(取材)リスキリングでDXの担い手を目指そう!|誰もが学べる経済産業省のデジタル人材育成事業

デジタル技術によってビジネスモデルや組織体制に変革をもたらすDX(デジタルトランスフォーメーション)。

その推進が叫ばれる今、DXの担い手となるデジタル人材は、業界を問わず多くの企業で求められています。リスキリングでデジタルに関する知識・スキルを身につけて、キャリアアップや就職・転職に活かしたいと考えている方も多いのではないでしょうか。

ところが、いざ学ぶとなると「何から学べばいい?」「初心者でもついていける?」「どんな講座があるの?」「時間や費用が限られていても大丈夫?」等々、疑問や不安を感じることも少なくありません。

そこでお知らせしたいのが、経済産業省のデジタル人材育成事業。すべての社会人にとって必須スキルであるデジタルスキルに関するポータルサイト「マナビDX(デラックス)」をはじめ、さまざまな施策を通じて、すべての人に学びの場を提供しています。

ここでは、経済産業省 商務情報政策局 情報技術利用促進課から、デジタル人材政策企画調整官の平山利幸氏、課長補佐の金杉祥平氏、冨永賢吾氏にご協力いただき、デジタル人材育成に関する同省の取り組みと、そのメリットをご紹介します。

デジタル人材を目指す個人と企業をバックアップ

経済産業省がデジタル人材の育成に取り組む背景には、日本の圧倒的なデジタル人材不足があります。

「スイスの国際経営開発研究所(IMD)が発表した『世界デジタル競争力ランキング2022』において、日本は63カ国中29位。なかでも、『人材/デジタル・技術スキル』は62位と低く、これが全体的な低迷の要因となっています。さらに、デジタル人材も首都圏に集中しているため、地方では大いに不足している状況であり、全国規模でのデジタル人材の育成が急務となっているのです。」(金杉氏)

ところが、独立行政法人 情報処理推進機構(IPA)が作成した『DX白書2023』によると、日本では84%の企業がDXの担い手となる人材の不足を感じているにもかかわらず、社員の学び直しを全社的に実施している企業はわずか10.6%。社員の学び直しを検討さえしていない企業は過半数近くにのぼるとされています。

一方、米国ではDX人材不足を感じている企業は22.6%。また、33.9%の企業が社員の学び直しを全社的に実施し、社員の学び直しを検討していない企業が10%未満にとどまることを考えると、日本のデジタル人材育成は遅れているといわざるをえないでしょう。

そこで、政府はDXによる地域社会の課題解決を目指す「デジタル田園都市国家構想」の基本方針において、デジタル人材の育成を掲げました。これを受け、経済産業省では、デジタルスキルに関する様々な学習機会を提供するため、デジタル人材を育成するプラットフォームを構築し、リスキルの推進に取り組んでいます。

デジタル人材として活躍するためには、座学での学びに加えて、実践的な学びも必要です。そのため、ポータルサイト『マナビDX(デラックス)』での民間事業者・大学などが提供する学習コンテンツの集約・提示と、企業における課題解決を疑似体験できるデジタル推進人材育成プログラム『マナビDX Quest(デラックス クエスト)』の提供を通じて、DXを推進する人材を一気通貫で育成することを目指しています。」(金杉氏)

DXを基礎から学べる「マナビDX(デラックス)」

初心者向けからより専門的な講座まで幅広く掲載

マナビDX」は、民間事業者や大学などが提供するDXに関する学習コンテンツを掲載するポータルサイト。経済産業省の審査基準を満たした約580(2024年3月時点)の講座の中から、興味のあるものを選び、デジタル人材に求められる知識・スキルを学ぶことができます。

特に人気を集めているのは、AIやデータサイエンスについて学べる講座。例えば、「DX推進のためのAIビジネス入門」「ビジネスパーソンのためのデータ活用超入門 e-ラーニングコース」といった初心者向けの基礎的なもの(デジタルリテラシー講座)から、「データサイエンティスト養成講座(Python 上級編)」「AIアプリ開発講座(6ヶ月)」などの、基礎スキルを身につけた人向けのより実践的なもの(デジタル実践講座)まで、幅広く講座が用意されています。今後も、継続的に掲載講座を増やしてゆく予定とされており、さらなる充実が期待されます。

各講座は、学習の指針となる経済産業省策定の「デジタルスキル標準」(後述) に紐付けられており、自身が目指す役割やレベルに合った知識・スキルが学べるコンテンツを選びやすくなっています。このほか、キーワードや職種、マナビDXのおすすめから講座を探すことも可能です。

「自分はどんな人材になりたいのか、自社でどういった人材を育てていきたいのか。その目指す人材のイメージをデジタルスキル標準を参考にしながら明らかにし、カタログを見るようにコンテンツを選んでいただければと思います。」(冨永氏)

サイト内の「マナビDXでの学び方」に講座選びのステップが詳しく紹介されているので、参考にするとよいでしょう。

厚生労働省の助成対象コンテンツも多数

先述のデジタル実践講座の中には、 IT・データ分野を中心とした高度なレベルの教育訓練講座として経済産業省が認定する「第四次産業革命スキル習得講座(通称:Reスキル講座)」が含まれています。

「第四次産業革命スキル習得講座のうち、厚生労働省が定める一定の基準を満たし、専門実践教育訓練として厚生労働大臣の指定を受けた講座については、その費用の一部が専門実践教育訓練給付金として受講者に支給されます。また、Reスキル講座を企業内で従業員の人材育成に用いる際にも、一定の要件を満たしていれば、人材開発支援助成金として訓練経費の一部等が助成されます。」(冨永氏)

費用面での負担が軽減できるのは大きなメリット。厚生労働省の助成対象コンテンツには「Reスキル」と表示されており、「受講料の支援のある講座」というカテゴリーの講座一覧から探すこともできるので要チェックです。

DX推進・変革を実践的に学べる「マナビDX Quest(デラックス クエスト)」

マナビDX Quest」は、企業データに基づく実践的なケーススタディ教育プログラム」と、「地域企業協働プログラム」で構成されています。

2019~2021年度の過去3年間はAI活用による企業の課題解決方法を身につける「AI Quest」として運営されていましたが、2022年度より「マナビDX Quest」に名称を改め、DX推進・変革を学ぶことができるプログラムへと進化しました。

両プログラムともに受講料は無料。ケーススタディ教育プログラムは、学生・社会人であれば誰でも応募が可能です。受講者にはDXを推進するための基礎的なリテラシーと意欲が求められますが、学歴や職歴、プログラミング経験などは一切問われません。 もう1つの地域企業協働プログラムは、ケーススタディ教育プログラムを修了した人が対象で、チーム単位での参加が条件となっています。

「いずれのプログラムも働きながらの受講を想定し、平日夜や土日祝日に週6〜12時間ほど時間が確保できれば修了できる内容となっています。」(金杉氏)

ケーススタディ教育プログラム

データ付きのケーススタディ教材を用いて、架空の企業へのデジタル技術導入を疑似体験するプログラム。

講師を置かず、参加者同士が学び合い・教え合いながら与えられた課題を解決していくプロジェクト型学習 (PBL:Project-based Learning)を中心としています。

第1タームと第2タームに分けて実施され、それぞれ9週間のPBLを通して、具体的な企業の課題をテーマに、ビジネス課題からデジタル課題まで、DXを推進し組織を変革する一連のプロセスを学びます。

教材は①AIの実装を通じたDXプロジェクトの疑似体験、②データ駆動型の変革推進の疑似体験の2タイプから選択可能。それぞれ4つのテーマが用意され、自分の学びたいものを選べるようになっています。

「教材①では、小売業での需要予測や在庫最適化などをテーマに、AIモデルの構築・検証に取り組みます。教材②では、例えば店舗運営型企業の収益改善がテーマであれば、来場者数のデータを基に課題を特定し、デジタル技術を用いた打ち手を考えます。両教材とも、これらの学習に加えて、DXによる変革を全社に広げる方法を学べる内容を盛り込んでいます。」(金杉氏)

初めて取り組む方には、手順通りに進めることでデータ分析からデジタル実現性検証までの一連のプロセスを学べる「初学者ガイド」も準備されているので、安心して参加できます。

地域企業協働プログラム

実際の企業と協働し、2カ月ほどかけて、チームでDX推進に関する課題解決に取り組むオンライン研修プログラム。オンラインミーティングを重ね、企業の社員との交渉や経営陣への提案などの実体験を通じて、より実践的なDX推進能力を身につけることができます。

2022年度は製造業、小売業などさまざまな業種から88社が参加し、受講者チームと連携して課題解決に取り組みました。

「例えば、スーパーマーケットの運営事業者への受講生チームからの課題解決提案では、店舗ごとに人力で行っていた商品の仕入れ作業に必要な需要予測を本部のAIに集約し、過去の売上や気温などのデータを用いて分析を行うことで、従業員の作業量が軽減され、営業活動に専念できるようになったという成果事例が報告されています。」(金杉氏)

「参加してよかった!」受講者の声

2022年度は、20~40代の社会人を中心とした約2,100名がマナビDX Questを受講しました。

本プログラムへの満足度は非常に高く、その大きな理由として、AI実装やデータサイエンスのみならず、課題の特定から解決方法の模索、経営層へのプレゼンまで一気通貫で学べる点が挙げられています。また、オンラインで受講者が学び合い・教え合うという学習スタイルも好評を得ています。

「受講者同士のやりとりは、コミュニケーションツールを通じて随時可能です。受講者の中にはデジタル経験者もおり、従事している業種もさまざまですので、質問すれば誰かが答えてくれますし、教えることで自分自身のスキルアップにつながるという効果も出ています。また、さまざまなバックグラウンドを持つ受講者からいろいろな意見や知識が聞けることにも学びの価値があるとの声も寄せられています。」(金杉氏)

※本記事は2022年度の情報を基に作成しています。来年度以降の実施については「マナビDX 」「マナビDX Quest」のサイトでご確認ください。

学びや人材育成の指針となる「デジタルスキル標準」

デジタルスキル標準は、「DXリテラシー標準」と「DX推進スキル標準」の2つの標準で構成され、次のように定義されています。

・DXリテラシー標準

すべてのビジネスパーソンがDXに関する基礎的な知識やスキル・マインドを身につけるための指針。働き手1人ひとりがDXリテラシーを身につけることで、DXを自分事として捉え、変革に向けて行動できるようになることをねらいとしています。

・DX推進スキル標準

企業がDXを推進する専門性を持った人材を確保・育成するための指針。DXを推進する人材を、5つの人材類型(ビジネスアーキテクト、デザイナー、データサイエンティスト、ソフトウェアエンジニア、サイバーセキュリティ)として定義しています。

これらを人材育成の仕組みに結びつけることで、リスキリングの促進、実践的な学びの場の創出、能力・スキルの見える化を実現することを目的としています。

デジタルスキル標準は、個人においてはDXに関するどのような知識・スキルを身につければよいのかを知るための指針となります。また、企業においては、DXを推進するにあたってどのような人材を確保・育成する必要があるのかを把握し、施策を考えていくための指針として活用できます。例えば、このスキル標準をベースに体系的な社内研修制度を構築することも可能です。

「実際に、デジタルスキル標準をDXを行う上で必要な知識・スキルの整理に活用している研修事業者も出てきています。 それを踏まえて研修コンテンツを作成すれば、研修を提供する側の事業者と、利用する側の企業・個人との間でニーズのすりあわせもしやすくなるでしょう。そういった形で、さまざまな立場の方をつなぐ共通言語のように使っていただくことをイメージしています。」(平山氏)

DXスキルを身につけてキャリアチェンジ、キャリアアップを目指そう!

最後に、これからデジタルスキルを身につけてキャリアチェンジ、キャリアアップを目指そうという方々に向けて、メッセージをいただきました。

「今や最低限のデジタルリテラシーはすべての社会人に求められるものとなっており、DXを推進する立場の方には、それに加えて専門性の高い実践的なスキルが必要となります。デジタルスキルの基礎力はマナビDXを、実践力はマナビDX Questを活用し、身につけていただければと考えております。」(金杉氏)

「ビジネスにおいても、社会生活においても、デジタルの力で未来を切り開いていくことが求められています。ぜひ受講料の支援が受けられる講座を活用するなどして、無理なくデジタルスキルを習得し、キャリアアップを図っていただければと思います。」(平山氏)

まとめ

DXに関心を抱いたら、まずはマナビDXのサイトにアクセスしてみませんか?

「何をどう学べばいいのかわからない」と思い悩んでいる方も、デジタルスキル標準を参考にすることで、自分に必要な知識・スキルや学ぶべき講座が見えてくるはずです。

もちろん、基礎的なデジタルリテラシーを身につけている方は、マナビDX Questのプログラムにチャレンジするのもアリです。

自分に合った方法でデジタルスキルを身につけ、DXが加速する社会を生き抜いていきましょう。

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