今年2020年8月に施行された改正司法書士法では、懲戒手続きや法人設立などとともに、司法書士の使命がより明確化されました。
司法書士法第1条
司法書士は、この法律の定めるところによりその業務とする登記、供託、訴訟その他の法律事務の専門家として、国民の権利を擁護し、もつて自由かつ公正な社会の形成に寄与することを使命とする。
元来、司法書士は「身近な法律家」とも呼ばれていますが、私たちの生活を守る頼りになる存在としての期待がさらに大きくなることでしょう。
この記事では、司法書士の仕事内容と司法書士試験について紹介します。
司法書士とは
司法書士の仕事内容
司法書士は司法書士法に基づいた国家資格で、以下の業務を依頼された方の代理として行います。
- 不動産の登記
- 会社や各種法人の登記
- 相続や遺言
- 裁判所、検察庁、法務局へ提出する書類の作成
- 民事のトラブルについての法律相談
- 供託の手続
- 帰化の手続
- 成年後見
登記や供託に関することや、裁判所、検察庁、法務局へ提出する書類の作成は司法書士の独占業務です。
さらに、研修を受けて試験に合格するとなることができる認定司法書士は、紛争の目的物の価格が140万円を超えないような紛争を当事者の代理人となって業務を行うことができます。
司法書士の働き方は司法書士事務所で所属して働く勤務司法書士と、独立開業する方の大きく二つに分かれます。
専門性を高めるために、司法書士に加えて他の資格も取得する方も多くいます。特に多いのは、行政書士です。
https://college.coeteco.jp/blog/archives/2141/
この他にも、土地家屋調査士、宅地建物取引士、ファイナンシャルプランナー、税理士などの資格を併せ持てば、業務の幅を広げることができるでしょう。
司法書士になるには
司法書士になるための一般的な方法は司法書士試験に合格することですが、もう一つ方法があります。裁判所や検察局に一定期間勤めた経験があり、試験をクリアして法務大臣から認可を得るものです。
必要な経験とは、裁判所事務官、裁判所書記官、法務事務官、検察事務官なら10年以上、簡易裁判所判事や副検事なら5年以上とハードルは高く、さらに口述試験などもあります。このため、司法書士になりたい場合は司法書士試験を受験する方がほとんどです。
司法書士試験とは
受験資格・試験内容
司法書士試験には、受験資格は一切ありません。
年齢や性別、学歴や実務経験、国籍などに関係なく、どなたでも受験することができます。
司法書士試験は、一次試験にあたる筆記試験と、二次試験にあたる口述試験が行われます。筆記試験はマークシートと記述式で、午前の部と午後の部に分かれています。試験内容は以下の通りに定められています。
- 憲法,民法,商法(会社法その他の商法分野に関する法令を含む。)及び刑法に関する知識
- 不動産登記及び商業(法人)登記に関する知識(登記申請書の作成に関するものを含む。)
- 供託並びに民事訴訟,民事執行及び民事保全に関する知識
- その他司法書士法第3条第1項第1号から第5号までに規定する業務を行うのに必要な知識及び能力
実際に出題される科目は、憲法、民法、刑法、商法(会社法を含む)、民事訴訟法、民事執行法、民事保全法、
司法書士法、供託法、不動産登記法、商業登記法です。
筆記試験に合格すると、口述試験を受験することができます。
口述試験は、面接形式で行われます。上記科目の2.と4.について出題されて、面接官2人に対して口頭で解答します。
筆記試験に合格していれば、申請すれば次回は筆記試験が免除されます。
日時・場所
年に1回実施されて、筆記試験が7月、口述試験が10月に行われています。令和2年度(2020年度)は、筆記試験が7月5日(日)、口述試験が10月13日(火)に行われました。
筆記試験の会場が令和2年度より変更されました。令和2年度は筆記試験が東京、横浜、さいたま、千葉、静岡、大阪、京都、神戸、名古屋、広島、福岡、那覇、仙台、札幌、高松の15か所で、口述試験が東京、大阪、名古屋、広島、福岡、仙台、札幌、高松の8か所で行われました。
合格率・合格基準
合格率は例年3~4%と低く、司法試験の次に難しい試験だといわれています。昨年2019年に実施された平成31年度試験の受験者は13,683人、合格者数は601人で、合格率は4.4%でした。
筆記試験に合格するためにまず必要なのが、午前・午後の多肢択一式問題と、午後の記述式問題の3つそれぞれで基準点に達することです。どれか一つでも達していないと不合格です。
基準点に加えて、総合点による合格点も設定されています。この合格点に達すれば筆記試験を通過することができます。
筆記試験と口述試験それぞれの合格率は公式発表されていませんが、口述試験は落とすための試験でないと言われており、受験した人ほとんどが合格しているようです。
司法書士試験に合格したら、研修を受けて登録をおこなえば司法書士として活動することができます。研修は地域により異なりますが費用が250,000円程度かかります。
司法書士試験に合格するには
司法書士試験に合格するために必要な勉強時間はおよそ3,000時間と言われています。学歴など受験資格は一切ありませんので、どのような方法で勉強しても構いません。
学生の間に合格する方もいますし、働きながら受験する方やいわゆる「浪人生」になって受験勉強に専念する方もいます。
独学
司法書士試験は難関試験であり、複数回受験する方がほとんどであるといわれています。独立開業されて10年の司法書士 山崎勝弘さんが、受験勉強への心構えを伝えられています。
勉強にはテクニックも大切ですが、まずは努力が必要ですね。
同じく司法書士であり行政書士でもある桐ケ谷 淳一さんは、過去問と条文を重視すべきと言われています。
司法書士受験生のときは仕事をしながら受験勉強したので、時間の確保も重要でした。
https://kirilog.com/archives/9449
なので、過去問と条文を最重要視し、繰り返し何度も勉強しました。
それが功を奏し、なんとか合格できた次第です。
やっぱり出題者も過去の実績を踏まえ問題を作っているわけで、それを軽視してはいけないのです。
過去問の問題集で人気の高いものはこちらです。全12冊あります。
過去問はウェブサイトやアプリを活用して勉強することもできます。無料で利用できるものも多くありますよ。
勉強を始める際のテキストにはこちらがお勧めです。無理に暗記しようとしなくても自然と理解できるので、長く受験生に頼りにされているシリーズです。全14冊です。
スクール・通信講座
司法書士試験の受験勉強をサポートしてくれるスクールや通信講座は、大原、ユーキャン、スタンディング、資格スクエア、アガルートアカデミーなどがあり、合格を目指して全てがセットになっているものから、科目別・分野別のものまで、さまざまな種類があります。金額は勉強を始める方向けのフルセットで10万円台のものが多いです。
これらの通信講座やスクールは教育訓練給付制度の対象になっている場合もあります。教育訓練給付制度とは、支払った費用の一部が国から支給されるお得な制度です(金額に上限あり)。教育訓練給付制度の概要や支給要件等は、こちらでご紹介しています。
https://college.coeteco.jp/blog/archives/841/
まとめ
マイナンバーやAIの登場により、司法書士の将来性を危惧する声もありますが、司法書士の仕事がなくなることはないでしょう。
なぜなら、高齢者の増加により、司法書士の業務の一つである成年後見人制度の需要が高まっていることがひとつ。さらに、司法書士の行う仕事は、依頼者それぞれの事情に合わせて行うので、依頼者とのコミュニケーションが重要で、AIが業務を全て担当することは不可能とされているからです。
これからも長く活躍できるであろう身近な法律家である司法書士を目指してみませんか。