ビルを建てたり家を修繕したり、わたしたちが住む街は「建築工事」により造られています。そんな建築工事の現場において、全体をまとめ、進行や品質を管理する「監督役」が建築施工管理技士です。建築施工管理技士になると、現場作業だけでなく施工計画から任され、建築業界でのニーズは一気に高まります。ここでは、建築施工管理技士の仕事や資格をとるための検定について詳しく解説します。
建築施工管理技士とは
建築・建設工事では、建築士や配管業者、塗装業者などさまざまな分野の技術者が集まり、協力して工事を行います。彼らのまとめ役となり、工事全体の指揮をとるのが「施工管理技士」。日本では、建設業法第27条に基づき、「施工管理技士資格」が設けられています。
施工管理技士には、土木施工管理技士や造園施工管理技士など、現場ごとに複数の種類があり、建築施工管理技士はそのうちのひとつ。建築工事の現場において、工事計画の作成やスケジュール管理、原価管理、品質管理といった、建築工事全体を管理する監督役を担います。
さらに、建築施工管理技士は、工事現場で配置が義務付けられている「主任技術者」になることもできます。このような配置義務がある技能者を多く在籍させている企業は建築業界でも信用を集めやすいため、建築関連の企業は常に施工管理技能士を求めています。まさに、建築施工管理技能士は建築業界において長く需要があり続ける職種と言えるのです。
1級建築施工管理技士と2級建築施工管理技士
建築施工管理技士には1級と2級があります。1級建築施工管理技士も2級建築施工管理技士も、仕事のメインが建築工事の施工管理であることは同じですが、請け負える建築工事の規模が異なります。2級は中小規模の建築工事の管理を主とする一方で、1級は請け負える工事の規模に制限がなく、大型施設や超高層ビルの建設といった大規模な工事で監督を務めることもできます。
また、1級を取得すると、「主任技術者」になれるだけでなく、より大規模な工事で配置が義務付けられる「監理技術者」にもなることができ、建築業界での価値もさらに高まります。企業に勤めていれば、昇格・収入アップも見込めるでしょう。
建築施工管理技士を目指す「建築施工管理技術検定」
建築施工管理技士になるには、一般財団法人建設業振興基金が行う建築施工管理技士検定に合格する必要があります。検定は1級・2級がありますが、上記で解説したように、1級は2級よりも監督範囲が広くより高い技能が求められるため、初学者や実務経験が浅い人はまず2級から取得するのが一般的でしょう。
以下で、建築施工管理技術検定2級の試験概要を解説します。
受験資格
建築施工管理技術検定の受験資格は、受ける試験の内容により異なります。
建築施工管理技術検定には「学科試験のみ」と「学科・実地試験」があり、最終的に学科と実地の両方に合格することで、建築施工管理技士資格取得となります。「学科・実地試験」を受験するには最短1年の実務経験が必要(職業能力開発促進法による技能検定合格者は実務経験が問われない場合もある)です。
2級の「学科試験のみ」に限り、試験年度において満17歳以上であれば実務経験がなくても受験することが可能。そのため、まず学科試験に合格し、実務を積んだのち実地試験に臨むという方法もあります。
「学科・実地試験」の受験資格は、学歴や卒業した学科などにより異なります。一般財団法人建設業振興基金の公式ページに詳しく掲載されているので確認してみてください。
https://www.fcip-shiken.jp/ken2/index.html
受験資格の実務経験について
「学科・実地試験」の受験に必要な実務経験ですが、どういった建築工事の実務経験があるかにより、実地試験を受験する際の種別が変わってきます。以下が、実務経験ごとの分類される種別になります。
・建築一式工事(ゼネコンなど)の実務経験…種別は「建築」
・建築工事の主要構造部分(躯体系サブコンなど)の実務経験…種別は「躯体」
・建築工事の内外装(仕上げ系サブコン)の実務経験…種別は「仕上げ」
受験種別ごとの試験問題では、自分の実務経験に当てはまる種別の問題に回答することになります。実務経験に一致しない種別は受験できません。
試験内容
上記で解説したとおり、試験には学科試験と実地試験があります。ここでは、2級の試験内容について紹介します。
<学科試験>
・建築学法、法規、施工、施工管理法の試験範囲から50問出題、40問回答、四肢択一のマークシート方式
※「建築」「躯体」「仕上げ」に関する共通問題と受験種別問わず共通する施工法に関する問題があります。
平成29年度までは、学科試験も「建築」「躯体」「仕上げ」の3つの種別に分かれて行われていました。そのため、たとえば「建築」の学科試験を合格した人が「仕上げ」でも資格取得したい場合、再度「仕上げ」の学科試験に合格する必要があったのですが、平成30年度より、学科の種別が廃止となり、3種共通に。これまでのように再受験をする必要がなくなりました。
<実地試験>
・施工経験記述、施工用語、工程管理、施工技術、法規の試験範囲から5問出題、5問回答、記述式
※「建築」「躯体」「仕上げ」に関する共通問題と受験種別ごとの専門知識に関する問題があります。
実地試験は実技試験と混同してしまうかもしれませんが、現場に行って試験を行うというわけではありません。自身が経験して得た知識について問われ、論文形式で回答します。「受験種別ごとの専門知識に関する問題」では、前述した、実務経験に基づく種別の問題が出題されます。
学科試験・実地試験ともに、60%以上が合格基準となっています。ただ、実地試験においては、試験年度により多少合格基準が異なっているようです。
上記は2級の試験概要となっていますが、「学科試験」と「実地試験」があるのは1級も共通です。また、学科試験の範囲も1級と2級で同じですが、1級はより深い知識が問われます。1級の実地試験科目「建築施工管理」で、設計図書に基づいて施工計画を適切に行えるかや、工事への高度な応用能力を問われ、より高い技能が求められます。
試験日程・試験会場
2級の場合、学科試験は年に2回、実地試験は年に1回開催されます。
・学科試験(前期)…例年6月
・学科試験(後期)…例年11月
・学科・実地試験…例年11月下旬(学科の後期試験と同日)
11月は、学科のみの「学科試験(後期)」と、学科・実地を同日に受ける「学科・実地試験」試験が行われますが、過去の定められた期間内に学科試験に合格している人や1級建築士試験合格者など、一部条件に基づいて実地試験のみの受験も可能となっています。そのため、申し込み用紙は、「学科試験のみ(前期試験)」、「学科試験のみ(後期試験)」、「実地試験のみ」、「学科・実地試験」の4種類があります。
試験日、申し込み期間については一般財団法人建設業振興基金の公式ページに掲載されています。試験日はおおむね上記のとおりですが、令和2年においては新型コロナウイルスの影響で、6月の試験が中止になるなど変更が出ています。最新情報は必ず公式ページで確認しましょう。
また、試験会場についても、「学科試験のみ(前期試験)」、「学科試験のみ(後期試験)」、「実地試験のみ」、「学科・実地試験」でそれぞれ会場地区が異なるので必ず公式ページで確認してください。
https://www.fcip-shiken.jp/topics/index.html
試験の難易度・合格率
建築施工管理技術検定2級の合格率は、学科試験が45~50%程度、実地試験が30%程度。学科と実地で大きく開きがあり、実地試験においては、1級よりも合格率が低くなっているのが特徴です。ただ、施工管理技能検定全体で見ると、建築施工管理技能士検定は特別難易度が高いわけではありません。特に2級は実務経験が浅い人が受験することも多く、それでも3割~5割の人が合格していると考えると、対策をしっかりとれば合格も難しくないと言えるでしょう。
建築施工管理技術検定に合格するには
試験の学習方法には「独学」と「学校・講座での学習」があります。自分の性格やライフスタイルに合った学習方法で合格を目指しましょう。
独学
難易度はそれほど高くないとされる建築施工管理技術検定ですが、やはり専門的な業種ですから、慣れない単語なども出てきます。すべてをしっかり理解したうえで試験に臨むのであれば、独学の場合、300時間ほどの学習時間が必要と言われています。1日1時間の学習でおよそ10か月かかる計算ですね。ただ、すでに建築業に就いている人の場合、仕事をしながら毎日1時間学習時間を続けるのは簡単ではありません。試験対策に絞ったテキストや問題集を取り入れることで、より効率的に合格を目指すのもひとつの方法でしょう。
「学科試験」と「実地試験」両方に備えることができる問題集がこちら。過去問と解説が1冊にまとまっていて効率的に学ぶことができます。
実地試験を徹底的に対策したい人におすすめ。豊富な記述例が記載され、記述式問題が苦手な人でもポイントを押さえながら攻略できる人気の参考書です。
通信・通学講座・学校
試験対策を強化したいのであれば、独学よりも通信講座や通学講座で専門講師の指導を受けるのが効果的。各講座では、過去問に基づいて効率的に対策できる授業やテキストを用意しています。
2級建築施工管理技術検定の講座は、建築・建設系に強い日建学院を始め、総合資格学院、ユーキャンなどで設けられています。6か月ほどかけてしっかり学ぶ講座や短期集中講座など講座の種類も幅広く、費用も10万円台のものから50万円台のものまでまちまち。自身の学習スケジュールや予算感に合わせて探すことができるでしょう。教育訓練給付金制度の対象となっている講座であれば、受講にかかる費用の最大20%支給され、費用を抑えることも可能です。教育訓練給付金対象の講座はその旨が記載されているので、講座を探す際にチェックしてみましょう。
また、東京土建技術研修センターなど、各地の建設関連協会や法人が講習会を開催しているケースもあります。こちらも教育訓練給付金制度の対象となっているものもあるのでぜひチェックしてみてください。
まとめ
建築の現場で欠かせないまとめ役となる建築施工管理技士。全体を管理し円滑に工事を進めなければいけないという点ではプレッシャーの大きい仕事ですが、自分の監督配下によって新たな建築物が建てられていくさまは、風景をゼロからつくりあげていくような喜びとやりがいを感じられるでしょう。さらなるキャリアとやりがいを求めて、建築施工管理技能検定に挑戦してみてはいかがでしょうか。