言語聴覚士は医療職の一つとして、病院をはじめ多くの施設で活躍しています。そのため、言語聴覚士という仕事に興味を持ちつつも、言語聴覚士の担当する職務領域や、言語聴覚士になる方法などが、よくわからないという方もいるでしょう。
ここでは、言語聴覚士の仕事内容や必須資格の有無、また試験内容や試験対策に有効な方法を4つ紹介します。言語聴覚士の仕事にあこがれている方や、試験について知りたい方はチェックしてみてください。
言語聴覚士は「言葉によるコミュニケーション」支援の専門家
言語聴覚士とは、発声や発語、言葉を聞き取る聴覚など「言葉によるコミュニケーション」に必要な機能の支援を行なう専門家です。
言語聴覚士は言葉によるコミュニケーションのために必要な機能や、摂食・嚥下といった「食べる」機能の支援・訓練を行ない、その問題が起こった原因を検査などで調べ、原因や程度にあった訓練を行ないます。
言語聴覚士は国家資格が必須
言語聴覚士は名称独占資格のため、言語聴覚士国家試験の受験資格を得たうえで試験に合格し、国家資格を取得しなければ言語聴覚士を名乗ることはできません。
言語聴覚士国家試験は、1999年から始まりました。比較的新しい資格であり、超高齢化社会が到来する日本では今後さらに需要が高まると見込まれています。言語聴覚士の平均年収は、418.9万円です(令和2年賃金構造基本統計調査より)。
仕事内容は大きく3つに分かれる
言語聴覚士の仕事内容は多岐にわたりますが、大きく分けると「摂食・嚥下機能の訓練」「言語・認知、発声・発語の訓練」「聴覚機能の支援」の3つがあります。
ここからは、言語聴覚士のおもな仕事内容を解説します。
摂食・嚥下機能の訓練
摂食とは食べ物を食べること、嚥下とは飲食物などを飲み込む機能を指します。言語聴覚士のおもな仕事の一つとして、食べ物をうまく飲み込めない人や食べ物を飲み込もうとするとむせてしまう人に対して、その原因を調べ、機能回復のための訓練を行ないます。
食べ物を飲み込む動作は反射によって行なわれますが、脳に障害がある場合、こうした動作ができなくなってしまうのです。こうした脳障害が原因の場合は反射を高める訓練も行ないます。
言語・認知、発声・発語など言葉の訓練
事故などで脳に障害を負うと、発声や発語がうまくできなくなったり、言葉の意味が理解できなくなったりして、自分の気持ちを言葉に出せなくなってしまうケースがあります。
こうした患者に対して、適切なリハビリテーションのプログラムを組むほか、障害の程度を見極め、発声・発話の訓練も行ないます。
言葉の訓練は小児も行なうことがあり、例えば言葉の遅れがある子どもに対して、絵本で言葉を引き出したり、文字を読み書きできるように教えたりすることなどが代表的な訓練です。
子供メインの言語聴覚士であるゆかさんが、実際の訓練の様子とやりがいを紹介しています。
聴覚機能の支援
聴覚機能の支援も言語聴覚士の仕事です。聴覚障害は、生まれつき障害を持っている先天性と、事故の後遺症や加齢によって起こる後天性があります。
言語聴覚士は、こうした聴覚障害の原因・程度を検査や患者へのヒアリングを通して調べ、程度に応じた訓練を行なうのです。
また、聴覚機能の訓練や、必要であれば聴覚機能を補助する補聴器・人工内耳の調整を行なうこともあります。
言語聴覚士のように機能の支援や訓練を行う国家資格に、視能訓練や視機能の検査を行う視能訓練士があります。詳しくはこちらで紹介しています。
https://college.coeteco.jp/blog/archives/7208/
言語聴覚士になるには
言語聴覚士資格を得るためには、まず言語聴覚士資格の国家試験を受けて、合格しなければなりません。さらに、この国家試験を受けるには定められた受験資格が必要です。
言語聴覚士国家試験の受験資格を取得するには、大きく3つのルートがあります。ここからは、受験資格を取得するためのルートについて解説します。
養成課程のある短大・専門学校ルート
高校卒業後、言語聴覚士養成課程のある短期大学や専門学校で学び、所定の課程を修了すると言語聴覚士国家試験の受験資格を得られます。
このルートは3~4年の課程が主で、言語聴覚士国家試験の受験資格を得られる3つのルートのうち最短のルートです。そのため、「すぐにでも言語聴覚士として活躍したい」「学費や時間を節約したい」と考える方におすすめです。
養成課程のある大学ルート
高校卒業後、言語聴覚士養成課程のある大学で学び、所定の課程を修了すると言語聴覚士国家試験の受験資格を得られます。
このルートは4年制課程が主で、言語聴覚士に関する知識・技術以外にも、教養科目や他学部の科目などを履修できます。そのため、言語聴覚士に必要な幅広い知識を身につけておきたい、という方におすすめのルートです。
養成課程のない大学ルート
高校卒業後、言語聴覚士養成課程のない大学や短大を卒業し、さらに言語聴覚士養成課程のある大学や大学院の専攻科、専修学校で2年間学び、所定の課程を修了することでも言語聴覚士国家試験の受験資格を得られます。
一般の大学を修了してから、さらに2年間大学院などで学ぶことになり、時間や費用はかかってしまいます。しかし、言語聴覚士以外の知識や技術を得られるため、多様な分野の知識を得たうえで言語聴覚士として活躍したい方に向いているでしょう。
以上が言語聴覚士になるための代表的なルートですが、外国で言語聴覚士に関する課程を修めた方であれば、厚生労働大臣の認定を受けることで受験資格を得られます。
言語聴覚士試験の内容
言語聴覚士国家試験の受験資格を得たとしても、試験に合格できなければ資格は得られず、言語聴覚士として活躍することはできません。
スムーズに言語聴覚士への道を歩めるよう、試験内容も確認しておきましょう。
試験科目は12科目
言語聴覚士国家試験の試験科目の範囲は、以下の12科目です。
- 基礎医学
- 臨床医学
- 臨床歯科医学
- 社会福祉・教育
- 音声・言語・聴覚医学
- 音声・言語学
- 心理学
- 言語聴覚障害学総論
- 失語・高次脳機能障害学
- 言語発達障害学
- 発声発語・嚥えん下障害学
- 聴覚障害学
試験では12科目から200問が出題され、出題形式は5択式のマークシートで回答となります。採点は1問につき1点のため、試験科目すべてをまんべんなくカバーする知識の広さが必要です。
合格ボーダーラインと合格率
言語聴覚士国家試験の合格ボーダーラインと過去5年間における合格率を解説します。
合格ボーダーライン
合格ボーダーラインは、その年によって異なるため一概にはいえませんが、例年120点程度がボーダーラインとなっているようです。厚生労働省の発表によると、2021年2月に行なわれた第23回言語聴覚士国家試験」でも、200点満点中120点が合格基準点となっています。
例年どおり、合格ボーダーラインが120点と考えると、全200問のうち6割の点数が取れれば合格の可能性が出てくるということです。
ただし、前述したとおりボーダーラインは毎年異なるため、コンスタントに8割程度の点数を取れるよう勉強しておけば、ボーダーラインの上下が多少あったとしても合格を目指せるでしょう。
合格率
言語聴覚士国家試験の過去5年間における合格率は、2017年75.9%、2018年79.3%、2019年68.9%、2020年65.4%、2021年69.4%となっており、平均して70%程度と合格率が高い印象を受けます。
ただし、合格率約70%といっても3~4人に1人は落ちる計算となるため、油断は禁物です。また、合格者の割合としては新卒者が多くを占めています。
2020年に行なわれた試験のデータでは、第22回言語聴覚士国家試験において、新卒者の合格率は79.4%、既卒者の合格率は24.1%となっており、大きな差があるようです。
こうした背景から、可能であれば新卒時の試験で合格できるよう、試験対策に取り組むとよいでしょう。
機能の訓練や支援、リハビリテーションを行う国家資格の視能訓練士や理学療法士、作業療法士に比べて、言語聴覚士国家試験の合格率は低く傾向にあります。言語聴覚士国家試験は、相対して難易度が高い試験ともいえますので、しっかりと試験対策を行いましょう。
言語聴覚士の試験対策4選
言語聴覚士国家試験の対策として、学校での授業をきちんと受けて理解するのはもちろん、放課後の時間や自宅などでの自習も欠かせません。
ここからは、自習でできる試験対策として有効な4つの方法を紹介します。
市販のテキスト・参考書で科目ごとの内容を理解する
市販のテキストや参考書を購入し、科目ごとに内容を理解できるまで読み込む方法です。「国家試験で出題されそうなワードを声に出して読む」ことも有効です。
市販のテキストや参考書には、重要単語や試験に頻出するワードを強調しているものもあるため、そうした記載があれば声に出して読んでみると頭に残りやすいでしょう。
この他には、学校の授業をまとめたノートと照らし合わせ、科目ごとに試験対策ノートを作成し、参考書などの情報も加味したノートを作るのも効果的です。ノートづくりの際、解剖学などはイラストに描いてみると印象に残りやすくなります。
過去問を解いて出題傾向や苦手部分を探る
過去問題を解くことも、言語聴覚士国家試験の有効な対策です。過去問はできれば10年分くらいを用意するとよいでしょう。
過去問10年分をひととおり解き、試験の傾向や頻出問題を探ると10年分の問題を解くなかで、自分の苦手分野がはっきりするでしょう。
次に、過去問で間違った問題の解説を読み、なぜ間違ったかを考えてから、間違った問題のみひたすらに解いていきます。最新版の過去問を入手して、この作業を間違いがなくなるまで繰り返してください。
苦手な分野・問題を繰り返し解く
前述した、自分の苦手分野や問題を正解するまで繰り返し解く方法によって、苦手分野をつぶすことができます。
過去問題を使うのもおすすめですが、苦手分野や頻出問題などは、応用が利くように過去問題以外も解いておくとよいでしょう。
頻出問題や苦手分野は、市販の問題集や学校で配られるテキストに載っている問題、Webサイトやアプリなどでも問題を出しているものがあるので、移動時間やすきま時間を利用して学習しておきましょう。
オンライン講座を受講し、試験のコツを習得
解説を読んでも理解できない、類似問題が思うように解けないとときには、学校の先生やクラスメイトに聞く方法もあるでしょう。
しかし、言語聴覚士試験突破の専門家などと、話ができるオンラインマッチングサービスなどもあるので、そういったサービスを利用してオンライン講座を受けるのもおすすめです。
オンライン講座を受けるには多少費用がかかるものの、試験突破のプロから適切な解法や理解の仕方を教わることができるほか、試験のコツなどを教えてもらえることもあります。前述した自習方法と組み合わせて、上手に活用しましょう。
まとめ
言語聴覚士は「言葉によるコミュニケーションの専門家」です。発声・発語の訓練をはじめ、摂食・嚥下機能、聴覚機能の訓練など、「話す」「食べる」において幅広い機能を支援します。
言語聴覚士は名称独占資格のため、国家資格に合格しなければ言語聴覚士を名乗ることはできません。
国家試験の受験資格を得るには、養成校で知識と技術を手に入れながら、定められた課程を修了する必要があります。受験資格を得るためのルートはいくつかあるので、自身の考えに合ったルートを選びましょう。
言語聴覚士国家試験は、試験科目が12科目にもおよびますが、過去問題や市販のテキスト・参考書など対策として有効なアイテムがあります。
試験に合格した先輩の体験談や学習法も参考にしつつ、自分にあった対策を実行して試験に備えましょう。