学校のテストや資格試験、仕事など、さまざまな場面で覚えなければいけないことは多くあります。なかなか覚えられないと、「自分は記憶力が悪いからだ」「もっと記憶力が良ければ……」などと思い込んでしまうこともあるでしょう。
この「記憶力」は、トレーニングによって高めることが可能です。
この記事では、記憶の機能や種類という基本的なことを紹介します。併せて、記憶力を高めるために効果的な長期記憶への変換方法、記憶力を鍛えるための効果的なトレーニング方法なども解説するので、ぜひ参考にしてください。
記憶には機能や種類がある!具体的に解説
「記憶力」を具体的に表すと、「物事を覚えておくために必要な力」となります。記憶力は1つの力ではなく、心理学では3つの機能「記銘」「保持」「想起」と3つの種類「感覚記憶」「短期記憶」「長期記憶」に分けられます。
記憶力を向上させるトレーニングを効率的に行なうために、まずは記憶の機能や種類に対する理解を深めましょう。
記憶の機能「記銘」「保持」「想起」とは
記憶をする過程にある3つの機能を、「記銘」「保持」「想起」といいます。
「記銘」は視覚や聴覚、触覚などを通じて入力された情報を意味があるものに置き換え、記憶として取り込む機能です。記銘には、「視覚的記銘」「聴覚的記銘」「触覚的記銘」の3種類があります。
「保持」は、記銘で覚えたことを忘れずに維持し続ける機能です。「この映画には○○という俳優が出演していた」と記銘したことを、忘れずにいる機能が「保持」にあてはまります。
「想起」は、「この映画に出演していた俳優は○○である」というように、記銘して保持していた記憶を思い出す機能です。
保持が非常に短い「感覚記憶」
感覚記憶とは、視覚・聴覚・嗅覚・味覚・触覚という5つの感覚器官ごとに存在する、保持時間の短い記憶です。
例えば、街中ですれ違った人の顔や、周囲で聞こえる話し声、カフェで流れている音楽やコーヒーの香りなど、日々五感を通して得られる情報は膨大な量になるでしょう。
そのすべてを記憶していると脳の許容量を超えてしまうため、感覚記憶の保持時間は0~2秒程度と短いのが特徴です。
感覚記憶は情報を一時的に保管する場所であり、そのなかから脳が必要と判断した記憶は次の段階である「短期記憶」や「長期記憶」に移行します。
数十秒程度保持される「短期記憶」
短期記憶とは、感覚記憶よりも長く保持される記憶のことで、保持時間は数十秒程度といわれています。
「一生懸命英単語を覚えたけれど翌日にはすっかり忘れていた」などのように、短期間なら記憶を保持できたけれど、長い時間は保持できなかった場合が短期記憶に該当します。
短期記憶は一時的な情報の保管場所であるという点では感覚記憶と同じですが、短期記憶の場合は保持できる容量や時間に個人差があることが特徴です。
長時間保持される「長期記憶」
長期記憶とは、短期記憶が頭のなかで何度も繰り返されることにより、比較的長い期間保持される記憶のことです。自分の名前や生年月日、仕事で必要なスキルなどが該当します。
この状態になると簡単に忘れることはなく、いつでも記憶を取り出すことが可能です。長期記憶の容量には制限がないので、記憶できる量はほぼ無限といわれています。
記憶力を向上させるには、短期記憶をいかに長期記憶へ変換するかがポイントになるといえるでしょう。
暗記力と記憶力は異なる要素
「記憶力と暗記力は同じなのでは?」「記憶力と暗記力は何が違うの?」と、疑問に思いませんか。
一見似ているようにも思える暗記力と記憶力ですが、暗記力は「物事を新しく覚える力」、記憶力は「覚えたことを長い期間忘れないようにする力」という違いがあります。
暗記力は知識を入れる際に発揮される力であり、記憶力は暗記によってインプットした知識を忘れないために必要な力です。
記憶には3つの機能と3つの種類があること、暗記力と記憶力は違うものであることを理解して、記憶力を向上させるための第一歩を踏み出しましょう。
記憶力を上げるには「長期記憶」への変換が効果的
記憶力を上げるには、短期記憶を長期記憶へ変換することが効率的な方法といえます。長期記憶へ変換するための3つの方法を紹介します。
メモを取って紙に残す
1つ目の方法は、「メモを取って紙に残す」です。
記憶したいことをノートなどに書いておくと、もし忘れてしまっても自分が何を忘れていたのか、すぐに思い出すことができます。メモを取った場所や使った紙・ノートなども、記憶を引き出す手がかりになるでしょう。
「すぐに思い出せない」「忘れてしまう」のは、まだ短期記憶から長期記憶への変換ができていないことを表します。しかし、忘れてしまった短期記憶を繰り返し思い出す作業が、長期記憶に変換していくうえではとても大切な役割を果たすのです。
ストーリー化して感情とともに記憶する
2つ目は、「ストーリー化して感情とともに記憶する」です。
覚えたい知識があっても、それ単体ではなかなか覚えられないという場合、知識をストーリー化しましす。自分の感情がどのように変化したかも一緒に覚えてください。
例えば、「もう何年も前になるのに、昨日のことのように鮮明に覚えている」という経験がある方も多いでしょう。そのような場合は出来事だけではなく、そのときに感じた「つらい・うれしい」などの強い感情も一緒に覚えていることがよくあります。それは、「強い感情」がともなうと思い出しやすくなるためです。記憶に感情という情報を付け加えるためには、ストーリーが必要になります。
環境を一緒に記憶する
3つ目の方法は、「環境を一緒に記憶する」です。
子供の頃に遊んでいた公園に久しぶりに行ってみると、滑り台が大好きだったことや仲の良かった友達との会話など、当時の状況を思い出すということがあります。これは、遊んでいたときのことを風景と一緒に記憶しているために起こります。
人間にとって忘れにくい「場所」に紐付けられた記憶というものは、同じ状況で思い出しやすいものです。覚えることが多い科目を勉強する際には、場所や時間などの環境を変えてみるのも効果的といえるでしょう。
短期記憶を長期記憶に変換するには、繰り返し思い出すことや感情とともに記憶すること、環境とともに記憶することなどが効果的だといわれています。
長く記憶に留めておきたいことがあるときは、ここで紹介した3つの方法を試してみることをおすすめします。
記憶力は鍛えられる?効果的なトレーニング方法を解説
記憶力はトレーニングによって鍛えることが可能です。ここでは記憶力を鍛えるために効果的なトレーニング方法を7つ紹介します。
反復して記憶する
1つ目は「反復して記憶する」方法です。何かを覚えようと思っても、1回で記憶するのはなかなか難しいでしょう。
このトレーニングは、記憶として定着するまで繰り返し覚えるという、原始的な方法でもあります。しかし、前述のとおり頭のなかで短期記憶を思い出すという作業を何度も繰り返し行なえば、長期記憶に変換することが可能です。
連想結合法の活用
2つ目は「連想結合法の活用」です。連想結合法というのは、複数の単語を関連付けて覚える方法のことです。
例えば、覚えたい単語が「雨・車・犬・雑誌・ケーキ・イタリアン・結婚」だとすると、それを次のように関連付けて覚えます。
- 「雨」が降っていたので「車」で出かけた
- 「車」のあとを「犬」が追いかけてきた
- その「犬」は道路に落ちていた「雑誌」を咥えた
- 「雑誌」の表紙には「ケーキ」の写真が載っていた
- その「ケーキ」はある「イタリアン」レストランの人気商品
- その「イタリアン」レストランで友人の「結婚」パーティーがある
犬が落ちていた雑誌を咥えたり、その雑誌の表紙がハッキリ見えたりすることが現実的ではないとしても、頭でイメージが作れるのであれば問題ありません。単語同士に関連性がなくても、イメージしやすい流れを作り、つなげて覚えるようにすることで、記憶として定着しやすくなります。
語呂合わせで記憶する
3つ目は「語呂合わせで記憶する」方法です。歴史の年号や科学の周期律表を覚える際に、使った経験がある方もいるのではないでしょうか。
- 「なくよ(794)ウグイス平安京」
- 「なんと(710)立派な平城京」
上記のように数字を言葉に置き換えて、794年の平安京遷都や710年の平城京遷都を覚えるのが語呂合わせで記憶する方法です。
身近にある数字はいろいろな言葉に当てはめられるため、とても有効な手段といえます。ぜひ、数字を使った語呂合わせでトレーニングをしてみましょう。
アウトプットする
4つ目の「アウトプットする」というトレーニングは、覚えたことを声に出したり紙に書き出したりして、記憶として定着させる方法です。
声に出す、紙に書き出すという作業は五感を使うため、効果的なトレーニング方法といえます。その際、どのような場面でアウトプットするのかという点を意識すると、さらに効果的です。
読書でインプットした際は、本に直接書き込むのもよいでしょう。自分の手で書き出すことで、知識が記憶としてしっかりと定着します。
アウトプットする際は、忘れないうちに行なうのがポイントです。
朝型の生活習慣を心がける
5つ目は「朝型の生活習慣を心がける」です。現在夜型の生活をしているのなら、朝型の生活習慣を身につけるよう心がけましょう。
人間の脳が活発に活動する時間は、起きてから2~4時間までといわれています。集中力がアップする昼間の時間は試験勉強をしたり、調べ物などのインプット作業をしたりするのがおすすめです。
夜型生活にもメリットはありますが、日中の集中力を高めて効率的な記憶力トレーニングにつなげるには、朝方生活にしたほうがメリットは大きいでしょう。
記憶力をアップさせたいときは、起きる時間や食事時間を一定にし、心身のオンとオフを上手に切り替えて過ごしてみることをおすすめします。
記憶力トレーニングに効果的な食べ物を摂取する
6つ目は「記憶力トレーニングに効果的な食べ物を摂取する」です。記憶力を上げるためには、記憶力に関連のある栄養素をしっかりとるようにしましょう。
記憶力に関わる栄養素としては、糖質・ビタミンB1・ビタミンB12・DHA・カルシウム・BDNF・テオブロミンなどがあります。バナナや豚肉、サバやイワシなどの青魚、チョコレートやチーズ、ゴマや大豆、ココアなども記憶力に関連する栄養素を含んでいるためおすすめです。
記憶力の向上に役立つとして、さまざまなサプリメントが市販されていますが、疾患などがある方は必ず注意事項を確認してください。
適度に運動する習慣をつける
7つ目は「適度に運動する習慣をつける」です。10分程度のウォーキングなど、軽めの運動は記憶力アップに良い影響を与えることがわかっています。
長時間座り続けている状態が長く続くと記憶力が低下する、という研究結果もあるため、1時間に1度は立ち上がるなどの対策が必要です。
ただし、過度な運動はストレスになってしまうため、ストレスにならない程度の軽い運動から始めるようにしましょう。
紹介した7つの記憶力を鍛えるトレーニング方法のうち、まずは取り組みやすいものから試して、記憶力向上につなげてください。
まとめ
記憶力を高めるためには、一時的な記憶である「短期記憶」を、長期間保持できる「長期記憶」に変換する必要があります。
そのために効果的な3つの方法や、記憶力を高めるトレーニングと生活習慣、食べ物についても7つ紹介しました。
記憶力はトレーニングによって高めることが可能です。記憶力に自信のない方や、もっと記憶力を高めたいという方は、できることから少しずつ取り組んでみてください。