料理家 内田恵美氏
近年コロナ禍もあり、体験型レッスンをオンライン化される講師の方が増えています。
料理家の内田恵美氏は12年間料理教室を開催し、オンライン化はコロナ前の2年半前からおこなっておられたとのこと。さらに最近は、活動の場をビジネスコンサルティングや事業の法人化へと大きく広げています。
どのような手法でオンライン化から事業を拡大されていったのか、詳しくお話ししていただきました。
料理家になったきっかけ
コエテコカレッジ編集部(以下、編集部) 料理家になられた経緯について教えてください。
内田恵美(敬称略 以下、内田) はじめはママ友たちとランチに行って「今日の晩ご飯何にする?」みたいな話から、みんな夕ご飯作るのに悩んでいたので相談にのっていたんです。そこで冷蔵庫の中にある食材で「この料理はこうやると簡単にできるよ」と話すと驚かれて「あなたの料理の作り方変わってるね。そんなに簡単に作れるの知らなかった。」って。
また、以前お店があんまりないような田舎に住んでいたことがあったので、美味しいものを食べるのが好きな私は「お店がないなら作っちゃえ!」と、パスタマシンを買って家で生パスタを作っていたんですよね。ランチで生パスタを食べている時にその話をしたらママ友が「作ってみたい!」と言ったので、うちで作ることになりました。
その後、ママ友たちにあっという間に生パスタの話が広がり、学校に行ったら「内田さんですか?私も生パスタ作りたいんですけど…。」って話しかけられるようになってしまって。そういう要望に答えていたらだんだん忙しくなったんです。そこでママ友に「そんなに忙しいなら、それ仕事になるんじゃない?」と言われて、それまで材料費だけだったのが仕事としてお金をもらって料理教室をはじめるきっかけになりました。
編集部 そのような経緯で起業されたんですね。
内田 当時はそんな起業なんていう感じではなかったんです。でも、料理教室って開くのに資格がいらないんですよね。始めるにあたってそれは大きかったです。
最初は、レッスン料をいくらにするとか、集客するとか告知するとか、そういうことは一切考えられず、ただ赤字にならないように…仕事としてやるならとりあえず開業届を出して扶養の範囲内でやる、というのが始まりでした。これが、もう11〜12年前になります。
はじめは赤字だった料理教室をオンラインレッスンに
編集部 最初は料理教室を対面で開催されていたと思いますが、その時はどのように集客されていたのでしょうか?
内田 最初は口コミと、料理教室の検索サイトに登録していました。あとはブログからの集客です。はじめの頃は、自分のアイデアだけで運営していたんですよね。それでもそれなりにいい時もあるし、お小遣い程度に稼げていれば満足でした。
ただ、息子の大学進学をきっかけに家計を見直すことになったんですよ。そこでファイナンシャルプランナーさんにみていただいたら、私の教室が赤字になっていたことに気がついたんです。
これはきちんと黒字になる経営をしなければ!と一念発起しました。ちゃんとビジネスの経験がある人から教えてもらおうと、元お料理教室の先生で、現在は女性起業家向けの起業塾を開催してる方のブログを見つけ、その起業塾に入ってビジネスの基礎をいろいろと学びました。そして自分の料理教室をいろんな人に知らせたいと思った時に、他の人との差別化をどうしようと悩んだんですよ。
その時に別のメンターの方から「他の人は誰も生ハムレッスンをしてないから、生ハムレッスンをやったら?」とアドバイスをもらったんです。
同時にそのメンターの方に、「私も生ハムレッスン受けたいからオンラインでやって」と言われて、起業塾仲間や(遠方に住んでいる)、以前住んでいた場所のお友達にオンライン生ハムレッスンを始めたのが2年半前です。
体験型の教理レッスンをオンライン化したときの工夫とは
編集部 体験型である料理レッスンをオンライン化するにあたって、何か工夫されたことやご苦労されたことはありましたか?
内田 オンラインレッスンでは先生が作った料理を試食できないので、仕上がりの確認ができないんですよね。自分で食べて確認するしかないんです。また、材料のお肉が手に入らないっていう問題もあって。そういう問題は1つずつクリアしていきました。
生ハムレッスンは材料がそんなにたくさんいらないんです。ただ豚肉のブロック肉が近くのスーパーで手に入らない、という声もあったので「こういうお肉を売っているところを探してください」と教えたり、お肉屋さんに頼んで地方発送をしてもらったり、そういう工夫をしました。
また、試食ができない件については、それは弱みではなく逆に強みなんです。実は最初から最後まで自分で作るタイプの料理教室って、ないんですよ。
たいていの料理教室は、材料が用意され計量してあったり、何人かの班で順番に作業をしたり、先生が一部の作業をやって見せたり。そうなると、一部しか作らないから全体像が見えないんです。また、レシピはもらえるので手元に残りますが、手が汚れていてメモが取れないと忘れてしまいます。さらにレシピをなくしてしまったら2度と作れません。
そしていざ出来上がりを食べようとなった時に、対面レッスンの場合は先生が作ったものを試食するような感じになるんですよ。それって美味しいの当たり前なんです。
でも実際は、料理って材料を買いに行って揃える、もしくは家にあるかどうか確認するところからやりますよね。レッスンで習った料理を実際に作ろうと思った時に材料が手に入らなかったら、その料理を作れません。先生にどこで買えるか確認すればよかった!と思っても、レッスン後では気が引けて聞けないこともあります。
これがオンラインレッスンなら、私の場合はFacebookグループに入ってもらってレッスン後に質問し放題なんですよね。「この料理がこんな感じになってしまったのですがどうしたらいいですか?」という質問にも、ダイレクトに答えられます。自分が作ったものを食べてどう感じるかが大切なんですよ。そういった意味でオンラインはメリットが多いんですよね。
オンラインレッスンならではの強みがたくさんある
編集部 オンラインレッスンは、メリットがたくさんあるんですね。
内田 そうなんです。オンラインレッスンだと、必ず自分で作りますよね。だからオンラインレッスンの方が料理は上達するんです。また、フォローの部分もオンラインレッスンはしやすいんですよ。
例えば生ハムレッスンは、作業自体は単純で簡単に終わるのですが、出来上がるまでに6日間かかります。そこで今日はこれをやりましたか?というフォローを毎日入れるんですよ。それをすべて含めた料金でレッスンをおこなっていますが、そういう形式のレッスンができるのもオンラインレッスンの特徴だと思います。
編集部 なるほど。確かにそうですね。
内田 オンライン化するようになって1年ほどのタイミングでコロナ禍になってしまい、リアルのレッスンがほぼできなくなったんです。ただオンラインレッスンを受けていただいた方からは「こんなに良いことないんじゃないか」とおっしゃっていただいていました。まず感染リスクはゼロですし。
オンラインなら、ご本人さえ元気であれば小さいお子さんやご家族の体調不良を理由にキャンセルする必要がないんですよ。画面をオフにして耳だけ参加されることも可能です。私は、小さいお子さんを連れたママが苦労されているのを散々見てきました。お子さんを連れて行くのも大変で、レッスン中に子供が騒いだらみんなに謝りながら作業をして、試食の時になったら暴れ出して連れて帰るのも大変みたいな、最初から最後まで謝り通しになることも。これがオンラインだとそういうことが一切ないんです。
編集部 レッスン時に心がけていることはありますか?
内田 相手に合わせたレッスンですね。例えば工程を見て難しそうなら省いても良いですよとか、ハーブを使うレシピだったら苦手な場合は無理に使わなくて良いですよとお伝えしています。材料を見て「うちの子は豚肉より鶏肉のほうが食べる」ということならレシピは豚だけど鶏肉に変えてとか、それなら鶏肉に変えられるけど骨付きのほうが良いよとか、細かいことでも相手がカスタマイズできるように教えています。
編集部 大手のクッキングスタジオのような決まり切ったレッスンではなくて、家で作ることを最大限活かしたレッスンをされているのですね。
内田 そうなんです。例えば、使うフライパンが鉄かテフロン加工かで時間が少し変わりますし、ガスコンロとIHでも変わります。その温め方だったらもう少し煙が出るまで待ちましょうとか、講師側からお客さんの台所を見て、材料、道具、設備など、ありとあらゆることに対して個別にカスタマイズして対応できるのが本当に大きなメリットですね。
また連続で何回かのレッスンもおこなっていて、そちらは自分が参加できなかった会を動画で学べるようにしているので、今日は時間がないから途中で抜けたいという要望にも「全然大丈夫ですよ。あとはアーカイブで確認してくださいね。」という対応も可能です。
さらには住む場所も関係ないので、ハワイやシンガポール、サンディエゴなど海外に住む日本の方が参加されたこともあります。オンラインレッスンのメリットは計り知れないですね。
リアル開催のレッスンとオンラインレッスンの集客の違い
編集部 集客で苦労した点はありますか?
内田 オンラインレッスンをしながらも、可能であれば対面でのレッスンも続けていたんですよね。出張で東京、和歌山、大阪や名古屋などでレッスンもしていました。その後に「距離が遠いので、継続の自家製調味料のレッスンはオンラインで受講できますよ」と誘っても、全然オンラインレッスンの方を受講してくれる人がいなかったんです。
皆さん一様に「リアルのレッスンは楽しいけど、長期間のレッスンをオンラインで受けるのは自信がない」とか「リアルのレッスンだと試食できるけど、オンラインレッスンだと試食できないよね」というところに行き着くんですよ。
つまり、オンラインレッスンを対面で集客しようとしても、うまくいかなかったんです。リアルのレッスンは、会って一緒に時間を過ごしてというのが楽しいんですよね。そこからオンラインの方へは、たまに来られる人もいましたが少なくて。ところがこれ、逆は違ったんです。
編集部 逆は違った、ということはどういうことですか?
内田 オンラインで受けてくださった方がリアルの料理教室のチャンスがあると、もう既に1回受けたレッスンでも「リアルでもレッスンされてるんですか?」とレッスンに申し込んでくれる方が結構いらっしゃいました。これが大きく違いますね。
編集部 オンラインでも良さや楽しさをわかっているから、次はリアルのレッスンで試したくなるのでしょうか。
内田 そうなんです!オンラインレッスンでは見ていると美味しそうだけど、でも香りも食感もわからないので実際に講師と一緒に作るとどうなんだろう?ということが試したくなるんでしょうね。
1年以上毎日の配信をきっかけにビジネスコンサルティングに
編集部 料理家としての活動から、最近はオンラインでビジネスのことを教えるなど、さらに活動を広げていらっしゃいますが、ビジネスのコンサルティングを始められたきっかけを教えてください。
内田 ライブ配信をビジネスに活用するということを教えている方がいらっしゃって、その方の勉強会のグループに入らせていただいたんです。そこでインプットとアウトプットを繰り返しながら、どのように視聴者様とコミュニケーションをとって信頼関係を構築していくか、ファンをどうやって作るのかを学びました。
そこで私も400日弱くらい毎日ライブ配信をしたんです。内容はレッスン的なことではなくて、ただ私がお昼ご飯を作って食べるというものなのですが、視聴者の方とコミュニケーションをとりながら配信していたんですよね。
すると少しずつ「それはどうやって作るんですか?」「オンラインで受けられるんですか?」みたいなお声が上がってくるようになりました。コメント欄でのやりとりをしたり、メッセンジャーでどういう風にやってみたいですか?と聞いたりしてお一人おひとり向き合いながら、ご希望された方にレッスンのご案内をして。ライブ配信を見ると私という人間がどういう人かわかるので、安心してレッスンに来てもらえるようになったんです。ライブでレッスンの雰囲気もわかりますし。
そこから口コミが増えてレッスンへのお申し込みが増えていったんです。それでも私は満足していたんですが、入っていた勉強会のグループでなぜライブ配信をすぐにマネタイズできたのかをシェアしてほしいと言われました。そこでシェアしたら先生から「コロナ禍で料理教室やっていたけど集客できないとか、いろんなSNSで集客を頑張ってやってもなかなかうまくいかないという人はいっぱいいるけど、あなたはFacebookしかしてないでしょ。それを知りたい人は大勢いるんじゃないの?」と言われたんですよね。
最初はあまりピンときていなかったのですが、そのうち料理レッスンをやっているけどオンライン化したいという方もレッスンに来てくださるようになって「ビジネスのやり方を教えてください。」と言われるようになり…。生徒さんにだったら教えてみようかなと思い、生徒さん用のグループを作って私のビジネススキルを少しずつ教え始めました。それがコンサルティングのきっかけです。
料理家から実業家へ
編集者 最初は生徒さんにだけだったのが、広がっていったのですね。
内田 そうなんです。私の学びが深くなると生徒さんの中でも「そこまではちょっと…。」と離れていく人も出てきたんですよ。それで私も続けようか悩んだこともあったのですが、起業家仲間から「それを生徒さんだけじゃなくて他の人にもやってみなよ」と言われて、去年の9月に新しくFacebookグループを作りました。
そこでライブ配信やビジネスに関すること、食に対する考え方などちょっとしたことを話していたのですが、私のビジネスの先生から一人ひとりに向き合う私のスタイルがとても良いよと褒められたんですよね。相手に寄り添ったコンサルティングができているじゃないか、と。
でもその時はまだ自信が持てなかったのですが、経験の浅い他の方がコンサルティングを始めたのを見て、もしかしたら自分もできるのではと思い、どのくらいの人が興味を持ってくれるのか知りたかったので去年の12月にビジネスに関するお茶会を開いてコンサルティングをしてみたんです。
そこから「これでいいんだな」という確信を得たので今年の1月にしっかりとビジネスの勉強をするグループを作り、どうしてもという方にコンサルティングを募集したんです。するとすぐに満席になり、満席を継続し人生初の月商7桁を超えたんです。
その後、売上を上げたいというよりも自分の家族に仕事の責任を持ちたいという気持ちから、今年の6月に合同会社を作りました。
今後の展望とは
編集部 会社を設立されたのは大きなことだと思いますが、これからの展望はどのようにお考えですか?
内田 先日、サブスクリプション形式の料理教室を設定し、外部講師をお呼びしていろいろなタイプの料理教室のレッスンを受けられるようにしたんです。外部講師の方への謝礼金や報酬が発生しますし、社員になってもらうわけではないので複雑な契約になることが予想されます。そうなると組織作りも必要になってきますよね。
さらに、例えばサブスクリプションの料理教室を法人様との間で福利厚生の一環として契約させていただく場合、個人でやっていたのでは難しいと思うんです。これから法人・企業とのお仕事になった場合、法人化したメリットが生まれてくるのではないかと思っています。
ランチに来て「夕ご飯何作ろう」って顔が曇っていたママたちが1人でも少なくなるような世界に、12年経ってやっとたどり着いたような感じです。それがこれからできることに、とてもワクワクしています。
これからは男性や学生さん、外国にいらっしゃる方など幅広く参加していただけたらと思っていて、性別や年齢、住む場所も関係なく多くの人に健康で幸せな食卓を簡単に作っていただける理想に、少しづつですが近づいているのかなと思っています。
これから講師を始めたいと思っている方へ
編集部 最後に、これから講師を始めようと思っている方へのメッセージをお願いします。
内田 講師の方は常に一対多でお話しされるイメージだと思うんです。ライブ配信もそうですし。でもそこは大きく観点を変えて、自分にとって大切な1人の人に対してお話しする、という気持ちを持っていただきたいなと思います。
たくさんの人を幸せにしようとせず常に目の前の1人の人を大切にするという気持ちで、その人がどうしたら悩みを解決できるのか、どうしたらもっと楽しくなれるのか、そこにフォーカスすることが大切です。私は常に、カメラが私のことを思って信じてくれている人の目だと思ってお話ししています。
きちんと話せているかな?など、話をしている自分にフォーカスするのではなく、相手のことを思いやりながらお話ししたら例え言葉に詰まったり順番を間違えたりしても、気持ちや心、伝えたい想いは必ず伝わると思います。
内田恵美(うちだ めぐみ)
札幌在住。夫と2人暮しで24歳の息子は東京在住。好きなことは美味しいものを食べること、映画・ドラマ鑑賞。
「めーらさん」の愛称で親しまれ、単発レッスンとして6日間でできる「自家製生ハムレッスン」は東京・神奈川・大坂・名古屋・奈良・福岡で開催。
2021年6月24日には、合同会社オアシス・リレイションズを設立。9月より自家製調味料に特化した「さしすせそコース」から、3名の外部講師を招き健康的で簡単に楽しく学べる「M’sオンラインクッキングサロン」に改名し、サブスクリプション形式で運営。教室などのお問い合わせはFacebookから。