
コロナ禍の後押しもあって、学校教育のさまざまな場面で一人一人の児童にタブレットの配布など、ICTの活用が進んでいます。デジタル教科書の市場規模も、2019年度は30億円から6年後の2025年度には約800億円に拡大すると見込まれています(※MDB Digital Searchの推計による)。この学校教育でのICT活用を担う職種に、ICT(情報通信技術)支援員と教育情報化コーディネータがあります。
この記事では、ICT支援員と教育情報化コーディネータになるために学ぶべき内容と、役に立つ講座や資格などについて紹介します。
ICT支援員・教育情報化コーディネータとは
ICT支援員(※)とは、教員がICTを活用できるように学校で支援する職種です。ICT支援員として仕事を行うために必須の資格はありませんが、ICT支援員認定試験に合格すればスキルと知識を証明できます。
(※)2021年8月に改正された学校教育法施行規則で、ICT支援員は「情報通信技術支援員」の名称で規定されましたが、本記事では一般に流通している「ICT支援員」の呼称を使用しています。
いっぽう教育情報化コーディネータは、教育現場でICTを活用するために教育委員会を支援する人材を認定する制度です。教育情報化コーディネータ検定試験に合格すると資格が得られます。
ICT支援員と教育情報化コーディネータの仕事内容など、詳しくはこちらで紹介しています。

ICT支援員と教育情報化コーディネータは具体的には、どのような業務をしているのでしょうか。例として、2020年10月の文部科学省のTwitterを紹介します。
この例でいうと、行事参加の可否のアンケートフォームやQRコード、URLの作成や自動集計を教員が行う際に疑問に答えたり助けたりするのが、ICT支援員です。
このケースではMicrosoft FormsとGoogleフォームのどちらにするか選ぶだけですが、実際にICTを活用するための機器やサービスの選択には、大変な労力が必要です。
授業や校務など学校全体を見渡して、ICTの活用で目指す目標の立案と、その実現に向けたICTの導入と環境整備を進めるには、教員・学校が各自で考えるよりも、教育委員会が一括して計画するほうが効率よく進められます。このような場合に教育委員会を支援する存在が、教育情報化コーディネータです。
ICT支援員・教育情報化コーディネータ試験と独学の参考書について
ICT支援員と教育情報化コーディネータを目指すには「教育情報化コーディネータの過去問」「ICTに関する知識とスキル」「学校教育に関する理解」を学習することが大切です。
【ICT支援員認定試験】
ICT支援員能力認定試験の過去問題集は販売されておらず、過去問も公開されていませんので、受験勉強をどのように進めればよいか悩む方も多いでしょう。しかし、ICT支援員能力認定試験の試験内容は、教育情報化コーディネータ検定試験と重なるものが多いと公式サイトで説明されています。
ICT支援員認定試験は、A領域とB領域の2分野で構成されます。
A領域は、ICTの扱いに関する実践知識がCBT方式で問われます。
B領域は、教育現場でのコミュニケーション力に関する問題分析と説明力が求められる内容です。インターネットで問題が送られてきて、自宅や職場で自撮りした説明映像を課題提示日を含めて5日以内に提出します。
ICT支援員認定試験の合格点数と実務経験年数の条件を満たすと、上級資格であるICT支援員上級認定試験の受験資格を得られます。
ICT支援員能力認定試験のための参考書籍
ICT支援員能力認定試験の公式サイトでは、ICT支援員が身につけるべき能力や役割を学ぶ参考書籍として以下の2冊を紹介しています。
◎学校のICT活用・GIGAスクール構想を支えるICT支援員
◎ICT支援員 ハンドブック(PDF)
http://www.cec.or.jp/cecre/ictsup/ictup_book.pdf
また、ICT支援員能力認定試験に向けての勉強内容を紹介しながら受験準備をして、見事合格したictsupporterさんが、実際に使用した参考書籍を教えてくれています。
ICT支援員向けではなく先生と教育行政関係者向けに書かれているものの、ICT支援員ハンドブックは2014/2/25の1版から更新されておらずやや古い感があるが、ICT教育環境整備ハンドブックは毎年出されている。最近の情報にキャッチアップするために読んでみたが、よい資料。
https://ictsupporter.hatenablog.com/entry/2021/06/12/044237
◎わかる・なれるICT支援員
◎先生と教育行政のためのICT教育環境整備ハンドブック
以下のリンクから最新のものをダウンロードしましょう。

【教育情報化コーディネータ検定試験】
教育情報化コーディネータ検定試験に特化した書籍は近年発売されていませんが、3級の試験問題の過去問題集が発売され、2級の試験問題の一部はウェブページで公開されています。過去問を解いて内容を理解すれば、効率よく合格を目指すことができます。
教育情報化コーディネータは1・2・3級と3つのレベルに分かれています。最初に受験する3級の試験は、以下の内容に関する専門知識をCBT方式で問われます。
- 学習・教育方法、情報などに関する知識
- 情報教育の内容や方法、ITCEの役割に関する知識
- 教育情報化政策、校務の情報化、予算、運用などに関する知識
- 教育情報システム、教育ネットワークの運用、セキュリティ技術などに関する知識
- 情報モラルや著作権など関連法規や応用に関する知識
どちらの試験も、教育情報化コーディネータ認定委員会が実施しています。

教育情報化コーディネータの過去問
教育情報化コーディネータ3級全問題集はインターネット上で購入することができます。2級1次試験の過去問も一部公開されています。

ICT支援員・教育情報化コーディネータを目指すための講座
独学では難しい場合は、ICT支援員能力認定試験を実施する情報ネットワーク教育活用研究協議会による「ICT支援員養成講座」もあります。
コースは、社会人としてICTや情報システムを仕事に活用していくための必要最小限の知識や用語の意味を学ぶ「情報技術基礎コース」と、ICT支援員の資格取得を目指す方や現場で活躍しているICT支援員の方向けの「ICT支援員自己研修コース」の2つがあります。

また、ICT支援員普及促進協会では、ICT支援員に必要な基礎知識を習得できる「ICT支援員Web講習会」を定期的に開催しています。Web講習会を受講し確認テストを終了すると発行される「ICT支援員Web講習会ブロンズコース修了証」は、ICT支援員として必要な知識があることをアピールする材料になるでしょう。
ICT支援員・教育情報化コーディネータになるために役立つ知識や資格
ICT支援員と教育情報化コーディネータが支援する対象は教員・教育委員会と異なりますが、業務の目標はどちらも学校教育のICTの活用の促進です。この目標を達成するためには、ICTと学校教育に関する深い理解と高いスキルが必要です。
ICTに関する知識とスキル
ICTはInformation & Communications Technologyの略で、情報通信技術を指します。ほぼ同じ意味で以前から日本でつかわれていた言葉が、IT(Information Technology・情報技術)です。海外ではITよりICTが一般的なため、日本でも近年ではICTを用いることが多くなりました。
ITというと技術そのもののイメージが強いですが、ICTは教育や医療での活用、インターネット検索やインターネット通販、SNSのような使い方やサービス、コミュニケーションまでを表します。
以下にICT支援員・教育情報化コーディネータとしてはもちろん、全ての社会人におすすめしたいICT、ITの資格を紹介します。
ITパスポート
ITパスポートは、経済産業省が策定したIT人材のスキル体系の中で入門編にあたるレベル1の国家資格です。試験ではIT知識にとどまらず、経済や一般常識など幅広い知識が問われます。

ITパスポートに合格したら、次のレベルに相当する基本情報技術者や情報セキュリティマネジメント試験への挑戦もおすすめです。

MOS(Microsoft Office Specialist)
学校教員はもちろん、あらゆる職場でビジネスツールとして活用されているMicrosoft Office(マイクロソフト・オフィス)の各アプリケーションを使いこなすスキルを証明する資格です。

学校教育に関する理解
システムエンジニアなど、IT業界の仕事を長くしていた方なら、ICTのスキルも知識も自信があるでしょう。しかし、ICT支援員は教育現場での仕事なので、情報通信技術だけでなく、学校教育や教育業界への理解も不可欠です。
全国で7名しかいない教育情報化コーディネータ1級取得者(2022年5月時点)の大江香織さんも、ICT支援員の実際の学校教育を理解することが大切だと訴えています。
教育の情報化について紹介されているサイト

文部科学省が情報化の推進のため、様々な取組を学校教育分野、社会教育分野別に紹介しています。

文部科学省、都道府県教育委員会のウェブサイトの紹介や、GIGAスクール構想についての話題が全て確認できるサイトの運営など、ICT教育に関するさまざまな情報が入手できます。
学校で実際につかわれているICTサービス
学校でつかわれている代表的なICTサービスが、Google Workspace for EducationとOffice 365 Educationです。
【Google Workspace for Education】
Googleが提供する学習のための無料ツールがGoogle Workspace for Educationです。

Google 教育者認定者について学べるウェブサイト「Teacher Center」
Google for Educationを使いこなせることを証明する資格取得サポートのためのサイトで、無料で利用できます。
Microsoftが提供する教育機関向けのサービスが、Office 365 Educationです。

Microsoft教育センターのウェブサイトには、教員向けに、アプリの使い方、マインクラフトの活用例、校務の作業負担を減らす方法、さまざまな導入事例など、Office 365 Educationを使いこなすためのプログラムが用意されています。
元教員のMicrosoft 社員による資料には、学級通信の作成や欠席連絡、生徒の体温管理など校務を効率化する具体的な方法が紹介されています。近年、話題になった名もなき家事ならぬ「名もなき校務」の課題解決に役立つでしょう。

今後も需要の拡大が見込まれるICT支援員、教育情報化コーディネータを目指そう
生まれた時からインターネットが身近にある世代をデジタルネイティブと呼ばれます。それぞれの環境で接する程度が異なるので、格差も生まれてきています。
これからの子どもたちへの教育のためのICT活用は、より拡充が求められるでしょう。さらなる活躍が期待されるICT支援員や教育情報化コーディネータを、あなたも目指してみませんか。