AIの台頭やDXの進展がめざましい今の時代、情報技術(IT)の活用による業務の自動化・効率化や人材育成によって生産性の向上を図ることは、もはや日本企業にとって待ったなしの課題です。
とはいえ、中小企業の中には必要な予算を確保できず、「思うように業務のデジタル化や従業員のスキルアップが進まない!」と危機感をつのらせている企業も少なくありません。
そこで、国や自治体は中小企業の業務効率化や生産性向上を後押しすべく、補助金や助成金など、さまざまな支援策を打ち出しています。
ここでは、経済産業省のIT導入補助金、厚生労働省の人材開発支援助成金を中心に、国や自治体の中小企業支援策についてまとめました。
そもそも補助金・助成金とは?
補助金と助成金は、どちらも国や自治体から支給されるお金のこと。いずれも後払いで、融資などとは異なり、ほとんどの場合において返済義務はありません。
しかし、補助金と助成金では異なる点もいくつかあります。まずはそれぞれの特徴を頭に入れておきましょう。
補助金 | 助成金 |
審査により採択される必要がある | 所定の要件を満たせば受給できる |
事業の内容や経費を報告する書類の提出が必要 | 支給用件を満たすことを証明する書類の提出が必要 |
主に経済産業省が管轄 | 主に厚生労働省が管轄 |
ただし、補助金や助成金という言葉は明確に区別して使われていない場合もあるので注意が必要です。それぞれの制度の内容をよく理解した上で活用するようにしましょう。
IT導入補助金(経済産業省)
IT導入補助金とは
IT導入補助金は、中小企業の生産性向上に向けて、業務効率化やDX推進に必要なITツールを導入する経費の一部を補助する制度。
正式名称は「サービス等生産性向上IT導入支援事業補助金」で、経済産業省・中小企業庁が所管しています。
2017年から毎年実施されており、独立行政法人中小企業基盤整備機構と中小企業庁の監督のもと、IT導入補助金事務局(以下、事務局)が運用しています。
対象となるITツールは、事前に事務局の審査を受け、補助金HPに公開(登録)されているソフトウェア、クラウドサービスなど。具体例としては、以下のようなツールがあげられます。
- 会計・受発注・決済ソフト
- 顧客対応・販売支援ツール
- 供給・在庫・物流システム
- 汎用・自動化・分析ツール
- セキュリティソフト
- POSレジ・モバイルPOSレジ・券売機
- PC・ハードウェア
このほか、相談対応などのサポート費用やクラウドサービス利用料なども補助対象に含まれます。
なお、補助金を申請する中小企業は、事務局の採択を経て登録されたIT導入支援事業者とパートナーシップを組んで申請することが必要です。
IT導入支援事業者とは、IT導入補助金を申請する中小企業を支援し、ITツールの導入・活用や申請のサポートを行うITベンダー・サービス事業者のこと。自己負担を抑えてITツールを導入できるだけでなく、実績豊富なIT導入支援事業者のサポートを受けられることは、IT導入補助金の大きなメリットといえるでしょう。
支援枠の見直しや補助率の拡充も
IT導入補助金は毎年、時勢などに合わせて支援枠の見直しや補助率の拡充などが行われています。該当年度の制度内容をしっかり理解した上で利用を検討するようにしましょう。
例えばIT導入補助金2024(公募終了)には、通常枠に加えてインボイス枠(インボイス対応類型)、インボイス枠(電子取引類型)、セキュリティ対策推進枠、複数社連携IT導入枠の計5枠が設けられ、それぞれに補助条件が設定されています。
通常枠は、それぞれの企業の課題に合ったITツールの導入を支援し、業務効率化・売上アップを後押しするもの。補助率は購入費用の1/2以内で、1プロセス以上なら5万円以上150万円未満、4プロセス以上なら150万円以上450万円以下の補助金が支給されます。
参考:IT導入補助金2024
申請手続きの流れ
補助金の申請手続きの流れや交付決定後の手続きは、おおむね以下のようになっています。
- IT導入支援事業者とITツールの選定
自社の業種や事業規模、経営課題に沿って、共同事業者(パートナー) となるIT導入支援事業者と導入したいITツールを選定する。 - 交付申請(IT導入支援事業者との共同作成・提出)
IT導入支援事業者との間で商談を進め、交付申請の事業計画を策定。その後、共同で交付申請の手続きを行う。 - 交付決定
交付決定通知を受けたら、ITツールの発注・契約・支払いを行い、補助事業を実施する。 - 事業実績報告
補助事業の完了後、実際にITツールの発注・契約、納品、支払いを行ったことを証明する書類を作成。IT導入支援事業者の確認・入力を経て事務局に提出する。 - 補助金交付
確定した補助金額を確認後、補助金が交付される。
詳細は以下のサイトでご確認ください。
参考:中小企業向け補助金・総合支援サイト「ミラサポplus」〜IT導入補助金とは
人材開発支援助成金(厚生労働省)
人材開発支援助成金とは
人材開発支援助成金は、従業員(雇用保険被保険者)のスキルアップを図るための職業訓練を行った中小企業に対して、訓練経費や研修期間中の賃金の一部を助成する制度。厚生労働省が所管しています。
2017年にキャリア形成促進助成金から現名称への変更が行われ、助成メニューや内容にも一部変更が加えられました。
その後も制度内容は随時、改正が行われており、2024年12月現在は期間限定のものを含め、人材育成支援コース、教育訓練休暇等付与コース、人への投資促進コース、事業展開等リスキリング支援コースなど7コースを実施。すべてeラーニングや通信制による訓練も助成対象となっています。いずれも所定の要件を満たすことで受給が可能です。
ここでは、ほとんどの業種の中小企業が利用できる4コースについて解説します。なお、それぞれのコースや訓練ごとに支給の要件や要領などが定められているため、厚労省のHPやパンフレットで詳細を確認した上での検討をおすすめします。
参考:人材開発支援助成金
人材育成支援コース
人材育成支援コースでは、職務に関連した知識・技能を習得させることを目的として、以下の3つの訓練を実施した場合に訓練経費や訓練期間中の賃金の一部が助成されます。
- 人材育成訓練
10時間以上のOFF-JT(Off-the-Job Trainingの略。職場外訓練のこと) - 認定実習併用職業訓練
厚生労働大臣の認定を受けた、OJT(On-the-Job Trainingの略。職場内訓練のこと)とOFF-JTを併用した訓練 - 有期実習型訓練
非正規雇用労働者の正社員化を目的に行う、OJTとOff-JTを組み合わせた訓練
教育訓練休暇等付与コース
教育訓練休暇等付与コースでは、3年間に5日以上取得可能な有給の教育訓練休暇を導入し、従業員がそれを取得して訓練を受けた場合に、訓練経費の一部が助成されます。
参考:令和6年度版パンフレット(教育訓練休暇等付与コース)詳細版
人への投資促進コース
人への投資促進コースは、2027年3月末までの期間限定の助成金制度。デジタル人材・高度人材を育成する訓練、労働者が自発的に行う訓練、定額制訓練(サブスクリプション型)などを実施した場合に、訓練経費や訓練期間中の賃金の一部が助成されます。
訓練内容や目的に応じた以下の5つの訓練があります。
- 高度デジタル人材訓練・成長分野等人材訓練
DX推進を担う高度デジタル人材を育成するための訓練(ITスキル水準(ITSS)レベル3、4以上)や、海外を含む大学院での訓練 - 情報技術分野認定実習併用職業訓練
IT分野未経験者の即戦力化に向けた、IT分野関連のOJTとOFF-JTを組み合わせた訓練 - 定額制訓練
サブスクリプション型の研修サービスによる訓練 - 自発的職業能力開発訓練
従業員が自発的に受講した訓練費用を事業主が負担したもの - 長期教育訓練休暇等制度
従業員が働きながら教育訓練を受講するための長期教育訓練休暇制度や教育訓練短時間勤務等制度を導入し、従業員がそれを取得して訓練を受けた場合に助成を受けることができる制度
※2024年4月の改正で、時間単位の休暇も対象とするなどの適用要件の緩和や、中小企業への賃金助成の拡充などを実施
参考:令和6年度版パンフレット(人への投資促進コース)詳細版
事業展開等リスキリング支援コース
事業展開等リスキリング支援コースは、2027年3月末までの期間限定の助成金制度。新規事業の立ち上げなどの事業展開やDX・GX化に伴い、新たな分野で必要となる知識・技能を習得させるための訓練を実施した場合に、訓練経費や訓練期間中の賃金の一部が助成されます。
参考:令和6年度版パンフレット(事業展開等リスキリング支援コース)詳細版
各コースの助成額・助成率は下表をご参照ください。
どのコースが利用できるかをチェック!
自社が人材開発支援助成金のどのコース・メニューを利用できるか、まずは支給要件などを簡単に示したフローチャートでチェックしてみてはいかがでしょうか。
大体の目星がついたら、申請を希望するコースのパンフレットで詳しい支給要件を確認しましょう。
企業が従業員に訓練を受講させる場合
自発的に訓練を受講する従業員を支援する場合
その他の中小企業支援策&お役立ち情報
IT導入補助金と人材開発支援助成金のほかにも、中小企業を対象としたさまざまな支援策があります。その一部をご紹介します。
厚生労働省の支援策
・キャリアアップ支援金
有期雇用労働者、短時間労働者、派遣労働者といった非正規雇用の労働者の企業内でのキャリアアップを促進するため、正社員化や処遇改善の取り組みを行った中小企業を助成する制度。
2024年12月現在、正社員化コース、賃金規定等改定コースなど6コースが実施されています。
・両立支援等助成金
働きながら子育てや介護などを行う従業員の雇用を継続するために、就業環境の整備に取り組む中小企業を助成する制度。
2024年12月現在、出生時両立支援コース、育児休業等支援コース、不妊治療両立支援コース、介護離職防止支援コースなど6コースが実施されています。
自治体の支援策
・中小企業人材スキルアップ支援事業(東京都)
東京都内の中小企業や個人事業主が従業員に対して行う研修費用の一部を助成する制度。
従業員のスキルアップを目的とした研修のうち、自社で企画した研修を対象とする「事業内スキルアップ助成金」、公開研修を利用して実施する研修を対象とする「事業外スキルアップ助成金」、自社のDXのために実施する研修を対象とする「DXリスキリング助成金」という3つの助成金が用意されています。
こうした都道府県・市区町村の支援情報(補助金・助成金、セミナー・イベントなど)は、中小企業ビジネス支援サイト「J-Net21」の支援情報ヘッドラインから探すことができます。各地の中小企業振興公社や中小企業支援センターが実施している助成金制度についても、まとめて検索可能です。
参考:J-Net21
中小企業向け補助金・総合支援サイト
自社に合った補助金・助成金制度を探したり、複雑な申請手続きを行ったりする際には、経済産業省が運営する中小企業向け補助金・総合支援サイト「ミラサポplus」が便利です。
IT導入補助金をはじめとする補助金・助成金のほか、給付金、貸付、税の優遇措置などのさまざまな支援制度の最新情報が掲載されています。また、実際に経営課題を克服したさまざまな経営事例を閲覧したり、電子申請のサポート機能を利用したりすることも可能です。
先述の「J-Net21」の支援情報ヘッドラインへは、ミラサポplusからアクセスすることもできます。
参考:ミラサポplus
まとめ
中小企業は日本経済を支える重要な存在。
そのさらなる発展にはIT導入や人材育成が欠かせないことから、国や自治体による支援策が数多く用意されています。
働き方改革に伴って賃上げの必要性が高まり、原材料やエネルギー価格の高騰も続く中、特に返済義務のない補助金・助成金は企業にとって頼もしい存在です。
IT導入や人材育成を今まさに検討している、今後に向けて視野に入れているという企業は、ぜひ気になる制度をチェックしてみてはいかがでしょうか。