テクノロジーの急速な進化、新型コロナウイルスの流行……先の見えない時代を生きる私たちには、自ら考え、判断し、行動する力が求められています。
そうした中、注目を集めているのが、主体性を引き出すコミュニケーションスキルであるコーチング。最近では、ラグビー元日本代表・五郎丸歩選手の有名なルーティンポーズを一緒に考え、2015年ワールドカップでの日本の躍進を支えたメンタルコーチ・荒木香織さんが大きな話題を呼びました。
コーチングはスポーツにおける指導から派生し、ビジネスを中心に人材育成や能力開発の手法として発展を遂げ、今日では多くの企業が導入しています。
子育てや人間関係の改善、自己実現などにも役立つことから、コーチングを学ぶ人も増えています。
前編となる今回は、コーチングの概要やティーチングとの違い、活用場面について解説します。
コーチングとは
コーチングとは、相手の内面にある答えを引き出し、目標達成や自己実現へと導くための手法です。
コーチがクライアント(相手)に一方的に教えたりアドバイスしたりするのではなく、双方向のコミュニケーションである「対話」を通して「自ら考え、主体的に行動を起こすよう導いていく」ことが特徴です。
そのためコーチには、相手の話を最後までしっかりと聞く「傾聴」、相手の意見に対する問いを投げかける「質問」、相手の考えや行動、成果などを認める「承認」からなる基本スキルを徹底することが求められます。
こうして対話を繰り返しながら、コーチはクライアントとの信頼関係を築き上げ、相手が広い視点で物事を捉え、考え方や行動の選択肢を広げられるようにサポートします。
また、相手の内に秘められた能力や可能性に気づかせてモチベーションを高め、自発的な行動を引き出します。
コーチングとティーチングの違い
コーチングと混同されやすいものに、ティーチングと呼ばれる人材育成手法があります。相手の成長を促すという点では共通していますが、その目的や方法は大きく異なります。
ティーチングは「知識やスキルを教える」ためのもので、コーチングのように「答えを考えさせる」のではなく「答えを与える」ことを特徴とします。
例えば、相手が目標を達成できない場合、ティーチングでは「うまくいかない理由は◯◯だから、この方法で克服しよう」などと具体的な解決方法を示します。
かたやコーチングでは「何が障害になっているんだろう?」「どうすれば障害を乗り越えられると思う?」といった質問を投げかけることで、相手に解決の糸口となる気づきを与えます。
ティーチングは知識や経験の少ない相手に必要な知識やスキルを効率よく伝授することには適していますが、相手が受け身になりがちで、自主性や自律性を高めることには向きません。
一方、コーチングは相手に一定の知識やスキルが備わっていることが求められ、成果が出るまでに時間を要する反面、自分で問題解決をする能力を育めるというメリットがあります。
そのため、コーチングの効果を最大限に発揮するには、相手のスキルの成熟度合いやタスクの重要度・緊急度に適した状況で用いたり、ティーチングと組み合わせて使ったりすることが求められます。
コーチングの種類
コーチングには、対象とするクライアントや目的、専門とする分野などに応じてさまざまな種類があります。その一部をご紹介します。
代表的なコーチングの種類
ビジネスコーチング
企業や組織における人材育成や組織開発を目的としたもの。管理監督者やリーダー格の人がコーチとして部下に行うケースが一般的です。
経営者や経営幹部層を対象としたものは「エグゼクティブコーチング」と呼んで区別されます。
パーソナルコーチング
個人を対象に、仕事や家庭など人生のさまざまな側面における課題を解決し、自己実現を達成していくことにスポットをあてたもの。その内容から「ライフコーチング」とも呼ばれます。
欧米では人生を豊かにするものとして一般的に取り入れられており、日本でも広がりが期待できる分野です。
専門分野に特化したコーチングの種類
教育コーチング
子どもの意欲や能力を引き出し、主体的な学びの姿勢を育むことを目的としたもの。教育はもちろん、保育や子育てにも活用できます。
親と子のコミュニケーションにスポットをあてたものは「子育てコーチング」とも呼ばれます。
スポーツコーチング
スポーツにおいて個人やチームの力を最大に発揮させ、目標達成や成長を促すことを目的としたもの。
メンタル面のサポートに特化したものは「スポーツメンタルコーチング」とも呼ばれます。
メンタルコーチング
ストレスやプレッシャーに対処し、どのような局面でも能力を最大限に発揮できるようにメンタル面をサポートするもの。スポーツ、教育、ビジネスなど幅広い分野に役立てられます。
ヘルスコーチング
食事や生活習慣などの改善を行い、心身共に健康な生活を送れるようサポートするもの。医療や介護などの分野で効果を発揮します。
メディカルコーチング
患者への対応や医療従事者の育成・マネジメントに活用することを目的としたもの。院内コーチとして活躍する道も開けます。
コーチングの活用場面
前述のように、コーチングはビジネス、教育、スポーツ、医療といった幅広い分野で活用され、人材育成やマネジメント、業績向上、スキルアップ、キャリアアップなどに役立てられています。最近では、管理職向けのコーチング研修を導入している企業も珍しくありません。
コーチングを行うのに資格は必須ではないため、スキルを身につけさえすれば、職場での部下の育成や面談などに用いることができます。自分の仕事にコーチングを活かし、コーチ型コンサルタントやセラピスト&コーチなどとして活躍する道も開けるでしょう。
自らがコーチとなって自分自身の成長を促すセルフコーチングを行ったり、子育てに役立てたりすることも可能です。
とはいえ、資格取得を目指す過程で体系的にコーチングの知識を学んだり実践経験を積んだりすることは、スキルアップには非常に有効です。
また、プロコーチや社内コーチとして活躍したい場合は、専門的なスキルを有していることを証明する資格の取得が望ましいでしょう。
まとめ
コーチングのスキルを身につけるには、ある程度の学習期間が必要です。相手の考え方や個性に合わせた対応ができるようになるためには、さらに実践経験を重ねることが求められます。
しかし、習得すれば仕事はもちろん、プライベートにも活用でき、人生をぐんと実り多いものにしてくれるはずです。
とはいえ、いざ学ぼうと思っても、「何から手を付ければいいのかわからない」という方も少なくないでしょう。
そこで後編では、代表的な資格や独学での学び方、スクール・通信講座の選び方など、コーチングを身につけるための具体的な方法について解説します。ぜひ参考にしてみてください。