(取材)時代がコーチングを求めている|自分の可能性を発見しよう

コーチ 袖川航平氏

コーチングとは、人の主体性や可能性を引き出し、目標達成を支援するコミュニケーションスキル。価値観が多様化し、先を見通すことの難しい今の時代、仕事や人生をよりよくするための手段として注目を集めています。

その一方で、どんな風に役立つのか、どう学べば効果的なのかが具体的につかめず、一歩を踏み出せない人も少なくないようです。

そこで今回は、若くして国際コーチング連盟(ICF) の資格を取得し、プロコーチとして活躍されている袖川航平氏をお招きし、コーチングを学ぶメリットやスクールの選び方などについてお聞きしました。

聞き上手からプロコーチへ

コエテコカレッジ編集部(以下、編集部) コーチングを学ぼうと思われたきっかけを教えてください。

袖川航平(敬称略 以下、袖川) コーチングに興味をもったのは、人の話を聞くことが好きだったからです。というのも、自分の話ばかりして相手の話を聞かなかったり、「人」ではなく「事柄」に焦点を当てて話をしたりする人が多いせいか、物心ついた頃から会話に満足感を覚えたことがなかったんですね。それで自然と聞き役に回るようになったのですが、「そのときどう思ったの?」と問いかけたり、「そうなんだ」と共感を示したりして、相手に焦点を当てて話を聞いていると、 みんなから感謝され、相談を受けることが増えていきました。そうするうちに、聞くことで人に癒しやポジティブな感情を与えられることに気づき、これを極めたいと思うようになったんです。

そんなとき、ある大学院生が路上で通りすがりの人々の愚痴を無料で聞く「愚痴屋」なる活動をしていることを知り、自分も大学時代に愚痴屋を始めてみました。この活動がきっかけとなり、知り合いの方が「そんなに人の話を聞くのが好きなら興味があるかもしれないよ」と教えてくれたのがコーチングです。早速、書籍などで調べ、所属していた学生団体で実践してみると、人の本質的な変化に携われることが興味深く、コーチングスクールに通って専門的に学ぼうと考えました。

編集部 大学時代にスクールに通い始めたのですか?

袖川 当時は学費の高いスクールが多かったので、通い始めたのは社会人になってからです。外資系コンサルで働きながら、アメリカの CTI(Co-Active Training Institute)からライセンスを受けたCTIジャパンで学びました。国際コーチング連盟(ICF)に世界で初めて認定されたプログラムを提供している由緒あるコーチ養成機関なのですが、当時はそんなことは知らず、尊敬している先輩が学ばれていたのと、就活中にお会いした人事の方に勧められたことから、ここを選びました。

CTIジャパンのプログラムを修了し、CTIの認定資格であるプロフェッショナル・コーアクティブ・コーチ(CPCC®)を取得した後、コーチング実績を積み、コーチ専業でやっていこうと独立を決意。退職後、ICFの認定資格(※)であるアソシエイト認定コーチ(ACC)と、その上位のプロフェッショナル認定コーチ(PCC) を取得しました。

(※)国際コーチング連盟(ICF)が認定するプロコーチ資格で、国際基準を満たした経験豊富なコーチであることを証明するもの。アソシエイト認定コーチ(ACC)、プロフェショナル認定コーチ(PCC) 、マスター認定コーチ(MCC)の3種類があり、MCCが最上位資格。求められるコーチング実績は、ACC100時間、PCC500時間、MCC2500時間となっている。

編集部 コーチングをするのに資格は必須ではないですよね。それにもかかわらず、国際的な資格まで取得されたのはなぜですか?

袖川 今はスクールの数が増え、スクールごとの認定資格も増えているので、今後、コーチの顧客獲得競争はさらに激しくなると予想されます。また、私は20代と若いこともあり、「もっと人生経験豊富な人に頼みたい」とクライアント(コーチングを受ける人)から選ばれないことも多々ありました。そのため、国際的な資格を取得して自分の能力や実績を証明し、クライアントにアピールしようと考えたんです。

実際、国際資格をもっていることが決め手となってクライアントから依頼を受けたり、企業の社外コーチとして契約できたりしたので、プロコーチを目指すのであれば取得しておいて損はないと思います。

「教える」のではなく「問いかける」

編集部 コーチングの概念や役割について教えてください。

袖川 一言でいうと、コーチングは相手の目標達成を支援するコミュニケーションスキルです。ティーチングと比較するとわかりやすいのですが、ティーチングは教えることで知識やスキルの定着化を図るのに対し、コーチングは問いかけることで相手の思考を整理したり、新しい視点を与えたり、目標を明確化して達成のための行動を促したりします。「答えはクライアントの中にある」 というのがコーチングの大原則なので、コーチは何かを教えたり、フィードバックしたりすることはありません。

編集部 どんな風に実践するのですか?

袖川 クライアントに毎回、話したいテーマを用意してもらい、それに対してコーチが問いかけをするという形で、1対1で話をします。例えば「仕事で成果をあげたい」というテーマであれば、「あなたは成果をあげることにどんな意味があると考えていますか?」「成果をあげた先に何を求めていますか?」といった問いかけをして、成果をあげるためのモチベーションがどこにあるのか、成果をあげることがその人にどんな価値をもたらすのか、ということを探っていきます。

クライアントはコーチの質問に答えていく中で、「自分にとって成果をあげることにはこんな価値があるんだな」「その価値観に沿った行動ができていないからもやもやしているんだな」という気づきを得ます。そうしたら、コーチは「今できていないことは何でしょうか?」「何からやっていきますか?」などと問いかけ、クライアントが自発的に改善に向けたアクションを実行できるように働きかけていきます。次回からのセッションでは、前回に決めたアクションの結果を踏まえ、新たなテーマを設定して話をすることで、目標達成までサポートを続けます。

コーチによって異なりますが、約1カ月に1回のペースで1時間程度のセッションを行うのが一般的です。

編集部 年齢や立場の異なるクライアント一人ひとりに対応するためには、かなり実践経験が求められそうですね。

袖川 おっしゃる通り、これを聞いたら次はこれを聞く、こういう答えが返ってきたらこう対応する、といったパターンは通用しません。スクールで基本のフォームは学びますが、それはあくまでもコーチングを理解するためのもの。クライアントの反応や状況を見極めて対応するための勘は、実践を重ねて磨いていく必要があります。

とはいえ、スクールを卒業するとコーチングを実践的に学べる機会はほとんどありません。そこで、私は「コーチング道場」というコーチを対象とした育成の場を主宰しています。参加者が行ったセッションの動画を送ってもらい、私がそれを見てフィードバックをするというもので、コーチの成長やセッションの質の向上につなげてもらいたいと考えています。

コーチングが自分と深く向き合うきっかけに

編集部 コーチングを学び、実践することによって、どんな効果やメリットが得られますか?

袖川 コーチがクライアントに向き合う際に求められるスタンスの中でも、特に大事なのは「人はもともと創造力と才知に溢れ、欠けるところのない存在である」と思って接することです。コーチはクライアントの発言に対して、「それは違いますよね」「その考え方はおかしい」といった評価は一切口にしません。この姿勢は、どんな人とのかかわりの中でも必ず活きてくると思います。実際、コーチングを学んだことで人間関係が円滑になり、1on1ミーティングなどのマネジメントもうまくいくようになった、という話はよく聞きます。

また、私も実感したのですが、クライアントが自分の人生に向き合い、前に進もうとする姿を見ていると、コーチである自分もポジティブに人生に向き合えるようになります。「あなたは人生をどう生きたいですか?」とクライアントに問いかけたり、学習の一環として自分がコーチングを受けたりしていると、必然的に自分と深く向き合う機会が増え、人生を豊かにしていこうと思うようになるんです。それに魅力を感じて、コーチングを学ぶだけのつもりだったのにコーチになってしまった、という方も結構いますよ。 

編集部 自らクライアントとしてコーチングを受けることも学びの一つなんですね。

袖川 よいコーチングを提供するためには、よいコーチングを知ることも大事です。熟練コーチのコーチングを受けると、自分の問いかけや間の取り方との違いや差に気づくことができるので、本当に勉強になります。

編集部 どんな方がコーチングを学び、どう役立てられているのでしょうか?  

袖川 プロコーチを目指すというよりは、仕事に活かすことを目的にコーチングを学び始める方が多い印象です。例えば、求職者と話をする機会の多いキャリアカウンセラーの方、部下の育成やマネジメントなどを担う企業の管理職の方、顧客とコミュニケーションをとるサービス業の方などが、相手の話を引き出したい、本音を聞きたい、というところからコーチングを学び、役立てていらっしゃいます。

コーチとして活動している方の中では、コーチを副業としているか、コーチが本業でも生活費を稼ぐための副業をしているケースが多いです。専業でコーチをしている方は限られていますね。

学びの質の高いスクール選びを

編集部 プロコーチを目指すのでない場合、「コーチングを学んでみたいけれど、スクールに通うのはハードルが高い」と感じる方も少なくないようです。独学は可能でしょうか?

袖川 スクールに通う費用は気になるところで、私も最初は独学でコーチングを身につけようとしましたが、難しかったです。というのも、コーチングではインプットしてアウトプットする、理論の体得と実践のバランスが大事だからです。独学の場合は自分で実践の相手を探したり、場を作ったりする必要がありますが、スクールでは向こうが用意してくれるので、より効率よく効果的に学べると思います。

編集部 なるほど。やはりスクールに通うのが近道なんですね。

袖川 私は学費に140万円ほどかかりましたが、最近はいろいろな価格帯のスクールがあるので、学びやすくなっていると思います。基礎コース、応用コース、プロコースというように講座を段階ごとに分けているスクールも増え、基礎コースだけ学ぶといったことも可能になっています。

ただ、選択肢が増えたのはよいことなのですが、中には経験の浅いコーチが教えているスクールもあり、学びの質の面でばらつきが生まれているとも感じます。

編集部 質の高いスクールを選ぶには、どんな点に着目したらよいでしょうか?

袖川 そのスクールの出身コーチがどんな風に活動しているかが重要な判断ポイントだと思います。コーチとして活躍していたり、コーチングを仕事に活かしていたりする方がいれば信頼感が増しますが、卒業生が何をやっているかわからないようであれば、そのスクールの質を疑ってもいいかもしれません。

また、実際にスクールの出身コーチのコーチングを受けてみるのも一つの手です。初回は無料で体験コーチングを行っているコーチもいますから。

あとは、ホームページだけでなく、いろいろな情報源から情報を収集するといいですね。 スクールの代表が運用するSNSからもスクールの特徴や価値観がうかがえますし、実際にスクールに問い合わせてみたり、スクールの無料体験講座に参加してみるのもよいと思います。

編集部 初心者が仕事やセルフコントロールに活かせる程度にコーチングを身につけるには、どれくらいの期間が必要ですか?

袖川 環境や個人によって違いはあるでしょうが、コーチングをスキルとして活かすには、最低でも半年ほどの学習期間が必要になると思います。スキルを身につければよいというわけではなく、人と向き合う姿勢から自分を見つめ直す必要があるため、それなりの時間を要します。

編集部 最後に、これからコーチングを学ぶ方へのメッセージをお願いします。

袖川 プロコーチにならなくても、コーチングを学ぶことにはメリットがたくさんあります。自分と深く向き合えるようになるだけでなく、人に満足度の高い会話を提供できるようになるので、活かせる場面は多いと思います。興味をもたれた方はぜひ一歩踏み出して、コーチングの世界を味わっていただればと思います。

とはいえ、新しいコーチが生まれて新陳代謝が働かないと、業界は先細りになってしまいます。私たち先輩コーチが後押しできる環境を整えていきますので、コーチにもどんどんチャレンジしてほしいですね。お待ちしています!

袖川航平(そでかわ こうへい

新卒で大手外資系コンサル会社のアクセンチュアに入社。テクノロジーコンサルとして大手企業のDX支援に2年間従事し、その傍らでパーソナルコーチとしても活動。経営者から大学生に至るまで幅広いクライアントを担当している。主なコーチングのテーマはキャリア、ビジョン構築、パフォーマンスの向上。現在まで550時間以上の有料セッションを提供済み。

2020年に米国CTI認定CPCC、2021年に国内最年少(26歳)で国際コーチング連盟(ICF)のPCCを取得。社外コーチ、コーチングの事業開発メンバーとしても活動中。メンターとしても40人近くの支援実績がある。

将来の夢は「コーチングの財団をつくる」こと。

Twitter:@sodekooo

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