健康運動指導士とは、栄養学や運動生理学などの知識をもとに、人々が健康な生活を送るための効果的かつ安全な運動計画や、プログラムの作成・指導を行なう人のことです。
社会の高齢化が進む昨今では、生活習慣病の予防や介護予防、健康寿命の延伸に向け、健康運動指導士の活躍が多く見られるようになりました。この記事では、健康運動指導士の概要や活躍の場、受験資格や試験内容について解説します。合格するためのコツや対策についてもご紹介しますので、ぜひ参考にしてください。
健康運動指導士とは
まずは、健康運動指導士の資格の概要や仕事内容、就職先について見ていきましょう。
公益財団法人「健康・体力づくり事業財団」認定の民間資格
健康運動指導士は、公益財団法人「健康・体力づくり事業財団」が認定する民間資格です。
昭和63年より生活習慣病の予防、健康の維持や増進を目的とした厚生大臣の認定事業が、健康意識や健康指導者の需要の高まりによって、平成19年に資格化されました。健康運動指導士の資格創設により、生活習慣病対策や予防介護などの分野で、ハイリスク者に対しても効果的かつ安全な運動指導ができる、質の高い専門家が増加しています。
個々に対応した効率的かつ安全な運動指導を行なう専門家
健康運動指導士は、人々が効果的で安全な運動を行なうための、運動計画・プログラム作成や健康運動実践指導者の計画における調整などを担う仕事です。理学療法士や医師などの保健医療関係者と連携をとりながら、個人に合わせた適切な運動プログラムを作成します。
一人ひとりの年齢や健康状態に応じた健康指導を行なうためには、日々進化する高レベルな知識や技術を習得し続けなければなりません。加えて、新しい機材を使いこなす対応力も求められます。運動指導を受ける人が楽しく継続的に取り組めるように、メンタル的な面からも人を支えるコミュニケーション能力が必要になるでしょう。
昨今では、人々の健康水準の保持や向上を目指すため、こうした知識・能力を持つ健康運動指導士の求人は今後増えることが期待できます。健康運動指導士の資格取得のメリットには、運動指導の専門性をアピールできる点が挙げられるでしょう。
健康運動指導士はどこで活躍している?
公益財団法人「健康・体力づくり事業財団」が発表するデータによると、令和3年8月1日現在における健康運動指導士の登録者数は全国で1万8,401人です。男女比率では、女性が半数以上を占めています。
公益財団法人「健康・体力づくり事業財団」が発表した令和2年12月1日現在の、健康運動指導士の活躍の場を見ていきましょう。
アスレチッククラブ・フィットネスクラブなど | 4,030人 |
診療所・病院など | 2,871人 |
フリーで活動など | 2,442人 |
保健所など | 1,350人 |
介護老人保健・福祉施設など | 1,201人 |
学校 | 1,129人 |
健保組合・会社(健康管理部門) | 311人 |
その他(学生を含む) | 4,883人 |
引用:公益財団法人「健康・体力づくり事業財団」健康運動指導士とは
最近では、介護保険施設または介護予防事業所、老人福祉施設や病院などで健康運動指導士として活躍する人が増える傾向にあります。
健康運動指導士試験の受験資格を得る2つの方法
健康運動指導士の試験を受けるにあたっては、受験資格が必要です。ここからは、健康運動指導士試験の受験資格を得る2つの方法について詳しく解説します。
健康運動指導士養成講習会を受講した人
健康運動指導士養成講習会とは、公益財団法人「健康・体力づくり事業財団」が実施している講習会のです。健康運動指導士養成講習会を受けるには、健康運動実践指導者・4年制体育系大学卒業者・医師・保健師・看護師などの条件があり、それぞれに必要な取得単位数が異なります。必要単位数別における所有資格や称号は以下のとおりです。
単位数 (コース) | 所有資格や称号による受講条件 |
104単位 コース | 以下の国家資格保有者かつ大学(修学年限4年以上)卒業者 歯科医師・看護師・准看護師・助産師・薬剤師・栄養士・あん摩マッサージ指圧師・はり師・きゅう師・柔道整復師・理学療法士・作業療法士・臨床検査技師上記資格と同等以上の能力があると財団に認められた場合70・51・40単位コースの受験資格を満たしている場合 |
70単位 コース | 医師・保健師・栄養管理士いずれかの有資格者 |
51単位 コース | 4年制体育系大学(教育学部体育学系を含む)卒業者卒業見込みも可 |
40単位 コース | 健康運動実践指導者の称号を有する者 日本スポーツ協会公認資格 フィットネストレーナー・アスレティックトレーナー・スポーツプログラマーいずれかの資格所有者 日本フィットネス協会認定資格 GFIエグザミナーまたはGFIディレクターの資格所有者 |
健康運動指導士養成講習会は、eラーニングを含む講義と実習があり、すべて必修です。実習科目にはエアロビダンスや水泳・水中運動があるため、疾患などの理由で運動ができない人や妊娠中の人、プールに入水ができない人などは申し込めません。
健康運動指導士養成講習会は同一年度(前期のみ・後期のみを含む)内に、すべての講習を受講する必要があります。2年以上にわたって講習を受けることはできないため、余裕を持ったスケジュールの組立が求められるでしょう。
受講申し込みは、郵送(特定記録)で行います。締め切りまでに必要書類を送ったら、書類審査の後に受講決定通知が届きますので、受講料を払い込んで受講しましょう。全単位を修了したら、修了証書が授与されて、健康運動士認定試験の受験資格が得られます。未修了の単位があれば、次回以降の講習会で補講を受けることができます。
健康運動指導士養成校の養成講座を修了した人
健康運動指導士養成講習会を受講するための資格がない場合は、健康運動指導士養成校に通い、養成講座を修了することで受験資格を得られます。
健康運動指導士養成校は、公益財団法人「健康・体力づくり事業財団」が認定する全国にある大学の体育学部やスポーツ健康学部などです。令和3年4月時点では、全国約80の大学などが認定校として指定されています。
健康運動指導士養成講習会の日程や場所、受講申込書や必要な添付書類、健康運動指導士養成校に認定されている大学などについては、健康・体力づくり事業財団のウェブサイトを確認しましょう。
https://www.health-net.or.jp/shikaku/index.html
健康運動指導士試験の概要は?
次に、健康運動指導士試験の詳しい内容について見ていきましょう。
試験実施は年3回
健康運動指導士試験は、1年に3回、1回の試験につき約2ヵ月弱の期間を設けて実施されています。健康運動指導士試験の受験が決まったら、全国47都道府県にある試験会場と試験日時を選択して、オンライン予約を行ないましょう。
健康運動指導士試験の受験申込書の郵送から受験に至るまでの、おおまかな流れは次のとおりです。
- 受験申込書の記入と受験料の払い込みを済ませ、「郵便振替払込受付証明書」を受験申込書に添付して公益財団法人「健康・体力づくり事業財団」に郵送する
- 公益財団法人「健康・体力づくり事業財団」から受験チケット(バウチャー番号)を取得する
- 受験チケット(バウチャー番号)を利用して、試験のオンライン予約をする
- オンライン予約をした会場で試験を受ける
オンライン予約に必要な受験チケット(バウチャー番号)は、受験資格のある受験者宛てに公益財団法人「健康・体力づくり事業財団」から郵送されます。
健康運動指導士試験は、期間中毎日実施されているわけではありません。試験会場によって試験開催日は異なるため、十分な注意が必要です。また、試験会場の予約は先着順のため、受験が決定したら早めに申し込んでおくとよいでしょう。
健康運動指導士試験1回の試験期間のうち、受験できるのは1回のみです。健康運動指導士試験を受験し不合格だった場合は、次の回で再受験ができます。再試験を受ける際は、再度受験申込書の提出と受験料の払い込みが必要です。
出題方式・試験時間は?
健康運動指導士試験の問題は、4つの選択肢から正しいものを選ぶ択一方式です。問題数は75問、時間は120分で行なわれ、CBT方式で実施されます。
CBTとは、Computer Based Testingの略語で、コンピュータに表示された試験問題をキーボードやマウスを使って回答する方法です。健康運動指導士試験は、試験開始時刻の15分前までに集合しなければなりません。当日は余裕を持って行動しましょう。
健康運動指導士の合格率は?
健康運動指導士試験の難易度を知るために、第148回健康運動指導士試験(令和3年9月29日~11月12日実施)の合格率を確認しましょう。
受験者区分 | 受験者数 | 合格者 | 合格率 |
養成講習会 104単位コース受講者 | 4 | 4 | 100% |
養成講習会 70単位コース受講者 | 15 | 14 | 93.3% |
養成講習会 51単位コース受講者 | 15 | 14 | 93.3% |
養成講習会 40単位コース受講者 | 70 | 61 | 87.1% |
健康運動指導士養成校養成講座修了者 | 210 | 159 | 75.7% |
計 | 314 | 252 | 80.3% |
再受験者 | 66 | 28 | 42.4% |
総計 | 380 | 280 | 73.7% |
健康運動指導士の養成講習会と養成校養成講座修了者の合格率は80.3%、再受験者を加えた場合の合格率は73.7%でした。しっかりと対策を立てて受験勉強をすれば、合格を得ることができるでしょう。
健康運動指導士合格後は登録が必要
健康運動指導士の試験に合格後は、公益財団法人「健康・体力づくり事業財団」に登録申請を行ない、新規登録料を支払うことで、健康運動指導士の称号が与えられます。健康運動指導士資格の有効期限は5年間です。健康運動指導士の資格を維持し続けるためには、登録更新料と所定の講習会の受講が必要なので覚えておきましょう。
更新登録時講習会は、受講が必修の「更新必修講座」と選択可能な「専門講座」の2種類があり、更新時までに実習5単位以上を含む20単位以上の取得が求められます。登録更新時講習会の受講は、多角的な専門知識やスキルを身につけ、新しい知識や情報を収集できる良い機会です。自身のさらなるスキルアップにつなげられるでしょう。
健康運動指導士試験の対策方法は?
最後に、健康運動指導士の試験に合格するための対策法を解説します。
講習会テキストをしっかり読み込む
健康運動指導士試験の問題は、「健康運動指導士養成講習会テキスト上・下」に記載されている内容から出題されます。
この講習会テキストは、健康運動指導士養成講習会の受講料の振り込みを完了した人宛てに、公益財団法人「健康・体力づくり事業財団」から送られてくるものです。書店での販売はされていない点に、注意しましょう。
出題範囲は決まっているので、まずは講習会の内容をしっかり把握することが合格への第一歩です。テキストを理解できるまで何度も読み込み、知識を自分のものにすることが重要となります。
市販の問題集や模擬試験を活用する
効率的に知識を定着させ試験で力を発揮するためには、テキストの読み込みによるインプットと同時に、アウトプットの作業も欠かせません。
知識のアウトプットには、過去問や問題集、模擬試験などを活用して内容の理解度を深めるとよいでしょう。特に模擬試験の利用は、試験本番での時間配分や試験の解答戦略を考えることに役立ちます。
より実践的な学習がしたい方、養成講習会のテキストだけでは物足りない方にも、過去問や問題集はおすすめの教材です。しかしながら、公益財団法人「健康・体力づくり事業財団」からこれらの出版はされていません。そのため、市販されている健康運動指導士試験の問題集や模擬試験から、自分に合うものを吟味して活用しましょう。
多くの方が役に立ったと紹介している問題集が、こちらです。
まとめ
健康運動指導士は、今後の日本社会において人々の健康づくりを支える重要な役割を担う仕事です。
高齢化が進む日本社会では、生活習慣の改善や健康寿命の維持など、今後も国民の健康意識に対する関心が高まると思われるため、健康運動指導士の需要も増加するでしょう。
健康運動指導士試験に合格するには、講習会テキストの内容をしっかりと身につけることが基本です。講習会やテキストで得た知識を、問題集や模擬試験でアウトプットすることも心がけながら、試験合格を目指しましょう。