組織を運営していくうえで、リーダーという立場に任命されたときに「どのように部下と関わるべきかわからない」「自分にはリーダーは向いていない」という方も多いようです。
実はリーダーシップは生まれながらに持つセンスではなく、求められる働きを意識することで後天的に身に付く能力です。自分がリーダーに任命されたときのためにも、リーダーとして行うべき仕事について知っておきましょう。
この記事では、リーダーシップの定義や働きの特徴、行動の具体例について紹介しています。
リーダーシップの定義
オーストリアの経営学者ピーター・F・ドラッカーによると、リーダーシップとは以下のようなものであると提唱されています。
- リーダーシップとは才能や生活に左右されない「仕事」である
- リーダーシップの第二要件は「責任」である
- 部下から信頼を集めるのがリーダーシップである
まず重要なのはリーダーシップというのは生まれ持ったカリスマ性や賢さとは異なるということです。組織の方向性を示す指導力や決断力、判断力を意識的に業務として行うことがリーダーシップを発揮するということになります。自分ばかり目立ったり成功したりするのではなく、あくまでも組織の目標達成を理想としているのです。
次にリーダーシップの本質は責任を自覚することにあり、責任感を持って部下の前進や自由な活動を恐れないのが真のリーダーです。部下の業務に干渉しないリーダーのもとでは、部下の自由度は高まりますが組織の計画性は低いでしょう。
さらに部下から信頼を集める人間こそリーダーであると定義しています。信頼できるリーダーがいることで、仕事への熱意を抱くこともできますよね。信頼関係の構築は、効率化や生産性にも大きく影響するでしょう。
多くのビジネスパーソンから支持を得るピーター・F・ドラッカーの経営論については、以下の著書も参考にしてみてください。
リーダーシップ論について
ここでは、リーダーの行動や組織に与える影響について研究されたリーダーシップ論を2つ紹介します。
PM理論
リーダーシップ行動理論の代名詞ともいえる「PM理論」は1966年に三隅二不二によるもので、リーダーの行動を以下の2つの機能に分類しています。
- P:目標達成機能(Performance)
- M:集団維持機能(Maintenance)
P機能は成果を上げるために発揮されるリーダーシップのことで、具体的にはメンバーへの指導やルールの設定、管理といった行動です。
たとえばスケジュールの進捗管理や業務上のルール、個人の役割などがしっかりと指導されていれば、課題解決や業績アップに繋がるでしょう。P機能を果たすことで組織としての目標や、目標ために必要なことが明確になります。
M機能はチームワークを維持する機能で、メンバーを思いやって声をかけたりチーム内のトラブルを解消したりといった信頼関係を築く行動が挙げられます。
人間関係を良好に保つためにはこの機能が必須で、リーダーだからといって高圧的な態度を取ってしまう方はM機能を高めることができなくなるでしょう。上下関係と同僚同士の関係、それぞれを良くすることが大切です。
PM理論ではPとMの各機能の強弱によって「PM型」「Pm型」「pM型」「pm型」といった形式でリーダーシップ像や組織の傾向を分類します。
三隅二不二はその中でも成果を上げる力も組織をまとめる力も強い「PM型」に近づくことが大切であると提唱しています。つまり、計画性や適切な管理能力だけでなくチームワークを維持する働きかけのバランスがポイントなのです。
SL理論
SL理論(シチュエーショナルリーダーシップ理論)は1977年にP・ハーシィ(P.Hersey)とK・H・ブランチャードが提唱したリーダーシップ条件適応理論で、リーダーのスタイルは部下の成熟度によって分類されると提唱しています。
- 教示型リーダーシップ(部下の成熟度が低い場合)
- 説得型リーダーシップ(部下の成熟度が高まってきた場合)
- 参加型リーダーシップ(更に部下の成熟度が高まった場合)
- 委任型リーダーシップ(部下が自立性を高めてきた場合)
新人を相手にする場合「教示型」で具体的な指示や管理を行います。「説得型」では、ある程度仕事に慣れてきた部下の質問に答えるなど人間関係を構築する視点もポイントになります。
新人には手取り足取り教える必要があるかもしれませんが、仕事に慣れてきた部下には良きところで任せるという対応の変化が必要になるのです。これによって部下の自信や技術の獲得にも繋がりますよね。
また、業務を遂行する能力を高めた部下に対しては共に考えをすり合わせて意思決定する「参加型」を仕向けます。この時点で業務への指示ではなく、判断基準などを伝えることで部下の業務への不安を解消し、自信を持たせていきます。
最小限のリーダーシップともいえる「委任型」では部下との共通認識によって業務遂行を任せたり仕事の成果報告をしてもらう関わりに変化していきます。
このように、状況に合った柔軟な関わりによって有効なリーダーシップ行動が取れるというのがSL理論です。
リーダーが取るべき行動の具体例とは
リーダーシップを発揮するためには目標達成に導くことはもちろん、団結力を維持することや人材育成といったスキルを最大化していくことが大切なようです。
ここではリーダーのニーズに基づき、取るべき行動の例について紹介します。
部下のアイデアや少数意見を大切にする
部下の声を真摯に受け止めることで能力を認めるという姿勢が大切です。例えばプロジェクトの計画段階でメンバーからの意見が飛び交うこともありますが、ここで言う「意見を大切にする」というのは必ずしも全てを取り入れることではありません。それぞれの声に耳を傾けるだけでも個人の技能を認めていることが伝わるということです。
組織の目標達成のためには同じ熱量で仕事に取り組むメンバーが必要ですが、部下が自分自身に誇りを持てるような環境を作ることでチームの士気が上がるでしょう。
わかりやすい説明を心がける
組織の共通認識やビジョンを共有したり、仕事の生産性を高めたりするためにはどんな習熟度の部下でも理解できる説明をきちんと行いましょう。
例えばメンバーの習熟度がそれぞれ異なる場合、指示や連絡事項を各個人の理解度に合わせて伝えます。ベテランにはテキストで済ませられる内容も、新人には直接伝えた方がいいこともありますよね。この時「できる範囲でやっておいて」などの曖昧な言葉は避けましょう。全員が理解しているかどうかの確認も忘れずに行います。
定期的に1対1でフィードバックする場を設ける
定期的に部下と1対1で話す場を設け、部下のスキルアップや組織としての価値観の共有を目的としたフィードバックを行います。
フィードバックの内容は、成長した点やねぎらいの言葉、他者との比較や改善点など、部下の業績をもとに適切な声かけを考えます。また、部下の悩みがあれば親身に相談に乗り、本人の気持ちに寄り添って意見を伝えることで信頼関係を構築していきます。
謙虚な姿勢でチームの調和性を優先する
リーダーこそ謙虚で素直な姿勢でいることで協調性のある集団に導くことができるでしょう。
「リーダーが誰よりも優秀である」という考えは捨ててお互いの長所や短所を公平に判断することで、部下が自由に意見を発信することができるようになります。さらに部下は謙虚なリーダーに刺激を受け、自分以外の状況や人間関係を大事に考えるようになっていきます。
リーダーシップ学習の参考書籍など
実際リーダーシップの向上を求められるのは、主に企業の管理職のポジションの方となりますので、ユーキャンをはじめ、いろいろな会社で研修のコースは数多く設定されています。個人的には、書籍によってという場合が多いでしょう。
カーネギーの著書は、1937年に出版されたベストセラー。ビジネスだけでなく、人付き合い全般において参考になります。
リーダーシップの理論と、それをふまえた実践を模擬事業スタイルで具体的に提示した、リーダーシップの基本を網羅した教科書ともいえる書籍です。
リーダーシップとマネジメントの違い
リーダーシップは組織を目標達成に導く能力であるのに対し、マネジメントは成果を上げるために手段や方法、リスクなどを管理する能力です。
たとえば、リーダーはメンバーの状況によって臨機応変に対応を変化させていきますが、マネジメントでは組織を維持することが大切なので変化のリスクを回避するでしょう。どちらも方向性は同じなので混同されがちですが、リーダーには人望などの権威も影響するという点で異なります。
また、リーダーシップのある人が多いほど組織の成果が高まります。リーダーシップのある人は自ら全体にとっての課題を意識してアイデアや技術を発揮するので、メンバー全員がリーダーシップを身に着けることが理想的なのです。
まとめ
リーダーシップがある人は、自らが計画したり模範を示すだけでなく円滑なコミュニケーションで人材育成や指導を行い、組織を目標達成に導きます。人間的な魅力を要するので一見センスや資質が問われるかのように思えます。しかしこれらは後天的に身に着けられるスキルであり、ビジネスに関わる方なら誰もが修得したい能力でもあるでしょう。