社に持ち帰り活用されており、受講者を派遣された企業からの反響は大きく、このプログラムで学ぶメリットが伺えます。

例えば地元の製造業では、受講中に使用したIoT機器を使うために社内で有志による勉強会を開き、実際に測定してデータを集め、課題解決のための試行錯誤を繰り返しています。

「本プログラム参加者と企業からは、『他業界・他社の方と共に考え学び、一緒に課題解決する機会が得られたことは非常に魅力的でメリットになった』とおっしゃっていただいております。

『自社の抱える問題や悩みは他社でも同様にあるとわかったこと、また自分が抱えている不安は実際に解決できるんだということがわかって、新たな発見に繋がった』とのご感想もいただきました。

また、『学生と一緒に学ぶということが、非常に面白いと感じました。”大学生の今”を身近に感じるのと同時に、自分よりも若い世代はこういった考え方をするのかと新しい発見をし、会社を変革する1つのきっかけになった』というご感想もいただいております。」(元氏)

知識を学びながら、自社の課題解決も

このプログラムでは、オンデマンド学習期間にslackというツールを利用して、講師にオンデマンド学習に関する相談や質問も受けられるような仕組みになっています。

また、講義・演習やアイデア創出演習で対面で個別質問・相談をする時間も設けられているので、課題だけではなく学びながら自社の課題解決を図ることができ、それもこのプログラムに参加する大きなメリットとなっています。

「オンデマンド学習期間は、毎週金曜日の夕方1時間『オフィスアワー』を設けており、講師がリアルタイムでslackやzoomを使って受講者の質問や相談を受けています。

オフィスアワーをご活用いただくとその場で疑問点が解消できますし、それ以外の時間帯であれば講師の先生のご都合もあるのですぐに返信できないこともございますが、slack上でメッセージでのやり取りが可能です。

また、講義・演習期間やアイデア創出演習の最終日にも個別質問・相談の時間を設けているので、課題の内容だけでなく企業の問題に関しての相談も可能です。

この時間だけで全ての課題解決ができるわけではありませんが、これをきっかけに企業との連携を深めていけたらと考えております。」(元氏)

2023年度の受講期間、費用・助成金等の概要

2023年度の開講スケジュールは、以下の通りです。

①オンデマンド学習期間

2023年11月1日(水)〜2024年3月8日(金)

②講義・演習

 ● 講義・演習(入門) 2023年12月21日(木)9:00〜16:00 (個別質問・相談 16:00〜17:00)
 ● 講義・演習(基礎) 2024年 1月18日(木)9:00〜16:00 (個別質問・相談 16:00〜17:00)
 ● 講義・演習(応用) 2024年 2月21日(水)9:00〜16:00 (個別質問・相談 16:00〜17:00)

③アイデア創出演習

 ● 1日目  2024年 2月22日(木)9:00〜17:30

 ● 2日目  2024年 2月28日(水)9:00〜17:30

 ● 3日目  2024年 2月29日(木)9:00〜17:30

 ● 4日目  2024年 3月 7日(木) 9:00〜17:30

 ● 5日目  2024年 3月 8日(金) 9:00〜17:00 (個別相談 17:00〜18:00)

※②と③は金沢工業大学 扇が丘キャンパスにて開講(対面)

費用は受講する内容によって異なり、以下の表の通りです。

上記1と2については2023年度の募集は終了していますが、3と4のオンデマンド学習については2024年1月15日(月)17:00まで申し込み可能です。

https://www.kanazawa-it.ac.jp/rec/dxreskill/entry.html

詳しい要件、受講時に必要なもの等については、スケジュール・コースのページを参照してください。

また、このプログラムは金沢市大学連携リスキリング促進助成金の対象講座になっています。対象者や対象講座の条件等はありますが、プログラムを終了すると最大で2万円の助成金が支給されます。

地元企業と連携をとりながら更なる発展を

2023年度に2年目を迎えた本プログラムは、受講者の方々から高い満足度を得ており、今後はさらに発展・拡充していく方針のようです。

「2022年度に参加された受講者・企業にアンケートを実施し、DXリスキル総合コース、オンデマンド学習と講義・演習コースに関しては非常に高い満足度を得ており、受講者の上司へのアンケートでもほぼご回答をいただき満足しているという結果となりました。

2023年度に新たに追加した部分としては、オンデマンド学習の中にChat GPTやモダンexcelに関する内容を加える等、時流に合わせてブラッシュアップしております。今後も、どういう職種でどのようなAIやIoT、DSの技術が必要なのか、それを学びたいと思った時にどのようなサポートが必要なのか、ニーズを伺いながらプログラムを改善していく必要があると考えています。

また、輩出した人材が実際にどう活躍されているかを追いながら、更なる新しい技術の開発や企業内の課題発見・解決を一緒に行っていけたらと思っております。」(西川氏)

格差社会を乗り切るための第一歩に

最後に、これからリスキル・学び直しについて考えている、スキルアップを目指していている方々へのメッセージをいただきました。

「今後リスキリングをしていかないと、更に賃金や地位の格差が広がる時代となると考えております。世間や企業が求めるものを吸収していかないと、格差社会を乗り越えていくことが難しくなります。

ぜひ本プログラムのような機会を利用して、スキルを身につけ格差社会からご自身の身を守る鎧を強固なものにしながら働いていただけたらと思っております。」(元氏)

「チャレンジすることによって、次の道が拓かれていきます。ぜひ、次のステップとして新しいスキルアップを目指して、チャレンジしてほしいと考えております。

このプログラムだけでリスキルが完結するわけではありません。私達も、受講者の方々がここをきっかけに次の学びのステップにいけるよう、また大学と企業が共同研究していけるような次のステージを目指していきたいと思っております。

社会人の方々はお忙しい方がほとんどだと思いますが、まずは第一歩を踏み出してみませんか?」(西川氏)

まとめ

オンライン受講で全国どこの大学の講義でも参加・受講できる世の中になった今、対面受講によって地域企業からの参加者を集め、その地域の産業特性や大学の特色を生かして、地域産業の特有の課題解決を図る大学が増えてきました。

私たちはこうした選択肢が増えている現在だからこそ、自分や自社の課題にフィットした学びの場を選択し、技術革新に備えて学び続けていく必要があるのではないでしょうか。

実践的に学びながら自社の課題解決ができるこのプログラムは、参加される社会人、企業にとっては非常に魅力的で、デジタルネイティブの若い学生達と刺激し合いながら生き生きと学ぶ姿が想像できます。

学び直しに興味のある方、DXが重要だとわかっていてもどうしたら良いのかわからない北陸地域の方は、こうしたプログラムの活用をぜひご検討ください。

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