「2060年の日本の総人口は、現在より約3300万人減少し、労働人口も40%減少すると予測されている。日本の労働生産性も賃金も下降する一方で、社会保障費は上昇。日本を立て直すには人材育成と教育しかない」これは、教育立国推進協議会の第3回総会の冒頭で、同会の会長を務める自民党・前政務調査会長の下村博文氏が述べた言葉です。
日本は「人口減少社会」に突入して、さまざまな業界で人手不足が問題になっています。日本の未来を支える人材の教育・育成の重要性は誰もが認めるところ。この記事では、教育立国推進協議会の第3回総会「教育は先行投資。教育国債について」をレポートします。
教育立国推進協議会は、超党派の国会議員約180名によって2022年1月に設立されました。教育改革による日本再建を掲げて、民間からも意見を取り入れ2022年6月をめどに提言の取りまとめを目指しています。総会が2022年3月現在までに4回開催され、YouTubeでライブ配信も行われています。アーカイブ配信もあるので、いつでも誰でも視聴可能です。
教育立国推進協議会 YouTube
2022年2月17日に開催された、第3回総会のテーマは 「教育は先行投資。教育国債について」。
嘉悦大学ビジネス創造学部教授で元大蔵・財務省の高橋洋一氏と、東京大学公共政策大学院教授、慶應義塾大学政策メディア研究科教授の鈴木寛氏が、教育への投資と教育国債の有効性と必要性を講演した。議員126名と民間43名の合計169名が対面とオンラインで参加し、講演後に質疑応答も行われた。
教育投資で所得が増えれば、国の税収も増える
一人目の講演者の高橋氏は、教育投資の有効性と財源の確保を解説した。
教育投資とは、国民がより良い教育を受けられるように学費や受講料を国が負担すること。教育を受けた国民の所得が増加することで、国の税収が増える効果も期待できる。教育投資は、教育効果のあるものに出資する無形資産で、インフラ整備等の有形資産より長期的な生産力の基盤になる可能性がある。
現在の日本では、建設国債のような有形資産にしか国債発行を認めていない。高橋氏はフランスのサルコジ大統領が教育、研究、技術など未来への投資のために国債を発行した「サルコジ国債」を例に挙げ、教育投資の財源確保における教育国債の適性や有効性を訴えた。また、ふるさと納税の仕組みを学校法人に置き換えることで財源確保する方法も紹介された。
日本は高等教育への公費負担率が低い
続いて登場した鈴木氏は、高等教育の質の向上と、高等教育への支援の重要性を解説した。
日本のGDPに対する高等教育の公費負担率がOECD諸国の中で平均以下。新興国が経済成長を目指して教育投資を増やしている。2019年の日本は世界の公的教育費対GDP比率の国別ランキングでは、日本は181か国・地域中135位だ。
1990年代の日本と韓国の大学進学率はともに約35%だったが、韓国が2000年代の約10年間に教育目的税などを導入して国の教育支出を増やした結果、大きく差がついた。2010年には日本の大学進学率が約50%に対して、韓国は約70%に上昇。理工系の学生数も増加して、韓国の経済成長につながったとされる。一方、日本の低学歴社会といわざるえない現状に危機感を訴えた。
※2020年の世界の大学進学率 国別ランキング(153か国)では、日本は64.10%で49位、韓国は98.45%で7位。
日本の大学教育の現状を引き合いに出して、大学の質の向上と、リカレント教育や社会人学生の受け入れ枠の拡大の重要性も述べた。
高等教育の有効性と問題点が、以下のデータとともに紹介された。
- 大学の学費は約500万円必要になるが、大卒と高卒では生涯年収が約1億円異なる。年収が上がれば、国の税収も増える。
- 世界と比べ、日本の教育への公費負担率は低い。
- 完全失業率は若年層ほど大卒と高卒の差が開く。2020年の15歳~24歳完全失業率は大卒が2.9%に対して、高卒は7.3%。
- 日本の大学進学率は地域によって異なり、特に都道府県別に男女の大学進学率の格差が大きい。
- 教育への公費負担率が低いので家計での教育費の負担が大きくなり、保護者の収入格差が子どもの進学機会格差につながる。
鈴木氏は、高等教育へ投資は、日本を浮上させるために大切な産業構造の転換、地域活性化、女性の社会進出促進など多くの効果が期待できるとしている。
教育投資は、リカレント教育にも及ぶ可能性がある
質疑応答の時間には、参加者から講演者へ「なぜ日本では教育に公的に投資されている額が少ないのか」との質問も出ました。講演者から「文部科学省からのそもそもの予算の要求が少ない」「日本の人口における高齢者の割合が大きい」「教育費に対して家庭や個人で負担するものとの意識が強い」などが理由に挙げられました
教育投資の対象は若年層だけとは限らず、その恩恵は幅広い年齢層に及びます。少子化が進み、子育て世帯は全体の23%まで減っているが、教育投資は子育て世帯だけのものではありません。50代の女性が大学で学び直すようなリカレント教育・学び直しのためにも教育投資は大切です。