人の命が関わる自動車の安全走行に自動車整備の仕事は欠かせないもの。また、業務を通じて常に自動車に関われるため、自動車が好きで自動車整備士を目指しているという方も多いのではないでしょうか?
自動車の整備は無資格でも行えるため、資格がなくても整備工場で働けます。けれども、国家資格である自動車整備士を取得すれば仕事の幅が広がり、収入アップが期待できるのです。
この記事では、自動車整備士になるための方法や資格ごとの仕事内容について解説していきます。
自動車整備士は無資格でもなれる
自動車整備士として仕事をする際、資格がなくても働けます。そのため、無資格・未経験で整備士見習いとして働きながら資格取得を目指す方も。
しかし、無資格者と有資格者ではできる作業の範囲が異なります。
無資格でできる整備業務
無資格でできる整備業務を細かくみていくと、
- タイヤ脱着作業
- タイヤの空気圧点検
- エンジンオイルの交換
- オイルフィルターの交換
- 冷却水の補充
- 外装の洗車
- 工具の準備と整理
など多くあります。
しかし、専門的な知識がない分、作業が簡単であったり、整備士のサポートをしたりする形になるので、仕事にやりがいを持つのは難しいかもしれません。
資格が必要な整備業務
自動車の分解整備を行うには自動車整備士法に定められている通り、国家資格が必要になります。
自動車整備士の資格を取得すると、
- エンジンオイル交換やタイヤ交換が1人でできる
- エンジンや足回りの分解整備が1人でできる
- エンジン車やジーゼル車の整備箇所に関わらず全ての業務が1人でできる
命にかかわる部分の分解整備を行うには知識や技術が必要であり、等級が上がれば上がるほど、単独でできる作業が多くなります。
万一、自動車整備士免許を取得せずに分解整備を行うと「道路運送車両法違反」となり、50万円以下の罰金に科せられます。
一人前の自動車整備士をめざすなら資格は必須
無資格でもできる自動車整備の業務はありますが、有資格者と比較するとどうしても業務の範囲は狭くなります。また、収入や職場での待遇にも差が出てきます。そのため、一人前の自動車整備士を目指すのであれば、資格は必須といえるでしょう。もちろん、知識だけでなく技術も身につけることも大切です。
さらに、自動車整備士の資格があれば、整備以外にも、自動車に関するさまざま業務を担当できます。
- 一定数の車を所有する運送会社で選任される整備管理者
- 自動車分解整備事業の整備主任者
- 車検の業務を担当する自動車検査員
自動車整備士は「業務独占資格」であり、有資格者でないと行えない業務を独占的に行うことができます。つまり、自動車整備士の資格を取得すれば、仕事の幅が大きく広がるのです。幅広い業務を担えるスペシャリストを目指して、資格取得を目標に経験を積むようにしましょう。
自動車整備士の資格を取得するには?
自動車整備士の資格を取得するには国土交通省が実施する国家試験の「自動車整備士技能検定」もしくは、日本自動車整備振興会連合会が行う民間試験の「自動車整備技能登録試験」に合格しなければなりません。
本来であれば、国家試験である自動車整備技能試験に合格しなければなりませんが、受験できる種目が限定されています。そのため、自動車整備技能登録試験に合格し、自動車整備士技能検定の免除申請をするのが一般的です。
ただし、どちらの試験を受験するにも、まずは受験資格を得なければなりません。
無資格者が目指すべきは3級自動車整備士
無資格者がまず取得すべきは自動車整備士の入門資格にあたる「3級自動車整備士」です。
3級自動車整備士は、
- 3級ガソリン・エンジン自動車整備士
- 3級ジーゼル・エンジン自動車整備士
- 3級二輪自動車整備士
- 3級自動車シャシ整備士
の4種類に分かれています。
取得すると上級整備士からの指示に従って各種オイル交換やタイヤ交換、点検などの基本的な整備を行なえるようになります。
ただし、自動車の走る・曲がる・止まるの保安基準に関わる重要な部位の分解整備ができないため、エンジンの分解修理や足回りの大掛かりな整備に関わるのは不可能です。
また、1級や2級の有資格者とは異なり、自動車整備主任者に選任される条件には当てはまりません。
3級自動車整備士資格を取得する2つの方法
3級自動車整備士資格をとるための試験を受けるには、受験資格を取得しなければなりません。
受験資格を得る方法は大きく2通りあります。
- 3級自動車整備士養成課程のある学校に通う
- 実務経験を積む
それぞれ詳しく解説していきます。
3級自動車整備士養成課程のある学校に通う
3級自動車整備士養成課程のある、専門学校や自動車科の高校に通い、卒業すれば、卒業と同時に受験資格を得られます。
自動車整備士の試験には学科試験と実技試験がありますが、国土交通大臣に指定された自動車整備士養成施設(一種養成施設)であれば、実技試験が免除されます。
なお、2級自動車整備士養成課程の専門学校に通った場合、卒業と同時に2級自動車整備士の受験資格を得られるので、3級を受験する必要はありません。
実務経験を積む
高校や大学の機械科、または電気・電子に関わる学科を卒業した方は6ヵ月以上、高校や大学の自動車や機械などに関する学科以外を卒業した方や中学卒業者は1年以上の実務経験を積めば、3級自動車整備士の受験資格を得られます。
また、働きながら国土交通大臣に指定された自動車整備士養成施設(二種養成施設)に通い、課程を修了すると実技試験の免除を受けられます。
3級を取得後は上級や専門資格を目指すのがおすすめ
3級は自動車整備士資格の中で最も初歩的な資格です。無資格者と比べると少し仕事の範囲が広がりますが、一人前というには知識も経験もほど遠いレベルです。
そのため、3級自動車整備士の資格を得た後は、上級資格である2級自動車整備士や、分野に特化したスペシャリストの資格である特殊整備士を目指すのがおすすめ。
特に、求人募集の際に優遇されるのは2級自動車整備士以上です。有資格者を必要としている企業は自動車整備工場だけでなく、ディーラー、カー用品店、レンタカーショップ、カーシェアリング会社など多くあります。2級以上を取得しておけば、正規雇用での就職を目指す際も給与・福利厚生・職場環境などで企業を比較検討でき、かなり有利に進められるでしょう。
2級自動車整備士
2級自動車整備士は自動車整備工場の中心となって働く存在です。3~1級まである自動車整備士の資格のなかでも、2級自動車整備士の取得者が最も多くなっています。自動車整備士として働くのであれば、2級を取得しておくのが一般的。
2級自動車整備士は4種類に分かれています。
- 2級ガソリン自動車整備士
- 2級ジーゼル自動車整備士
- 2級二輪自動車整備士
- 2級自動車シャシ整備士
取得すれば、取得したエンジンの種類の点検や修理、分解など、ほぼすべての自動車の整備業務に携わることが可能に。たとえば、自動車の部品劣化・故障の原因を点検し、必要に応じて修理や整備を行う作業や、エンジン・サスペンションといった、装置を分解して修理・点検を行う分解作業などが1人でできます。また、3級の整備士と協力してタイヤ交換やオイル交換などを行う場合もあります。
2級取得者は社内で選任され、研修を修了すれば「自動車整備主任者」になれます。さらに、自動車整備主任者を1年以上経験すると「自動車検査員」への道が開けます。
1級自動車整備士
1級自動車整備士は自動車整備士の資格の中でも、より高いレベルの知識と技能が必要です。1級自動車整備士は3つの種類に分かれています。
- 1級大型自動車整備士
- 1級小型自動車整備士
- 1級二輪自動車整備士
2024年現在は1級小型自動車整備士の資格試験のみ実施されています。1級大型自動車整備士、1級二輪自動車整備士に関しては試験自体が実施されていないので、実質2級大型自動車整備士、2級二輪自動車整備士が最上位資格となっているのが現状です。
1級自動車整備士は整備箇所に関わらず自動車に関するすべての整備・分解業務を行うことができます。ガソリン車やジーゼル車、ハイブリット、電気、水素などエンジンの種別やシャシなど、どの部分を整備・分解するかは関係ありません。
また、1級取得者は社内で選任され、研修を修了すれば「自動車整備主任者」になれます。自動車整備主任者を半年以上経験すると「自動車検査員」への道が開けます。
さらに、二輪を除く1級自動車整備士であれば講習や試問を受けることなく「電子制御装置整備の整備主任者」に選任可能です。
1級と2級自動車整備士の業務内容はほとんど同じですが、1級を取得すれば責任あるポジションに2級よりもスムーズに就ける可能性が高くなります。
特殊整備士
特殊整備士は自動車整備全般ではなく、その分野に特化したスペシャリストの資格です。自動車整備士として働くために必須の資格ではありません。
特殊整備士の資格は3種類あり、各試験に合格することで資格を得られます。
- 自動車電気装置整備士:自動車の電気装置に関する専門家。自動車のスタートシステム、充電システム、点火システム、照明システム、その他の電気装置やセンサーの診断、修理、メンテナンスを行います。
- 自動車車体整備士:自動車の車体(ボディ)やフレームの修理や点検を専門とする技術者。凹みの修正、塗装の剥がれやキズの修理、部品の交換や溶接作業などを行います。
- 自動車タイヤ整備士:タイヤ交換、空気圧の調整、バランス調整、タイヤの摩耗状態の検査や交換、お客様のニーズに合わせたタイヤ選びやメンテナンスアドバイスなどを行う専門家。
特殊整備士の資格は、自動車整備士資格を取得したり、経験を積んだりしたうえで取得すべき資格です。自動車整備士の資格なしで活用するのは現実的ではないでしょう。
なお、2000年を最後に自動車タイヤ整備士の資格試験は行われておらず、試験再開の目処も立っていません。
電気自動車・ハイブリッド車の整備に資格は必要?
電気自動車(EV)、燃料電池自動車(FCV)、ハイブリッド自動車(HEV)などの対地電圧が50Vを超える蓄電池を内蔵する自動車の整備業務をするために、自動車整備士に加えて必要な資格はありません。
しかし「電気自動車の整備の業務等に係る特別教育」を受講し、下記の内容を学ぶことが義務づけられています。
- 低圧の電気に関する基礎知識
- 低圧の電気装置に関する基礎知識
- 低圧用の安全作業用具に関する基礎知識
- 電気自動車等の整備作業の方法
- 関係法令
- 電気自動車等の整備作業の方法(実技)
なお、⾃動⾞整備士技能検定に合格したなかで、業務に必要な教育、または研修の受講歴等から低圧の電気の危険性に関する基礎知識を有していると認められる方は「低圧の電気に関する基礎知識」の科目の受講が免除されます。
自動車整備士は今後も高い需要が見込まれる
自動運転技術が搭載された自動車の開発・販売、ハイブリッド車や電気自動車など環境に優しい自動車の普及など、自動車技術の高度化が進んでいます。
2020年には、日本政府より2050年までにカーボンニュートラルを目指す宣言が発表されました。カーボンニュートラルとは、温室効果ガスの排出量を実質的にゼロにする、脱炭素社会を目指す取り組みのことです。
この宣言にともない、自動車産業においても大きな変革期を迎え、環境に配慮した自動車の開発が加速化しています。
自動車に関する優れた知識とスキルを持つ自動車整備士は、自動車産業にとって不可欠な存在です。将来的な雇用に関しても高い需要が見込まれ、求人も多く将来性のある仕事といえるでしょう。
まとめ
ハイブリッド車や電気自動車などの新しい技術の自動車が続々と登場しており、自動車業界は目まぐるしく変化しています。しかし、どれだけ自動車の性能や技術が進歩しても自動車そのものがなくならない限り、自動車整備士の仕事もなくなることはないでしょう。むしろ、自動車技術が進歩するにつれ、自動車の点検や整備はますます重要視されるため、自動車整備士はいなくてはならない存在。
時代の変化に合わせて知識や技術のアップデートは必須ですが、自動車整備士は国家資格であり、一度取得すれば一生ものといえる資格です。