アニメや漫画などから日本に興味を持ち、日本語を勉強しようと考える外国の方は多く、日本語教師の需要は国内外で高まっています。また、少子高齢化が進む現在、年々不足していく若い働き手を確保するため、外国人労働者を多く受け入れようとする動きがあります。しかし、受け入れた外国人労働者が、日本で円滑にコミュニケーションを取れるようになるためには教育が必要です。
こうした動きの中で、日本語教育の質を保証するために「登録日本語教員」という国家資格が創設されました。
この記事では、「登録日本語教員」という資格はどんなものなのか、どうすれば取得できるのか、日本語教師を職業にしている人はは取得すべきなのかなどを解説していきます。
なお、2024年7月までに発表された情報を基にしています。
登録日本語教員とは
登録日本語教員とは、認定日本語教育機関で外国人に日本語を教える日本語教師の資質や能力を確認し、証明するための国家資格です。令和6年4月1日に施行された「日本語教育の適正かつ確実な実施を図るための日本語教育機関の認定等に関する法律」に基づいて創設されました。
今までは日本語教師として働くにあたって、必要な資格はなく、無資格でも日本語教師として働くことができました。しかし、令和6年4月1日に施行された法律によって、文部科学大臣から認定を受けた日本語教育機関(認定日本語教育機関)で日本語教師として働くには、登録日本語教員の資格が必須となりました。
ちなみに、認定日本語教育機関以外の機関である場合には登録日本語教員の資格を取得していなくても働くことが可能です。
日本語教師の仕事
日本語教師の仕事は、主に国内外の日本語学校で外国人に日本語を教えることです。国内では日本語学校はもちろん、大学、小中高等学校、インターナショナルスクール、企業、自治体などで教えることができます。全て日本語で授業を行う場合もあれば、英語などの外国語を交えて授業を行う場合もあります。授業スタイルは教育機関によって異なりますが、日本国内の学校では全て日本語で授業を行う形式が主流のようです。
一見、日本語が母国語の人であれば誰でもできそうに思えますが、ただ日本語話者として生徒に接すればいいというわけではなく、文法や単語といった語学的な知識に加え、日常生活のマナーやサブカルチャーを含めた日本文化の知識を通じて、日本という国のことを短い授業時間の中で生徒たちに教えていくことが求められます。そのため、専門性が高く、やりがいのある仕事といえるでしょう。
現役教師も登録日本語教員の資格を取得すべき
現在、日本語教師として働いている方のなかには「登録日本語教員の資格を取得した方がいいのか」迷っている方もいると思います。結論からいいますと、登録日本語教員の資格を取得すべきです。
先述した通り、登録日本語教員の資格は認定日本語教育機関で日本語教師として働くために必須の資格です。
2024年7月現在、どのくらいの学校が認定日本語教育機関として認められるのかが分かっていません。しかし、認定日本語教育機関として認められれば、教育機関としての質が保証されていることが明らかになり、外国人が学校を選ぶ際に参考にする可能性が高いです。そのため、多くの学校は認定日本語教育機関として認められるように努めるでしょう。
仮にほとんどが認定日本語教育機関として認められた場合、登録日本語教員の資格を取得していなければ日本語教師として働けなくなります。後述で詳しく解説する経過措置を利用すれば資格取得にあたり免除となる過程もあるので、取得しやすい今のうちに登録日本語教員の資格を取っておくのがおすすめです。
なお、認定日本語教育機関は令和6年度の秋ごろから日本語教育機関認定法ポータルで検索が可能になる予定です。
登録日本語教員になるための2つのルート
登録日本語教員になるためには2つのルートが存在します。
- 養成機関ルート
- 試験ルート
どちらのルートも、現在、日本語教師として働いておらず、これから登録日本語教員になりたいと考えている方向けのルートです。すでに日本語教師として働いている方や、大学等で必要単位を取得済みの方に対しては、経過措置として6ルート用意されています(後述)。
養成機関ルート
登録機関ルートでは、⽂部科学⼤⾂の登録を受けた登録⽇本語教員養成機関が実施する養成課程を修了し、日本語教員試験の応用試験の合格を目指します。基礎試験は免除になりますが、試験に出願し、免除資格の確認をしてもらわなければなりません。その後、修了した養成課程に応じて、登録実践研修機関が実施する実践研修を修了する必要がある場合もあります。
養成課程を修了しておらず在籍中であっても、応用試験のみ受験可能です。この場合、試験の合格基準を満たしていても「仮合格」扱いとなり、試験実施後、翌年の4月までに養成課程を修了し、養成課程の修了証書を提出しなければなりません。
なお、2024年7月現在、登録⽇本語教員養成機関や登録実践研修機関として認定されている機関がありません。2024年の秋頃を目途に登録され、日本語教育機関認定法ポータルサイトで閲覧できるようになる予定です。
試験ルート
試験ルートで登録日本語教員の資格取得を目指す場合には、日本語教員試験の基礎試験と応用試験に合格後、⽂部科学⼤⾂の登録を受けた登録実践研修機関が実施する実践研修を修了しなければなりません。日本語教員試験の合格に有効期限はないので、合格後の実践研修は自身の都合の良い時期に受講し、修了すればOKです。修了後は登録日本語教員の登録申請をし、登録されれば、晴れて登録日本語教員となります。
なお、2024年7月現在、登録実践研修機関として認定されている機関がありません。2024年の秋頃を目途に登録され、日本語教育機関認定法ポータルサイトで閲覧できるようになる予定です。
日本語教員試験について
登録日本語教員になるためには、日本語教員試験に合格しなければなりません。ここでは、日本語教員試験の概要について説明していきます。
日本語教員試験の概要と出題内容
日本語教員試験は年齢、学歴、国籍などの条件がなく、誰でも受験可能な試験です。
日本語教員試験には、⽇本語教育を⾏うために必要な基礎的な知識と技能を問う「基礎試験」と、応⽤に関する知識と技能を問う「応⽤試験」があります。
令和6年11月17日(日)に行われる試験では出題範囲が「登録日本語教員 実践研修・養成課程コアカリキュラム」(令和6年3月18日中央教育審議会生涯学習分科会日本語教育部会決定)の養成課程コアカリキュラムにおける必須の教育内容とされています。
基礎試験の出題内容とおおよその出題割合は下記の通りです。
- 社会・文化・地域:約1~2割
- 言語と社会 :約1割
- 言語と心理:約1割
- 言語と教育(教育実習を除く):約3~4割
- 言語:約3割
一方、応用試験は、教育実践と関連させて出題されます。区分を横断するような問題のため、出題割合は発表されていません。また、問題の一部は聴解問題です。日本語学習者の発話や教室での教員とのやりとりなどの音声を用いて、実際の教育実践に即した問題が出題されます。
なお、応用試験は基礎試験合格者または免除者の採点のみ行うため、応用試験のみ合格することはできません。
試験範囲についてより詳しく知りたい方やサンプル問題を見てみたい方は「令和6年度日本語教員試験の出題内容及びサンプル問題」にまとめられているので、確認しておきましょう。
日本語教員試験の試験時間・出題数・合格基準
基礎試験 | 応用試験 | |
試験時間 | 120分 | 聴解:50分(休憩)読解:100分 |
出題数 | 100問 | 聴解:50問読解:60問 |
出題形式 | 選択式 | 選択式 |
配点 | 1問1点 | 1問1点 |
合格基準 | 必須の教育内容で定められた5区分において、 ・各区分で6割の得点 かつ ・総合得点で8割の得点 ※ | 総合得点で6割の得点※ |
参考:登録日本語教員の登録申請の手引き
基礎試験と応用試験の併願は可能です。
また、基礎試験と応用試験の読解では20分までの遅刻であれば受験が認められます。しかし、応用試験の聴解では一切遅刻は認められないので、注意しましょう。
日本語教員試験の開催地・受験料
令和6年度の試験の開催地は下記の8箇所に分かれています。
- 北海道:北海道札幌市
- 東北:宮城県仙台市
- 関東:東京都23区内
- 中部:愛知県名古屋市
- 近畿:大阪府堺市
- 中四国:広島県広島市
- 九州:福岡県福岡市
- 沖縄:沖縄県宜野湾市
受験料は受験する試験に応じて変わります。
- 基礎試験と応用試験の両方の受験:18,900円
- 基礎試験免除と応用試験受験(受験料+免除資格の確認料):17,300円
- 基礎試験と応用試験の両方の免除(免除資格の確認手数料):5,900円
なお、料金には合格証書発行の費用が含まれています。
ルートによっては基礎試験や応用試験の免除があります。しかし、試験の免除対象者であっても試験に出願し、免除資格の確認をしてもらった上で合格証書を取得しなければ登録日本語教員になることはできません。
登録日本語教員取得のための経過措置は6ルート
登録日本語教員の取得では経過措置が6ルート設けられています。
- Cルート(「必須50項目」対応済の現行養成課程修了者)
- D-1ルート(「平成12年報告」対応済の現行養成課程修了者)
- D-2ルート(C、D-1ルート以外の現行養成課程修了者)
- E-1ルート(平成15年度までの日本語教育能力検定試験合格者)
- E-2ルート(平成15年度~令和6年度までの日本語教育能力検定試験合格者)
- Fルート(C~Eの条件を満たさない現職者)
経過措置の6ルートは基本的には現職者を対象としています。
ここでいう現職者とは下記の通りです。
平成31年4月1日(法施行5年前)~令和11年3月31日(法施行5年後)の間に法務省告示機関で告示を受けた課程、大学、認定日本語教育機関で認定を受けた課程、文部科学大臣が指定した日本語教育機関(認定を受けた日本語教育機関が過去に実施した課程)で日本語教員として1年以上勤務した者
引用:登録日本語教員の登録申請の手引き
「1年以上の勤務」には平均して週1回以上の授業を担当したり、主任教員として日本語教育課程の編成や管理を主業務としていたりしていればカウントされます。ただし、海外の大学での経験は含まれません。
また、自分が卒業した養成課程等がどれに該当するかは、登録日本語教員の資格取得に係る経過措置における日本語教員養成課程等の確認についての「確認結果一覧」で公開されています。まずはこちらを確認してみましょう。
Cルート(「必須50項目」対応済の現行養成課程修了者)
Cルートは現職者だけでなく、一定の課程を修了した人を対象としたルートです。令和6年4⽉1⽇から令和15年3⽉31⽇までの間を経過措置期間として設定されています。
下記の2つの要件を満たせば、日本語教員試験の基礎試験と試験後に行う実践研修が免除されるため、応用試験の合格だけで認定日本語教員の資格を手に入れることが可能です。
<要件>
- 「必須の教育内容 50 項⽬に対応した⽇本語教員養成課程等」として⽂部科学省の確認を受けた⽇本語教員養成課程等を修了していること
- 学⼠以上の学位を持っていること
D-1ルート(「平成12年報告」対応済の現行養成課程修了者)
D-1ルートは現職者のうち「必須の教育内容50項⽬に対応した⽇本語教員養成課程等」の対応前に課程を修了した人を対象としたルートです。令和6年4⽉1⽇から令和11年3⽉31⽇までを経過措置期間としています。
下記の3つの要件を満たせば、日本語教員試験の基礎試験と試験後に行う実践研修が免除されます。しかし、現職者向けの講習Ⅱの修了と応用試験の合格がなければ認定日本語教員の資格を得られません。
<要件>
- 現職者であること
- 「平成 12 年報告に対応した⽇本語教員養成課程等」として⽂部科学省の確認を受けた⽇本語教員養成課程等を修了していること
- 学⼠、修⼠、⼜は博⼠の学位を持っていること
D-2ルート(C、D-1ルート以外の現行養成課程修了者)
D-2ルートはCルート、D-1ルート以外の現行養成課程を修了した人を対象としたルートです。令和6年4⽉1⽇から令和11年3⽉31⽇までの間を経過措置期間として設定されています。
下記の3つの要件を満たせば、日本語教員試験の基礎試験と試験後に行う実践研修が免除されます。しかし、現職者向けの講習Ⅰ・Ⅱの修了と応用試験の合格がなければ認定日本語教員の資格を得られません。
<要件>
- 現職者であること
- 現⾏告⽰基準教員要件に該当する⽇本語教員養成課程等を修了していること
- 学⼠、修⼠、⼜は博⼠の学位を持っていること
E-1ルート(平成15年度までの日本語教育能力検定試験合格者)
E-1ルートは現職者のうち、平成15年3⽉31⽇(2003年3⽉31⽇)までの日本語教育能力検定試験合格者を対象としたルートです。令和6年4⽉1⽇から令和11年3⽉31⽇までを経過措置期間としています。
下記の2つの要件を満たせば、日本語教員試験の基礎試験・応用試験と実践研修が免除されます。しかし、現職者向けの講習Ⅰ・Ⅱを修了する必要があります。
<要件>
- 現職者であること
- ⽇本語教育能⼒検定試験(昭和62年4⽉1⽇から平成15年3⽉31⽇の間に実施されたもの)に合格したこと
E-2ルート(平成15年度~令和6年度までの日本語教育能力検定試験合格者)
E-2ルートは現職者のうち、平成15年4⽉1⽇(2003年4⽉1⽇)~令和6年3月31日(2023年3⽉31⽇)までの日本語教育能力検定試験合格者を対象としたルートです。令和6年4⽉1⽇から令和11年3⽉31⽇までを経過措置期間としています。
下記の2つの要件を満たせば、日本語教員試験の基礎試験・応用試験と実践研修が免除されます。しかし、現職者向けの講習Ⅱを修了する必要があります。
<要件>
- 現職者であること
- ⽇本語教育能⼒検定試験(平成15年4⽉1⽇から令和6年3月31日の間に実施されたもの)に合格したこと
Fルート(C~Eの条件を満たさない現職者)
FルートはC~Eの条件を満たさない現職者向けのルートです。令和6年4⽉1⽇から令和11年3⽉31⽇までを経過措置期間としています。
実践研修は免除されますが、日本語教員試験の基礎試験・応用試験に合格しなければなりません。
<要件>
- 現職者であること
経過措置の現職者向け講習について
経過措置ルートのうち、D-1、D-2、E-1 、E-2の4つのルートをたどる人を対象に、日本語教員試験や実践研修の他に、現職者向けの講習が用意されています。講習はⅠ・Ⅱに分かれており、日本語教員にとって新たに必要とされる知識の習得を目指すものです。
講習は令和6年11⽉1⽇からオンデマンド形式で行われる予定です。各講習で修了試験を受験し、合格することで講習修了となります。
講習Ⅰ | 講習Ⅱ | |
講習内容 | 平成12年報告で新たに追加された内容が中心 | ・平成31年審議会報告で追加された内容 ・近年の情勢等の変化が⼤きい内容 |
時間 | 90分×5コマ程度 (各コマで10問程度の単元確認を実施) | 90分×10コマ程度 (各コマで10問程度の単元確認を実施) |
修了試験 | 10問程度 | 20問程度 |
講習は日本語教員試験の基礎試験・応用試験の前に修了しておくのが一般的です。しかし、⽇本語教員試験の申込時や合格発表時に講習をまだ修了していない場合でも、試験が実施された翌年の4⽉までに修了証を提出すれば問題ありません。
ただし、修了証を提出するまでの間、⽇本語教員試験の結果が合格基準を満たしていても仮合格の扱いとなります。期限までに修了証を提出しなければ合格は取り消されますので注意しましょう。
登録日本語教員の資格を取得するメリット
認定日本語教育機関で日本語教師として働ける
認定日本語教育機関で日本語教師として働く経験は、国に認定されたカリキュラムにのっとって日本語を教えていくことになるので、日本語指導能力の向上と専門性を高めるチャンスに繋がります。また、日本語教師として日本語を教えることは、学習者に日本文化への深い理解を促す、橋渡しの役割を果たすことになるでしょう。
社会的な地位を得られる
登録日本語教員の資格は国家資格であり、「日本語教師」という職業の社会的な評価や知名度を高める効果があります。登録日本語教員の資格を取得していれば、日本語教育機関からの信頼を得られ、安定した雇用や良い待遇を受けられる可能性が高くなるでしょう。
また、日本語教育の需要が増えているため、国家資格を持つ教師は国内の教育機関で働く機会が増えることも予想されます。
さらに、日本語教育では、学習者だけでなく、学習者を雇っている企業のニーズに対応する教育が求められています。登録日本語教員の資格は日本語教育に関する専門知識を持っていることが証明できるため、教育の質が保証され、学習者や関係者からの厚い信頼を獲得することにも繋がるでしょう。
まとめ
登録日本語教員の資格に関する機関や試験についてはまだ情報が出そろっていません。しかし、現在の自分の状況に合わせて「どうすれば登録日本語教員の資格を得られるか」が公開されています。その情報を見ながら、自分はどのルートで資格取得を目指すのかを決め、動き始めましょう。
試験や登録にお金はかかりますが、登録日本語教員の資格には有効期限がありません。1度取得してしまえば、一生ものの資格となるので、経過措置などが設けられている今のうちに取得しておくのがおすすめです。