(取材)中小企業人材のスキルアップ&キャリアアップを後押し!|東京都のリスキリング支援

生成AIの普及やDXの進展などにより、私たちの生活やビジネス環境は日々めまぐるしく変化しています。

そこで注目を集めているのが、リカレント教育やリスキリングによって新たな知識・スキルを身につける「社会人の学び直し」。「今のままでは、この先やっていけない!」という危機感から、個人で学び直しに取り組む人や、人材育成にリスキリングを導入する企業が増えています。

全国の自治体が社会人の学び直し支援に取り組んでいますが、中でも東京都の取り組みは企業の人材育成から個人のスキルアップ・キャリアアップまで幅広く、充実しています。

今回は、そんな東京都の学び直し支援に関する主な取り組みをご紹介。そのうち企業向けの「中小企業人材スキルアップ支援事業」、個人・企業向けの「キャリアアップ講習」については、それぞれ東京都の担当者の方にうかがったお話を交えて詳しくお伝えします。

「学び直し」に関する東京都の取り組み

東京都は、リカレント教育やリスキリングに関するさまざまな事業・組織を通して、企業の人材育成から個人のスキルアップ・キャリアアップまで、社会人の学び直しを幅広く支援しています。その一部をご紹介します。

東京リカレントナビ(個人向け)

東京リカレントナビ」は、社会人のスキルアップ・キャリアチェンジにつながる教育コンテンツを掲載した東京都運営のポータルサイト。

大学で受けられる専門性の高い講座から自宅で学べるオンライン講座まで、東京都や都立大学、国立大学、私立大学などが提供する講座の情報を閲覧できます。最先端技術、経済産業・社会、ビジネススキル、語学、工学、医療・福祉、自然科学、カルチャーと、講座の分野が幅広いのも魅力。中には無料で受講できるものもあります。

このほか、学び直しの体験談をまとめた記事、著名人の体験談や知識を深める専門講座などのお役立ち動画、隙間時間に学べるミニッツ動画などの配信も行っており、さまざまに活用できます。

東京しごとセンター(個人・企業向け)

東京しごとセンターは、都民の方の雇用・就業をワンストップで支援するサービスセンターです。

就業相談から、就職活動や就職後に役立つ知識・スキルを習得するためのセミナー・能力開発、求人情報の提供・職業紹介まで、就職に関するサービスを無料で提供。 就活支援アプリ「TOKYO就職Navi」での情報提供も行っています。

例えば、30~54才の中高年者には就職ノウハウセミナーや能力開発講座を実施しているほか、結婚・出産・育児・介護からの再就職を目指す女性には職種別の専門知識やパソコン実習、職場体験などを組み合わせた短期プログラムを用意。29才以下の若年求職者にはセミナーと企業内実習を組み合わせたプログラムを提供し、その受け入れ企業に助成金を支給するといった取り組みも行っています。

また、DX推進に役立つビジネススキル・知識を身につけられる無料の短期講座を提供する「デジタル・ビジネススキル習得支援事業」、非正規労働者にeラーニング講座やデジタル分野などへの就職支援を無料で提供する「成長産業分野キャリア形成支援事業」も好評を得ています。

DX人材リスキリング支援事業(企業向け) 

DX人材リスキリング支援事業は、DX人材育成のための学習プログラムを都内の中小企業に無料で提供する取り組み。

企業が抱える課題に沿った学習計画の策定から、個別最適化したオンライン学習プログラムの実施、プログラム終了後の効果検証まで、一体的な支援を2022年度から実施しています。

受講生の満足度は高く、「業務改善の方法論を体系的に学べた」「子育てをしているメンバーも無理なく学習を続けられていた」といった声が寄せられています。

上記のほか、中小企業人材の学び直しを支援する取り組みとして好評を得ているのが、企業向けの「中小企業人材スキルアップ支援事業」個人・企業向けの「キャリアアップ講習」。この2つの取り組みについて、次項以降で詳述します。

中小企業人材スキルアップ支援事業(企業向け)

中小企業人材スキルアップ支援事業は、都内の中小企業や個人事業主が従業員に対して行う研修費用の一部を助成する制度。研修内容などによって3つの助成金が用意されています。

2021年度に事業が開始されて以来、多くの企業が管理職向けのマネジメント研修、各種資格試験対策講座、IT スキル向上講座等の DX関連講座といった研修に助成金を活用し、人材育成に役立てています。

事業の立ち上げに至った背景には、近年の日本における慢性的な人手不足、とりわけ中小企業の深刻な人手不足があるといいます。

「産業の基盤である中小企業において、新たな事業展開を進めていくためには、従業員のスキルアップを図ることが重要ですが、中小企業においては、企業単独で従業員の人材育成を行うことは負担が大きいです。このため、中小企業等が従業員に対して実施する集合やeラーニング等による研修の取組を東京都が支援することにより、企業における従業員の職業能力の開発および向上を促進します」(東京都担当者)

3つの助成金は、それぞれ助成対象となる研修と、その要件が異なります。2024度の支援規模は1,600 件を計画しており、助成対象となる研修の要件は下表にあるすべての要件を満たすことが必要です。

事業内スキルアップ助成金

従業員のスキルアップを目的とした研修のうち、自社で企画した研修が助成対象。

「助成対象受講者数×研修時間数×760円」(後述する事業外スキルアップ助成金と合わせて1申請企業等あたり150万円が上限)の助成金が支給されます。

事業外スキルアップ助成金

従業員のスキルアップを目的とした研修のうち、公開研修を利用して実施する研修が助成対象。

小規模企業者は助成対象経費の3分の2、中小企業等は助成対象経費の2分の1、非正規雇用労働者受講加算(※)が適用される場合は助成対象経費の3分の2の助成金がそれぞれ支給されます。

いずれも上限25,000円/助成対象受講者1人1研修。先述の事業内スキルアップ助成金と合わせて1申請企業等あたり150万円が上限となっています。

※中小企業等において、非正規雇用労働者が助成対象受講者全体の2割以上を占める場合に適用。

DXリスキリング助成金

従業員のスキルアップを目的とした研修のうち、自社のDXのために実施する研修が助成対象。

助成対象経費の4分の3(上限75,000円/1人1研修)の助成金が支給されます(1申請企業等あたり100万円が上限)。

事業内スキルアップ助成金事業外スキルアップ助成金DXリスキリング助成金
①申請企業等の従業員を対象として計画する研修であること①教育機関が計画した既存の公開研修であること①次のアまたはイのいずれかに該当する研修であること
ア:レディメイド研修(次の2点を満たす研修)
・教育機関が計画した既存の公開研修であること
・集合研修(同時かつ双方向で行われるオンライン研修を含む)またはeラーニン
グであること
イ:オーダーメイド研修(次の2点を満たす研修)
・申請企業等の従業員を対象として計画し、教育機関に委託して実施する研修であ
ること
・集合研修(同時かつ双方向で行われるオンライン研修を含む)であること
②集合研修(同時かつ双方向で行われるオンライン研修を含む)であること②集合研修(同時かつ双方向で行われるオンライン研修を含む)またはeラーニングで
あること
②受講に係る経費が、受講者1人1研修単位であらかじめ定められていること
③受講者の職務に必要となる専門的な技能・知識の習得・向上又は専門的な資格の取得を目的とする研修であること③受講に係る経費が、受講者1人1研修単位であらかじめ定められていること③申請企業等のDX推進のために必要な知識・技能の習得・向上を目的とする研修又は
専門的な資格を取得するための研修であること
④専門的な技能・知識を有する指導員、講師により行われること④受講者の職務に必要となる専門的な技能・知識の習得・向上又は専門的な資格の取得を目的とする研修であること④通常の業務と区別できるOFF-JT(職場や業務から離れた環境で行う研修)であること
⑤通常の業務と区別できるOFF-JT(職場や業務から離れた環境で行う研修)であること⑤通常の業務と区別できるOFF-JT(職場や業務から離れた環境で行う研修)であること⑤研修に要する経費の全額を申請企業等が負担していること
⑥研修に要する経費の全額を申請企業等が負担していること⑥研修に要する経費の全額を申請企業等が負担していること⑥業務命令として労働時間内に研修を行い、所定の賃金を支払っていること
⑦業務命令として労働時間内に研修を行い、所定の賃金を支払っていること⑦業務命令として労働時間内に研修を行い、所定の賃金を支払っていること⑦助成を受けようとする研修について国又は地方公共団体から助成を受けておらず、今後受ける予定もないこと
⑧助成を受けようとする研修について国または地方公共団体から助成を受けておらず、今後受ける予定もないこと⑧助成を受けようとする研修について国または地方公共団体から助成を受けておらず、今後受ける予定もないこと⑧交付申請時に提出した計画のとおりに実施すること
⑨交付申請時に提出した計画のとおりに実施すること⑨交付申請時に提出した計画のとおりに実施すること⑨2024年4月1日から2025年3月31日までの間に開始し、2025年8月31日までに終了する研修であること
⑩2024年4月1日から2025年3月31日までの間に開始し、2025年8月31日までに終了する研修であること⑩2024年4月1日から2025年3月31日までの間に開始し、2025年8月31日までに終了する研修であること⑩1研修あたりの総研修時間数が3時間以上10時間未満であること
⑪1研修あたりの総研修時間数が3時間以上10時間未満であること⑪1研修あたりの総研修時間数が3時間以上10時間未満であること⑪受講者の受講状況について、教育機関の証明を受けられること
⑫受講者の人数が2名以上であること
研修ごとに2名以上の受講者が総研修時間の8割以上を受講していること
⑫受講者の受講状況について、教育機関の証明を受けられること

※その他、申請要件や募集要項など詳細は東京しごと財団 HP を参照ください。

キャリアアップ講習(個人・企業向け)

キャリアアップ講習は東京都の在職者向け職業訓練の一つで、主に中小企業で働く方を対象とした短期講習です。

機械、建築・設備、情報、経理・経営・事務など、幅広い分野の短期講習を年間約600コース実施。中小企業のDX人材育成を後押しするため、デジタル分野の講習にも力を入れています。

自身の仕事でのスキルアップや資格試験の受験対策に役立つ講習を実施しています。一部の講習を除き、企業単位での申込みも受付けていますので、社員研修などに活用することも可能です。講習により定員は異なりますが、1講習あたり10~50名ほどの社会人が学んでいます。

より多くの方にスキルアップの機会を提供しようと、講習は主に平日の夜間・土日祝日の昼間に行われ、受講料は1講習あたり900円~6,500円。都内各地の職業能力開発センターでの対面講習に加えて、受講の利便性の高いオンラインでの講習も実施しています。

オンライン講習の一例をあげると、2024年10〜12月には以下のような講習の募集が予定されています。

  • ITパスポート試験受験対策(ストラテジ系・マネジメント系)
  • データサイエンスのための機械学習
  • システム開発の基礎
  • 建設業法の基礎
応募資格現在、主に中小企業で働いている方(派遣・契約社員、パート等を含む)で、都内に在住または在勤の方
応募方法インターネット往復はがきのいずれかで申し込み
募集募集月の1日~10日(必着)
オンライン講習の申込期間は毎月11日~25日
(募集月は講習ごとに異なる)
※インターネット申込はメンテナンス等により利用できない時間帯あり
授業料1講習あたり900円~6,500円
(別途、指定の教科書を各自で用意)
講習時間1講習あたり24時限(1時限は45分)が標準
主に平日の夜間・土日祝日の昼間に実施
備考企業単位での申込みが可能(一部講習を除く)

※講習の主な内容、募集期間、講習実施日、授業料など詳細は「キャリアアップガイド 2024」をご参照ください。

「中小企業で働く皆さんのスキルアップを支援するため、 引き続き職業能力開発センターで幅広い科目のキャリアップ講習を実施します。また、受講の利便性を高めるオンライン講習や、個々の企業ニーズに応じたオーダーメイド講習等の利用促進を進めてまいります。東京都のWebサイト『TOKYOはたらくネット』では、キーワードによりキャリアアップ講習を検索することができます。ご自身のスキルアップに役立つ講習の受講をぜひご検討ください。」(東京都担当者)

まとめ

「スキルアップのために学び直したい」「自社の人材育成のためにリスキリングを導入したい」ーーそう考えて学び直しの検討をはじめたものの、費用や講習内容をどうするか、頭を悩ませている社会人や企業の方も少なくないのではないでしょうか。

そんなときに頼れるのが、東京都の学び直し支援に関する取り組み。年代ごとのニーズや企業の課題に対応したものなど、実にバリエーション豊富で、ご紹介した以外にも多くの取り組みがあります。

都内に在住・在勤の社会人の方であれば、スキルアップ・キャリアチェンジに役立つ知識・スキルをお得に学べる講座が多数あり、各所で講座情報が入手できます。また、都内に本社や主な事業所を構える企業であれば、要件を満たすことで助成金やDX人材育成のための学習プログラムの提供を受けることも可能です。

ぜひご自身や従業員のスキルアップに役立ててみてください。

タイトルとURLをコピーしました