技術革新や労働市場の急速な変化により、新しい職業やスキルが必要とされる一方で、従来の職種が変化したり人員が削減されたりする現象が起こっています。また、生活のスタイルも平均寿命の延びにより「人生100年時代」と呼ばれるようになり、インフレや年金の目減りもあって労働者はより長い期間働くことが求められるようになりました。
そのような時代背景のもとでは、新しい知識やスキルの習得・適切なキャリアパスを見つけて長期的に働き続けるための支援を求める人が増えています。
こうした支援を行うのが「キャリアコンサルタント」であり、今後その重要度は増していくでしょう。
今回は、特定非営利活動法人 キャリアコンサルティング協議会より、資格管理部長 前田 具美氏、事業部事業課 課長補佐 小川原 智子氏にご協力いただき、キャリアコンサルタントについて実際に活動されている方々の事例と共に、資格の概要や今後の展望、さらには、キャリアコンサルタント資格取得後のスキルアップとしてのキャリアコンサルティング技能検定についてまとめました。
キャリア形成を支援するキャリアコンサルティング協議会
国家資格「キャリアコンサルタント」は、厚生労働大臣の登録を受けた特定非営利活動法人 キャリアコンサルティング協議会(以下、キャリアコンサルティング協議会又は協議会)が試験の実施を行い(他に日本キャリア開発協会でも試験を実施)、試験合格後の登録指定機関となっています。
キャリアコンサルティング協議会は、キャリアコンサルタントの質の向上と普及を目指し、資格認定の他にも国家検定「キャリアコンサルティング技能検定」の実施、教育研修、社会的役割の推進など、多岐にわたる活動を展開しています。
「キャリアコンサルタントという資格が民間資格として創設されたのが、約20年ほど前になります。民間資格の立ち上げの頃から養成講習と試験を行なっている団体が一丸となって集まり、推進していこうと発足したのがキャリアコンサルティング協議会です。
- キャリアコンサルタント養成講習や更新講習を実施する団体
- キャリアコンサルティングの実践・研究等に関わる団体
これらの団体がキャリアコンサルティング協議会の会員となっており、相互に協力してキャリアコンサルタントの資質の確保とキャリアコンサルティングの普及啓発活動を行なっています。
こうした活動を通じて、キャリアコンサルタントの専門家としての成長と、個人の主体的なキャリア形成の促進及び職業生活の充実、組織(企業、団体等)の運営に貢献し、キャリアコンサルティングを社会インフラとすることを目指しています」(前田氏)
国家資格「キャリアコンサルタント」とは
民間資格から国家資格へ、活躍の場を広げるキャリアコンサルタント
キャリアコンサルタントとは、キャリアコンサルティング協議会のホームページでこのように書かれています。
キャリアコンサルタントは、「キャリアコンサルティングを行う専門家」です。
よりよい働き方、よりよい人生、よりよい社会を実現するために、人間の生き方を「仕事に対する意欲や課題」「これまでの経験」「将来への展望」といった「キャリア」の視点から捉えるキャリアコンサルタントは、社会のさまざまな場所で活躍しています。
キャリアコンサルティング協議会公式サイトより
「キャリアコンサルタントは、もともと民間の団体が行なっていた能力評価試験でした。標準レベルキャリア・コンサルタントと呼ばれる資格でしたが、2016年に法改正があり、キャリアコンサルタントが国家資格になりました。
この法改正の背景には、キャリア支援について社会の期待の高まりがあります。
少子高齢化や働き方の多様化、セカンドキャリアを見据えたキャリア形成の必要性などの社会的な課題の解決のために、個人がキャリアについて真剣に考え、今後の方向性などを相談し、助言指導できる資格を国家資格として整備することが目的です。
年々キャリア形成やキャリアコンサルティングに関する関心が高まっておりますので、キャリアコンサルタント資格を取得しようという方が増えていますし、企業でもキャリアコンサルタントの採用や企業内での資格取得者を活用したり、キャリアコンサルティング制度を導入するケースが増えていると聞いています。
また、大学のキャリアセンターや人材派遣・人材育成会社等でもキャリアコンサルタントとして活躍している人が増えています」(前田氏)
キャリアコンサルタントが担う重要な役割とは
キャリアコンサルタントは、キャリア形成支援のプロフェッショナルとして、働く人がその人らしくいきいきと働けるように支援を行います。
「”キャリアコンサルタント”というものに対して、『相談したらなんでも答えてもらえる』『具体的なアドバイスをもらえる』というイメージをお持ちの方が多いのではないでしょうか。
基本は、相談しながら一緒に答えを見つける、どういう方向にいったら良いか一緒に考えることがベースになりますので、まずは相談者の話をよく聞き、一緒に目標を見つけ、ゴールに向けて伴走することが主な役割です。
就職したがこんなはずじゃなかった、ということにならないよう、例えば仕事の向き不向きだけではなくて相談者が本当に望むことは何かを相談者と一緒に探り、専門的な知識や援助が必要な場合は、しかるべき機関に繋ぐこともあります。
こうした相談業務に加え、会社や組織の働きやすい環境を整える支援やセミナーの実施、他の専門機関との連携も行いながら、人材開発や人材育成等の役割も担います。
また、労働環境の変化に対応するために、キャリアコンサルタントは実務経験を積みながら資格保持のために更新講習を受けて自己研鑽を重ね、指導者レベルのキャリアコンサルタントからの事例指導を受けてスキルアップに努めています。
相談の対象者は若者からシニアまで、健康な人だけでなく病気や障害を抱える方や育児や介護と仕事の両立を目指す方など多岐にわたり、『働く』『生きる』にまつわる広範囲な支援を行います。
活動の場も会社や組織内、就職・転職市場、人材派遣会社、教育機関だけでなく、医療・福祉の現場などへも広がっており、社会インフラを支える縁の下の力持ちとして重要な役割を果たしています。
相談方法は、対面での相談だけでなく、コロナ禍以降はLINE相談等のSNSを利用した相談やオンライン相談、一対一だけでなくグループワークなど、ますます多彩になっています」(前田氏)
キャリアコンサルタント登録者の背景や活動状況、登録者の声
実際にキャリアコンサルタントとして登録されている方の背景と、その活動について、独立行政法人 労働政策研究 ・ 研修機構が大規模な調査を行なっています。
「2023年6月に『第2回キャリアコンサルタント登録者の活動状況等に関する調査』が行われました。
この調査によると、キャリアコンサルタントとして登録している方は30~40代が大きく減少し、50代がピークとなり、60代以上が増加するなど、高齢化の傾向が顕著という結果ですが、全キャリアコンサルタント登録者の属性をみると、最近では20代、30代の方も増えています。
男女比は女性が6割、男性が4割という傾向は継続しており、性別・年齢は「50代女性」「40代女性」「50代男性」「60代男性」の順に多く、この性別・年齢で7割を占めます。
キャリアコンサルタント登録の目的(資格取得の目的)として特徴的なのが、
- 40代では『勤務先からの指示や勧めがあったため』『社内での地位向上、昇進のため』が多い
- 50代では仕事上必要や専門性を高めるため、将来に備えるため、この分野に興味があったためなど、複数回答でどの回答も40%以上
- 60代では『定年後経験を活かして社会貢献するため』が多い
このような結果でした」(前田氏)
この他、主な活動の場として、需給調整機関領域での活動は、2006年では約5割でしたが現在は約2割と減少しており、一方で企業領域での活動は2006年では2割強でしたが現在は約4割と増加しています。
学校領域、地域・福祉領域、その他は微増でしたが、概して2006年から2022年に至る16年間で需給調整機関から企業への転換が顕著という結果でした。
また、この調査とは別に、キャリアコンサルタントとして活動されている方の声として、
- 情報サービス会社で管理職をしているが、キャリアコンサルティングの勉強をしたことで色々な視点からメンバーのことを受け止めたり、向き合う余裕が出てきた
- 派遣社員等への相談業務をしていたが、資格を取得して希望していた就労支援(ハローワーク)の仕事に就く事ができた。職場では「相談してよかった」と言われるようになり、資格取得前より数段知識・技能が上がったと確信している
このような声もあり、資格取得される方自身のキャリアアップやスキルアップに繋がっているようです。
さらに活躍の場を広げるキャリアコンサルタントの活動事例
前述のように、キャリアコンサルタントの活動領域は、企業内や需給調整機関、教育機関といったところが主ですが、地域や地方自治体と連携して活動しているケースもあります。キャリアコンサルタントが行政に関連する場で活躍する具体的な活動事例を、キャリアコンサルティング協議会の小川原氏に伺いました。
「一般財団法人 ACCN※が主体となって行政におけるキャリア支援を行っている事例があります。(※オールキャリアコンサルタントネットワーク:国家資格キャリアコンサルタントで組織されている職能団体)
例えば、岡山県倉敷市では【倉敷市キャリア教育推進事業】として、市内の中学校にてACCN会員キャリアコンサルタントがキャリアに関する出張授業(マナーや職業選択について)を実施しています。
また、東京都八王子市で行われているてくポ(アプリを利用して健康を促進し地域を活性化するためのサービス、60歳以上の市民の方に提供)においては、ACCN会員キャリアコンサルタントがてくポ内で試験的に実施された就労・ボランティアを希望する方のためのキャリア相談を実施しました。
この他、愛知県名古屋市ではACCNの活動とは別に地元の団体がキャリア教育の推進を目的にキャリアコンサルタントを「キャリアナビゲーター」として、全ての市立中学校、高等学校及び特別支援学校に常勤で配置し、企業・大学等とも連携してキャリア形成支援に係る取り組みを進めている例もあります」(小川原氏)
キャリアコンサルタントを目指す方へ:試験の概要
キャリアコンサルタント試験は年3回行われ、受験するには以下のいずれかの要件を満たす必要があります。実務経験は必須ではなく、養成講習終了で受験可能です。
【受験要件】
- 厚生労働大臣が認定する講習の課程を修了した方(※講習について詳しくはこちらのページのSTEP2「養成講習」を開講している団体の項をご確認ください。合わせてキャリアコンサルタント講習検索サイトもご確認ください。)
- 労働者の職業の選択、職業生活設計又は職業能力開発及び向上のいずれかに関する相談に関し3年以上の 経験 を有する方
- 技能検定キャリアコンサルティング職種の学科試験又は実技試験に合格した方(※技能検定の学科試験又は実技試験のどちらかに合格した方は、合格している試験の免除を受けることができます。)
【学科試験】
- 出題形式:四肢択一のマークシート
- 問題数:50問
- 試験時間:100分
- 合格基準:100点満点(2点×50問)で70点以上の得点
- 受験料:8,900円
【実技試験】
- 論述:記述式解答(事例記録を読み、設問に解答する)
試験時間:50分
- 面接:受験者がキャリアコンサルタント役となり、キャリアコンサルティングを行うロールプレイと自らのキャリアコンサルティングについて試験官からの質問に答える口頭試問
試験時間:20分(ロールプレイ15分、口頭試問5分)
- 合格基準:150点満点で90点以上の得点*但し、論述は配点の40%以上の得点、かつ面接は評価区分「態度」「展開」「自己評価」ごとに満点の40%以上の得点が必要
- 受験料:29,900円
国家資格キャリアコンサルタントは、キャリアコンサルティング能力のレベル感としては、入口レベル(典型的な場面で、安心してキャリアコンサルティングを実施できるレベル)です。
養成講習は、厚生労働省の教育訓練給付金の専門実践教育訓練給付金の受給対象となる場合があります。養成講習が専門実践訓練給付金の対象講習になっているかどうかを必ずご確認ください。
また、資格取得による追加給付の手続きにはキャリアコンサルタントの登録が必要ですので、居住地のハローワークにご確認ください。
試験についてさらに詳しく知りたい方は、こちらをご覧ください。
国家検定キャリアコンサルティング技能検定とは
キャリアコンサルティング技能士の位置付け
キャリアコンサルタント試験とは別に、キャリアコンサルティング技能検定があります。
この技能検定は、キャリアコンサルティングの知識と技能を図る国家検定です。試験は、学科試験と実技(論述及び面接)試験で行われ、両方の試験に合格すると試験等級に応じて『◯級キャリアコンサルティング技能士』の称号が与えられます。技能士の資格に有効期限はありません。
「実は、キャリアコンサルティング技能検定の方が国家資格キャリアコンサルタント試験より早く、2008年にまず2級の技能検定が実施されました。
当時から民間団体の『標準レベルキャリア・コンサルタント』と呼ばれる資格がありましたが、国が認める資格として仕組み化できないかという動きがあり、厚生労働省の技能検定制度の1つとしてキャリアコンサルティング技能検定を実施することになりました。
キャリアコンサルタントもキャリアコンサルティング技能士も、仕事内容と求められる役割は同じですが、レベル感が異なります。
レベル感として、キャリアコンサルタントはまずキャリアコンサルタントと名乗れる入口レベル、2級キャリアコンサルティング技能士はさらに上位で安定的にキャリアコンサルティングができる、1級キャリアコンサルティング技能士は優れたキャリアコンサルティングができ、指導者としての適格性を持つ最上位のレベルとなります」前田氏
キャリアコンサルティング技能士について、詳しくはこちらを参照してください。
技能士の活動の場
キャリアコンサルティング技能士の方はどのような場でご活躍されているのでしょうか。前田氏に伺ってみました。
「先程の『第2回キャリアコンサルタント登録者の活動状況等に関する調査』では、キャリアコンサルタント資格に加え、2級、1級技能士の資格を持っている方は活動頻度が高く、約6割の方がキャリアコンサルティングに関連する活動で生計を立てているという結果でした。
さらに、主な活動の場をみると、キャリアコンサルタント全体では企業内、つまり兼業の方が多いのですが、1級は企業外(契約企業の人材育成、キャリア支援、教育研修等)、2級は公共の需給調整機関(ハローワーク等)となっており、専門性を持って活動されているという印象です」(前田氏)
キャリアコンサルタントとしてさらに上位を目指す方へ:キャリアコンサルティング技能検定の概要
キャリアコンサルティング技能検定の受験資格は、以下の通りです。複数の資格に該当する場合は、いずれか一つを満たせば受検できます。
試験の概要は、以下の通りです。
さらに詳しく知りたい方は、こちらをご確認ください。
期待されるキャリア支援の多様化にも対応できる力を
キャリアコンサルタントを目指す人が増える一方で、求められるキャリア支援も多様化していることが、今後の課題になっています。
「近年、自分の経験を活かして資格を取りたい、セカンドキャリアとして将来に備えて資格取得を目指したいという方が増えており、キャリアコンサルタント試験の受験者数も増加しています。
ただ今後の課題としては、資格を取得するのみではなく、実際にキャリアコンサルタントとして活動していく人を増やしていくということがあります。
まだまだキャリアコンサルタントは社会的な認知度が高くない、具体的にどのような活動をしているのかあまり知られていないのが現状です。
キャリアコンサルタントというと、仕事を探す際に『あなたに合う仕事はこれです』とアドバイスをくれる人、というような狭いイメージをお持ちの方も多いのではないでしょうか。
キャリアコンサルタントは就労の相談業務がメインではありますが、『働くこと』と『どう生きたら良いか』に関わることも求められ、最近はリスキリング等で能力開発に関する知識等も必要になっています。
働き方の多様化に伴いキャリアコンサルタントに求められる能力も多様化しているため、こうした流れに対しても期待に応えられるような力をつけることも課題であると感じています」(前田氏)
このような課題を解消するため、協議会では普及のための啓蒙活動や研修等に力を注いでいます。
また、厚生労働省でも委託事業としてキャリアコンサルタントに対し、IT分野、グリーン分野、外国人支援等、専門性を高める研修コースを行っています。
参照:令和6年度 厚生労働省委託事業|中長期的なキャリア形成を支援するためのキャリアコンサルタント向け研修
キャリアを勉強すること自体が自分自身の勉強に
最後に、これから学び直したい、スキルアップや転職などを目指したいと考えている読者の方々に向けて、メッセージをいただきました。
「キャリアについて勉強すること自体が、自分自身の勉強にもなったという声を多くいただいておりますので、キャリアコンサルティングの学習は改めてご自身の仕事や人生を振り返るきっかけになります。
また養成講習を受講し、同じ志の仲間と切磋琢磨することで、お互いの能力を高め合うこともできるでしょう。
ただ、資格を取っただけでは、『相談者の人生に関わる相談に乗る』仕事は簡単にできることではありません。そこから更に自己研鑽を積まないと、実現できないこともあります。
キャリアコンサルタントを目指したい方は、なぜ資格を取りたいのか、資格取得後に自分が何を成したいのかをふまえて将来のビジョンやご自身のキャリアを考え、一歩踏み出していただけたらと思います」(前田氏)
まとめ
キャリア支援の重要性は、リカレント教育や就労支援等を通して浸透しつつありますが、キャリアコンサルタントという資格・仕事に関しては、まだあまり知らないという方も多いのではないでしょうか。
たった数年で働く人を取り巻く環境が大きく変わるような今の時代だからこそ、キャリアコンサルタントの活躍の場は今後更に広がっていくことが予想されます。
ご自身のキャリアを真剣に考えたい方、キャリアコンサルタントにご興味のある方は、この記事を参考に資格取得を検討してみましょう。