(取材)口コミで全国からオンライン講演・相談依頼 | HSCの悩みに寄り添う専門家に聞く

HSCをご存知ですか? HSCはHighly Sensitive Childの略で、「人一倍敏感な子」を意味しています。HSCは生まれ持った気質であり、その敏感さから日常生活や学校生活に戸惑うことも少なくありません。

HSCの不安や悩みに寄り添う講演・相談活動をする NPO法人千葉こども家庭支援センター・理事長の杉本景子さんに、オンラインで講演する・相談を受ける際の工夫についてお伺いしました。

HSCに関する講演や相談を始めたきっかけ

コエテコカレッジ編集部(以下、編集部) お仕事として、HSCに関する講演・相談をするようになったきっかけを教えてください。

杉本景子(敬称略 以下、杉本)相談を受けるお仕事を始めたきっかけは、知人やいわゆるママ友たちから、子育ての悩みや疑問、発達の相談・質問をされたことです。わが子が通っている幼稚園の園長先生が保護者に「杉本さんに相談してみたら」と言われることがよくありました。

編集部 園長先生からご指名とは、すごいですね。

杉本 私が看護師であることも頼りにされた理由の一つかもしれません。勤務した精神医療センターでは、重度精神疾患患者の閉鎖病棟や隔離室における治療の看護を通じて、QOL(Quality of life)を深く考える機会が多くありました。特に、人生における幸福感について考えた当時の経験は、今に生かされていると思います。

編集部 その後に、カウンセラーとして活動を始めたんですね。

杉本 より的確なサポートができるように、カウンセラーとして相談を受けられる体制を整えました。

寄せられる相談内容の多くは、学校・幼稚園・保育園での過ごしかたです。相談を通して、学校に行けなくなった不登校の小学生・中学生など子どもたちやと保護者が安心できる場所を探していると実感しました。

そこで、「子どもたちが力を発揮できる環境をつくりたい」「家庭と学校の架け橋となりたい」と考えて、NPO法人千葉こども家庭支援センターとフリースクール・ペガサスを設立しました。

編集部 HSCに関する相談を受けるようになったのは、いつ頃ですか。

杉本 2015年にHSCを紹介した書籍が、日本で初めて翻訳された頃です。その書籍や紹介記事を持って「わが子も、この通りだ」と心配して訪れる相談者が増えました。子どもの5人に1人が生まれつき持っている気質を指したHSCへの理解が深まれば、赤ちゃんから思春期までの子どもたちも保護者も安心できるのではと思ったことから、現在の講演・相談活動に至ります。

講演の依頼は、参加者を一般公募する行政が主催するものと研修の2種類があります。研修では、教師や学校心理士、スクールカウンセラーなど教育や学校の現場で活躍する方へお話ししています。

HSC・ 人一倍敏感な子とは

思慮深く、人の気持ちや刺激に敏感な気質

編集部 改めて、HSCについて教えてください。

杉本 HSCとは、Highly Sensitive Childの略です。1996年にエレイン・N・アーロン博士が提唱した概念です。大人の場合は、HSP(Highly Sensitive Parson)と呼びます。

私はHSCやHSPを一言で説明する際には、「思慮深く、人の気持ちや刺激に敏感な気質の人たち」とお伝えしています。HSCが成長するとHSPとなります。

編集部 生まれつきのものだから、急に発症するものではないんですね。

杉本 HSCは気質であり、生まれつきのものです。病気や発達障害とは異なります。HSCは比較的新しい研究の概念で、まだ広く知られていないません。そのために「小さなことにこだわって、わがままだ」「根性がないのでは」と誤解を受けることもあります。

編集部 そんな誤解はお互いに不幸せなことですね。

誤解の結果、子どもたちがつぶされる、力を発揮できなくなって未来を奪われるようなことをなくすために、活動しています。困っている人たち、子どもや保護者に今すぐに安心して欲しい、家庭や学校での子どもたちの生活に生かしたい、子どもたちに提示できるものを用意したいと考えています。

保護者が理解して認めることが、HSCの安心につながる

編集部 HSCは、学校生活でどんなことに困っていますか。

杉本 学校生活で積極的に参加している子のイメージといえば、「間違えることも臆せずに、何度も手を挙げて発言する」「リーダーや係に立候補する」ではないでしょうか。

一方、深く考えて処理する・行動するHSCには、このようなスタイルで学校生活に参加することは難しいです。「自信がないときは挙手しない」「他の子がやりたいのなら自分は譲ってもよい」というHSCの行動は、教師から積極的ではない・消極的だと評価される場合があります。

編集部 ご説明のようなHSCのスタイル・考え方でも、学校生活に積極的に取り組んでいるともいえますね。一般的なステレオタイプの積極性とはちがうからと、HSCが評価されないのはもったいないと思います。

杉本 もし教師がHSCの積極性に気づけなくても、保護者が理解して、「よく頑張っているね」と認めれば、子どもは小学校・中学校など学校でで安心して過ごせるでしょう。「ママ・パパは自分のことをわかってくれる」という安心感を子どもが持つことが大切です。保護者も「手を挙げない」「すぐに譲ってしまう」と、わが子をつい歯がゆく感じがちですが、HSCならではの良さを理解してほしいです。

杉本さんの著書「一生幸せなHSCの育て方」では、日常生活や学校生活でのHSCの悩みの解決方法をイラストともに具体的に分かりやすく解説しています。発売から3か月足らずで重版になりました。

HSCはコロナ禍の生活様式を受け入れやすい??

編集部 2020年からのコロナ禍で、HSCも苦労が増えていませんか。

杉本 よくそのように質問されますが、マスク着用や手洗いのような予防的な行動は、以前から行っていたHSCが実は多いです。コロナ禍の生活様式をHSCは苦と感じることは少なく、受け入れやすいのかなと感じます。

周りの子どもたちがマスクや手洗いのルールを守っていれば過ごしやすい反面、ルールが破られるとHSCは不安が大きくなります。コロナ禍ではHSCは過ごしやすくなったり、不安が大きくなったりすることは、環境次第と思います。

編集部 コロナ禍以降、杉本さんのお仕事である講演、相談への依頼に変化はありましたか。

杉本 講演は、2020年はほぼ中止になりました。研修では代替の策として資料の提出を依頼される場合もありました。

2021年に入り、ほとんどの講演がオンラインでの開催です。感染予防対策を徹底できた場合には、対面での開催もありました。

相談は、コロナ禍前は対面が原則でした。遠距離の場合や2回目以降なら例外として電話でも受けていました。現在は、最初からオンライン希望の方が対面より多い印象です。それに比例して、千葉市・千葉県だけでなく、県外からのご依頼も増えています。

編集部 講演も、相談もオンラインのほうが多くなっているようですね。スムーズに移行できましたか。

杉本 正直、以前は私も対面を重視していました。私自身が何度もオンラインで講演したことで、オンラインへの戸惑いを越えたことがオンライン相談に生かせていると感じます。

オンラインで話す・伝えるコツ

今年2021年に入り、相談ともに対面よりオンラインのほうが多くなった杉本さんに、オンラインで話す・伝えるコツをお聞きしました。

「今、ライブで話している」と感じるための工夫

杉本 従来の対面開催の講演会では、会場の参加者の「どよめき」や「うなずき」など、その場で感じる反応空気感を大切にしてきました。

オンラインの研修では、参加者も「顔出し」されていますが、参加者の顔が見えるといっても、小さな画面です。対面開催のような反応は見えにくく、空気感はありません。

オンラインの講演では反応や空気感がないからこそ、ライブ感を出して、「今、あなたのために話しています」と参加者に実感してもらえるように心がけています。ニュースや天気など「今日・今起こっている」ことを、冒頭で話すことが多いですね。録画ではありませんよ、ライブですよと実感してもらうためです。

「あなたに話す・答える」と感じるための工夫

杉本  参加者から事前に質問を受け付けるようにしています。オンラインでの開催だと事前に資料を参加者へ送ることが多いので、質問募集も同時に行うことができます。質問は、前日の夜まで受けるようにしています。

編集部 前日の夜まで受けて、当日に話すのは大変ではありませんか。

杉本  質問をどのように講演へ反映させるか、臨機応変に対応します。講演内容に挿入する場合もありますし、講演の締めとして質問と回答をお話しすることもあります。

質問は開催後も募集して、後日直接お答えしています。

当日の講演終了後にも質問をお聞きする時間を設けますが、オンラインだと直接質問するのはためらう方も多いです。その解決策として、終了後〇〇日までと締切を設定して質問を受け付けるようにしています。

編集部 会場開催の講演会終了後に講師に質問しようと参加者が行列することが、よくあります。その代替案のようですね。

杉本  開催前・開催後ともに質問を受け付けている理由は、「あなたに向けて話しています・お答えしています」と感じてほしいからです。講演後に「聞いている自分の横でお話してくれるように感じた」と感想をいただいたときは、とても嬉しく思いました。

私の講演が、いつでも誰でも購入できる教材とは違う「あなたのためのもの」であると実感してほしいです。参加した人にも、講師を依頼してくれた方・団体にも「杉本さんでよかった」と思ってもらうことを意識しています。

編集部 きめ細やかな工夫ですね。依頼が絶えない理由が分かった気がします。講演依頼は、主に口コミなんですか。

杉本 依頼の多くは口コミです。こちらから営業したことはありません。ありがたいことに、講演を聞いた方から「うちでも話して欲しい」「もっと聞きたい」と連絡をいただいて、各地から講演の依頼をいただいています。

オンラインのために特別なことをしない

編集部 オンラインで講演する際には、特別な準備はありますか?

杉本  オンラインだからと身構えて特別なことをするわけではありません。対面での開催と同様に、私自身の持ち味・特色を出しつつ、私らしく自然体でお話しすることを心がけています。オンラインだからと、架空の自分をつくらないようにしています。

編集部 架空の人物といえば、オンラインの人気動画やチャンネルではオンラインの中だけの話し方をする方が多いような気がします。

杉本 オンライン上での振る舞いを普段もできるなら問題ないですが、「オンラインの姿」と「対面の姿」が異なることで、いざ対面で会ったときに相手が戸惑うようなことは避けるべきです。

仕事として講演をしている方のほとんどが、オンラインで完結しようとは考えていないと思われます。オンライン講演の次に、会う場を設定したい、相談会やセミナーなど対面につなげたいのではないでしょうか。

オンラインから対面へつなげたいなら、対面でお会いした際に驚いてしまうような、オンライン上だけの架空の自分をつくらないほうがよいと思います。

オンライン相談で、自分の様子が相手に伝わるための工夫

編集部 相談をオンラインで受ける際には、どんなことに注意していますか。

杉本  先ほどお伝えした、オンラインの姿を対面での姿から離れたものにしないということは相談、講演ともにこころがけています。

今年は対面よりオンラインで相談を受けることが多くなりました。オンラインはとても便利で、距離を負担に感じずに相談できる点ではありがたいと思います。

一方、対面と同じようにできないこともあります。対面では言葉以外から伝わってくるものをキャッチできます。例えば、手や足の動き、香り、視線やまばたき、呼吸などです。オンラインでは、カメラに映っている限られた範囲の様子と、言葉からの情報に頼ることになります。また、対面の場合は往復の移動にかかる時間も心を整理する大切な時間だとおっしゃる方もいらっしゃいますが、オンラインの場合はそのような時間を確保できないことも予期せぬ違いかもしれません。

オンラインで相談を受ける際には、私はマスクを外して、相手が私の表情を確認しやすくなるように対面よりも注意しています。

手を動かす際の位置は、相手が見ることができるように顔の近くにします。メモをとる際には下を向いてしまうのは仕方がありませんが、できるだけ私の視線を相手に見えるように心がけます。

今こそ、オンラインに挑戦する好機

編集部 講演や相談など、仕事としてオンラインで伝える・話すことに挑戦したい方へのアドバイスをお願いします。

杉本  こだわりをもって対面でのサービスを行なってきた方こそ、オンラインにはためらいがちで、なかなか踏み出せないかもしれません。

しかし、対面に加えてオンラインでもサービスを提供できるように用意するには、今が好機だと思います。受け手もさまざまなオンラインサービスを利用してその便利さを実感している今こそ、受け手もオンラインにスムーズに適合しやすいからです。

どんなにオンラインが発達しても対面でのやり取りはなくならないし、対面で大事にしてきたことは、オンラインでも生かせるでしょう。対面も大切にしつつオンラインに挑戦すれば、ツールが増えることで顧客や受け手のニーズにこたえやすくなると考えます。

明日をワクワクして迎えられるように、結果を出したい

編集部 これからの目標や目指していることを教えていただけますか。

杉本  今、悩んでいる子どもや保護者に、できるだけ早く安心できるように結果を出すことにこだわっています。

HSCが安心して生活できるようになるには、なんとなく程度でもいいからHSCを知っている人が増えることが必要です。そのためには講演で一度に大勢にお伝えしたいです。講演でHSCへの理解を広めることが大切であることも間違いないでしょう。

一方で、目の前で困っている親子が明日、明後日にでも「よかった」と安心できるための取り組みに、私はこだわっていきたいです。そのためには、できるだけ早く「よかった」「なんとかなりそうだな」と感じられるような結果をしっかり出すことが大切です。

  • できるだけ早く安心して欲しい
  • できるだけ早く働き掛けたい・取り組みたい 

この点にこだわって活動していきたいと考えています。講演でも、「できるだけ早く」にこだわっています。

子どもの生活の大部分を占める学校生活には、隠れている困りごとがまだまだたくさんあるでしょう。子どもの困っていることを一つ一つ解決して結果を出したいです。

  • 「もう大丈夫だな」
  • 「今度困ったことがあったら、こうすれば乗り越えられる」
  • 「この方法で解決すればいい」

このように子どもが実感して安心して欲しいと思います。最近よく聞く「みんなが活躍できる」に共通する点もあるかもしれません。

子どもが夜眠るときに「明日が来なければいいのに」と思うことほど、悲しいことはないでしょう。明日をワクワクして迎えてほしい今夜安心して眠ってほしい、そのためにこれからも活動していこうと思います。

杉本 景子(すぎもと けいこ) 

公認心理師・看護師・保護司

NPO法人千葉こども家庭支援センター 理事長

杉本景子公認心理師事務所主宰

千葉市スクールメディカルサポート・コーディネーター

元厚生労働技官

3人の子育てをしつつカウンセラーとして活動する中、育児書通りではうまくいかない子育てに大きな不安や肩身の狭い思いをしている親が多数いることを実感する。相談の多くは学校生活に関することであり子どもたちが安心して力を発揮できる環境づくりが必要だと痛感し、家庭と学校の架け橋となるべくNPO法人を立ち上げ、不登校児童生徒をサポートするフリースクール「ペガサス」を開設。HSCとその保護者へのカウンセリングや教育委員会・学校現場にHSCを広めるための啓発活動を行なっている。

NHK「おはよう日本」をはじめ、教育系雑誌や新聞など数多くのメディアに取り上げられている。著書に「一生幸せなHSCの育て方」時事通信社がある。

HSC(HSP)に関すること、教育・子育て全般について相談したい場合は、NPO法人千葉こども家庭支援センターのWebサイトから。対面・zoomどちらでも可能です。

https://pegasasuwing.com/hscsoudan/

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