一級建築士は構造や規模の制限なく、あらゆる建物の設計ができる国家資格です。国家試験は学科試験と設計製図試験の2段階で、大学、短大、専門学校などで専門教育を受けて実務経験を積むと受験資格が得られます。合格率は1割程度と難易度は高いですが、しっかり試験対策して勉強を進めれば合格は決して夢ではありません。
この記事では、一級建築士試験に合格するための、学科・設計製図それぞれの試験対策や、効率的な勉強法を解説します。できるだけ早い段階から対策を始め、合格率1割の壁を突破しましょう。
一級建築士試験が難しいとされる理由
一級建築士試験が難易度が高いといわれる理由には、試験の出題範囲の幅広さや法改正にともなう試験内容の変化が挙げられます。合格を目指すには勉強時間の確保だけではなく、その年の傾向に合わせた試験対策も必要です。
試験の出題範囲が広い
一級建築士試験では、以下5科目の学科と設計製図の試験を受けます。例年、学科試験は7月の第4日曜日に、設計製図試験は10月の第2日曜日に、それぞれ年1回実施されます。
- 学科Ⅰ(計画)
- 学科Ⅱ(環境・設備)
- 学科Ⅲ(法規)
- 学科Ⅳ(構造)
- 学科Ⅴ(施工)
試験科目が多く、出題範囲も多岐にわたるので、学習に時間を要します。計画的で効率的に勉強を進めなければ、合格は難しいでしょう。
学科試験の合格率は15.2%(2021年7月)、合格基準点は各科目において過半の得点とされています。
総得点は90点程度(学科Ⅰおよび学科Ⅱ:20点満点・学科Ⅲおよび学科Ⅳ:30点満点・学科Ⅴ:25点満点の合計125点満点を基本水準として想定)です。
設計製図試験の合格率は35.9%(2021年10月)で、同年の総合合格率は9.9%(学科から、もしくは製図から受験した場合の合計)と難易度はかなり高め。プランニング力と図面を描く技術のどちらも要求されるうえ、時間内に図面を完成させなければならない点が、合格率を下げる要因になっています。
法改正にともない、試験内容が変化する
建築基準法などの法改正により、試験範囲が拡大したり、過去問にはない新しい問題が出題されたりする場合があります。
最新のテキストや参考書で勉強するだけではなく、法律面については最新の情報を入手し、出題の予測を立てましょう。
学習時間の確保と長期的なスケジュール管理で確実な合格を目指す
一級建築士試験に合格するためには、毎日の勉強時間の確保が必須です。受験資格には実務経験が必要なこともあり、多くの受験生が働きながら合格を目指して受験勉強しています。平日は仕事などで時間が取れないことがあるかもしれませんが、足りない分は週末で調整しましょう。
学科と設計製図、それぞれの学習スケジュールについて説明します。
学科
学科の合格に必要な勉強時間は、一般的に1,000時間程度といわれています。1年前から勉強をスタートして計画を立てた場合、1日1,000時間÷52週=19.2時間の勉強時間が1週間で必要な計算です。つまり、平日1日2時間×5日、土日で各5時間程度の勉強時間になります。
設計製図
設計製図の勉強は、学科試験の合格発表を待たずに始める必要があります。設計製図の試験日までは、学科試験が終わってから約3ヵ月しかないからです。
設計製図の場合は、一般的に平日1日2時間、土日で合計12時間程度の勉強時間が必要といわれています。
設計製図の試験時間は6時間30分と長時間なので、土日にまとまった時間を確保し、本番同様のシミュレーションを繰り返すことで、実践的な感覚を養いましょう。
学科をクリアしても設計製図試験でつまずく人は多く、一発合格を目指すのであれば、設計製図の対策にはできるだけ多くの時間を割くことが大切です。
学科試験の対策法とは?
学科試験は、出題範囲が広いうえに問題数も多く、学習に時間がかかります。しかも、各科目と総得点の両方で合格基準点以上を取る必要があるため、まんべんなく勉強しなければなりません。
ここからは、勉強の効率を上げる方法として、学習する順番・反復学習・建築法規に焦点を当てて解説します。
勉強する科目の順序で効率を上げる
効率的に勉強するには、配点が高く習得に時間がかかる科目を優先しましょう。科目の得意不得意は個人差がありますが、迷ったら
1. 法規
2. 構造
3&4. 環境・設備、施工
5. 計画
の順番で学習するのがおすすめです。
1. 法規
試験では法令集を持ち込めるので、法規は高得点が狙える科目です。配点(30点)も高いので、最優先で勉強を始めます。ただし、法令集は非常にボリュームがあり、用語や内容の理解に時間がかかるうえ、勉強している期間中に新しい法律が成立する場合もあるので、長期的に取り組む姿勢が重要です。
2. 構造
構造では計算問題を苦手とする人が多く、習得に時間がかかる場合があります。しかし、一度解き方を覚えてしまえば高得点が狙える科目です。こちらも配点が高い(30点)ので、確実に点を取れるようにしておきましょう。
3&4. 環境・設備、施工
環境・設備と施工の2科目は、配点にほとんど差がありません(施工25点/環境・設備20点)。施工は暗記事項が多く、環境・設備は計算問題が出ますが、公式を覚えておけば計算自体はさほど難しくないでしょう。どちらか苦手な科目から勉強してみてください。
5. 計画
計画は出題範囲が広いものの、内容の理解はしやすい科目です。ただし配点が高くなく(20点)、高得点も狙いにくい科目なので、優先順位が低いといえます。スキマ時間を利用して、少しずつ丸暗記していきましょう。建築業界で話題になった作品は、出題されるかもしれないため、要チェックです。
テキストや過去問を反復学習する
一級建築士の試験は問題数がかなり多く、各問題を瞬時に理解し解答できるくらいのスピード感が必要です。過去問や問題集を何度も繰り返し解き、正答率と解答速度の向上を目指しましょう。
一級建築士のふぐたくまおさんが、受験勉強の経験から反復学習の大切さを教えてくれています。
多くの方が役に立つと紹介している問題集がこちらです。前年度の本試験問題と過去問から厳選した科目別重要問題が掲載されています。
建築法規で高得点を狙う
法規は習得に時間がかかりますが、問題傾向が明確で、前述のとおり法令集を持ち込めるため高得点が狙えます。
勉強を始める前に重要なのが、法令集に見出し(インデックス)や線引き、付箋をし、必要箇所がすぐに見つかるようにしておくことです。
基本的なことは丸暗記し、それ以外は解答をすぐに導き出せるよう、法令集を素早く引く練習をしましょう。
設計製図試験の対策法とは?
課題文から設計条件を読解し、決められた時間内に計画・作図できるようにするためには、反復練習しかありません。習得にはある程度時間がかかりますが、4つの対策ポイントを押さえて効率的に勉強することで、試験に対応できる力が身につきます。
エスキス力を上げる
エスキスは設計の要です。自分なりにエスキスを進める順番を決めて、毎回同じ手順を踏むことで、見落としや時間のロスがないようにします。制限時間を決めて、練習を積み重ねましょう。
製図力を上げる
短時間で図面を描き上げるためには、ひたすら反復練習してスピードアップを図ります。できるだけ多くのトレース(模写)を繰り返し、書く順番を決めて毎回同じ流れで進めることで、ミスや無駄な動きがなくなり、効率が上がります。
時間配分を決めて本番同様の練習を繰り返す
製図試験は、時間配分が重要です。エスキス2時間、記述1時間・製図3時間、最終チェック30分を目安に、過去問で反復練習しましょう。
ある程度慣れてきたら、時間短縮を目指してください。制限時間内ちょうどに終わるように練習していると、試験で手間取った際に時間が足りなくなってしまうからです。
前年度の試験問題まで収録された最新の過去問題集を入手して、繰り返し練習しましょう。
記述対策は最後でも間に合う
記述は、定型文を暗記し、予想される質問に対してキーワードを蓄えれば、短時間で対策が可能です。そのため、習得に時間がかかるエスキスや製図力の向上を優先させましょう。
資格学校の模擬試験を受けて本番に備える
試験に向けて独学で勉強している場合でも、ぜひ資格学校の模擬試験は受けたいところです。
本試験と同じタイムスケジュールで行なわれるので、想定どおりの進め方や時間配分で問題ないか、答えを見直す余裕がどれくらいあるか、などの確認ができます。
また、自分の習得レベルや弱点もわかるので、その後の学習に役立つでしょう。新しい傾向の問題を把握できる点も大きなメリットです。
一級建築士のように建築工事に関わる国家資格に、建築施工管理技士があります。建築施工管理技士の仕事内容は工事計画の作成やスケジュール管理、原価管理、品質管理といった、建築工事全体を管理で、一級建築施工管理技士と二級建築施工管理技士の2つに分かれています。ダブルライセンスで一級建築士とあわせ持てば、専門性が高まるでしょう。建築施工管理技士について、こちらで紹介しています。
https://college.coeteco.jp/blog/archives/3370/
まとめ
一級建築士の試験は、合格率1割と決して簡単に合格できる試験ではありません。しかし、継続的に十分な勉強時間を確保し、ポイントを押さえて試験対策することで、合格は可能です。
勉強方法は人それぞれですが、進め方がわからない、効率を上げたいと思ったら、この記事を参考にしてください。試験日から逆算して計画を立て、コンスタントに勉強を続けて合格を目指しましょう。