(取材)大学を社会人の学び直しの場に!|リカレント教育推進に向けた文部科学省の取り組み

AIやDXによる業務効率化、脱炭素化が進むこれからの時代、社会で活躍し続けるためには、常に知識・スキルをアップデートして変化に対応することが必要です。そのための学びのあり方として、 リカレント、リスキリングといった社会人の学び直しへの関心が高まっています。

一方で、学び直しに興味はあっても、学費の負担や時間の確保がネックとなり、二の足を踏んでいる社会人は少なくありません。

そこで、国はリカレント教育を推進する方針を打ち出し、関係省庁が連携してさまざまな施策を行っています。

その中から今回お届けするのは、「成長分野における即戦力人材輩出に向けたリカレント教育推進事業」をはじめとする文部科学省の取り組み。同省は大学や高等専門学校を中心に、産業界や社会のニーズを満たすリカレント教育プログラムの開発・提供に向けた支援を行い、社会人のスキルアップやキャリアアップ、キャリアチェンジを後押ししています。

文部科学省 総合教育政策局 生涯学習推進課 職業教育推進係 リカレント教育・民間教育振興室の菅原愛氏にうかがったお話をもとに、同省の取り組みやそのメリットについてまとめました。

成長分野における即戦力人材輩出に向けたリカレント教育推進事業

2023年度「成長分野における即戦力人材輩出に向けたリカレント教育推進事業」の採択プログラムが決定しました!
昨年度に続き、これまで取材してきた青山学院大学、早稲田大学、筑波大学、東京理科大学、日本女子大学を含む計63機関による注目のプログラムが目白押しです。
詳細は「申請・採択状況及び採択機関一覧」でご確認ください。

デジタル・グリーンなど成長分野のプログラム開発をサポート

今、社会で求められているのは、デジタル化や脱炭素化に伴う産業構造の変⾰に対応できる人材です。

文部科学省が2023年度に実施する「成長分野における即戦力人材輩出に向けたリカレント教育推進事業」は、そんなデジタル・グリーンなどの成長分野に関する能力を身につけた即戦力人材を育成するために、大学・高等専門学校等に対して、産業界や社会のニーズを満たすリカレント教育プログラムの開発・実施・横展開に向けた支援を行うもの。それにより、社会人のスキルアップやキャリアアップ、キャリアチェンジを後押しすることを目指しています。

「2022年度に実施された『DX等成長分野を中心とした就職・転職支援のためのリカレント教育推進事業』に続く本事業では、DXに限らない成長分野全般のプログラム開発支援であることをより強く打ち出しています。また、エキスパート⼈材の育成に向けた大学院レベルのプログラム開発支援をメニューに加えたことも本事業の特徴です」(菅原氏)

(※)拠点数は変動あり。参加教育機関については、公募を経て、2023年6月下旬に交付内定済

分野や目指すキャリア形成に応じて選べるプログラム

2023年度の実施内容は以下の5つ。このうち、プログラムの開発・実施はA〜Dの4つに分けて行われます。

【A】デジタル分野・グリーン分野リスキルプログラムの開発・実施

主に就業者が対象。デジタル分野に強い企業等と連携し、応用的なデジタル・グリーン分野の能力を育成し就業者のキャリアアップや成⾧分野への労働移動につなげる。

【B】重要分野のプログラムの開発・実施(リテラシーまたはリスキル)

主に就業者・失業者・非正規雇用労働者が対象。各業界と連携し就職・転職に必要な基礎的又は応用的な重要分野の能力を取得しキャリアアップにつなげる。

【C】 各分野のエキスパート⼈材育成に向けたプログラムの開発・実施

大学院レベルの知見を活用した課題解決を通じ、各分野のハイレベル人材を育成し、イノベーション等につなげるため、短期間(半年程度)のリカレントプログラムを開発・実施する。

【D】リカレント教育モデルの構築による⼤学院教育改⾰⽀援

民間企業等との「組織」連携のもと、大学院のリカレント教育に係る組織内改革(リカレントをディプロマ・ポリシーに追加、恒常的な教育実施体制の構築等)や、養成する人材像やスキルセットを明確化したオーダーメイド型のリカレント教育学位プログラムの構築(短期間プログラムのパイロット実施含む)に向けた支援を実施する。

【E】プログラム実施・拠点構築の⽀援・分析、横展開に向けた取組み

大学が行うリカレントプログラムの開発や実施上の課題に対する調査や助言、開発したプログラムの横展開等に関する支援に併せ、事業の円滑かつ効果的な実施に向けた支援を行う。

https://www.mext.go.jp/content/20221205-mxt_syogai03-000026204_1.pdf

「Bのプログラムのうち、リテラシーレベルの講座は基礎的な知識・スキルの習得を目指すものです。例えばデジタル分野では、ITスキル標準(略称ITSS、IT人材に対する7段階のスキル体系)のレベル1以上相当の内容を想定しています。一方、AとBのリスキルレベルの講座は、専門的な知識・スキルの習得を目的とし、デジタル分野ではITSSのレベル2以上相当の内容を目安としています」(菅原氏)

2023年度実施事業で採択されたBのリテラシーレベルの講座をみると、「everiGo WEB系プログラマ・DX人材育成プログラム」(北九州市立大学)、「秋田地域での成⾧分野にかかる人材育成推進事業」(秋田大学)といった、成長分野に関する基礎的なスキル・能力の習得を目指すものが中心となっています。

一方、リスキルレベルの講座では、Aの「2023年度 青山・情報システムアーキテクト育成プログラムADPISA」(青山学院大学)、Bの「地域企業変革リーダー人材DXリスキリングプログラム」(金沢大学)など、所属する組織や産業分野における専門人材として、応用的なスキル・能力の習得を目指すものとなっています。

このほか、介護・福祉分野や女性活躍、地方創生を推進するプログラムも複数あります。

「大学によって目指す人材育成の分野には多少の違いがありますから、デジタル・グリーンのみならず、いろいろな分野のプログラム開発を支援していきたいと考えています」(菅原氏)

社会人が学びやすい環境整備や費用の助成も

本プログラムでは、社会人が働きながら学べるように、さまざまな配慮がなされている点も魅力です。2023年度実施事業でも、夜間・土日開講やオンラインで受けられる講座が多数提供される見込みであり、今年度は比較的安価な受講料で受けられる可能性も高いです。

「失業者・非正規雇用労働者を主な対象にしたリテラシーレベルの講座については、厚生労働省の職業訓練受講給付金の活用が可能です。対象プログラムの場合、規定の条件を満たす方は月10万円の生活支援を受けながら無料で学ぶことができます」(菅原氏)

さらに、2022年度に実施した「DX等成長分野を中心とした就職・転職支援のためのリカレント教育推進事業」において、リテラシーレベルのプログラムでは、失業者・非正規雇用労働者に対して、大学等が労働局・ハローワークと連携して就職・転職支援を実施。一方、リスキルレベルの講座でも、必要に応じて労働局・ハローワークと連携しながら受講者への転職・就職支援が行われました。2023年度実施の「成長分野における即戦力人材輩出に向けたリカレント教育推進事業」においても、キャリアアップや就職・転職につながるプログラムが開発・提供されています。

早めの情報収集がポイント!

本事業で採択されたプログラムは、2023年6月下旬、文部科学省の公式サイトで公表されました。各大学の公式サイト、文部科学省が運営する社会人の学び直しのためのポータルサイト「マナパスでも情報発信され、順次申し込みが開始されます。

例年、人気の講座はすぐに定員に達してしまうので、情報をこまめにチェックし、早めに申し込むことをおすすめします。

「マナパス」の2022年度実施事業特設ページ。2023年度実施の「成長分野における即戦力人材輩出に向けたリカレント教育推進事業」についても同様の特設ページを開設予定

リスキリングを推進!職業実践力育成プログラム(BP)認定制度

社会人の学び直しに関する文部科学省の取り組みとして、もう一つ知っておきたいのが「職業実践力育成プログラム(BP)認定制度」です。

大学や高等専門学校等における、社会人や企業のニーズに応じた実践的・専門的なプログラムを「職業実践力育成プログラム(BP)」として文部科学大臣が認定するもので、2015年度から毎年、新しいプログラムを認定しています。

プログラムは正規課程と60時間以上の体系的な教育で構成される履修証明プログラムが対象。DX、医療・介護、地方創生、女性活躍などをテーマに、関連分野の企業等の意見を取り入れ、対象とする職業の実務に必要な知識・スキルを身につけられるカリキュラム構成となっています。 実務家教員や関連企業等と連携した授業やグループ討論、フィールドワーク等の科目を通じた実践的な学びが得られることは大きな魅力です。

「BP認定プログラムは、夜間・土日開講やオンライン受講の導入など、社会人が学びやすい環境が整備されています。また、厚生労働省の教育訓練給付制度の対象講座にも指定されているプログラムでは受講料の一部が支給されるので、費用の負担を軽減することも可能です」(菅原氏)

BP認定講座や教育訓練給付制度対象講座は、マナパスのトップページから検索できます。



「マナパス」トップページの絞り込み検索機能

「社会人の学び直しの場」として大学を活用しよう!

文部科学省はリカレント教育の推進に向けて、プログラム開発支援以外にもさまざまな取り組みを行っています。その一つが「大学等におけるリカレント講座の持続可能な運営モデル構築事業」です。

「リカレント教育プログラムの提供にあたり、ニーズの把握から学内体制の整備、広報・周知、受講生の確保、評価・改善に至るまでのプロセスにどう取り組むべきか、といった点に関する知見が蓄積されていませんでした。そこで、2020年度から大学や企業、社会人受講者等へのアンケートやヒアリング調査、その結果を基にした実証研究などを行い、リカレント教育実施の参考となる取り組みをまとめたガイドラインを策定しました。2023年3月に公表しましたので、大学等関係者の皆様はぜひご活用ください」(菅原氏)

最後に、学び直しによってスキルアップやキャリアアップ、キャリアチェンジを目指そうという方々に向けて、メッセージをいただきました。

「今は大学におけるリカレント教育実施の機運が醸成される過渡期にあります。民間事業者がいろいろなリカレント教育プログラムを提供する中、 大学は個人からも企業からも社会人の学び直しの場として十分に認識されていません。しかし、専門的で質の高い教育は大学の強み。引き続きプログラム開発を支援していきますので、これからの大学のリカレント教育にご期待ください。また、マナパスが学び直しの必須アイテムとなるように、日々コンテンツや機能の充実を図っています。社会人向け講座の検索だけでなく、学びのロールモデルを探せるコンテンツなど、お役立ち情報も多数掲載しておりますので、ぜひ活用いただければと思います」(菅原氏)

まとめ

リカレント教育への関心の高まりに伴い、社会人の学び直しの場は増えてきています。

そのなかでも、成長分野における即戦力人材輩出に向けたリカレント教育推進事業のプログラムや、職業実践力育成プログラム(BP)認定講座は、大学ならではの実践的・専門的な学びを比較的安価で体験できる可能性のある、またとない機会です。

マナパスにアクセスして気になる講座が見つかったら、その瞬間が学び時。ぜひ一歩踏み出して、キャリアアップやキャリアチェンジに役立ててみてはいかがでしょうか。

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