(取材)データサイエンスの力で世の中と人生をより豊かに|放送大学 AI時代における人材育成の取り組み

情報化社会において、今もっとも注目されているのがデータサイエンスの分野です。AIの急速な進化や技術革新により、企業等が蓄積した膨大な量のデータを分析するためのツールが発展し、データ分析が以前より高速で確実なものとなりました。

さまざまなビックデータの解析によって、課題を解決したり新しいサービスや利益を生んだり、これまでになかったビジネスチャンスが広がります。このためデータサイエンスは数多くの業界・企業や組織から注目されているほか、学問として扱う大学や専門学校も増えています。

このようにデータを取り巻く環境が劇的に変化する中、放送大学では多くの有料・無料講座を開講し、データサイエンス人材の育成をおこなっています。データサイエンスの講座では、データの力を最大限に引き出し、洞察を得るための数学的な手法やデータ解析の基礎、そしてAI技術について学ぶことで、情報化時代のトレンドに即した知識とスキルを身につけることができます。

放送大学の講座は修了者に認証状とデジタルバッジが発行され、社会人だけでなく大学の教材としてなど企業や教育機関からも幅広く活用されているようです。

今回は、放送大学で開講している社会人の学びを応援するサイト「マナパス」でも人気のデータサイエンス分野の講座について、中谷教授・浅井教授に詳しいお話を伺ってみました。

AI時代を担うデータサイエンス人材の育成「数理・データサイエンス・AI講座」

政府も推奨するこれからのデータサイエンス人材の育成

コエテコカレッジ編集部(以下、編集部)ではまず、「数理・データサイエンス・AI講座」を開設された趣旨をお聞かせください。

中谷教授氏(以下、中谷<敬称略>) 放送大学は設立時より、広く国民の皆様に生涯学習の機会を提供することを目的とした大学です。働きながら学ぶ社会人が学士を取得したり、キャリアアップのために資格取得を目指したりと、さまざまな学び直しのニーズに応えてきました。

そうした中で、政府が策定した「AI戦略2019」等により社会人へのリカレント教育も含めたデータサイエンス人材の育成が求められていることを踏まえ、本学としても数理・データサイエンス・AIの教育機会を、本学学生に限定せず広く社会一般に向けて提供することが時宜にかなうと考え、講座を開設したところです。

いつでも自由に学べるオンライン講座

編集部 講座の受講スタイルなど具体的に教えていただけますでしょうか?

中谷 オンデマンドで時間や場所を選ばずに自分のペースで受講できる講座です。スマートフォンやタブレット端末での視聴にも対応しております。

数理・データサイエンス・AI教育強化拠点コンソーシアム」のモデルカリキュラムに沿った内容となるように構成しており、制作にあたっては同コンソーシアムと連携し、同コンソーシアム参加校教員のご協力を賜りました。多くの大学や企業から専門の講師が多数参加しているのも、本講座の強みです。

受講に関しては、放送大学の学生であることは要しませんし、受講に際しご入学いただく必要もありません。講座によって受講費が違うものもありますが、1講座7,000円(税込)〜で受講できます。

放送大学の学生向けには、この講座の内容に基づく授業科目を今後順次開設することを計画しているほか(3科目開設済み)、この講座とは別に数理・データサイエンス・AI分野の学習のための授業科目を用意しております。

これらの科目を用いた教育プログラム(本学では「放送大学エキスパート」と称しています)は、文部科学省が募集・認定している「数理・データサイエンス・AI教育プログラム認定制度」におけるリテラシーレベル、応用基礎レベルの認定を受けています。

3つのレベルの内容、難易度の違いについて

編集部 「数理・データサイエンス・AI講座」では、「リテラシーレベル」「応用・基礎」「発展・専門」の3つのレベルがありますが、それぞれ内容や難易度の違いについて教えてください。

浅井教授氏(以下、浅井<敬称略>) 【リテラシーレベル】について

数理・データサイエンス・AIを活用するための基礎的な素養の習得等を目指すものであり、大学・高専卒業者の全員が身につけるべき内容です。データサイエンスを学び始めるのに適しています。

「数理・データサイエンス・AI教育強化拠点コンソーシアム」のモデルカリキュラムのうち、「リテラシーレベル」に対応しています。

【応用基礎レベル】について

データサイエンス、データエンジニアリング、AIの基本的な概念・手法の理解、応用例の学習等を目指すものであり、高専・大学卒業者の50%が身につけるべき内容とされています。リテラシーレベルを習得し、さらに次のレベルに進みたい場合に適しています。

「数理・データサイエンス・AI教育強化拠点コンソーシアム」のモデルカリキュラムのうち、「応用基礎レベル」に対応しています。

【発展・専門】について

様々な分野への数理・データサイエンス・AIの応用力の習得や、 専門的知識の掘り下げをねらったもので、エキスパートレベルの内容です。応用基礎レベルを習得し、社会実装したりシステム運用したり、様々な問題解決に実際に応用したいという場合に適しています。

開講以来、幅広い層から支持される人気講座に

編集部 今までの受講者数はどのくらいですか?また、どのような方が受講されているのでしょうか?

中谷 2021年に開講してから、これまでに8000人以上の方に受講いただいております。

10代から90代の方まで幅広く利用いただいておりますが、個人受講では50〜60代が半数を占め、次いで30〜40代が多くいらっしゃいます。会社員、教員・公務員のほか、定年退職された方も多く受講いただいており、受講者の7割は男性です。

団体受講では大学の授業や企業の職員研修に利用されており、10代〜20代の大学生の方が最も多く、次いで30代〜40代の会社員の方が多いです。大学教職員の方にも利用いただいております。

編集部 受講生からの反響はいかがでしょうか?

中谷 一般向けに開設された放送大学インターネット配信公開講座の中で、新たにデータサイエンスのシリーズ講座が作られるということで注目度も高く、ご好評をいただいております。企業研修などに使いたいとのご要望も承っています。

また、リテラシーレベルの5講座については、放送大学の学生は1講座800円で受講が可能であり、安価に受講できる点も学生から好評価を得ています。

編集部 今後の展望をお聞かせください。

中谷 令和5年度には発展・専門の8講座を新たに追加する予定で、計22講座を開講しております。今後も社会のニーズを踏まえて、講座の展開に取り組んで参ります。

リテラシーレベル「データサイエンス基礎から応用」について

全8回からなる講座の内容とは

編集部 「数理・データサイエンス・AI講座」の中で、リテラシーレベル「データサイエンス基礎から応用」について、全8回の講座の内容を教えてください。

浅井 データ分析およびデータサイエンスを学ぶ意義を理解し、社会調査法の基礎を学ぶと共に多彩な話題に触れ、そこで使われている技術と応用を学びます。

【第1回】データで社会を可視化する~課題解決のためのデータサイエンスサイクル~
【第2回】画像処理とAI~AIの歴史と実社会応用に向けた取り組みを学ぶ~
【第3回】画像処理とAI~人間センシングを通してAIの持続的高度化を学ぶ~
【第4回】ビッグデータ利活用のためのプライバシー保護技術
【第5回】社会調査法の基礎
【第6回】社会におけるデータAIの利活用~データマイニングの諸課題~
【第7回】AIによるデータサイエンスとシミュレーション
【第8回】自動車へのデータサイエンスの応用~クルマはビッグデータで走る~

以上のような内容となっています。

編集部 講座を通してどのような知識やスキルが身につけられるのでしょうか?

浅井 モデルカリキュラムで述べられている以下のような点を学習の目標としています。

⚫︎データ・AIによって、社会および日常生活が大きく変化していることを理解する
⚫︎「数理/データサイエンス/AI」が、今後の社会における「読み/書き/そろばん」であることを理解する
⚫︎データ・AI活用領域の広がりを理解し、データ・AIを活用する価値を説明できる
⚫︎今のAIで出来ること、出来ないことを理解する
⚫︎AIを活用した新しいビジネス/サービスは、複数の技術が組み合わされて実現していることを理解する
⚫︎帰納的推論と演繹的推論の違いと、それらの利点、欠点を理解する

社会人の学び直しにも、大学の授業や企業研修の教材としてもおすすめ

編集部 このリテラシーレベルの講座は、どのような方におすすめでしょうか?

中谷 およそ15分の隙間時間があればオンデマンドで1つのテーマを学べるようにし、忙しい社会人の方にとっても受講しやすいよう構成しております。社会人の方がデータサイエンスを学ぶための講座としておすすめします。

また大学の授業における教材として、また企業の研修教材としてもご活用いただけたら幸いです。団体向けの特別パッケージ料金もございます。

特にリテラシーレベルの講座は、大学生にとっては必須の内容とされていますので、ぜひ多くの大学に本学の講座をご活用いただければと思っています。

マナパスでは講座アクセスランキング1位に

編集部 「リテラシーレベル」を受講された方の感想として、どのようなお声がありましたか?

中谷 「リテラシーレベル」ではデータサイエンスやAIの応用事例が多数紹介され、具体的にイメージできるので理解がしやすく、また説明も丁寧でわかりやすいとご好評をいただいております。

編集部 現在(2023年5月)、社会人の学びのための情報を集めた文部科学省のポータルサイトマナパスの講座アクセスランキングの公開講座以外の全ての部門で1位となる人気講座ですね。この人気の要因は、どこにあると思われますか?

マナパス 講座アクセスランキングより
ビジネス系、文系ほか、心理、教育など多くの分野でアクセスランキング1位を取得

中谷 放送大学の学生以外の方も、どなたでも受講できること、また講座はオンデマンドでいつでもどこでも自分のペースで受講できること、講座の開講期間中はいつでも受講を開始できること、など受講しやすい点が評価いただけているのではないかと思います。

また、講師陣がいずれも著名な研究者であること、実社会での事例が多く紹介されている点も、要因の一つだと思っています。

さらに、放送大学の授業番組制作のノウハウを生かし、説明資料がわかりやすく構成されている点もご好評をいただいている理由の一つではないかと考えています。

無料で学べるデータサイエンス講座も開講

データサイエンスという分野に一歩踏みだす「Rで学ぶデータサイエンス〜入門〜」「データサイエンス革命」

放送大学では、有料の講座の他に無料講座も多数開講されています。そこで、データサイエンスの分野が学べる2つの無料講座について詳しく伺いました。

編集部 無料講座の「Rで学ぶデータサイエンス〜入門〜」と「データサイエンス革命」について、それぞれ講座内容や難易度、どんなことが学べるかについて詳しく教えてください。

1)「Rで学ぶデータサイエンス〜入門〜」について

浅井 データサイエンスとは、データ分析によって科学的根拠に基づく客観的判断を支援するものです。

「Rで学ぶデータサイエンス〜入門〜」では、データサイエンスの基本的事項と、データを実際に扱って分析し、データサイエンスの分析手法の基礎と基本的考え方を学びます。

具体的には、

⚫︎統計解析ツールRの基本的な使い方
⚫︎データ分析の基本
⚫︎統計処理の初歩
⚫︎予測を行う回帰とグループに分ける分類

を学びます。

この講座は情報学を少し学んだことがある方を対象としています。データサイエンスという用語は聞いたことがあり、統計的なデータ分析に興味がある方が対象です。確率統計を少し勉強したり、コンピュータを使ったりした経験をお持ちですと円滑に学習できます。

ここでは、データ分析の基本的な考え方を知りデータ分析を行う基礎的な能力が身につきます。データ分析しようとする複雑な問題に対して、その解決手段がわかっている要素へと分解し、解決可能な状態にするための第一歩となります。データ分析に基づいて課題を解決するための、技術的な土台を築くということです。

2)「データサイエンス革命」について

中谷 また、データサイエンスには、単にデータを分析することだけではなく、社会の価値に結びつけることまでが要求されています。そのため、課題解決に至る道筋を描く力も必要です。

そこで、「データサイエンス革命」では専門家による講演を通してデータサイエンスを概観する講座(全6回)で以下のようなことを学びます。

【第1回】 データサイエンスことはじめ
【第2回】 データサイエンスをいかす
【第3回】 経営における人工知能とデータサイエンス
【第4回】 マーケティングとデータサイエンス
【第5回】 統計学の現代的役割とデータサイエンス
【第6回】 ビッグデータのプライバシー保護技術

「データサイエンス革命」の方は専門家による講演という形式になっていますが、難解な数式などはほとんどなく、各回は一般の方に向けてかみ砕いて説明されています。

こちらの講座では、データサイエンスのエッセンスを習得することができます。データサイエンスがなぜ必要なのか、その重要性を明らかにするところから、その利用法、経営やマーケティングでの活用、統計学との関わりまで、データサイエンスにまつわる話題を取り上げていますので、データサイエンスがどういうものか、概要を掴むことができます。

無料講座の活用方法

編集部 これらの無料講座について、それぞれ「特にこんな方におすすめしたい」「こんな風に活用してほしい」というイメージがあればお聞かせください。

浅井 「Rで学ぶデータサイエンス~入門~」は、

⚫︎データ分析に興味があるが、具体的にどうしたらよいかわからない
⚫︎統計学を学んだことはあるが、実際にデータ分析した経験がない
⚫︎プログラミングに興味があるが、なかなか始められない

といった方におすすめです。

データサイエンスに興味があって、「本を読んだけどよくわからない」あるいは「実際にデータを扱うにはどうすればよいかわからない」という場合に、一歩進むための足掛かりにしていただければと思います。

「データサイエンス革命」については、データサイエンスという言葉はよく耳にするようになりましたが、

⚫︎興味はあっても、どう学び、実践していったらよいかわからない方
⚫︎データサイエンスの技術や利用について概要を知りたい方

に適しています。

また、企業研修などで、経営やマーケティングにおいてデータ分析に基づく判断が極めて重要になっているということを認識してもらいたい、あるいはビジネスにおける課題をデータ分析によってどう解決しようとしているか学んでもらいたい、というケースにご利用いただけるのではないかと思います。

繰り返し視聴される方も多く、仕事に生かせる知識で社会人に好評

編集部 これまでに、この2つの無料講座はどのような方が受講されていますか?

中谷 これまでに3000名以上の方にご視聴いただいており、50〜60代の方、次いで30〜40代の方に多く利用いただいております。会社員の方が大多数で、仕事に生かせるデータサイエンスの知識が求められているのではないでしょうか。男女比は約2:1ほどです。

編集部 この2つの無料講座を受講された方からは、どのようなご感想をいただいていますでしょうか?

中谷 同じ講座を複数回視聴される方が多く、無料公開ということもありご好評いただいております。

「学び直し(リスキリング)」をお考えの社会人の方へ

編集部 最後に、「学び直し」を考えている社会人に向けて、アドバイスやメッセージをお願いします。

浅井教授「Rで学ぶデータサイエンス~入門~」担当講師

適切な意思決定を行うには、科学的な根拠に基づく客観的判断が不可欠です。データサイエンスは、科学的な根拠を示したり、データを活用して新たな価値を創出したりする有効な手段です。

データサイエンス・AIの一連の講座を受講し、社会の中で実際に、課題がデータサイエンスやAIによってどのように解決されているか、その応用事例を知り、課題解決の技術的手法やデータ分析手法について学んでいただければと思います。是非、データサイエンス・AIにチャレンジし、キャリアアップにつなげていただければ幸いです。

中谷教授「データサイエンス革命」担当講師

各講座で強調されているのは、データサイエンスの実践では、目的の設定と適切なデータの収集、および、目的に合致した統計手法の適用が重要であるということです。したがって、試行錯誤が生じます。また、結果を解釈する能力も必要です。

これらの力を育成するためには、まず、このようなデータサイエンスのプロセスを理解すること、統計手法や機械学習の技術を理解すること、そして、繰り返し実践し、思考力を高める必要があります。放送大学の講座は、これらのデータサイエンスの実践に必要な知識を身につけるために有効だと考えています。

浅井 紀久夫 教授
1991年      名城大学理工学部電気電子工学科卒業
1993年      名古屋大学大学院工学研究科博士前期課程修了
1996年      名古屋大学大学院工学研究科博士後期課程退学

現在          放送大学教養学部教授,博士(工学)
専攻          マルチメディア情報学

中谷 多哉子 教授
1980年  東京理科大学理学部応用物理学科卒業
1994年  筑波大学大学院経営政策・科学研究科経営システム科学専攻修了
1998年  東京大学大学院総合文化研究科博士後期課程修了

博士(学術)
富士ゼロックス情報システム(株),(有)エス・ラグーン代表,筑波大学大学院ビジネス科学研究科准教授を経て

現在   放送大学教授
専攻   ソフトウェア工学、要求工学

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