農家の経営対策に役立つ「農業経理士®」!資格を取るメリットや勉強方法を解説

農業を営むうえで正しい経理知識を身につけることは、農業経営が上手くいっているかどうかを判断するのに大いに役立ちます。農業経理は一般的な業種とは異なる点も多く、業界特有のルールを理解することが必要です。
農業経理を学ぶのであれば「農業経理士®」という資格の取得を目指すことで、より実践的な幅広い知識を身につけられます。
この記事では、農家の経営対策として役立つ「農業経理士®」の資格を取得するための方法や農業経理を学ぶメリットについて解説します。

農業経理を身につけるための対策「農業経理士®」称号認定試験とは

事業経営に役立つ農業経理の知識を総合的に身につけるためには「農業経理士®」の資格取得を目指すのがおすすめです。

「農業経理士®」称号認定試験とは

「農業経理士®」称号認定試験は、一般財団法人日本ビジネス技能検定協会によって2020年度に創設された比較的新しい制度です。
自然災害などの影響を受けやすい農業経営においては、計数に基づく客観的な経営判断が求められます。そこで同協会は、農業経営に必要な計数管理の基礎となる農業簿記を普及しようと、2014年度から一般社団法人全国農業経営コンサルタント協会の監修のもと、農業簿記検定試験を実施してきました。
農業経理士®は、この農業簿記検定に比べて、さらに実践的なスキルを習得した証明として認定されるものです。

農業経理士®を目指しているのはどんな人?

個人で農業を営んでいる方はもちろん、農学部などに通っている学生などが農業経理士®の取得を目指しています。また、この資格は全国農業会議所や全国農業共済協会、全国農業協同組合中央会(JA全中)などの団体にも後援されています。
近年では異業種の企業が農業に参入したり、AIやロボットなどを用いて行う「スマート農業」が進められたりしていくなかで、法人で農業を営むケースも増えています。それにともない、今まで農業に携わったことのない人々が、農業経営をしていく知識を一から身につけるために農業経理士®を目指している場合もあります。

農業経理士®として認定されるために必要な3つの資格

農業経理士®として認定されるためには、以下の3つの試験にすべて合格する必要があります。

  • 農業簿記1級
  • 経営管理
  • 税務

なお、試験概要は2024年3月時点の内容であり、価格などは今後変更になる可能性があります。

農業簿記1級

農業特有の簿記に対する知識を問われる資格試験が、農業簿記検定です。3級から1級まであり、農業経理士®に認定されるには、1級の取得が必要です。
1級では、財務会計・原価計算・管理会計についての問題が出題されます。

  • 受験資格:特になし
  • 検定試験実施回数:年2回(7月・11月)
  • 出題数/試験時間:50問(五肢択一・マークシート)/120分
  • 検定料:5,280円

合格基準は各科目とも総得点の70%。合格率は40%前後と、難易度はそれほど高くはありません。

経営管理

経営管理の試験は、農業経理士®の認定制度創設に合わせて設けられた新しい試験です。
経営分析・経営計画・経営改善など、農業の経営管理に関する総合的な知識が問われます。

  • 受験資格:なし
  • 検定試験実施回数:年1回(7月)
  • 出題数/試験時間:25問(五肢択一・マークシート)/90分
  • 検定料:5,280円

税務

税務試験も、農業経理士®認定制度のために新設された試験です。
事業を営むうえで欠かせない消費税・所得税・法人税などの税金に関する知識について、農業に関わる免税制度や相続問題など、農業ならではの観点から問われます。

  • 受験資格:なし
  • 検定試験実施回数:年1回(11月)
  • 出題数/試験時間:25問(五肢択一・マークシート)/90分
  • 検定料:5,280円

各種試験の日程および申し込みは、一般財団法人日本ビジネス技能検定協会の公式ホームページで確認してください。過去問(2023年実施の第4回試験「税務」、2023年実施の第4回試験「経営管理」)は期間限定で公開されています。

http://www.jab-kentei.or.jp/agricultural-accountant/

2020年に実施された農業経理士称号認定試験のプレテスト(「経営管理」の問題・解答解説)も期間限定で公開されているのでチェックしてみましょう。

http://jab-kentei.or.jp/agricultural-accountant/dl.html

農業経理士®を取得するメリット

経理業務自体は費用をかければ外注することも可能です。しかし、長期的な経営を見据えれば、事業者自身が農業の経理業務を学んでおく意義やメリットは十分にあるといえるでしょう。

農業簿記についての知識が身につく

農業経理士®に認定されるには「農業簿記検定1級」を取得しなければなりません。
農業簿記とは、農業経営における経済活動を記録、整理、分析するための方法です。具体的には、農作物の生産、購入、販売や農業に関連する資材の購入、人件費、その他の経費などの収入と支出を記録します。
農業簿記は一般的な商業簿記と基本原則は共通していますが、農業特有の要素が反映されており、勘定科目や年度末の棚卸し方法、生物資産の取扱方法などが違います
農業簿記の知識を身につけることによって、経営者は財務状態を明確に理解し、収益性の向上、コストの削減、投資の判断など、より良い経営戦略を立てられるようになるでしょう。

正しく確定申告を行える

事業として農業を営んでいるのであれば、適切な額を納税するために欠かせないのが確定申告です。特に、節税効果の高い青色申告を選択する場合、作成する帳簿の種類が増えたり、帳簿をつける様式も複雑になったりと、経理業務の負担が大きくなります。
農業簿記では勘定科目や収支の形態が特殊なため、一般的な経理の知識があっても容易にできるものではありません。また、農業所得に対する確定申告は、一般的な事業のものとは異なる書式での提出が求められます。
農業経理士®を取得するために身につける農業簿記や税務の知識を活かせば、農業を営んでいる事業者が正しく確定申告を行えるようになります。

補助金や支援制度を利用する際の正しい資料を作成できる

農業経営を支える補助金や支援制度を利用する際にも、農業経理士®の知識は役立つでしょう。
農業は思わぬ自然災害などに見舞われて、経営の危機にさらされるリスクを常に抱えています。万が一の際に支援制度などを利用するためには、それまでの経営状況などを明らかにした正確な財務資料の提出が必要です。
農業経理士®の知識があれば、データに基づいた正しい資料を作成でき、制度もスムーズに利用できるでしょう。

今後の経営改善に役立つ

農業経理士®の知識は、事業展開を図るためにも必要不可欠だといえます。
経営状況を改善したいと考えるのであれば、まずは農業簿記で現状を正しく把握することが重要です。事業者自身が農業簿記や経営分析の知識を持っていれば、財政状況や経営成績を分析し、課題を見つけ、適切に改善策を考えられるでしょう。
具体的な数値によって経営状況を可視化できる経理の知識は、事業者自身が身につけるべき重要なスキルなのです。

農業経理士®の資格を取るための勉強方法と注意点

農業経理士®の試験対策では、新設されたばかりの資格ならではの事情を理解しておくことが大切です。

勉強方法

農業経理士®の資格を取るための勉強は、基本的に独学で進めることになるでしょう。2020年に新設された新しい認定制度ということもあり、農業経理士®の受験に対応する講座などがほとんど見当たらないためです。
なお、農業簿記検定試験については「資格の大原」に3級および2級向けの通信講座があります。しかし、農業経理士®の認定条件である1級についての講座は、2024年3月現在見当たりません。
したがって、公式のテキストおよび問題集に沿って独学で勉強するしかない、というのが現状です。

注意点

新設されたばかりの農業経理士®の資格は、一般的な資格の試験勉強のようにはいかないこともあるため注意が必要です。具体的には、以下のような点を意識してください。

自主的に勉強できないと難しい

農業経理士®の勉強は独学が基本となるため、自主的に勉強を進めるのが苦手だという人ほど、早めに計画を立てて試験勉強に取り組むことが重要です。
特に、「経営管理」と「税務」の試験は年に1回しか受験のチャンスがないため、目標を定めたら計画的に試験対策を進めましょう。

一般的な簿記の知識があっても油断はできない

農業簿記の試験は、一般的な簿記の知識を持っていたとしても、新しく学ぶ内容が少なくありません。
例えば、農業簿記でしか使用しない勘定科目や、減価償却の対象となるもの、棚卸し時の農作物の扱いなどを覚える必要があります。
基礎的な簿記の知識があるからと油断せず、しっかりと試験対策に取り組むことが大事です。

2024年7月と11月試験に対応した農業簿記のテキストが、こちらです。分野ごとにテキストが分かれているので気をつけましょう。

「そもそも簿記とは何か」「一般的な仕訳方法から学びたい」という方は簿記3級の取得をした後、農業経理士®を目指すのがおすすめです。
簿記3級の勉強方法と試験の注意点を、こちらの記事で紹介しています。

https://college.coeteco.jp/blog/archives/6841/

「経営管理」と「税務」は特に対策しにくい

2020年から実施されている「経営管理」と「税務」の試験に関しては、過去問題集がなく、これまでの出題傾向を分析できません。そのため、出題のパターンや頻出問題などがわからず、的を絞った効率的な試験対策を行うのは困難です。
しかし、本来の目的は、農業経理の知識を総合的に身につけ、経営に活かすことです。試験の傾向に関わらず、幅広く学んでおく意義は十分にあるといえるでしょう。
公式テキストと問題集で、しっかり学習しましょう。

まとめ

農業を営むうえで正しい経理知識を身につけることは、事業の現状を把握し、今後の経営戦略を立てるためにも重要です。また、正しく確定申告を行ったり、補助金や支援制度などを利用したりする際にも役立つでしょう。

農業経理を学ぶのであれば、農業経理士®という資格を目指してみるのも一つの選択肢です。ただし、新設されて間もない資格のため、出題傾向をつかみにくいなどのリスクはあります。
しかし、合格に向けて勉強することで、農業特有の簿記の知識に加え、より実務的な経営管理と税務の知識が身につくことはたしかです。
農業経理は、今後の経営を支えるために重要な知識のため、ぜひ目指してみてはいかがでしょうか。

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