企業経営には必須!リスクマネジメントの概要と資格を解説

企業が経営を行っていくうえで組織の価値を維持するために大切なリスクマネジメント。予め起こり得るリスクを網羅し、優先度の高いリスクへの適切な対策を行っていくことで起こり得る危機発生時の損失を最小化することができます。

この記事ではリスクマネジメントの目的や手法、各職種の実務例やリスクマネジメント実務者に関わる資格についてご紹介します。

リスクマネジメントとは

リスクマネジメントとは、企業や社会にとって不利益になり得る事象を回避したり適切な対応を行ったりして損失を最小化し、企業の価値を維持・増大していく経営管理手法のことです。

リスクマネジメントという単語を使った例文としては、以下のようなものが挙げられます。

  • リスクマネジメントをしておくことで医療事故を防ぐことができる
  • サッカーでは選手のリスクマネジメント力が勝利を左右する
  • さまざまな事例を思い浮かべてリスクマネジメントを行う

このような例文からわかるように、想定される危機発生前から対策を行って必然的なリスクを合理的に管理することがリスクマネジメントといえます。また、許容範囲内であれば積極的に損失を受け入れるという判断も含まれます。既に起こってしまった問題への対応を指す「危機管理」とは別物です。

たとえば情報流出や従業員の不正によって企業の価値が下がってしまったというトラブルは、危険が発生しそうな部分の特定や内部対策といったリスクヘッジが適切に行われていなかったことが原因です。

リスクマネジメントについては、こちらの書籍で初心者にもわかりやすく解説されています。

リスクマネジメントの手法

リスクマネジメントは以下のようなプロセスで順序だてて行うのが基本です。リスクの分析や対策、定期的な見直しで是正していくサイクルを強化することが大切になります。

  • リスクを発見する
  • リスクを分析・評価する
  • 対策の選定・実施
  • モニタリング・是正

まずは起こり得るリスクの抽出を行います。組織内の各部門から選抜したメンバーでグループを作って話し合う「ブレインストーミング方式」やアンケートやチェックリストなどのシートを配布して回答してもらう方法が挙げられます。社会的なニュースなどを把握して広く情報を集めておく視点も大切ですね。

リスク抽出後は発生頻度や被害の大きさを分析し、企業にとって重大なリスクを分析・評価します。さまざまなリスクを同一基準で算定することは難しいので、どのような結果が収益や価値をどれだけ変化させるのか予測するシナリオ分析数値でシミュレーションを行うのが有効になるでしょう。数値化が難しければ、「大・中・小」といった定性評価を行う方法もあります。

優先順位が高いリスクに対しては「リスクの頻度や規模を抑える」「損失分を補填する」という内容の対策案を選定します。損失を回避するだけでなく、不利益を分散・移転する判断もリスク対策の一つです。保険加入や管理体制の見直しなど各企業によってベストな選択は異なるので、会社を取り巻く状況をしっかりと把握しておくことも大切です。

対策の実施後は、目的に対して結果を照らし合わせることでより適切な対策を練っていきます。たとえば福祉の現場でヒヤリハットを記録していても、それらに目を通したり話し合いの場を設けたりしていなければ意味がありません。さらに対策実施時の人員や費用負担のバランスが取れているかも検討します。

リスクヘッジによる結果や改善点を見直す工程を行い、再びリスクの洗い出しや特定、対策のプランを打ち立てるサイクルを強化していくのがリスクマネジメントです。

さまざまな職種のリスクマネジメント

職種によってリスクマネジメントの種類は異なります。ここでは、さまざまな職種のリスクマネジメントの一例をご紹介します。

金融業界でのリスクマネジメント

信用リスクやシステムリスク、市場のリスクなど複雑なリスク管理が必要とされる金融業界。たとえば与信先の財務状況の変化金融商品の時価変動によって損失を被ったり、コンピューターシステムの誤作動や不正利用といったリスクが挙げられます。

リスクマネジメントとしては各カテゴリーにおいてリスク管理専門部署を立ち上げることで、特性の応じた管理体制づくりを行う必要があるでしょう。

医療業界でのリスクマネジメント

医療事故の発生は社会問題にもなっています。訴訟などの大きな事件に発展する可能性もあります。また、近年では院内感染対策の視点も重要です。リスクマネジメントとしてのメンタルヘルスケアも必要とされていて、これを行うことで医療現場職員の健康や生産性を維持することにも繋がります。

リスク対策としては、医療安全対策マニュアルの作成や医療環境の整備、職員の研修や啓発、実態調査などさまざまな検討や研究が行われています。

建設業界でのリスクマネジメント

建設業界で特に大きなリスクとして挙げられるのは、災害や事故による物件損傷リスク賠償災害、労働災害による損失でしょう。設計ミスや物価高騰による工事コストの増大も大きなリスクに繋がります。

主なリスクマネジメントとしては、リスク対策の視点で契約方式やスケジュールを見直したり、職場の安全管理や労災対策をしっかりと行うなどが挙げられます。適切な保険の加入も有効です。

福祉業界でのリスクマネジメント

利用者や地域の信用損失の影響が大きい福祉業界では、利用者一人ひとりに合ったケアの見直しや職員の関係づくりがリスクマネジメントに繋がるでしょう。具体的な対策としてはヒヤリハットの活用や必要な用具の購入、業務中の状況確認徹底やケース会議などが挙げられます。また、法的責任を回避するために利用者の尊厳を蔑ろにするような活動を行うことは福祉サービスの目的に反します。利用者・職員ともに安心できるリスク管理体制が大切です。

リスクマネジメント実務者に役立つ資格

リスクマネジメントに関わる資格はさまざまなものがありますが、自分に必要な資格というのは職種や立場によって異なります。ここでは、リスクマネジメント実務者に役立つ資格の一例をご紹介します。

FP技能士

FP技能士資金計画業務における国家資格で、保険や税制、金融商品の仕組みなどについての知識を証明するものです。特にFP技能士2級の試験範囲には中小事業主資産相談業務が含まれ、企業の金融活動における正しい知識や問題解決の検討について学ぶことができます。金融業界や保険業界はもちろんプライベートでも活かせる知識ばかりです。

情報処理安全確保支援士

情報処理安全確保支援士は2017年に設立された比較的新しい資格で、サイバーセキュリティの技能を証明する経済産業省管轄の国家資格です。試験の合格率は20%程度と難易度の高い資格ではありますが、登録者情報が一般公開されるので資格保有のアピールになります。支援士を名乗るためには、登録申請に20,000円、資格維持に3年間で140,000円ほどの費用が必要です。

CRISC

CRISCはITガバナンスに関わる国際団体「ISACA」が2010年に創設したリスクマネジメントの国際資格です。これを取得することでIT分野のリスク認識・評価、情報システムコントロールの設計や運用といった専門知識を証明します。資格認定のためにはITリスクのマネジメントなどの実務経験や外国語の試験問題を理解する語学力も必要とされます。受験や登録にかかる費用は日本円で約90,000円ほどで、維持費に年間10,000円がかかります。

CRM

CRMは一般財団法人リスクマネジメント協会が主催する資格の中で最高位にランクする資格です。CRMの受験資格を得るためには各専門分野ごとのリスク試験に合格していることはもちろん、こちらの協会で「エンタープライズ・リスクマネジャー養成講座」の実践テキスト8巻を修了しておく必要があります。試験に合格後は正会員になる必要があり、入会金と年会費を合わせると24,200円の費用がかかります。正会員には情報誌購読や研修参加、コンサルタント紹介といった特典が受けられます。

GRMI Diploma

GRMI Diplomaはニューヨークに本部を置く世界随一のリスクマネジメント団体「RIMS」と、その日本支部「リスクマネジメント協会」が開発した国際資格です。リスクマネジメント領域や企業の各分野における専門知識など、広範囲の知識を持っているCRM保持者のみ受験可能です。難易度が高く、難関を乗り越えた取得者は公式サイトで紹介されています。

MRM

MRMとはRIMS日本支部が認定する医療リスクマネジャーの民間資格です。医療事故や医療情報システム、地域連携や看護師の業務改善活動のサポートといった病院経営におけるリスク管理の専門知識を身に着けることで、患者満足度を高めることに繋がります。費用は受験料と入会費で22,000円になり、その他年会費が13,200円かかります。

企業危機管理士

企業危機管理士は一般財団法人 全日本情報学習振興協会が主宰する資格で、サービスや広報、法務や利用者対応など企業のさまざまな部門におけるリスクマネジメント実務者の知識向上やコンプライアンス教育を目指しています。リスク管理の基本を学びたい方向けの資格でしょう。受験にかかる費用は11,000円で、学割を利用した場合は7,700円です。

※価格はすべて2022年7月時点のものです。

まとめ

リスクマネジメントに関連する資格は教養資格がほとんどですが、組織のリスク管理者が包括的な知識を保有していることは、現場の安心感にも繋がります。

企業や医療・福祉業界、食品、金融などさまざまな職種での円滑な企業運営のためには、無意識に放置しがちなリスクを洗い出して適時適切に改善するというプロセスが大切です。リスク管理の手法を学んで、大きな危機に備えることは、IT化の推進、気候変動、感染症、国際関係の緊張などが激化する現代においては、より必要性が増していると言えるでしょう。

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